退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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紗夜日菜、誕生日おめでとう!!!

あ……れ…?
チュチュのヘッドホン、犬耳って、公式で書いてあった…よな?










第30話 Roseliaの頂きに

フェスから、ちょうど1週間後

1月19日 土曜日

 

フェスは夜の7時から始まる。

そして現時刻は15時30分

 

ピコンッ

 

「ん?」

 

メールが届いて開いてみると

 

『今からCiRCLEに来てちょうだい』

 

このメールで、俺はCiRCLEに呼び出された。

まぁ……誰に呼び出されたのかは察して欲しい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

「来たわね」

 

本番前というのに、なんとも凛々しい姿を見せる友希那。

そして

 

「来てみたぞ。

なんで俺が呼び出されないといけな」

 

俺が言い切る前に友希那が

 

「如月。

あなた、私に何か隠していることがあるでしょう」

 

いや本当にビックリした。

多分、顔に出るくらいギクッてなったので

 

「やっぱり…何か隠しているのね」

 

「まぁ…隠してることはいくつかある」

 

「そう。

なら、何を隠しているのか話して。

場合によっては、1ポイント追加するわ」

 

「ええと…。

ちなみに全部言わないと」

 

「駄目に決まってるでしょう?」

 

「デスヨネ」

 

そして、CiRCLEカフェに座って、少し喉を鳴らしてから

 

「そうだな…。

まず、友希那が気にしてるのって、コンテストで起こった現象だろ?」

 

「ええ。

あの演奏中、会場の様子が今までと違った。

私たちは何が見えていたの?」

 

「んー。

『音の創造世界』」

 

「創造…世界?」

 

「ああ。

あの演奏中、俺たちには、白い羽根が舞って薔薇が広がっていく景色が見えた。

それは、Roselia(バンド)の音を聞いて無意識に自己のイメージで創られた幻想世界。

それを俺たちの界隈では『音の創造世界』と呼ぶ」

 

「…!

それは、どうやったら出来るの?」

 

「表現を伝える。

それが世界の創り方。

と言うのは簡単だが、実際にそれは極限られた音にしか表せない。

その演奏に込められた想いがより強く観客の心を打ち、動かせるかが問題だ。

もしそれが出来たなら、音の世界は創れる」

 

「……それを実現できれば、フェスにも優勝」

 

「はいストーップ。

言うと思った。

友希那なら絶対に言うと思った」

 

「?なぜ止めるの?」

 

「あのなぁ…。

創り出せたのは凄いが、アレはまだ未熟過ぎる。

それとアレはただの偶然だ」

 

「どういうこと?」

 

「まだ、友希那たちには早いってことだ。

それに、その時の感覚を友希那は覚えてるか?」

 

「…覚えてないわ」

 

「それだけ歌うことに夢中になってたんだ。

多分、他もそうだろうな」

 

「!歌うことに…夢中になっていた…?」

 

(そっち!?

てか、気づいてなかったんだな…。

あんなに楽しそうに演奏出来てたのに)

 

そう思っていると友希那は何か考えた後に

 

「そう…わかったわ」

 

(ほっ…)

 

と一安心したのも、つかの間。

 

「それで、2つ目に隠している事は何?」

 

「えっ…?」

 

「あなたさっき、『まずは』って言ってたわよね」

 

「は、はい…」

 

「という事は、まだ隠している事があるって事かしら」

 

「いえ…あの…それは…」

 

「そう。

話さないなら、ポイントを増やすだけよ」

 

「すんませんマジで勘弁してください。

なんでも話しますから」

 

「なら、話して」

 

「はい…」

 

そして俺は、友希那にチュチュからの依頼的な内容をちょいちょい話した。

 

「……と言うわけでバンドメンバー集めは、期限的に明日からとなっております」

 

「…そういうことね」

 

友希那は砂糖入りのコーヒーを飲み、机に置いてから

 

「…なぜ、手伝おうと思ったのか。

聞いてもいいかしら?」

 

