退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第2話 アイドルだって看病したい 〜2日目〜

翌日

 

リサのおかげで、かなり体調が良くなっていたのだが、また熱が出てきて寝込んでしまった。

 

「はぁ……」

 

(熱いから……汗が……)

 

そう思っていると

 

ガチャ

 

クラクラする中、下で玄関の開く音が聞こえた。

 

(?……リサか……?)

 

階段を上がる足音と、ガサガサとビニール袋の揺れて擦れる音が聞こえると扉が開いた。

 

「リサ…。

悪いけど……下から…濡れたタオル持って来てくれ…」

 

俺はリサが中に入ってきたと思いそう言った。

しかし、どうやら現実は違うようで、顔を覗き込んだのは

 

「陽菜くん、もしかして寝ぼけてる?」

 

クスクスと楽しそうに笑う彩だった。

 

「!…彩?」

 

「ふふ、そうだよっ。

家隣だし、お見舞いに行く話を学校でしてたら、リサちゃんに家の鍵を渡されたんだ」

 

「あぁ…。

そういうことか…」

 

(鍵渡したのか…)

 

「それより、タオル持って来た方がいい?」

 

「ああ、リビングにタオルがあると思うから……。

濡れてるの頼む……」

 

「うんっ!任せて!」

 

彩は、そう意気込んでからビニール袋を机に置いて、階段を駆け下りていった。

 

(…大丈夫だろうか…)

 

そう思いながら少しだけ待っていると

 

「陽菜くん持ってきたよ!」

 

彩が、水で濡れたタオルを片手に入ってきた。

 

「あぁ……助かる…」

 

「それじゃあ、私は陽菜くんがお腹空いた時のために、お雑煮作っても良いかな?」

 

「良いぞ…。

でも、火傷はしないようにな…」

 

「うんっ!ありがとう」

 

彩はそう言ってから、部屋を出て下に降りて行ったので、俺は上の服を脱いで体を濡れたタオルで拭いていた。

 

(にしても…まさか彩が来るとはな…。

アイドルの仕事があると思ってたんだが…。

まぁ、良いか…。

別に、迷惑って訳でもな)

 

「陽菜くん。

どの食材使ったら良いのか、まだ聞いてなかっ…た」

 

「あっ」

 

彩がエプロン姿で入ってきた。

すると

 

「な、なな、にゃんで陽菜くん裸なの…?」

 

目をぐるぐると回して赤面になった彩。

なぜ、最初に『な』をあれだけ言っておいて噛むのかは不明だ。

 

「落ち着け彩。

ちょっと汗かいたら体を拭いてるだけだ」

 

「そ、そうだよね!

見たらわかるよね!」

 

「後、責めるつもりはないが…。

入る時は、極力ノックしような」

 

「うぅ…ごめんなさい…」

 

ぐったりと凹む彩を

 

「それで?

いつまでそこに立ってるつもりだ?」

 

そう言ってからかってみると

 

「ごめんにゃ…!

うぅ…ごめんなさい!」

 

と言い残して、彩は顔を真っ赤にして部屋を出て行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして、体を拭き終わった頃。

替えの服を取り出してから着た。

 

コンコンッ

 

「は、陽菜くんっ!

今…良いかな?」

 

ノックと共に彩の声がしたので

 

「良いぞ」

 

と返事をしたら、彩が鍋を持ちながら、背中でガチャッと扉を押して入ってきた。

 

「ここに置いておくね」

 

「ああ」

 

彩はベッドの横にある机に鍋を置くと、昨日のリサと同じように別皿に移してから

 

「はい陽菜くん出来たよ。

口開けて、あーんして?」

 

そのセリフを聞いた瞬間。

俺は昨日のリサを思い出して、自分の頭を抑えた。

 

「なぁ…彩…」

 

「?どうしたの?」

 

「今時の女子高生は、人に『あーん』させるのが主流なのか…?」

 

「えっ?そんな主流聞いたことないけど…」

 

「だよな…やっぱそうだよな…。

良かった…俺の常識がまだ通用する世界で…」

 

そう安堵してから彩に

 

「悪いけど、自分で食べれる…」

 

と言って皿を受け取った。

すると

 

「あ、熱いから、ちゃんとふーふーして食べるんだよ陽菜くん!」

 

(ふーふーて…)

 

なかなか、可愛い表現で心配そうに見つめる彩。

そして、そんな視線を気にしながらもレンゲですくって、冷ましてから食べると

 

「美味い…」

 

「えっ?ほんと?」

 

「ああ…普通に美味い…」

 

もう一口食べると彩が胸に手を当ててホッと安心しながら

 

「良かったぁ…。

陽菜くんの口にあったら良いな…、って思いながら作ってみたんだけど、大成功だよっ」

 

「そうか」

 

「うんっ!

あっ、これ食べたら、お薬飲んでちゃんと安静にしててね」

 

「ああ…」

 

そしてしばらく経ち、食べ終わると彩が食器を洗いに行き、俺はその間に薬を飲んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(彩が作ってくれたお雑煮…美味かったな。

意外と料理は得意な方なのか…?)

