退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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まさかの…ゲキテイだった!?∑(゚Д゚)

今回良い感じで終わらせたいから、ここで色々とやろう。
まずはお気に入りしてくれた方々の紹介を

ずんだもっちー様 全ての幻想郷様
藤原勇司様 綾瀬絵里様 Leoru様
と、表示されていないあなた!

お気に入りありがとうこざいます♪( ´▽`)

あ、100人突破しましたマジでありがとうこざいます!

ーーーーーーーーーー
オマケ

まさかのポピパと彩とこころの新しいカバー曲がサクラ大戦のモノとは思わなかった…。

ヴァルヴレイヴは好きです。








第29話 フェスコンテスト

1月12日 土曜日

フェスコンテスト当日

 

 

「12時45分か…」

 

階段を降りながら、時計を確認してフェス会場に向かう事にした。

ここからフェス会場までは、約1時間半かかる。

今年は県外だから、それくらいかかっても仕方がない。

 

「行ってくる」

 

誰もいない家に静かに告げて、鍵を閉めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

人気の無い電車に揺られて、目的地へ向かっている。

 

(今頃、友希那たちはミーティングを受けてる頃か…)

 

席はかなり空いているが、落ち着かないのであろう。

俺はドア付近で立っていた。

そして、しばらくすると

 

「あら?」

 

「?」

 

どこかで聞いた声だったので横を見ると

 

「!」

 

そこには千聖と花音が席に座っていた。

 

「どこかで見たような鋭い目つきと思ったら、あなただったのね」

 

千聖の(けな)してるのか貶してないのか絶妙なバランスの言葉が飛び。

 

「は、陽菜くん。

久しぶりだね」

 

千聖の対応を見てから、花音の笑顔という対応を見ると天使に見えてくる。

そして

 

「…花音は天使で千聖は悪魔みたいだな」

 

ドフッ

 

千聖の静かな肘打ちが、俺の横腹へ綺麗に入った。

そして

 

「?」

 

花音は何が起きたかわからずに不思議そうな顔をして、痛がる俺を見ている。

 

「確かに花音が天使のように優しいのは認めるけれど、後者に納得がいかないわね」

 

「っ……妥当な判断だ」

 

「ふ、2人とも、喧嘩はだめだよ?」

 

花音があたふたしながらも止めた。

そして

 

「…それで、2人もチケットを貰ったのか?」

 

「「チケット?」」

 

(?この感じは…渡されてない…?)

 

そう思い、一応聞いてみることにした。

 

「ほら、このチケット貰ってないのか?」

 

そう言ってチケットを見せると

 

「私は貰ってないわね」

 

「私も…」

 

(やっぱり、俺だけか?)

 

そう思いながらもチケットをしまい、外の景色を眺めていると

 

「ちょっと…。

1人で納得して話を切り上げるのやめてもらっても良いかしら」

 

「えっ?」

 

「えっ?じゃないわよ。

あなたいつもそうやって自分だけ納得して話さないでしょう。

こっちは気になるのよ。

ねぇ花音」

 

「う、うん…。

たまに陽菜くん聞くだけ聞いて、自分だけで考えちゃうから…」

 

「あ、ああ…。

それはすまんな」

 

「…それで、なんのチケットなの?」

 

「FUTURE WORLD FES.」

 

「!千聖ちゃん。

それって確か…」

 

「ええ。

Roseliaのみんなが目指してる大会の名前。

じゃなかったかしら?」

 

「まぁ、簡単に言うとそうだな」

 

「そう。

Roseliaは、また同じステージに立てたのね」

 

「…それはどうだろうな。

もしかしたら、見るものが違うかも知れないぞ」

 

「?それって…どういうこと?」

 

「1度立った時と2度立ったじゃ、見る景色が違うって話だ」

 

そしてキリの良いところで目的地に着くアナウンスが流れた。

 

「…じゃあ、俺は次降りるけど。

2人はどこで降りるんだ?」

 