「…ああ。

確かにまだ音楽性もわかってない。

でも、今のチュチュは危ないとわかった。

見境がつかなくなって、いずれ関わる人を傷つけるかも知れない。

だから、それを止めるまで、ちょっと待っててくれないか?」

 

「わかったわ」

 

「だよな…やっぱ無理だよな…。

えっ?マジで!?」

 

「あなたが誰かを手伝うことはいつものことだもの」

 

「そうか。

助かる」

 

これにて一件落着。

かと思いきや

 

「因みに、そのバンドは女の子たちの集まりなの?」

 

なんか新たな問題が発生しそうです。

 

「ん?そうだな…。

まぁ、俺がメンバー候補として入れてるのが、ほとんど女子だから、多分ガールズバンドになると思う」

 

「そう…そうなの。

()()女の子が周りに増えるのね」

 

じぃ…っと睨みつける友希那。

その背後に何か黒いオーラを感じるのは俺の気のせいだろうか。

 

「?……友希那?」

 

「何かしら」

 

(…これ…怒ってる)

 

「いや…ね。

ほら、紗夜も言ってた通り、友達ってのを増やすチャンスが…」

 

「誰も女の子の友達を増やして、なんて言ってないわ」

 

「男友達を増やせとも言われてな」

 

「何かしら?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

そして友希那は、また少しコーヒーを口に含んだ後に

 

「如月」

 

「?」

 

「Roseliaのこと好きかしら?」

 

これまた唐突な質問だった。

そして当然のごとく

 

「好きだな」

 

と応えると友希那は

 

「そう。

なら、良いのよ」

 

なんの確認か少し気になったので

 

「なんの確認だ?」

 

と聞くと

 

「Roseliaのことが今も好きかどうか。

ただそれを聞いただけよ」

 

「そんなの、当たり前だけど。

もし俺が嘘ついてたらどうするつもりだ…」

 

「そこは大丈夫よ。

あなたは隠し事をする。

けれど、私に悪い嘘をついたことが無いもの」

 

「そ、そうか」

 

(それにしても信じ過ぎじゃないか…?)

 

そう思ったが、話が長引いては、友希那がこれからする練習の邪魔になりかねないので、敢えて言わなかった。

すると

 

「如月。

1ポイント追加しておくけれど、隠し事は一切無しにしなさい」

 

「えぇ…ちょっとくらいは…」

 

「何か言ったかしら?」

 

「そんな、滅相もございません」

 

(うーむ…。

あと1ポイント追加されたら罰受けないと駄目なんだよな…)

 

そう思っていると

 

「そういえば…。

フェスの記録判定は、どうやって決めているの?」

 

「ん?ああ」

 

(そうか。

今回初めて、フェスのメインステージに立ったんだな)

 

「まぁ、フェスの審査員は5人。

その人たちが20点ずつ持ってるから、満点は100点」

 

「そう…。

四宮 凛音は、どれくらいの点数を取ったの?」

 

「100点だ」

 

「!!」

 

(まぁ…さすがに、その数字だけは越えられないな)

 

すると

 

「それじゃあ、如月。

私の歌を少し確かめてちょうだい」

 

「え…ん?なんで?」

 

「私の知ってる中で、あなたが1番ボーカルとして優れているからよ」

 

「う……ん?

いや、俺はブランクあったから、そんな事言われても…」

 

「あなた、第2回のガルパでも、文化祭ライブでも本気を出していなかったでしょう?」

 

「!」

 

「ただ、ほんの少しだけ力を発揮しただけで、どれも本気じゃなかった」

 

「う……む…。

……よく気づいたな、とだけ言っておこう」

 

「ふふ。

私が気づかないと思ったのかしら」

 

得意げに微笑む友希那。

そして

 

「仕方ない…。

それで、俺はどこのパートを見れば良い?」

 

「そうね。

まずは…」

 

こうして1時間ほど、友希那の個人練に付き合うことにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その1時間後

普段静かな部屋が、1つのギターの音色で埋められる。

日差しが窓から入って、少し視界に光がチラつく。

そしてカーテンを閉めようとすると

 

ピコンッ

 

メールが届いて、ベッドに置いてあったスマホを手に取り、内容を見てみると

 

『紗夜〜☆

今からCiRCLEに集合できる?

