退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第20話 鈍感男と氷川姉妹 〜文化祭の1日目〜

家のチャイムが鳴った。

 

時間を見ると10時48分

 

階段を降りて、ドアを開けると

 

「おはようございます如月さん」

 

「陽菜くんおはよー!文化祭行こっ♪」

 

私服姿の紗夜と日菜がいた。

 

「……」

 

寝起きなので思考回転中

 

「なるほど。

つまり、文化祭に行こうという訳だな」

 

「寝起きのようですが…大丈夫ですか?」

 

「眠い…。

それで、なぜ2人とも私服姿?」

 

「うちの学校は、文化祭のみに私服姿での登校が認められています。

私は制服の方が良かったのですが…」

 

「そんな事したら勿体無いよー!

おねーちゃん可愛いし、この服も似合ってるよね!陽菜くん!」

 

「ん?ああ。

可愛いし似合ってると思うぞ」

 

そうは言ってるがこの男。

寝起きでほとんど話が入ってきてない。

だから、紗夜が今のセリフで少し赤くなってる事にも、当然のごとく気づいていない。

 

「……あっ、とりあえず顔洗ってくる。

それと支度も…」

 

「待ってるねー!」

 

 

 

〜〜数分後〜〜

 

 

文化祭1日目。

2人と一緒に行く事になった。

そしていつもと同じ通学路を歩いていると

 

(眠気は飛んだけど…。

なんで断らなかったんだ…?)

 

そう考えていると

 

「隙ありっ♪」

 

「おわっ…!」

 

日菜が右腕を両手で掴んだ。

すると

 

「なっ……!ちょっと日菜!

あなたいつもそうやって如月さんに…。

いい加減、そういう事はやめなさい」

 

「いや!」

 

駄々をこねる日菜にさらに右腕が圧迫される。

 

「!!

そんなにくっついたら如月さんが歩きにくいでしょう!

今すぐ離れなさい」

 

「やーだ!

陽菜くんだって歩きにくく無いよねっ?」

 

「どうなんですか如月さん?」

 

2人にじ〜〜っと見られる。

 

「…日菜はアイドルだから、学校とかはそういうのは控えてくれ」

 

「学校じゃなかったらいいのっ!?」

 

「?ちょっとくら」

 

「如月さん?」

 

(紗夜さんの目すげぇ怖え!!)

 

「いやダメだ。

学校以外でもダメだ」

 

言い直した。

すると

 

「ええ〜!?

あっ、でも、いつも抱きついてるから変わらないねっ☆」

 

「!!

いつも……?」

 

ギギギ…という駆動音が聞こえそうな振り向き方をする紗夜さん。

 

「如月…さん?」

 

「は、はい…!」

 

「いつも抱きつかれてるんですか?」

 

「…はい」

 

「どうしてそれを話さなかったのですか?」

 

「話す必要は無いと判断しました…」

 

「なるほどそうですか。

1点追加です」

 

「えなんで!?」

 

「隠し事は厳禁です。

やましい事を隠してたんですから当然です」

 

「やましい事では無いだろ!」

 

「充分やましいじゃないですか!

その……そんな風に抱きつくなんて…!

恋人同士に見えてもおかしくないです!

とにかく、1点追加です!」

 

顔を赤く染めながらも1点追加宣言。

 

「くそうっ!

あと3点も持つ気が全然しねぇ!」

 

そして、そんなやり取りをしてる合間に学校へ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

学校の中には、思った以上に店に人が出入りしており、中には廊下で待つ人もいた。

 

 

「おお…」

 

「やっぱ人多いねー。

ライブの時みたい」

 

「どこから周りますか?」

 

「テキトーにそこら辺を」

 

周ればいいんじゃないか、と提案しようとすると

 

「陽菜くん!おねーちゃん!

外に屋台が並んでるよ!」

 

「ちょっと日菜!?」

 

日菜は両手で俺と紗夜の手を取って引っ張っていった。

 

(またこのパターンな…)

 

そして屋台まで来ると

 

「う〜ん…どれにしようかなぁ〜…」

 

日菜は前かがみになりながら、横に動いている。

すると

 

「決めたっ!

遊んでからにする!」

 

「ゲーム系統は…確か3階のフロアにあったはずだぞ」

 

「ホントっ!?

早く行こうっ♪」

 

「おう」「ええ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

3階 ゲームフロア

 

そこら辺にあるゲームを遊び尽くし、最後のゲーム。

 

「最後はあれしよっ!」

 

日菜の指差す先にあるのは、射的だった。

 

「最後だから、ついでに何か勝負するか?」

 

「では、最初に景品を落とした人の勝ち。

負けた人が下で売っていたクレープを奢る、はどうでしょうか?」

 

「さっすがおねーちゃん!

じゃあやろっか♪」

 

そして台に並ぶ俺と紗夜と日菜。

 

(こういう時は、落とせそうなのを落とせば大体勝つ!)