「えっと……最寄り駅から4駅先くらいだったかな?」

 

「ええ、そうよ。

それがどうかしたの?」

 

千聖に聞かれると共に、電車はホームに着いた。

そして先の問いに

 

「ただ気になっただけだ。

じゃあな」

 

「ええ」「ばいばい陽菜くん」

 

ひらひらと手を振って、俺は乗り換えの為に他のホームに向かっている最中

 

「…にしても…」

 

(花音と千聖の最寄り駅って事は、俺が乗った電車の1個前か…。

ん?てことは…俺がここまで来たのに5駅だったから…)

 

「あいつら…目的の駅過ぎてんじゃん」

 

とりあえず、千聖にLIN○でメールしてから乗り換えした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

家から出て1時間後に会場へ着いた。

 

(人混みがすごい…。

会場の前ってこんな感じだったのか…)

 

そう思いながらも、我慢して入場するまで待った。

その数十分後

 

「ふぅ…なんとか入れた…」

 

自分の席に着いてゆっくりしている。

そして始まるまで後5分。

 

(今頃…何してんのかな…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

楽屋 5分前

 

「う〜…緊張してきちゃった…!」

 

あこの声で冷たい空気が和らいだ。

 

「あこちゃん……大丈夫…?

お水貰ってこようか…?」

 

燐子が心配してあこに聞いた。

それに対してあこは笑顔で

 

「ううん、大丈夫!

あこね、緊張はしてるけど。

今日はとーっても楽しみにしてるから!」

 

そう元気に応えたあこ。

するとリサが

 

「?なんで楽しみにしてるの?」

 

「だって、今日は陽兄ぃが見てるもんっ!」

 

その一言にRoselia全員が、ピクッと反応する。

 

「…確かに、今日は前回の時とは違いますね。

如月さんが見に来ているんですから、気をいつも以上に引き締めて演奏しましょう」

 

今まで口を開かなかった紗夜がそう言うと、同じく黙っていた友希那も

 

「ええ。

でも、私たちが目指しているのは頂点に立つ事。

そこはくれぐれも忘れないでちょうだい」

 

「大丈夫だって☆

ちゃんとわかってるよ友希那♪」

 

リサが返事をするとあこが

 

「あっ!そうだっ!

後5分ってことは、陽兄ぃ。

もう会場に居るんだよねっ!?」

 

「ええ。

多分如月さんなら、もう来ているとは思いますが…。

一体何をする気ですか?」

 

「陽兄ぃに会いに行っても良い!?」

 

そう言いながら、机に手をついて前のめりなるあこ。

 

「駄目です」

 

そして紗夜は提案を却下する。

 

「えぇ〜…。

なんでですかー?」

 

「如月さんに会ったら絶対に気が緩んでしまいます」

 

「そんな理由なんですか!?」

 

「充分すぎる理由です。

その前にもう始まるのだから、盛り上がる観客席から如月さんを探し出すのは困難ですよ」

 

「た、確かにそうかも…!

はぁ…陽兄ぃ…」

 

と、一旦露骨に落ち込んだあこだったが

 

「そうだっ!」

 

すぐに何か閃いた様子で復活した。

 

「陽兄ぃにメールだよっ!

それなら良いですよね?」

 

「別に構いませんが…。

私たちと同じように、もう既に電源を切っていると思いますよ」

 

楽屋に入ってから、あこ以外は携帯の電源を落としている。

そして先の言葉を聞いたあこは

 

「う〜…そっかぁ…。

こんな事なら陽兄ぃに会っておけば良かった〜」

 

再び落ち込むあこにリサが

 

「あははっ☆

あこってホント、陽菜のこと好きだよね♪」

 

「うんっ!

だって陽兄ぃはカッコ良くて優しい!」

 

「それだけ?」

 

「えっと後は…すっごくカッコ良くて…すっごく優しい…とこ?」

 

「あははっ!

あこってば、同じことしか言ってないじゃん♪」

 

「えー!?

