退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

67 / 107
第27話 新しい課題、そして燐子のくつろぎ

俺はいつも通りの静かな時間を暮らして、年も越えて新たな年明けを過ごしていた。

 

そして今日は1月7日

 

フェスのコンテストまで5日。

 

(FUTURE WORLD FES.本番まで、残り12日。

フェスの審査員は2年の入れ替え制だ。

同じ人が回ってくる可能性もあるが…。

まぁ、俺の時みたいな惨劇はまず無い。

注意すべき点は、コンテストで優勝出来るか…)

 

リビングで無糖のコーヒーを(すす)り、1人考えながら静かな空間を充実している。

 

今日は当然、Roseliaの練習がある。

しかし、年始辺りに友希那から

 

『如月は来なくても大丈夫よ』

と言われたので、今はとりあえず自宅待機。

すると

 

ピンポーン

 

「?」

 

誰かと会う約束はしていない。

だから気になりつつも玄関へ向かい、警戒して扉を開けた。

 

ガチャ

 

目の前には何も無かった。

ただ、視界の左下に三角耳のような物が見える。

ので、ちょっと左下に目をやると

 

「初めまして。

如月 陽菜」

 

そこには、猫耳のヘッドホンをした少女がいた。

 

「……あー」

 

「……?」

 

ピッ

 

「もしもし?警察ですか?」

 

しばらくの沈黙の後、俺は警察に連絡した。

 

「Why!?

どうしてそうなるの!?」

 

「えっ…?

だって迷子だろ?」

 

「No!!わたしはチュチュ!

あなたをスカウトしに来た!」

 

「すみません。

俺の勘違いでした」

 

そう言って通話を切った。

 

「ありえない…本当にかけてた…」

 

すると背後から近づいてくる気配を感じ、振り向くと

 

「あれ?お兄ちゃん。

なんでチュチュちゃんと一緒にいるの?」

 

まーた、歩きながらアイスを食べている咲織が来た。

そして

 

「腹壊すぞ」「チュチュちゃんって呼ぶな!」

 

2つの声が混ざった。

 

「あはは〜。

それより、なんでチュチュちゃんが…。

って、ああ…そっか。

あたしが教えたんだった…」

 

「?どういう意味だ」

 

「まぁ、立ち話もなんだし、2人ともリビングで話したら?」

 

という妹の提案にとりあえずリビングへ。

 

 

 

〜〜リビング〜〜

 

 

 

「それで、咲織は何を吹き込んだんだ?」

 

2人との間にテーブルがあり、その対象に俺は座りながら真正面から聞くと

 

「人聞き悪いなぁ…。

この前にチュチュちゃんが」

 

「チュチュちゃん言うな!」

 

「バンドを作るための人を探してるって言ってたから、お兄ちゃんの事を言っただけ」

 

「おい待て。

それは俺の事を話したってことか?」

 

「まぁ…無理だ、とは言ったんだけど…」

 

すると猫耳のヘッドホンを付けた子が前でソファに座りながら

 

「それで、Mr.陽菜。

わたしの最強の音楽で最強のバンドを」

 

「やらない」

 

「Why!?

それに返答が早い!

もうちょっと悩んで!」

 

立ち上がって机に手をついて前のめりになる少女。

 

「まぁ落ち着け。

まず、経緯を話してみろ」

 

わかった、と言わんばかりに少女は落ち着いて座ると

 

「わたしが作った最強の音楽で今の大ガールズバンド時代を終わらせる。

そしてNew worldを始めるの!」

 

(…なるほど…。

世界を変えたい、か。

実に殊勝な夢だ。

それと同時に…幼いな)

 

そう思いながら、少し先を考えて

 

「…一応。

なんで俺なのか、聞いておこう」

 

「言うまでもなく、あなたが1番わかってるはずよ」

 

「…あぁ…神童か」

 

「That's right!

