退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第23話 誰にも理解されなかった理想壊滅戯曲

紗夜の提案に

 

「断る」

 

そう言った。

そして続けるように

 

「あの曲は、今の状態じゃ歌えない」

 

「今の状態…ですか?」

 

「ああ。

あの曲は、叶えたかった夢を謳った。

でも、もうその夢は叶ったから、歌えない」

 

それを伝えると隣から

 

「歌いなよお兄ちゃん」

 

「何言ってんだ…歌えるわけ」

 

「話聞いてたけど、夢が叶ったからって謳っちゃいけない理由は無いよ。

それにあの人達、今年が最後の文化祭なんでしょ?

嫌なら、その人助けと思って歌えば良い」

 

「…はぁ…だから」

 

「はいはい。

迷ってるなら、歌ってスッキリすれば良いの。

ほらっ、早く3年生の所に行って来なさい」

 

妹は、よくわからない所で譲らない。

それに対応するのは、さすがに面倒だ。

 

「はぁ……仕方ない…」

 

そう言って、3年生の方へと向かっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

紗夜 side

 

向こうで話し合いを済ませている所を紗夜と咲織が見ていると紗夜が

 

「ありがとうございます」

 

一言だけ言うと、咲織は手を横に振りながら

 

「いやいや、別に良いですよ。

お兄ちゃんって、昔から推しに弱いんです。

ていうか、ほぼ強引にいったら大体通りますよ」

 

「そうなんですね」

 

「だから紗夜さんも、もっと推してみたら良いですよ」

 

「…!?」

 

意表を突かれた紗夜は、反応が遅れた。

 

「べ、別にそんなつもりはありません!」

 

「?そうなの?

てっきり、紗夜さんはお兄ちゃんのこと」

 

「!そ、それ以上は!」

 

「…へぇ…」

 

少しニヤリと口元が緩んだ咲織は、兄譲りなので似ていた。

 

「ま、あたしは関係無いし、いっか。

お兄ちゃんの事が好きそうな人。

いっぱいこの中いるけどな〜」

 

それを聞いて思わず紗夜は

 

「!わ、わかるんですか?」

 

と自分で言って、顔を少し赤く染めている。

 

「だって、さっきからお兄ちゃんの所に確認に行った人達。

大体が嬉しそうにお兄ちゃんに確認して、なんなら、今だって抱きつかれながら話してるし…」

 

紗夜がとっさに陽菜の方を見ると、こころが抱きついていた。

 

「!…まったく…あの人は…!

もう少し周りを気にして欲しいものです…」

 

「無理無理、お兄ちゃんに乙女心なんてわからないから。

多分今も『あー、なんかくっ付いてるなぁ』くらいの感覚ですよきっと」

 

そう言われてみると紗夜は、だんだんそう見えてきた。

 

(如月さんの好みのタイプがわからないわ…)

 

「ま、頑張ってくださいね」

 

「!ですから、私はあなたのお兄さんに興味は…!」

 

「?今日のライブですよ?」

 

「!っ…」

 

すると

 

「まぁ『どっち』にしろ。

頑張ってくださいね」

 

と笑顔で言われた。

それに

 

「…はい…」

 

と返す事しか出来なかった。

 

 

 

 

紗夜 side out

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらく経ってから来校客や生徒達を中に入れた。

そして照明でステージが照らされ

 

 

『それじゃあ!ミュージックスタート♪』

 

香澄がノリノリで言うと曲が流れ始めた。

 

「……香澄ギター上手くなったな…」

 

ポツリと呟くと薫が

 

「やぁ、急に呼び出してどうしたんだい?」

 

「ああ、来たか。

ちょっと頼みがある」

 

「?」

 

 

 

〜〜数十分後〜〜

 

 

 

パスパレの演奏が終わった頃に、俺は観客席の入り口辺りにいた。

 

「……」

 

(そろそろ、裏方に入るか…)

 

そう思い、客席を離れて裏方へと向かうと裏方には、演奏中のハロハピ以外の4バンドが揃って居た。

そして置かれていた道具を手に取ると

 

「?ハルナさん。

それはなんですか?」

 

「まぁ、ちょっとした借り物だ」

 

そう言って、もう1つの裏方で他のメンバーがいる事を確認していると友希那が

 

「如月。

あなたの曲は、どういったモノなのか。

聞いてもいいかしら?」

 

「…ただの悲しい曲だ」

 

「それは…一体どういうつもりで作ったの?」

 

すると答える前にハロハピの演奏が終わった。

そして薫から借りた道具。

仮面とシルクハットにマント、黒い手袋を付けた。

 

「さてと…それはみんなに問題を出そう。

誰にも理解されなかったあの曲の真意。

それを一曲聞いて暴いてみせろ」

 

「ええっ!?一曲だけ!?」

 

リサが驚いた声を上げた。

 

「答え合わせは後でする。

ま、頑張れよ」

 

ヒラヒラと手を振って、壇上へと上がった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ふぅ……」

 

ひと息ついて、落ち着かせた。

そして

 

「…始めるぞ『理想壊滅戯曲』…」

 

キーボードがソロで流れ始める。

 