良かったら、みんなで練習しようよっ♪』

 

という、私は絶対に使わないであろう絵文字付きで送られてきた。

そして

 

(1時間くらいなら、本番前に少し練習出来そうですね…)

 

そう思い、行くという連絡をしてから、CiRCLEへ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

「おお…。

うん、さっきより良くなってる」

 

スタジオで友希那が歌い、それを褒めた。

そして

 

「そう。

なら、今日はこれで終わりにするわ」

 

「友希那も大分良くなってたな」

 

するとスマホにメールが届いた。

 

「「?」」

 

開くとリサからだった。

どうやら友希那の方にも届いたようだ。

して、内容は

 

『CiRCLEで練習するけど、陽菜も来る?』

 

と俺の方にはそう書かれていた。

多分、友希那も同じ内容であろう。

 

「友希那はこのまま練習するのか?」

 

「ええ、もちろんよ。

如月はどうするの?」

 

「んー…フェスのチケットは取ってないからな」

 

「そう…。

それは、仕方ないわね…」

 

少し残念そうに言う友希那。

 

「気にしなくても、フェスは家で見る。

確か、毎年観れるはずだったから」

 

「!…そう」

 

少し明るくなった。

 

「友希那。

フェスの新記録更新、頑張れよ」

 

「ええ。

四宮 凛音の記録。

私たちが塗り替えて見せるわ」

 

『フェス判定結果』

 

それは、コンテストで優勝しても決して油断は出来ないお題である。

フェスでは、メインステージとサブステージの両方がある。

 

メインステージでは、コンテストで上位3組のバンドが選出され、そこに立つだけで評価される。

 

しかし、サブステージでの演奏の方が良ければ、サブステージでも優勝は簡単ではないが、出来ないことはない。

 

そして友希那は、同じメインステージに立つ四宮 凛音に勝つ気でいる。

四宮 凛音という天才と呼ばれた男に一切の物怖じをせずに。

 

その心意気に俺はほんの少し笑ってから

 

「ま、その意気だ」

 

そう言って、俺はスタジオを出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLEを出ようとすると

 

「あっ!陽菜くん!」

 

背後から呼びかけられ、振り向くと

 

「?まりなさん?」

 

「ちょ、ちょっと待ってね!」

 

そう言ってダンボールを置いてから

 

「ふぅ…」

 

一息つくまりなさん。

 

「何か用でもありましたか?」

 

「うんっ!

この前言ってたバイトの件。

覚えてるかな?」

 

「ああ。

覚えてますよ。

それがどうかしましたか?」

 

「うん。

実は、その話をオーナーにして。

陽菜くんの話をしたら、『無理だー』って話になっちゃったんだ」

 

「…ん?」

 

(俺の話をしたら…?)

 

少し考えているとカランカランと扉の開く音がして

 

「あっ♪

陽菜もう来てるじゃんっ♪」

 

「如月さん、お久しぶりですね」

 

そこには、リサと紗夜がいた。

するとまりなさんが

 

「あっ!リサちゃんに紗夜ちゃん。

いらっしゃい」

 

接客の姿勢を示すと紗夜が

 

「こんにちは。

それで…湊さんが入っているスタジオはどこですか?」

 

「友希那ちゃんは〜。

えっとね、Dスタジオに入ってるよ」

 

「わかりました。

ありがとうございます」

 

そう言って、リサと紗夜が中に入って行こうとすると

 

「?陽菜?