じゃあ、リサ姉たちは陽兄ぃのこと好き?」

 

あこの会心の一撃。

そして畳み掛けるように

 

「ねー、りんりんはどう?

陽兄ぃのこと好きだよね?」

 

「えっ…!?

わ、わたし…?」

 

「うんっ!」

 

「えと…その……ら、らい…好き…かな…」

 

ちょっと噛んだ。

 

「?どうしたのりんりん。

顔が赤くなってるよ?」

 

「な、なんでもないよ…?」

 

純粋無垢な目で見つめられる燐子。

するとあこが

 

「じゃあ、リサ姉はどう?」

 

「アタシ?

アタシは普通に好きだよ?」

 

流石とも言えるサッパリした回答だった。

 

「だよねだよねっ!

それじゃあ、紗夜さんと友希那さんはどうですか?」

 

「「…別に…普通よ…」」

 

「あははっ☆

そんなこと言って、息ピッタリじゃん2人とも♪」

 

「「……」」

 

すると会場の方から大きな歓声が聞こえてきた。

 

「!始まった…みたいですね…」

 

「うんっ!

あこ、頑張る!」

 

「い、今のうちに……人って文字を…飲んでおかないと……」

 

「りんりん!?

まだあこたちの番まで30分くらいあるよっ!」

 

「それじゃあ、アタシたちの番まで時間あるから、その間に色々と済ませておこっか♪」

 

「そうですね。

今井さん、今日はスプレーは持ってきましたか?」

 

「あっ…」

 

「全く…忘れ物には注意と言ったでしょうに…。

今回も私のスプレーを貸しますから、終わったら返してくださいね」

 

「ありがとっ♪

それにしても、前にも同じような事あったなぁ…。

その時も紗夜に貸してもらって、助けて貰ったよね?」

 

「ええ。

そこは昔と変わらないですね」

 

呆れたように紗夜は言った。

そして、20分ほど経ち、それぞれが準備をし始めた頃に友希那が立ち上がり、ドアに向かっていった。

 

「?友希那どこに行くの?」

 

「少し外の空気を吸ってくるだけよ」

 

「5分前には帰ってくるんだよ?」

 

友希那がわかっていることを知った上で、一応の確認を取るリサ。

そして

 

「わかっているわよ」

 

そう言って友希那は楽屋を出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃 観客席では

 

(だめだ…。

やっぱ観客席は性に合わん)

 

人が多く、その歓声に圧迫される空気に耐えられなくなってきた。

そして

 

「…外出るか…」

 

呟いてから、人混みを抜けて外に出た。

外に出ると霞んでいた空気が澄んで、落ち着いた。

 

(……精神的にもう疲れた…)

 

そう思いながら、Roseliaの番まで10分程なのでスマホで時計を見ていると

 

「……如月…?」

 

友希那の声がしたと思い振り向くと

 

「!お、おう…?友希那?」

 

本当に後ろにいた。

 

「なんでここに来てんだよ…」

 

そう聞くと友希那は髪を耳にかけて

 

「少し外の空気を吸いに来ただけよ」

 

衣装を見に纏っている友希那。

どうやら、来た理由は同じのようだ。

 

「その衣装…。

初めてNeo-Aspectを演奏した時に着てたな」

 

「ええ。

あの時、あなたの手紙を見て思い出した事があった。

本当に…感謝しているわ。

もちろん、紗夜もリサ、燐子もあこも感謝しているはずよ」

 

「…そうか」

 

すると

 

「お2人で、何をしていらっしゃるんですか?」

 

この誰に対しても敬語を使う人物に、俺は1人だけ心当たりがあった。

 

「こ、今度は紗夜か」

 

「何か、問題でもありましたか?」

 

(その笑顔がちょっと暗くて怖いのは気のせいだろうか)

 

そう思いながらも

 

「問題は無いけど…。

紗夜も衣装のまま出てきたのか…」

 