(大丈夫…夢を知られても、あの子達なら大丈夫だ)

 

息を吸った。

 

『「…その運命は変わらないね…」

影は囁く

 

ただ暗い日々に 僕は生きてきた

ふと手を差し伸べられ その手を掴み

心閉じたまま 翼を広げて

また夢を描いては 秘め進み行く

 

その理想を早く追い求めてみろよと

影は暗闇で揺れ動いて

その夢が壊滅的だったと知っても

偽物じゃないと信じたから

 

 

The sound of the beginning! 終わる物語に

「大丈夫、今度こそ失敗しないよ」

そんな運命断ち切ってしまえば良かったのに

出来ない虚言で夢を塗りたくっては

理想が壊滅してる事に気づかない愚者へ

 

"希望に満ちた瞳の色はどうなる?"

 

 

 

まだ黒い渦へ 沈む道化師に

影が問いかけた その夢はどこだ?と

道化師は仮面で微笑を浮かべ

そうやって目を逸らし続けていった

 

どちらにせよお前には出来ないと言われ

理想に嫌われた道化師は

残った左翼で届かない神域へ

思考迷宮の手を伸ばした

 

 

The sound of destruction! 心寄せの夢

そんなものは初めから期待してない

とか言ったってもうとっくに気づいてるんだろう?

誰も手を取ってくれない事なんてさ

理解されないピエロの戯曲はノイズが入り

影は言う「また奏でられなかったね」と…

 

"さて、その黒く濁った瞳の先には…"

 

 

"見据えた先に希望は無かったよ"

あったのは、ただの自己空想奏理論(じこくうそうそうりろん)

ピエロは左翼を閉じ 影は謳う

「翼を閉まうなんて 君は我儘だね」

「まだ諦めてないから 見ていてよ」

愛想笑いの仮面被った道化師は

夢も空っぽの自分(はこ)に閉じ込めた

 

"揺らめき光る瞳の景色は…"

 

The sound of the ideal! 終焉を鳴らせ…!

もうとっくに僕は堕ちているんだった

それすら気づかないほどに焦がれていた理想も

奏でてみたかったっていう終曲も

先へと憧れた理想から嫌われたんじゃな

狂い堕ちたピエロは仮面を失くした…

 

 

"次は…僕の戯曲(ゆめ)を奏でられるのかな…?"

 

「きっと、また失うだけだね」

影は嗤った…』

 

そして悲しい音を奏でた演奏は会場に余韻を残した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

演奏も終わり、裏方に戻ると

 

「ハルナさんっ!」

 

「おわっ!?」

 

抱きつかれたのが一瞬だったので、よく見えなかったが、ほんの少しイブの目から雫が流れていた気がした。

 

「ずっと…ずっと…一緒ですっ…!」

 

耳元で泣きながらイブは言った。

 

「!」

 

(まさか…イブは気づいたのか…)

 

「悪いな…」

 

慰めるように泣くイブの頭を撫でた。

そして

 

「……この曲の真意。

他に誰か理解出来たか?」

 

すると千聖が

 

「…あの曲は、あなたがフェスで優勝出来なかった事を悔いている歌かしら?」

 

「いや、フェスはあんまり関係ない。

アレを悔いても仕方ないからな」

 

「それじゃあ、私はお手上げね」

 

「他のみんなは…無いな。

…それじゃあ、ちょい気難しいが答え合わせといこうか。

あの曲の本当の意味は…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして意味を話し終わると

 

「…そんな意味があったのね」

 

「そっかぁ…。

それでイブちゃんが急に泣き出したんだ」

 

千聖と彩が納得して、他のみんなも納得したようだ。

すると会場がざわめき始めた。

 

「…それじゃあ、後は任せた」

 

「ええ。

任せなさい」

 

そして友希那たちがステージに向かおうとすると友希那が振り返って

 

「…如月。

進歩した私たちの演奏をよく聞いておきなさい」

 

「わかった」

 

そう返すと少し微笑んで友希那はステージに立った。

すると聞いた事の無いメロディーが流れてきた。

 

『!!』

 

この場にいる全員の鳥肌がたった。

そしてそれは間違いなく

 

「新曲か…」

 

(文化祭で新曲披露は、さすがに思いつかなかった)

 

そしてRoseliaの鮮明な音色が体育館ホールに奏で回った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜1時間後〜

 

ライブ祭は無事に終わり、会場客のほとんどが興奮した様子でそのまま帰っていった。

 

 

「はーるなっくん!」

 

「ん?どうした日菜?」

 

 

今は会場の片付けをして、そろそろ終わる頃だ。

そんな時に日菜が話しかけて来た。

 

 

「気になったんだけど。

陽菜くんの1番最初の人って誰?あたし?」

 

「何を言い出すかと思えば…。

そんなもんは教えん」

 

「えー?なんでー?」

 

「誰であろうと教えるかよ」

 

「むぅ…」

 

頰を膨らませて、じぃっと顔を見てくる日菜。

すると

 

「あら?