 

コルク銃に弾を込め、ちゃんと両手で構えて撃った。

 

カスッ

 

罵声のような音を立てて、弾だけ下に落ちた。

 

(あれは無理か…。

じゃあその隣の…)

 

なんて考えていると

 

「日菜、タイミングは合わせて」

 

「まっかせておねーちゃん!」

 

同時に発砲し、1つの景品を落とした。

 

「やったあ!あたし達の勝ちっ!」

 

「勝敗はつきましたね」

 

「2人同時とか有りかよ…」

 

「あたしとおねーちゃんだからだよっ!」

 

「そういう事にしといてやる」

 

それと言い出しっぺの法則でもある。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

クレープを買い、少しぶらついている。

 

「はむ。

…んーおいしい♪」

 

日菜が美味しそうに食べている。

 

「あっ、スマホさっきの所に忘れた」

 

「取りに行きますか?」

 

「ああ」

 

しかし、歩きながら人混みの中で食べるというのは危ない。

 

「とりあえず、俺1人で行ってくるから、日菜は紗夜を連れて、いつもの所に向かっといてくれ」

 

「おっけー!

それじゃ行こっか、おねーちゃん!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紗夜 日菜 side

 

「ねぇ日菜」

 

「何おねーちゃん?」

 

「如月さんは、いつも校舎裏にいるの?」

 

紗夜が日菜に聞いた。

 

「うんっ!

昼休みに陽菜くん、よく1人で食べてるから来てるんだ♪

たまに友希那ちゃんとか、リサちーもいるけどねっ☆」

 

「そう」

 

「そういえば、おねーちゃんは校舎裏に来たことなかったっけ?」

 

「ええ。

それに、こんな大きな木があるのも知らなかったわ」

 

紗夜がそう言うと大木はそれに応えるように、ザァ…と音を立て、影を揺らした。

すると

 

「おねーちゃんも会いたかったら、ここに来ればいつでも会えるよっ!

はむ…」

 

日菜の一言で、紗夜の頭から煙が上がっていた。

 

「私がいつ『如月さんに会いたい』なんて言ったのよ!」

 

「?」

 

紗夜の発言に日菜がニヤッとしたいたずら顔で

 

「あれ〜?

あたしは()()()()()()()()()って意味で言ったんだけどな〜」

 

「っ!!

そ、それは…」

 

「おねーちゃ〜ん?」

 

顔を覗き込む日菜。

赤くなった顔を逸らす紗夜。

すると

 

「いやぁ、参った。

まさか、スマホが景品になってたとは…。

あのガキども、画面の一点を集中狙いしやがって…」

 

お約束のタイミングで、スマホ片手に現れた。

 

 

 

 

 

紗夜 日菜 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

校舎裏に来ると

 

「き、如月さん!?」

 

「ん?紗夜?

顔が赤いぞ」

 

「い、いえ…なんでもありません」

 

「?そうか」

 

すると日菜がニヤニヤと見ていた。

 

「何をニヤニヤしてんだ」

 

「べっつにー?

それより、あたし手洗ってくるね〜!」

 

そういって日菜は校舎の方へ向かっていった。

 

「…?

まぁ、帰ってくるまで待つか」

 

「そうですね」

 

そう言っていつも通りに座った。

すると

 

「そういえば、如月さん」

 

「ん?」

 

「私達が目指す頂点はもう見えました。

その…不躾な事を言いますが…。

ならどうして、如月さん達はフェスで優勝出来なかったんですか?」

 

俺がフェスで優勝する術を知っていながら、優勝出来なかった理由。

それは

 

「俺が周りを見てなかったから。

ただそれだけの事だ」

 

「それだけの事…」

 

「ああ。

中学なんて、まだ心が成長してる最中だからな。

俺の場合、相手の事をちゃんと見てなかった。

だから、ああいう結末を迎える事になった。

ただそれだけの事だ」

 

「…もし仮に、今のRoseliaの誰かが仲間を良く見てなかったら、如月さん達と同じ道を行く、という事ですか?」

 

「いや?それはない」

 

男は、木を見上げながら断言した。

 

「!!」

 

「そういや、みんなには言ってなかったけど。

俺らって大きな挫折をした事が無かったんだ。

だから、心のどこかで『フェスも優勝出来る』って、思ってたんだろうな」

 

「前に如月さんが言っていた慢心、ですね」

 

「全くだ…。

あっ、それと、この事は紗夜だけにしか言ってないから、他の奴らにあまり話さないでくれよ」

 

「わ、私だけ…ですか?」

 

「?ああ」

 

少女は照れるような仕草で、自分の髪を触った。

 

 

 

 

〜〜数分後〜〜

 

「遅いな」

 

「遅いですね」

 

日菜が帰ってこない。

 

「…行ってくる」

 

「わかりました。

私はすれ違いにならないよう、ここにいます」

 

紗夜は俺の意思をくみ取ってくれた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

校舎内 1階

 

「う〜む…」

 

(どこにいるんだか…)

 

探し回って少し経った頃に窓の外で少し、人だかりが出来ていた。

ほぼ男だったが、何か囲むようにしていた。

 

(…まぁ、確認だけするか)

 

とりあえず、向かった。

すると

 

「もー!だから困るってばー!」

 

その声は確かに日菜の声だったが、周りにはファンの姿があり、日菜の姿が見えない状態だった。

そして

 

「あの!こっちにもサインください!」

 

「握手してくれ!」

 

「い、一緒に写真を!」

 

などの声が周りに聞こえる程だった。

すると1人のファンが日菜との間に出来ていた()()()に詰め寄ると、他のファンも徐々に詰めていった。

 

(なっ…そんな圧力かけるバカがどこにいる…!)