如月 陽菜。

ライブの時にしかその姿を見せず、誰の指図も受けず、修羅の如く自分の道を歩むその姿。

それを見た者たちが、あなたに色んな2つ名を与えたのは、有名な話よ。

まさか、こんなに近くに居るなんて思わなかったけど」

 

「うむ…」

 

俺は一口、コーヒーを含んで

 

(うん、面倒な過大評価されてるなぁ…。

いやまぁ、そんな事だろうとは思った。

ライブしか姿を見せないって奴。

アレも、ただ俺が早く帰ってただけだな。

次の日も練習あったし…。

人の指図を受けてちゃ自分の道は無い。

てか、2つ名に関して俺何も知らなかったけど…)

 

なんて心の中で思った後に

 

「まぁ…結果はああいう事になったがな」

 

そう言いながらコップを置いた。

そして

 

「No.

それは、あなたの歌声に周りが付いて行けなかっただけ。

それほどの力があなたにはある」

 

「…無い」

 

「どうして!?Why!?

神童と呼ばれるからには、力がある。

そういうことなのに…!」

 

「神童…ね…」

 

胸にある虚無感に似た『残り香』が漂い出した。

そしてそれを振り払うように

 

「…まぁ、良い。

チュチュの目的は、最強の音楽で世界を変える。

そういうことで良いな?」

 

「Yes.

…でも…」

 

「?」

 

「わたしのプロデュースを断ったあのバンドだけは絶対に許せない、許さない…!」

 

何か怒っているようだった。

しかし、気にせずにコーヒーに砂糖を入れて、スプーンでかき混ぜた。

 

「?どこのバンドに断られたんだ?」

 

「Roselia!」

 

子どものように悔しがってチュチュは言った。

と、同時に、それを聞いた俺。

当然、手に持ったコップをガタガタと震わせながらも、飲み干した。

 

「え、ええと……。

そのRoseliaと何かあったのか?」

 

あくまで知らないフリをして聞いた。

すると、やはり悔しそうに

 

「やっと最高の逸材を見つけたと思った。

なのに!何度も何度も断られた!

だから、わたしの作った最強のバンドでRoseliaを潰す!」

 

「……うむ」

 

(さて、と…。

どうしたものか…。

Roseliaを手伝ってる、なんて言えない。

てか、咲織はこの事を黙って話したな…?)

 

そう思いながら咲織の方を見るといつの間にか消えていた。

 

(逃げやがった…。

まぁ……仕方ない。

この子と友希那たちには悪いけど、黙っておこう)

 

「わかった」

 

するとチュチュは先まで少し落ち込んでいたが、一気に明るくなった。

 

「Excellent!

早速今から」

 

「待て待て。

チュチュのやりたい事がわかっただけだ。

俺がやるとは言ってない」

 

「So why!?」

 

「だから、俺はメンバー集めを手伝う。

大体の目星は付いてる」

 

「Really!?

なら、早くその子を」

 

「そんなに焦らなくても良い。

てか、今は何人見つかってるんだ?」

 

「今はdrummerの候補が1人。

実力はわたしが保証する」

 

「うむ…。

ベースとボーカルはなんとかなる。

だから、後はギターとキーボードだけだが…」

 

「?」

 

「まぁ、俺は手伝うとして。

とりあえず、少しの間待っててくれないか?」

 

「約束を守ってくれるなら、no problem!」

 

「そうか。

それじゃあ、1月20日から始めるぞ。

待ち合わせはどこにする?」

 

「それなら、New Openするライブハウス。

『ギャラクシー』に13時justに集合よ」

 

「わかった。

それじゃ、それまではお互いすべき事をしようか」

 

そしてチュチュを玄関まで見送る時に、少し言いたい事を言っておいた。

 

「あ、そうだチュチュ」

 

「?What?」

 

「手伝うのは別に構わない。

でも、俺が手伝うのはメンバー集めと少しの実力を付けさせる事だけだ。

それと、いつか厳しい事を言うと思う。

それは前提としておいてくれ」

 

「I got it.