「先に着替えても、汚さなければ問題ありません。

それより、どうして如月さんが湊さんと一緒に居るんですか?」

 

「なんで、と言われましても…。

外の空気を吸いに来たら、友希那が来たんだ」

 

「……」

 

「な、なんだよ…」

 

疑いの目で、じぃ…っと見てくる紗夜。

 

「いえ、どうしてか。

私が如月さんを見た時、大きな確率で女の子と居る時が多いので、少しだけ不思議に思っただけです」

 

「それは…珍しい所で見つけるな」

 

(やべぇ、今思ったら男子の知り合いが周りに居ねぇ…)

 

「如月さん。

この際ですから、他に友達を増やしてみてはどうですか?」

 

「…う……む…。

考えておこう…」

 

そう言うと紗夜の背後から

 

「あっ!居た居た♪

2人ともー、何して…って、陽菜!?」

 

リサが見えた。

そして

 

「あっ、あこちゃん…。

陽菜さん……居るけど…」

 

「陽兄ぃーー!!」

 

「あっ…!あこちゃん…」

 

これまた衣装を身につけた3人が俺の方へ歩いてきた。

が、うち1人が俺の方へダイブしてきた。

 

「グフッ!?」

 

「陽兄ぃ〜!会いたかった!」

 

「う、む…そうか…。

でも、衣装が破けたら大変だから、急な抱きつきは止めような…」

 

「あ、そっか!」

 

そして、あこが離れると

 

「あははっ。

陽菜ってばモテモテだね〜♪」

 

リサが、からかうように言ってきたので

 

「ほっとけ」

 

シッシッと払うように手を振った。

すると紗夜が真面目な表情をして

 

「如月さんは、幼児体形の女の子…。

つまり、幼女が好きなんですか?」

 

「ちょっと待て紗夜。

どうして俺がロリコンになるんだよ」

 

「そーですよ紗夜さん!

あこ、もう歳は高校生だもんっ!」

 

「なら、少しは高校生らしくしてください。

私とした事が

『いつも如月さんは誰かしらに抱きつかれている』

という状況を飲み込んでしまっていました…」

 

「いや待て!

どんな目で見たらそうなった!?」

 

「この際だから聞かせて貰いますが…。

如月さんの方こそ、普段から私たちの事をどう見ているんですか?」

 

「いや、なんでそんなこと…」

 

「答えてみてください」

 

「えぇ…。

まず、友希那は見てて心配な娘みたいな感じだろ?」

 

「えっ?」

 

「そんで、紗夜はしっかりしてるけど、個人的なことは1人で抱え込むから心配させる娘みたいな感じで」

 

「娘…」

 

「リサは頼れるお姉さんだけど、俺から見たら変なところで自信が無い娘みたいなもんで」

 

「ええっ!?」

 

「あこは天真爛漫な性格で頼りにもしてる。

まぁ、どちらかと言うと妹みたいな存在だな」

 

「妹…?」

 

「それから燐子は消極的だけど芯が強いし、周りのこともちゃんと見てるから、俺は特に心配しなくても良い娘だと思ってる」

 

「やっぱり…娘……」

 

(おっ…?

俺今結構良いこと言えた気が…)

 

『はぁ……』

 

「なぬっ!?」

 

メンバーの盛大なため息。

すると

 

「如月…。

あなた、私たちの事を娘と思って見ていたのね…」

 

なぜか残念そうにして、若干の落ち込みを見せる友希那。

そして、それを考えようとしたのだが紗夜が

 

「どうしてでしょう…。

反論したいのに、(あなが)ち間違いを言われているわけじゃありませんから、反論出来ませんね…」

 

やれやれ顔で紗夜が言うと

 

「アタシが陽菜の娘か〜。

それはそれで、陽菜のお世話出来そうだから良いけど。

なんかこう…違うんだよね…」

 

リサが複雑な感じで言った。

そして

 

「わたしのことは……心配しなくても良い……」

 