 

そう思いながら待っていると彩が戻って来た。

 

「陽菜くん大丈夫…?」

 

髪が垂れないように、髪を耳にかける仕草で、心配そうに顔を覗き込む彩。

 

「なんとか…。

…そういや、彩はアイドルの仕事は無かったのか?」

 

そう聞くと彩はベッドの横にある椅子に座りながら

 

「1つだけあるけど…。

それが終われば、しばらくオフだから、もし風邪を引いても、それまでに治せば大丈夫っ!」

 

「……腹出して寝たら風邪引くぞ」

 

「だ、出してないよ〜!」

 

「…冗談だ」

 

「うぅ…またからかわれた…。

そんなにからかわないでよっ!」

 

「彩って反応が面白いからな…」

 

「もぅ…。

って、そうだ。

陽菜くんの熱、まだ測ってないよね?」

 

「そう…だな……」

 

「それじゃあ、ちょっとだけ失礼して…」

 

「……ん?」

 

彩は、自分の前髪を上げると、おでこ同士をくっつけて来た。

 

「う〜ん…。

多分…熱は下がってる…かな?」

 

「俺に…聞かれてもな…」

 

「いつも妹にやってるんだけど…。

男の子はどうなんだろう…」

 

「彩……そろそろ…離れ」

 

すると、コンコンッとノックが聞こえて目をやるとそこに

 

「……」

 

無言で千聖が立っていた。

それも、とてもニッコリとした笑顔で、ちなみに目は笑ってない。

 

「も、もう来たんだね千聖ちゃん…」

 

彩のセリフから、来ることを知ってたみたいだ。

するとすぐさま

 

「ええ。

彩ちゃんに呼ばれて来たのよ」

 

「あ、あの……千聖ちゃん…?」

 

「何かしら彩ちゃん」

 

(返答はっや)

 

心の中でそう思っていると、千聖が部屋の中に入って来て、ガチャリ…とドアの鍵を閉めた。

 

ビクゥッ!!?

 

「2人ともどうしたの?

そんなにビクビクして」

 

「ち、千聖ちゃん…!?

なんだか笑顔がこ、怖い気がする…」

 

「気のせいじゃないかしら?」

 

「で、でも千聖ちゃんっていつも」

 

「気のせいよ」

 

「ひゃいぃ…!」

 

彩がチワワみたいに小さくなって震え出すと、次に千聖はベッドの横に来て椅子に座った。

 

「それで、何をイチャついてたのかしら」

 

女王様のような千聖が冷たい目線を飛ばして聞いてくる。

そしてその問いに

 

「まず……どうやって家に入ったか…。

それを…聞こうか…」

 

若干、薬の副作用で睡魔が襲って来ていた。

 

「普通に玄関から入って来たわ。

彩ちゃんが陽菜の家に行ったと聞いたから、心配で見に来たの」

 

(どっちの心配ですかね……)

 

「まぁ、心配した結果が、アレだった訳だけれど…。

彩ちゃん」

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

「時間は大丈夫なの?

彩ちゃんの撮影、確か6時からだったわよね」

 

「うん、そうだけど…」

 

「今、5時20分よ。

ここから事務所まで20分くらい。

その上、約10分のメイクがあるわ」

 

「えっ!?本当だ…!」

 

「このまま陽菜の看病をしてたら、遅れるわよ」

 

「うぅ…看病に夢中になり過ぎちゃった…。

ごめん陽菜くん。

今からお仕事行ってくるね!」

 

「お、おう…。

頑張れ……」

 

「うんっ!」

 

元気に返事をして、階段を降りて家から出て行く音がした。

そして、この気まずさと緊張に満ちた空間で

 

「随分と…優しいな…」

 

「たまたま彩ちゃんの仕事内容を思い出しただけのこと。

それに、彩ちゃんはパスパレのリーダーでもあるのだから、個人的な仕事で失敗して、バンドに悪い影響が出て欲しくないだけよ」

 

「…千聖って、適応力が高いけど…。

今の言葉は、()()()()()()ように聞こえたのは俺だけかな…」

 

「…何が言いたいのかしら」

 

「…相手に何を聞かれるか予想して、その言い訳じみた答えを用意してた、って…こと…」

 

「…本当に…風邪を引いているのかしら」

 

「引いてる…。

でも、今はかなり…楽だけどな…」

 

「…体温計は?」

 

「リビングにある…」

 

「取って来るから、あなたは安静にしてなさい」

 

そう言ってリビングへ取りに行った。

 

 

〜数分後〜

 

 

ピピッ

 

体温計の電子音が鳴り、千聖に体温計を渡すと

 

「38℃ジャストね」

 

「ああ…。

てか……そろそろ…寝てもいいか…?

さっきから……我慢してて…眠い……」

 

千聖の顔がボヤけるくらいにボーッとして来た。

そして

 

「どうして私に許可を求めるのかしら…。

寝たいなら寝ればいいでしょう?」

 

「そう……だな……」

 

明かりが無くなるとすぐさま眠りに落ちた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気持ち良さそうに寝ている人が目の前にいる。

 

(寝顔とか気にしないのかしら…?)