でも、さっき言った約束は守ってもらう」

 

「ああ。

それじゃあ、また今度な」

 

「see you」

 

そうして新たな課題が増えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日

 

 

朝の日差しは温かいが、容赦なく目を潰してくる冷たさも兼ね備えている。

俺はカーテンの隙間を閉め、起き上がると同時に

 

ピンポーン

 

「ん…?」

 

内心びっくりしながらも、下に降りて扉を開けるとそこには

 

「お、おはよう…ございます…」

 

「!燐子?」

 

燐子がいた。

手袋をした両手で1つの紙袋を前にして持ち、マフラーとふわふわしたフードが付いているコートを着ていた。

ドアから通る風の冷たさに少しだけ身を震わせた。

 

「あの…これ良かったら、どうぞ…」

 

そう言って紙袋を渡してきた。

 

「これは?」

 

片手で受け取りながら聞くと

 

「わたしの漫画や…小説です…。

陽菜さんの姿が…最近見えなかったから……心配で……それに、家で退屈してないかな…と思って……」

 

「…なるほど。

ありがとな燐子」

 

そう言って燐子の頭に2回ほど、ポンポンと軽く撫でた。

 

「はぅっ…!は、はい…」

 

「…そういえば…。

燐子たちは今練習で何やってるんだ?」

 

「えっ…!?あっ…いえ…。

それは…言ってはいけないので……」

 

少し焦っているのがわかる。

余程に知られたくない事なのだろう。

 

「絶対に言えないか?」

 

「絶対に…です…」

 

「そうか。

まぁ、上がってくれ」

 

「良いんですか…?」

 

「このあとすぐに練習があるなら、無理強いはしないけど…」

 

「や…休ませてもらいます…!」

 

「お、おう…?」

 

燐子が珍しく少し食い気味に言った。

 

 

 

〜〜リビング〜〜

 

 

 

それから数分間。

俺と燐子は静かに本を読んでいた。

どことなく、横に座る燐子が嬉しそうにしているのが、視界の隅に映る。

 

「……ふふ……」

 

ページを(めく)る音だけが聞こえていた静かな空間。

そこに1つの笑い声が落ちた。

 

「?どうした?」

 

「いえ…陽菜さんが笑って…本を読んでいたので、それが嬉しくて…」

 

「?…そうか」

 

「持ってきた甲斐が…ありました…」

 

燐子はまた微笑む。

今日はいつもより燐子の笑顔が見れる。

 

これはこれで良いか、そう思い燐子の笑顔には触れずに本を読み続けていた。

そしてしばらくして…

 

ぐぅぅ…

 

「ひゃあっ…!?」

 

またもや、静かな空間に落ちた。

今度は、お腹の鳴る小さな音と小さな可愛い悲鳴。

 

「燐子…?」

 

さくらんぼ色に染まった顔を、燐子は隠しきれない小説で隠した。

 

「み、見ないで……ください…」

 

そう言われて目を逸らした後に

 

「あっ…昼過ぎてるな」

 

部屋の壁に飾ってある時計を見ると1時30分を指していた。

すると

 

ぐぅぅ…

 

「はぅぅ…」

 

このままじゃ羞恥心で燐子が倒れる。

直感でそう感じたので

 

「なんか作るか…」

 

「そ、そんな…!

悪いです…」

 

「構わん。

それより、何かリクエストあるか?」

 

「あっ……ええと…。

それじゃあ……オムライスを…お願いします…」

 

「わかった。

小説を読んでお待ちを」

 

とりあえず、キッチンに向かった。

 

 

 

〜〜数十分後〜〜

 

 

 

「ほい。

出来たぞ」

 

そう言って2人分のオムライスを机の上に置いた。

 

「ありがとうございます…」

 

燐子が少し申し訳なさそうに言うので

 

「別に良い。

それに、燐子も朝から何も食べてなかったんだろ?」

 

「ど、どうして…それを…?」

 

「顔色だな。

まぁ、久しぶりに作ったから味は期待しないでくれ」

 

「ふふ……いただきますね」

 

謙虚さを感じ取ったのか、燐子はまた少し微笑んだ。

今日は本当によく笑う。

 

「ああ」

 

そしてしばらく本を読み止めて、しっかりと昼食を取った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

時計を見ると3時25分を指していた。

空腹も満たされて、少し眠気が襲ってくる頃に

 

トッ…

 

肩に重みがかかった。

何かと思い見てみると

 

「すぅ……すぅ……」

 

(燐子?)