行かないの?」

 

「…ああ。

まぁ、2人とも練習頑張ってくれ」

 

「そっか…。

うんっ♪わかった。

それと、これ渡しておくね☆」

 

「?」

 

これまた、茶色の封筒を渡された。

さすがに中身は予想できる。

 

「ありがとな」

 

リサにお礼を告げると

 

「どういたしまして♪」

 

そう言って嬉しそうに笑った。

 

「では、私たちは練習をします。

如月さんは…今日も見れないんですか」

 

「まぁな」

 

「それでは、本番の時はちゃんと観ていてくださいね」

 

「ああ。

あこと燐子にも、無理がない程度に頑張れって伝えておいてくれ」

 

「わかりました」

 

そうして、2人がスタジオに入っていった。

するとまりなさんが

 

「まぁ…さっき話した通り、オーナーがバイト必要ないって言ってるから、ごめんね!」

 

前で手を合わせて謝るまりなさんに

 

「まぁ、何か理由があったのなら、仕方ない」

 

そう言ってから家へと帰っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

現時刻 18時30分

 

メールが届き、見てみると母からだった。

 

『4月まで帰れなくなった』

 

内容は至ってシンプルだった。

するとまた追加のメールが来て

 

『てことやから、学校が始まったら自分で作ってね♪』

 

(まぁ…方言はほっといて。

21日から学校か…)

 

そして現時刻を確認し、俺は急いで家を出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今回のフェスも今までと一緒で場所が遠い。

県内なのだが、体感的にそう感じることがある。

そして今、1時間程かけて、フェス会場に着いた。

 

「…さて…と」

 

久しぶりに見た夜バージョンの会場を少し眺めてから中へと入っていった。

 

現時刻19時55分

 

(遅刻じゃねぇか俺)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃、楽屋では、それぞれ自分の準備をして、静かな空間が出来上がっていた。

その空気に

 

「今頃は、陽菜も観客席で楽しんでるかなぁ」

 

リサの景気の良い声が通ると

 

「如月が来ているの?」

 

友希那が反応した。

そしてリサが

 

「うんっ!

フェスのチケット、なんとか交渉で1枚だけゲット出来たからさー☆

CiRCLEで陽菜にあげちゃった♪」

 

嬉しそうなリサに

 

「最初からそのつもりで交渉したんでしょう?」

 

「あははっ♪

だってほら、コンテストも観てくれたんだし、せっかくだからフェス本番も生で見て欲しいじゃん?」

 

「そうね」

 

「あっ、もしかして友希那喜んでる?」

 

「…普通よ」

 

そんな2人の会話を横目に、紗夜の準備を見ていた燐子が

 

「そういえば……氷川さん…」

 

「?なんですか?」

 

「そのピック…いつも練習では使わずに……何かの本番の時だけ……使っていますよね…」

 

「?ええ。

それがどうかしましたか?」

 

「…それに…何か思い入れでもあるのかな…って…」

 

紗夜はそう言われて、自分の右手に持っているRと刻まれた黒のピックを見た。

 

「これは…なんというか…。

お守りみたいな物です」

 

「お守り…ですか?」

 

「はい。

…ある人が、わざわざ私のために買ってくれたので、これは本番だけで使うようにしているんです」

 

紗夜はそう言って、ピックをギュッと優しく握った。

 

「そうなのね。

それで、ある人って誰のことかしら?」

 

友希那がキョトンとした顔で聞くと

 

「!そ、それは…」

 

「?」

 

友希那の質問に少し照れるように戸惑う紗夜。

するとリサが

 

「あははっ☆

友希那も、意外と鈍感な部分あるよね〜」

 

「?どういうこと?」

 

不思議そうにする友希那を優しく笑うリサと燐子。

するとRoseliaの出番まで5分前となった。

 

「あっ!あこ達の出番!」

 

「時間になりましたね」

 

「よーしっ☆

それじゃあ、そろそろ行こっか♪」

 

「「ええ」」「うんっ!」「はい…!」

 

そして、そのままステージ裏へと向かっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ここで1つ、知って欲しい事がある。