 

そう思いながら、寝顔を眺めている。

 

(長居をするつもりは無かったけど…。

今帰っても、この家の鍵を閉められない)

 

「はぁ……仕方ないわね」

 

(……私も、しばらくオフだから、少しだけ…本当に少しだけ面倒を見てあげましょうか…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして日が落ちるまで付き合った結果。

 

「……すぅ……」

 

ベッドの端で、うつ伏せになって眠っていた。

そして俺の右手には、握ろうとして躊躇った後のような千聖の小さな手が乗せられていた。

 

(またこのパターンか…。

まぁ…起こすけど…)

 

そう思い、千聖の寝顔を出来るだけ見ないようにして左手で肩を揺すると

 

「……?」

 

最初に小さなあくびをしてから、俺の顔を見て

 

「……!」

 

自分の乗せている手に気付き、パッと離した。

そして

 

「…千聖の手、意外と小さいんだな」

 

そう言うと、千聖は顔の頰辺りを少しだけ紅く染めた。

すると

 

「別に、人の手を握るなんて、そこら辺の人がしていることよ」

 

「そうだな…。

そこら辺の恋人同士がしてるな…」

 

「ふふ。

今ならあなたを引っ叩いて眠らす事が出来そうね」

 

「ワー…コワーイ」

 

「本当にやるわよ」

 

「すみません…」

 

そして、少し千聖がここに居る事が気になり

 

「そういえば、なんで千聖が家の玄関から入って来れたんだ?」

 

「彩ちゃんに開けてもらっていたの。

…本当なら花音も来る予定だったのに…」

 

「そうなのか…?」

 

「そうじゃなかったら、私1人で来る訳がないでしょう?」

 

「う……む…。

そうだな…。

千聖がツンデレキャラだったら、俺的に楽なんだけど…」

 

「はぁい?」

 

ガシッ

 

「俺が悪かったから顔を掴まないで」

 

「全く…花音が居れば、こんな人と2人で話す事なんて無かったのに…」

 

(こんな人で悪かったな…)

 

そう思ったが、1つ気づいた事があった。

 

「そういや…。

千聖って、自然体で話す事って少ないよな」

 

「えっ?」

 

「今みたいに自然体で話すこと少ないだろ」

 

「…ええ。

自然体で話すのは、あまり気を遣わなくて良い人の前だけよ」

 

「………ん?

つまり…俺には心を許していると…。

なんだ、やっぱツンデレじゃ」

 

「誰が、いつ、心を許したのかしら?」

 

「冗談だ…」

 

千聖が目元を暗くして笑うので、とりあえず止めた。

すると千聖は、ため息を吐いてから

 

「それで、寝る前は話をはぐらかされたけど…。

彩ちゃんと何をしていたの?」

 

「熱を測ってただけだ…」

 

「へぇ…そう。

ベッドの上に乗って、あんなに顔を近づける必要があったのかしら」

 

「おでこをくっつけてたからな…」

 

「…良かったじゃない。

アイドルがお見舞いに来て、その上情熱的な看病までしてくれる。

そんなこと、ファンがいくらお金を払っても出来ない事よ」

 

「……なんか怒ってる?」

 

「怒ってないわよ」

 

「そうか…。

まぁ…とりあえず、千聖はどうするんだ?」

 

「?何がかしら?」

 

「そろそろ帰った方が良いんじゃないか?

もう7時半過ぎてるぞ…」

 

「あら?

私に早く帰って欲しいのかしら?」

 

「長時間居たら風邪引くから言ってんだよ…」

 

すると少し千聖が微笑みながら

 

「冗談よ。

あなたが他人を心配することなんて、いつもの事だもの」

 

「他人じゃなくて友達な。

そこ重要だから」

 

「…そうね。

私にとっても…ね

 

「?」

 

「とりあえず、帰ることにするわ。

そろそろ、晩ご飯の時間だから」

 

そう言って、千聖はミニバッグを持って出て行こうとすると、部屋の前で止まってから

 

「…もし何かあったら、連絡くらいしなさい。

後で他の誰かに、心配をかけたくなければ…ね」

 

「……ああ…。

そうする…」

 

「それじゃあ、今度は学校で」

 

バタン…という音が部屋にこもった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その帰り道

 

(あの時…。

彩ちゃんが陽菜の熱を測っていた光景を見た時。

少しだけ胸が痛くなったのは、私の気のせい…かしら?)

 

夜の街灯が照らす道を歩き、家が見えて来た。

 

(いいえ…アレは気のせいなんかじゃない。

だとしたら、どうして?

嫉妬にも繋がる感情…。

どこかで演じた事のある…。

この焦がれるような感情は確か…)

 

家の前に立ち、鍵を取り出して開けた時。

同時に何か塞ぎ込んでいた感情の名前を思い出した。

 

(……好き……?)

 

「いえ……そんなはずが無いわ…」

 

(私が、あんな人を好きになるわけが無い…!)

 

そう心では判断したが、微かに残る胸の高鳴りは確かなものであった。




時雨零様
しろぷに様 はるv様
ナマコ大将軍様 やの ちん様

お気に入りありがとうございます。


んー…もう学校か…
遅刻しそう(既に遅刻魔

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