 

目を閉じて、一定の呼吸をしている。

そして燐子の性格から考えて、こんな積極的なことはしないであろう。

 

(…まぁ、練習で疲れてるんだろ…)

 

そう思って、ぐっすり寝ている燐子の頭をゆっくりと下ろしてから、毛布をかけた。

 

(さて…と…。

続き読むか…)

 

そして俺は机の上に置かれた続きの小説を手に取った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちょうど4時30分に指しかかった頃。

燐子のスマホに一本の電話が入った。

 

「燐…」

 

起こそうと思ったが、ぐっすり寝ている邪魔をするわけにはいかない。

 

(電話か…。

出るべきか……いや、出るべきだな)

 

フェスに関することなら大変なので、燐子を起こそうとした。

 

(仕方ない…。

ちょっと失礼するぞ…)

 

「燐子、起きろ。

電話がかかってきてるぞ」

 

「すぅ……すぅ……」

 

「燐子さーん?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

(ダメだこりゃ…)

 

そう思い、代わりに電話に出る事にした。

 

ピッ

 

『もしもし、燐子?

練習開始時間になったけれど、今どこにいるの?』

 

友希那の声で聞こえてきた。

そして俺は

 

「白金 燐子は預かった」

 

声を変えてほぼ棒読みで言うと

 

『!そんな…』

 

(おっ?)

 

『どうして…。

あなたが燐子のスマホを持っているの?』

 

(あ、バレた…)

 

一瞬でバレたので声を戻して

 

「すまんな。

今燐子が寝てるから、俺が代わりに出た」

 

『寝てる?

どういうことかしら?』

 

「ああ。

燐子が退屈しのぎに小説とか持ってきてくれたんだ」

 

『……それで?』

 

「それでしばらく本を読んでたら、燐子がお腹空いたみたいだったから、とりあえずご飯作って」

 

『手作りの?』

 

「ん?そうだな。

で、食べ終わってからも本を読んでたら、燐子が急に倒れてきて、気づいたら寝てた」

 

『……』

 

「…ん?もしもし?」

 

『如月。

燐子を起こして、すぐに来るように伝えて』

 

「わかった」

 

そして燐子を起こそうとすると

 

『…それと、如月。

今日のことは覚えていなさい』

 

ブツッ

 

「えっ……」

 

(会ったら何されるんだ…)

 

そう思いながらも、燐子を起こす事にした。

 

「燐子。

そろそろ起きてくれ。

じゃないと、俺が友希那の公務執行妨害で処される」

 

すると

 

「ん……ふわぁ……」

 

小さなあくびをして、涙が頰を伝った。

 

「あ、あれ…?

陽菜…さん……?」

 

「やっと起きたか。

ほれ、時間がヤバいんじゃないか?」

 

そう言って燐子のスマホを渡すとハッと目を覚まして

 

「あっ…す、すみません…!

…寝ちゃってました…」

 

「別に構わん。

それより、早く準備済ませるか」

 

「は、はい…!」

 

「あ、小説と漫画は置いて行ってくれ。

まだ続きが読みたいから良いか?」

 

と、言うのは建前で

 

(この荷物じゃ、持って帰るのが大変だろうからな)

 

そう思って、出来るだけ負担は取り除いた。

すると燐子が

 

「はい…良いですよ…」

 

そして玄関まで来た。

 

「今日は…楽しかったです…」

 

「そうか」

 

「では、また…」

 

「ああ」

 

そして燐子は練習へ向かって行った。




Syaurie様 トーヤ0430様
zhk様 ひったり様 アスク様

お気に入りありがとうございます。
♪( ´▽`)


ーーー

ついに、やってしまったね
RASを手伝うって…
Roseliaはどうすんだよ!
この浮気者ー!
聖ヌベス○教に入れるぞ貴様(?)└(՞ةڼ◔)」

最近の日課は、ゴキブリホイホイ(くさも○)さんの動画を見て、落ち着くことです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。