そう呟きながら、どんよりと落ち込む燐子。

 

「いや待て待て燐子。

なんで落ち込んでんだよ」

 

すると

 

「えー!?あこ。

陽兄ぃのお嫁さんが良かったな〜」

 

ピシッ

 

あこの一言で、何か空気が破れる音が聞こえた気がした。

と同時に

 

「……如月さん。

優柔不断が過ぎますよ?」

 

「いやいやいや。

俺は嫁なんて許可してない」

 

手と顔を横に振って否定すると燐子が

 

「それじゃあ……陽菜さんは、この中なら誰が…その……お嫁さんに……来て欲しいですか…?」

 

「あっ、それアタシも気になった!

ねっ♪誰が良いの?」

 

これに答えたら、今後が思いやられる。

そんな直感を信じて、俺は逃げることに全力で頭をフル回転させた。

 

(落ち着け。

この場合、「逆に誰が良いの?」とか聞いて「○○さんが良い」とか答えられたら、その質問をした俺が答えなくてはならない。

なら、別の話題に切り替える?

いやダメだ、リサの順応性の高さからして、話を戻される。

あるいは、あこの何気ない一言で話を戻される可能性もある上に、友希那と紗夜が本気で聞いてきたら誤魔化すのは難しい。

じゃあ燐子に助けを…。

いやこれもダメだ、ライブ前に燐子がそれで責任を感じてしまったら大変だ。

そもそも、燐子が話題を振ってきたんだからそれは無理だろ。

ん?ライブ前?

はっ!)

 

この間、約0.1秒。

そして答えを見つけ出したので

 

「ま、待て待て!

ほら!そんな事より時間時間!」

 

そう言ってスマホの時計を見せると

 

「やばっ!

残り10分前じゃん!」

 

「早く楽屋に戻って最後の準備を済ませましょうか」

 

「わー!急げー!」

 

「あ、あこちゃん…!

走ったら転んじゃう…!」

 

急いで楽屋に戻っていこうとする姿を見て、ホッと一安心。

していると

 

「…仕方ないわね。

如月、この話はまた今度にしましょう」

 

友希那はそう言って振り返り、戻っていった。

 

「あっ…」

 

(そうだった…。

今の答えは、その場凌ぎにしかならないんだった…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Roseliaが出るまで2分ちょっと。

会場に戻るとやはり席にたどり着く前に疲労しそうなので、観客席の最後尾にある非常口の入り口に立った。

すると

 

ドンッ

 

「!すま…」

 

何か小さな人にぶつかり、謝ろうとしたのだが

 

「ん?」

 

(この犬耳のヘッドホン…そして、この小さな背丈は…)

 

「チュチュか」

 

「イタタ…ん?

陽菜!?Why!?なんで!?」

 

「落ち着け。

俺もフェスのコンテスト観に来ただけだ。

チュチュもか?」

 

「Yes!!私もそうよ!

この目で、Roseliaが落ちる瞬間を観に来たの」

 

(どんだけ恨んでんだ…)

 

「…まぁ、それは難しいと思うぞ」

 

「Why?

Roseliaは前回のフェスコンテストで落ちてるのよ?」

 

「前回よりもRoseliaは確実に成長した。

それだけは断言出来るから、落ちる事ない」

 

「?どうして断言出来るの?」

 

(しまった…)

 

「いや…ほら。

なんというか…前より音が良くなっただろ」

 

「…確かに、Roseliaは音が良い。

なのに…私のプロデュースを断って…!」

 

「あっ、すまんな。

今チュチュの地雷、踏み抜いた」

 

「踏み抜くどころか踏み潰したわよ…」

 

チュチュは今にも泣きそうなくらいに手を握りしめて悔しがっていた。

しかし、チュチュの目はステージを映していた。

 

(やっぱり……チュチュは危なっかしい…。

多分、まだ何がダメな事で、何が正しいのか。

それをわかってない危うい時期だ…)

 