如月 陽菜はRoseliaを手伝っている。

 

けれど、彼がRoseliaのメンバーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼はただ褒めているだけで、特にコレといった特徴的な技術や普通の技術など、教えていない。

 

それは、Roseliaメンバーの個人練でも一緒だ。

故に、Roseliaは自分たちだけの力でフェスに出たのだ。

また、それは彼も自覚している。

 

(うむ……。

楽しみだ…)

 

とはいえ、これだけは、やはり性に合わないのだろう。

彼は薄暗い誰も気づかないであろう場所で観客と共にRoseliaの立つメインステージへと目を向けた。

 

月の光によって照らされる美しく凛とした姿に目を奪われる観客。

その意識を覚ますかのように、流れる演奏。

 

初めて聴いた時のRoseliaの曲。

しかし、それでも今尚(いまなお)、心を打たれる魅力に溢れる演奏。

 

そして、聴いたことがある2つ目の曲に入った。

それも何度も聴いた演奏。

 

それでも、込められた想いが解き放たれ、観客の心を引き寄せる音色。

意識が吸い込まれるような感覚。

 

光を失うこと無く、天を目指す(こころざし)を謳う毅然(きぜん)とした姿は、観客を惹き寄せ、心を(たかぶ)らせた。

そしてそれは、演奏中の彼女たちも同じであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(すごい…!

友希那の歌声と一緒に並んでるみたい。

今ならアタシ、みんなとどこまでも上に行けそうな気がする…!)

 

(この一体感…。

あの日、初めて湊さんたちと演奏した時と同じ気持ち。

けれど、必ずしも同じとは言えない。

いける…。

成長した今の私たちなら、きっと)

 

(やっぱり、Roseliaはカッコいい…!

お客さんも、どんどんあこ達の演奏に夢中になって、一緒に盛り上げてくれてる…!

まだ、あこはもっともっとカッコよくなれる…!)

 

(…Roseliaに会うまで…人前に出ることが…苦手だった…。

でも…今のわたしには…Roseliaがある…。

今なら、みんなと一緒に……新しいことに……前に進める…!)

 

(今まで『頂点に立つ』というのはRoseliaの意思の表れだった。

けれど、ここに来るまで、色んな出会いがあって、ぶつかり合って、挫折しても前を向いて、頂点を探し求めて、自分たちの頂点を目指した。

頂点に立つ意思があるのなら、それを実現するまで。

不可能だろうがなんだろうが、私たちは頂点に立つ為に成し遂げる。

それが、私たち『Roselia』の花言葉なのだから)

 

そして歌姫の目には、暗い場所も視界に入り、決して疑わない表情を浮かべる親愛の姿が見えた。

 

(如月…。

私はきっと、あの時、言葉をハッキリと伝えられなかった。

だから『頂点を目指すために』なんて濁った言葉を言ってしまった。

けれど、今ならハッキリわかる。

『私たちがバンドを続けてきた理由』

それは、()()()から。

音楽が、Roseliaのメンバーで奏でる音楽が楽しいから、私たちはバンドを続けている。

たったそれだけの理由。

でも、それが()()なのだから…!

これは、あなたがくれたモノ(感情)よ。

本当にありがとう)

 

そして月夜に輝く一輪の花が、自らの青薔薇(Roselia)の世界を映した。

自分たちが楽しそうにしていることに気づかないまま。

その数十分間、世界は儚くも、華麗に咲き誇る花の輝きが劣ることも、途切れることもなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして、フェスの判定が行われた。

 

『それでは、フェスの判定結果を発表していきます』

 

司会者の声がマイク越しに会場へと広がる。

そして順番に上位5組のバンドが発表されていき、まだRoseliaと四宮 凛音のバンドは呼ばれていない。

 

『えー、コホン。

第9回FUTURE WORLD FES.