如月の1番は、私だと思うけれど…。

違ったかしら?」

 

「友希那まで…。

あのなぁ…そんな事どうだって良」

 

「良くないよっ!」「良くないわよ」

 

「………お、おう…?」

 

「あたしが、陽菜くんと最初に話して1番になったもん!」

 

「校舎裏に居た如月に話しかけたのは、私だったわよ」

 

「ちーがーうーのー!

あたしが1番だよっ!」

 

「いいえ、私が1番よ」

 

バチバチ

 

2人の間で火花が散っている。

もう帰りたい…と思ったら、今度は

 

「3人ともどうかしましたか?」

 

紗夜が来た。

 

「あー…争わないそうに…な?」

 

「?」

 

(おいおい…。

さすがに面倒になるぞ…)

 

そして日菜が

 

「ねっ!おねーちゃんはどっちが陽菜くんの1番だと思う?」

 

「1番…って、日菜。

それは、さっきの曲での事?」

 

「うんっ!

あたしの方が仲良いもんっ!」

 

「私が1番かどうかはわからないけれど…。

もし仮に日菜が1番なら、私は日菜より如月さんとの仲が良いはずね」

 

珍しく紗夜がちょっと食い気味に言った。

 

「おねーちゃん。

それ、どーいう意味?」

 

「そのままの意味よ日菜」

 

楽しそうな笑顔で火花が散る。

そして訂正

 

(面倒になった)

 

そう思っていると目の前では、紗夜と日菜が

 

「私は日菜より如月さんといる時間が長いわ」

 

「そんな事ないよっ!

授業中は、陽菜くんがいつも前の席にいるもんっ!

だから、あたしの方がおねーちゃんより一緒の時間が長いの!」

 

「練習時間を忘れているわよ日菜」

 

「あっ!」

 

「Roseliaの練習と私の個人練を合わせれば、私の方が長い。

それは明白よ」

 

「別に良いもんっ!

今度から陽菜くんを事務所に連れて行くから!」

 

それを聞いて

 

「おいちょっと待て…。

それは俺の活動時間が…」

 

「如月さんは黙っててください!」

「陽菜くんは黙ってて!」

 

氷川姉妹は2人揃うとマジで最強らしい。

なんか、威圧感がスゴイです。

すると友希那が

 

「ちょっと如月?」

 

「?どうした?」

 

「紗夜の自主練に付き合っている、なんて私聞いてないわよ」

 

「?別に言う必要無いだろ」

 

「………………そう。

つまり如月は、私に話さない程紗夜と仲が良いのね」

 

「そんな事は無い」

 

「………本当かしら…」

 

「本当だよ…」

 

「そう…。

なら、別に構わないわ」

 

「?」

 

ほんの少し友希那の目が煌めいている。

するとあっちは

 

「日菜の方こそ、如月さんと毎回くっつき過ぎよ」

 

「だったらおねーちゃんも抱きつけば良いじゃんっ!」

 

「そ、そんな事出来るわけ無いでしょう!

そもそも毎日のように抱きつく方がおかしいのよ!」

 

「おかしくないもんっ!

外国では挨拶みたいな感じだよっ!」

 

「ここは日本よ!」

 

まだ火花を盛大に散らす2人。

そして数分続いたのを、おたえが消火器で止めに来た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰り道

 

 

夕陽がほとんど隠れ、少し暗くなったきた。

 

「本当に今日は疲れた…」

 

「明日から学校よ」

 

友希那の一言が胸をえぐる。

 

「はぁぁ…実質休み無しだぞ…。

どんなブラック学校だよ」

 

「…そんな事より、あの曲の真意。

…本当にあなたらしいと思うわ」

 

「ん?ああ…。

まぁ、あの時にイヴが最初に気づいてくれた時は嬉しかったなぁ…」

 

「……」

 

じと〜〜〜〜…

 

「ど、どうした?」

 

「良かったじゃない。

若宮さんなら良く気づいてくれるものね」

 

じと〜〜〜〜…

 

友希那が少し寂しそうに怒っているのは気のせいだろうか。

 

「そんな目で見られてもな…」

 

「…私だって後もう少しで…

……まぁ、良いわ」

 

「?そうか…」

 

そしてしばらく歩き

 

「じゃあ、俺ここだから」

 

「ええ。

明日は遅れないようにね」

 

「っ…わかってる…」

 

「…それと…。

夢が叶って良かったわね如月」

 

「…ああ、ありがとな」

 

そして友希那が帰って行き、俺は家の鍵を開けて中に入った。

 

 

(夢が叶った…か)

 

 

周りの人が持っていて、少年には無かった存在。

 

『如月 陽菜』という人間が、富も名誉も才能も、全てを代償にしてでも欲しかった存在。

 

人生で最初に抱き続けた小さな夢。

けれども大切な夢を込めた。

 

()()()()()()

 

たった1つの願いを込めた少年の理想壊滅戯曲であった。




nikkawa様 marcov様

お気に入りしていただきありがとうございます!
( ´ ▽ ` )

あとですね
今回の書いた歌詞は、曲のメロディーとか全く考えずに、作りました
|( ̄3 ̄)|

ので、字数は…頑張って揃えたから大丈夫な…はず…
(−_−;)

要するに全く自信ありません。


では、また次回!♪( ´▽`)

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