そう思っていると

 

「まぁ、良いわ。

あなたがメンバー集めを手伝ってくれるなら、早くバンドの手伝いをさせてあげる」

 

そう言ってチュチュは戻って行った。

その瞬間に会場のライトが消え暗くなった。

そして段々と観客席に小さな紫色の光が灯ってゆく。

 

(なるほど……。

ギリギリまで、()()()()()こだわったんだな)

 

そう。

Roseliaは自分たちの音ではなく、まずステージに目を向けた。

おそらく、光の加減が『紫の光だけを照らし出す』という絶妙なバランスにまで抑えられている。

 

(この最適な判断力は、友希那。

それを着々と進めたのは、紗夜とリサ。

そして、紫色の光と暗闇を考えたのは、考えるまでもなく、あこ。

その考えを上手くまとめたのが、燐子)

 

「さて…舞台は整ったか」

 

そしてステージに次々と1人ずつライトアップされていった。

その中心人物がマイクを握り

 

『Roseliaです』

 

ただ一言発した後に、鮮麗な音色が会場に浸透していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Roseliaの限界を知らない音と想いが会場中に響き渡っていく。

 

(2曲演奏し終わり、、3曲目はやっぱりNeo-Aspectだったか)

 

1つ1つの極限の音色が思うがままに流れる中、隣に誰かが来る気配があった。

 

「…これが、今のRoseliaですか」

 

そう言ったのは【優勝者】凛音だった。

久しぶりの会話、という事はお互いに、どうでもいいと思っている。

そして

 

「…ああ。

これからもっと伸びる」

 

「良い音です。

でも所詮、あの音じゃ入賞出来ても僕らの頂点には届かないですよ」

 

「……さて、それはどうだろうな」

 

「……それは、どういう意味でしょうか?」

 

するとRoseliaの音が会場中に激しく(ほとばし)った瞬間に、凛音は気づいたようだ。

 

「さっきより…音が良くなってる」

 

「Roseliaの音は演奏するごとにより鋭く精錬されていく。

そしてそれは本番になるとより露わになる。

この観客の雰囲気と熱量。

何か見ていて気づかないのか?」

 

「…!まさか…」

 

今、Roseliaの演奏で会場の雰囲気が変わっている。

しかし、それは人の観ている景色をも変えた。

今の会場の観客には、白い羽根と薔薇が舞っているのが()()()()()

 

「この会場は今完全に、『R()o()s()e()l()i()a()()()()』。

まさに、Roselia一色に染め上げられている」

 

「そんなこと……有り得ない…!

だって、アレは()()()()()()

 

「残念だが、目の前で起きているのは事実だ。

まだ、小さ過ぎるがな」

 

「…っ…」

 

「これでも、凛音の頂点に敵わないと思うか?」

 

「……いいでしょう。

確かに未完成ながら、()()()()()()()()ことは認めましょう。

でも、優勝は絶対に譲りませんから」

 

そう言って凛音は準備をする為に去っていった。

 

「……譲らない…か」

 

そして無数の薔薇が煌めく世界を創り上げたRoseliaの演奏は短くも長く感じられた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数時間後

 

全ての審査が終わり、ステージに立つそれぞれのバンド。

その中にはもちろんRoseliaも含まれている。

 

(確かRoseliaは、98番だったよな…)

 

そう思っているとステージから、あこに手を振られてヒラヒラと振り返した。

すると

 

『では、今から結果を発表します。

まず、入賞したバンドから……』

 

そして次々とバンド名が呼ばれていき、俺はRoseliaの名前が出ないことに安心していると

 

『ではお次に、上位3位から。

第3位…89番!