その1位を獲得したのは…』

 

会場に緊張が駆け巡り、静まり返った後に

 

『【天才】四宮 凛音のバンドだー!!』

 

その言葉を聞いて、観客は一気に盛り上がっていた。

だからきっと、観客は次に発せられる言葉にさぞ驚いたであろう。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

フェス終了後

 

俺は寄り道をしてから、外に出ると

 

「「あっ」」

 

目の前に友希那がいた。

 

「……如月」

 

(?なんか様子が変だな…)

 

そう思いながらも

 

「リサたちは、どうしたんだ?」

 

「さっき、みんなでジュースを買いに行ったわ。

私は如月が1人で帰らないように残ったけれど…」

 

「そうか。

ま、なんだ…。

優勝おめでとう」

 

俺なりに想いを込めて伝えた。

しかし現実とは、常に何が起こるのかわからない、重度の気まぐれである。

 

ドフッ

 

俺の胸へと、人が飛び込んで来た感触があった。

そしてそれは、他の誰でもない友希那だった。

 

(思ってたのと違う伝わり方した…)

 

そう思っていると、友希那が

 

「……出来た…」

 

「…ん?」

 

「優勝出来たわよ如月…」

 

「…ああ、そうだな」

 

「ここまで来ることが出来たのは、あなたのお陰でもある…」

 

「…そうだと良いな」

 

「…ありがとう。

あの日、あの時に、私の手を取ってくれて。

本当にありがとう」

 

雲から覗く月光に照らされる友希那の純粋無垢な笑み。

 

「!!」

 

その笑顔を見て咄嗟に目線を逸らしてしまった。

 

(…ヤバい…。

今の友希那の笑顔に一瞬ドキッとしてしまった…)

 

そう思いながらも、もう一度見てみると

 

「?」

 

そこには、首を傾ける友希那の不思議そうな顔があった。

 

「どうしたの?」

 

「いや…なんでもない」

 

すると

 

「あっ!陽菜ー!」

 

背後から声が聞こえて、俺は振り返りざまに

 

「とうっ♪」

 

赤い手編みのマフラーを巻いたリサに抱きつかれた瞬間。

リサの優しい香りに包み込まれた。

 

「っ!急に抱きつくなってリサ!」

 

「あははっ♪

硬いこと言わないの〜☆

陽菜だって嬉しいくせに♪」

 

そう言って、頰を人差し指で突くリサ。

 

(つつ)くな」

 

「えへへ〜♪」

 

超ご機嫌なリサ。

すると

 

「わわっ!?」

 

「今井さん。

如月さんに抱きつくのはやめてください」

 

リサを俺から引き剥がしたのは、紗夜だった。

すると

 

「どうぞ、如月さん。

あなたの分の飲み物も買ってきたので、良ければ飲んでください」

 

「おお、ありがとな」

 

お礼を言って差し出された飲み物を受け取った。

そして

 

「そういや、さっき。

香澄とか蘭とかの他のバンドから、お祝いのメッセージが、なぜか俺の方に届いてたぞ」

 

そう言うとリサが真っ先にスマホを取り出して

 

「ホントだ☆

色んなメッセージ来てる♪」

 

「私も日菜や羽沢さんからメッセージが届いてますね」

 

「私もよ」

 

3人が、それぞれ届いたメッセージを見ていると向こうから

 

「はーるーにーいー!」

 

燐子とあこが来た。

あこが元気に抱きつく走ってたので、抱きつかれる瞬間に上へ上げて下に下ろした。

 

「あこ達、優勝したよっ!」

 

「ああ。

カッコよかったぞあこ」

 

そう言って小さな頭を撫でた。

すると燐子が

 

「あの……陽菜さん……」

 

「ん?」

 

「陽菜さんの目標は……どうなったんですか…?」

 

「ああ、アレな」

 

目標というのは、他でもない。

『この子達をFUTURE WORLD FES.で優勝させて笑顔にする』

という、目標の事だろう。

 

「達成した」

 

短く答えると燐子は、安心したように微笑んで

 

「良かった…です…」

 

と言った。

そして

 