 

「日菜!」

 

ファンが真ん中に押し寄せる中、それを掻き分けて手を真ん中に伸ばした。

すると、小さな手が俺の手を掴んだ。

 

「っ!…放すなよ!」

 

そして一気に引き抜くと

 

「ぷはっ。

は、陽菜…くん?」

 

日菜が出てきた。

足元が引っかかり、転びそうになる日菜を抱き支えた。

 

「っ!!」

 

「大丈夫か?

怪我してないだろうな」

 

「う、うん…。

しゃがんでたから、ちょっとだけ足が頭にぶつかったけど…」

 

「…ちょっと向こうまで行くぞ。

ファンの奴らが気づいたら面倒だ」

 

そして校舎裏まで続く道はファンの横を通ることになるので、非常口階段に行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

非常口のマークがある扉に入り、電気をつけた。

 

(ここまで来れば大丈夫だろ…)

 

「日菜、ちょっと顔見せてみろ」

 

そう言って、日菜の頭を見た。

 

「えっ!?陽菜くん!?」

 

「いいから、怪我でもしてたら紗夜も心配するだろ」

 

「あっ…」

 

すると急に大人しくなった。

 

「それで、どこ蹴られたんだ?」

 

「えっと…この辺かな…?」

 

そして日菜が指差す所を見て

 

(…目立つ外傷は無し、頭にもこぶは無いし、当然血も無い…。

まったく…あの集団は日菜に怪我でもしたらどうするつもり…)

 

すると

 

「陽菜くん…」

 

「ん?」

 

「か、顔が近いよ…」

 

かあああああ…、と顔が赤くなり、細い腕で隠そうとする日菜。

しかし、この目つきの悪い男は

 

「……?」

 

何もわかっちゃいない。

そしてこの男の気がつかない思考の中では

 

(…人混みの中から無理に引き出したのは、さすがに疲れたか…)

 

「とりあえず、校舎裏に戻るか。

紗夜も待ってるだろうから」

 

「うん」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

校舎裏

 

「おーい紗夜ー。

日菜見つかったぞー」

 

「!日菜!」

 

すくっと立ち上がり、日菜に駆け寄る紗夜。

 

「もうっ、30分以上もどこ行ってたの?」

 

「ご、ごめんおねーちゃん…!」

 

そして

 

「あーいや、紗夜。

日菜がファンに捕まってて…」

 

俺があった事を全部説明すると紗夜はため息をついて

 

「怪我は無い?」

 

「うん…」

 

「なら、良いけれど…。

あまり心配させないでちょうだい」

 

「!うんっ♪」

 

「それと、如月さんも」

 

「えっ俺?」

 

「そうですよ。

携帯の電源を落としてるものだから、連絡しようにも出来なかったんですから」

 

「あー」(スマホが景品になった時に充電落とされたか…)

 

「待つと言いましたから待ちましたが、相手の状況を確認できないのは、もどかしいんです」

 

「はい…。

今度から気をつけます…」

 

そう言うとほぼ同時に

 

キーーーン

 

放送室からハウリングが鳴ると

 

『今日の文化祭は、現時刻をもって終了します。

ご来校の皆様は、明日の文化祭も楽しみにしていてください。

また明日の準備がある生徒は残っても構いません。

繰り返します…』

 

という素人じみた放送が流れたので、そのまま帰る事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紗夜 日菜 side

 

家までついて行き、その後に別れた。

そして

 

「日菜」

 

「?何おねーちゃん?」

 

「あなた、如月さんと何かあったの?」

 

「えっ!?な、なんで?」

 

「帰って来てから、ずっとそわそわしてるわよ。

それでいて、何か嬉しそうにしているから…」

 

すると日菜は手をもじもじとさせながらも

 

「えっとね。

陽菜くんが助けてくれた時に、こけそうになって、抱き支えてくれたんだけど…。

なんでだろうね。

その時から、ずっと胸がドキドキしてるんだっ♪」

 

少し照れくさそうに。

秀才少女は嬉しそうに笑いかけた。

 

「…そう」

 

そして妹の想いに気づいた心優しい姉もまた1人。




新たなお気に入りありがとうございます!

クロぱんだ様

また、いつでも、どのお話でも

感想、評価、誤字、指摘、質問など受け付けております。
m(_ _)m

ではまた!


ちなみに、文化祭の回は、4章のラブコメ編(未定)にも関係ありです

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