去年は入賞だったが、今年はメインステージ出場おめでとう!』

 

司会者のテンション高さが伝わったのか、観客席から『おおっ!』と歓声で一瞬だけ会場が震えた。

 

(焦った…。

数字が似てて超焦った…)

 

なぜこんなにも緊張するのか自分でもわからない。

すると優勝の発表が近づくにつれ、凛音の言っていた『譲らない』という言葉を思い出して

 

(残念だけど、その気持ちのままじゃ無理だ。

…別に、譲ってくれなくてもいい。

あの子達が、Roseliaがお前を追い越すまでだ。

守る事ばかり考えているお前に、音楽の先は見えない。

…いや…もう()()()()()()()んだな…)

 

そして

 

『第2位は…64番!

なんと!

前回1位だった天才集団である四宮 凛音のバンドだー!』

 

その発表されると、観客席がどよめいた。

その次の瞬間

 

『そして!

そんな天才集団を追い抜いて第1位に見事輝いたのは!

98番!バンド Roselia!!』

 

その一言に、俺は静かにガッツポーズをした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰り道

 

「陽兄ぃ〜!」「陽菜〜!」

 

あことリサが裏口から出て来るや、すぐに俺の方へ直行して来て

 

「「優勝したよっ!」」

 

めっちゃ嬉しそうに言ってきた。

 

「お、おう…おめでとう。

それと顔近い2人とも…」

 

すると

 

「ちょっと2人とも。

あまり羽目を外さないでください」

 

そう言って現れ、リサとあこを引き離したのは紗夜だった。

その後ろにある裏口から友希那と燐子も出て来た。

 

「喜ぶのはまだ早いですよ。

まだ私たちには本番が控えているんですから」

 

紗夜がそう言うとリサが

 

「え〜?

でも、ちょっとくらい喜びに浸っても良いじゃんっ♪」

 

「……ちょっとだけですよ。

私たちには本番までにもっと磨き上げなければいけないんですから、そこのところは自覚して」

 

紗夜の説教じみた事が始まりそうだったので

 

「はいはい。

そこまでな」

 

紗夜とリサの頭に手を乗せて、軽く撫でた。

 

「今日のベース今までで1番良かったぞリサ」

 

「えへへ…♪

照れちゃうじゃん♪」

 

少し顔を赤く染めるリサに対し

 

「紗夜も、かなり綺麗だった」

 

「っ〜〜!!」

 

顔が沸騰したように真っ赤になる紗夜。

すると

 

「ねーねー!

あこは!あこは!?」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねるあこに

 

「おー、あこもめっちゃカッコ良かったぞ」

 

そう言うと

 

「あこも頭撫でて!」

 

「へいへい…」

 

リサに置いてた手をあこに持っていくと

 

「あっ!」「えへへ〜!」

 

2つの声が上がった。

すると今度は隣にいる燐子が何か物欲しそうな顔でこちらを見ていた。

 

「あっ、燐子も綺麗な音色出してたな」

 

「ありがとうございます…」

 

燐子は、コクン…と小さく頷いた。

そして燐子も同じようにポンっと手を置くと

 

はぅっ…!」

 

「完璧と言って良いほどの表現力だったぞ」

 

「ぁ…ぅ…ありがとう…こざいます……」

 

燐子は段々と小さくなって耳まで赤くなった顔を隠すように華奢な手で覆った。

すると、さっきまで羞恥心で頭がいっぱいいっぱいだった紗夜が

 

「と、とにかく…!

今日は反省会をして、それからすぐに練習しますよ皆さん!」

 

どうにか取り戻した模様。

そしてリサが

 

「は〜いっ♪

早くしないと紗夜せんせーが、さっきの事思い出して顔赤くしちゃうからねっ☆」

 

「なっ…!?