「よーしっ☆

それじゃあ、もう暗いしそろそろ帰ろっか♪」

 

「そうね」

 

「陽兄ぃ手繋ごっ!」

 

「構わんぞ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰り道

 

最寄り駅で降りて、CiRCLEに通りかかろうとしている時

 

「そういえば…。

如月さんに少しお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「?良いぞ」

 

「今回のフェス。

1位は四宮さんだったのにも関わらず、私たちが優勝したのはどうしてなんでしょうか?」

 

「あぁ…。

未来あるバンド、と判断されたんだろうな」

 

「未来あるバンド…ですか?」

 

「ああ。

あのフェスの正式名称はFUTURE WORLD FES.

アレは、音楽世界に未来ある者を選出するフェスなんだ。

だから、限界の見えないRoseliaが選ばれた」

 

「なるほど…そういうことですか」

 

するとリサが

 

「ん?でも待って陽菜。

それだったら、アタシたちの点数が表示されてなかったのはどうして?」

 

「簡単な話だ。

審査員が評価出来ない程、Roseliaがイレギュラーだったんだろう。

本当に、Roseliaはすごい」

 

少し太鼓判を押すとリサが

 

「やったあ☆

ねっ♪もっと褒めても良いんだよ?」

 

「調子乗んな」

 

「え〜?

みんなも褒めて欲しいよね?」

 

「うんっ!」

 

元気に返事をするあこ。

 

「「「……」」」

 

そして、否定も肯定もしないクールな友希那と紗夜。

その隣で静かに小さくコクンと頷く燐子。

 

「んなもん無いんだが…。

でもまぁ…みんなに言うことがあるとしたら…」

 

『?』

 

「これから気をつけろよ。

優勝したから、世間が騒がしくなる」

 

「そうね。

でも、私たちは自分たちだけの頂点を目指すわ」

 

「…ま、その気持ちは大事にすることだな。

それと、友希那に1つ。

今から言うことだけはよく聞いてくれ」

 

今の言葉に少しの緊張が走る。

そして

 

「…何かしら?」

 

「ありふれた言葉だ。

『才能を制御出来なければ、その才能によって身を滅ぼす』

まぁ、とりあえず覚えておいてくれ」

 

「…ええ、わかったわ。

でも、どうしてそんなことを?」

 

「…ま、知り合いに1人。

今も自分の世界から抜け出せずに、助けを求めてる奴がいてな」

 

「…あなたは助けようとしなかったの?」

 

「助けられるなら、もう助けてる。

てか、今の時間ヤバいだろ。

夜の10時だぞ通報される」

 

「あははっ☆

陽菜ってば、そんな急がなくても大丈夫だよっ!

家、すぐ近くなんだからさ♪」

 

「そうも言ってられんだろ。

こちらとフェスの録画出来てるか心配で、さっきから気になってるんだよ…」

 

「なぜか歩くのが早いと思っていたら…。

そういうことでしたか」

 

紗夜が、『仕方ありませんね』と言いたげな表情で言った。

すると

 

「あ、そういえば陽菜。

ま〜た、他の女の子増やそうとしてるんだって?」

 

「げっ…」

 

俺は嫌な予感を察知した。

そして紗夜が

 

「如月さん?

私は他のバンドを手伝うことを許した覚えはありませんが」

 

「いや…あの…紗夜さん?

そんな怖い威圧感出されても困るんですが…」

 

「今日は見逃しましょう。

しかし、続きは21日に話してもらいますから、覚悟してください」

 

「え、ちょ、その日始業式だから早く帰ろうと思ってたんだが…」

 

「それでは、皆さん夜も遅いので帰りましょう」

 

「紗夜さん!?無視しないで!?」

 

「今回ばかりは、如月が悪いわ」

 

友希那にそう言われて、返す言葉もなかった。




Neighty様

お気に入りありがとうございます♪( ´▽`)



第3章 これにて終了です。


さ、次の章ですね…

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