どういう意味ですか今井さん!」

 

「なんでもないよ〜♪

それじゃあ、早く電車に乗ろっか!」

 

「あっ!ちょっと待ちなさい今井さん!」

 

ピューッと逃げるリサを追いかける紗夜。

 

「あこたちも早く行こっ!」

 

「えっ…!?えっ…!?」

 

そう言ってあこは燐子の手を掴んで走っていった。

そして、出遅れた者がここに2人。

 

「「……」」

 

「帰るか」

 

「そうね」

 

そのまま駅へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最寄り駅

 

電車に数時間揺られて帰ってきた。

そして俺は

 

(Roseliaが()()()()()()…か。

まさか、俺と同年代でここまで()れるとは…。

成長が早い上に、まだ限界は見えないな…)

 

なんて事を考えていると

 

「何か考えごと?」

 

隣に並んで歩く友希那が聞いてきた。

それに対して

 

「いや、今後が楽しみだな、って」

 

「そう…。

それよりも如月」

 

「ん?」

 

「…今日。

みんなにしていたアレは何?」

 

「?アレ?」

 

「帰り、裏口から出た時にしていた…」

 

(?……ああ)

 

そこで俺は、みんなに頭を撫でていた事を思い出した。

 

「あー…アレは頑張ったご褒美?

みたいな感じだな」

 

「そう。

…私はされていな」

 

「よく頑張ったな」

 

「っ!」

 

友希那にしていなかったので、軽く頭を撫でると

 

「…如月…。

あなたのそういうところが、人をダメにするのよ…」

 

「えぇ…」

 

友希那は抵抗すると思ったのだが、そんなことはなかった。

そして、しばらく撫でながら歩いていた。

友希那は、(うつむ)きながら照れ顔を隠すように両手で少し隠した。

 

(やっぱり、子どもだなぁ…)

 

すると後ろを振り向いたあこが

 

「あー!

友希那さん、陽兄ぃに撫でてもらってるー!」

 

その瞬間に友希那はハッと何かに気づいたような表情をすると、一瞬で俺の手から離れた。

 

『ええっ!?』

 

そして、あこの一言で紗夜たちも振り向いて、こちらに迫ってきた。

 

(あぁ…面倒な予感が…)

 

「如月さん。

やっぱり少し湊さんにだけ、甘いんじゃないですか?」

 

「そーだよ陽兄ぃ!」

 

「わたしも……そう…思います…」

 

紗夜とあこ、燐子に言い寄られている俺の隣でリサが

 

「友希那〜♪」

 

「な、何かしら…」

 

「顔赤くなってるけどどうしたのかなぁ?」

 

「っ…!

別に赤くなんてなってないわ」

 

「えー?

でも、陽菜に頭撫でられて赤くなってたじゃん☆」

 

「それは…そうかも知れないけれど。

リサだって、如月に撫でられて顔が真っ赤になってたわよ」

 

「えっ!?

そ、そんなことないって!

なんかの見間違いじゃないかな〜?」

 

なんて口論が出来上がっている。

そして俺は

 

「さ、さてと…。

時間も無いから、早くファミレスへ直行しようか」

 

「陽菜さん……はぐらかした……」

 

「大丈夫。

永遠に保留しただけだ。

それより、早くしないと置いてくぞ」

 

「あっ!ちょっと如月さん!

逃げないでください!」

 

「もー!陽菜ってば歩くの早いよ!」

 

「!待って2人とも!」

 

「りんりん!

陽兄ぃのこと、ファミレスでいっぱい聞こうね!」

 

「ま、待ってあこちゃん…!

急に走られると…ビックリしちゃうから…」

 

みんなが後ろに付いてきた。

今は俺の背後にいる。

でも、いつしか隣に並んで、対等に渡り合える実力を付けてくれる。

俺はそう信じているし、今後もそれは揺るぎない自信となるだろう。

 

(俺と同じ、あのステージで観客の心を惹き寄せ、()()()()()()()()()()()()

いくら時間がかかったとはいえ、それが出来たなら、俺と渡り合える日もそう遠く無いはずだな)

 

すると友希那が

 

「また何か考え事?」

 

「まぁ…ちょっとした未来図を、な」

 

「へぇ〜☆

陽菜の考えた未来図。

アタシ、気になるっ♪」

 

「…またいつか話してやる」

 

そうして、この後のファミレスでの反省会は、いつもと同じように行われた。


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