退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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サブタイトル変えました(編集済み)


第3話 好きな人が出来たから

翌朝

 

朝起きると体が軽いので、横の机に置いてあった体温計で熱を測ることにした。

 

ピピッ

 

体温計を取り出すと36.4℃と表示されていた。

 

「風邪治ったな」

 

すっかり元気になった俺。

 

(倦怠感も無い…。

まぁ…ほとんど来てくれた3人のお陰だろうな)

 

そう思い、学校への準備を始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

久しぶりに浴びる朝の温かい太陽。

枯れ木が並ぶいつもの通り道。

そして、火花を散らしている横の2人。

 

「日菜?

そろそろ如月さんから離れたらどうかしら?」

 

「やだっ。

おねーちゃんこそ。

なんでさっきから陽菜くんにペタペタしてるの?」

 

「私は如月さんの服装を整えているだけです」

 

紗夜はそう言って、襟を正してくれた。

 

「日菜が如月さんの服を引っ張るから、見た目が偏っているの」

 

「むぅ……」

 

ジト〜っとお互いを見つめ合う2人。

するとその矛先はやがて

 

「もー!

なんで陽菜くん風邪治っちゃうの!?」

 

理不尽にも俺に突き刺さった。

そして

 

「はぁ…。

雨に濡れて引いた風邪なんて、2、3日経てば治る」

 

「まだ2日じゃんっ!」

 

「引き始めたのは日曜日だから実質3日だ」

 

「あーあっ。

今日も風邪引いてたら、おねーちゃんと看病しに行ったのに…」

 

「アイドルは、もう充分です」

 

手を日菜の前に出して断ると

 

「?他に誰か来たの?」

 

「あ、え?いや…別に…?」

 

「……ふ〜ん?へ〜?」

 

(なぜそんな疑いの目で見る…)

 

日菜が首を傾げながら睨んでくる。

すると背後から

 

「はーるなっ♪」

 

背中をトンッと押されて振り返るとリサがいた。

 

「リサか」

 

「治ったみたいで良かった良かった☆」

 

「おかげさまで、な。

リサが看病してくれたから助かった」

 

「そっかそっか♪

もし風邪引いてたら、今日も行こうと思ってたのにな〜」

 

残念そうに言っているが、その裏で、甘やかそうとするリサの思惑が垣間見えた。

 

「まぁ、でも…。

今度は、陽菜のベッドで一緒に寝るだけじゃなくて、家に泊まりに行こっかな♪」

 

「……ん?

ちょい待て、その言い方だと語弊が…」

 

すると紗夜が

 

「如月さん…。

ちょっとネクタイが曲がっているのでこっちを向いてくれますか?」

 

「え?ああ…」

 

(曲がってる気はしないんだけど…)

 

そう思いながら、言われた通り紗夜の方を向くと

 

「如月さん。

今井さんと一緒に寝たというのはどういうことですか?」

 

「あ、あの紗夜?

そんなにネクタイ締められたら」

 

「そうですね。

首を絞められたら苦しいですよね。

それが今の私の痛みですよ如月さん」

 

「いや…ちょ…紗夜さん!?

ギャアアアアアアア!!!!」

 

俺の病み上がりの3学期は、そんな悲鳴と共に始まる。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

教室

 

授業が終わると

 

「もー!もー!

陽菜くんのバカー!」

 

早速日菜の何かが始まった。

そして俺は

 

「日菜にバカって言われたら、大体の奴は反論できないぞ」

 

そう言って教材をしまい、次の教材を机の上に置いた。

 

「そーじゃなくて!

リサちーと一緒に寝てる事がおかしいの!」

 

「だから…。

それは説明しただろ。

リサが床に座って、ベッドでうつ伏せになって寝てたって。

別にリサは潜り込んで来たりしてない」

 

後ろを向いて反論すると、日菜がプクーと頰を膨らませて

 

「でも、陽菜くん。

リサちーが布団に入ってきても怒らないでしょ?」

 

と聞いてきた。

 

「怒る気力すら、熱に奪われてたからな。

ま、どうせ怒らなかっただろうけど」

 

そう言うと、更に日菜の赤い頰が膨らんだと思うと

 

「ほらー!やっぱりリサちーにだけ甘い!」

 

頰に溜まっていた言葉が飛んで来た。

すると続けて

 

「じゃあ、ある日突然。

もしあたしが陽菜くんの隣で寝てたら、怒る?」

 

「まず許可無く家に入って来てる時点で怒る」

 

「ちぇっ…」

 

悔しがる日菜を見ていると、その表情が幼い子どもみたいで、それこそが日菜の魅力の1つと俺は密かに思った。

すると

 

「陽菜くん。

あたしが誘っても、どうせ来ないくせに」

 

ポツリと呟きながらジト目で言われた。

 

「一度でも誘った事あったか?」

 

「ガーン…!」

 

「効果音を口で表さんでいい」

 

すると日菜がガタッと立ち上がり、青ざめた顔で

 

「陽菜くんにお嫁さんなんて、絶対に出来っこない…!」

 

「それはまた酷い偏見だな」

 

「だから、あたしがお嫁さんになる!」

 

「日菜はアイドルだから、付き合う事すら無理だ」

 

「だったら愛人!」

 

「さっきと同じで付き合うレベルをゆうに超えたな」

 

「じゃあ伴侶!」

 

「そこまで来ると、もはや時代劇だ」

 

「むぅ……。

じゃあ、陽菜くんは何が良いの?」

 

やっと落ち着いたようで、日菜は椅子に座った。

そして先の問いに答えようか迷ったが

 

「まぁ…強いて言うなら…」

 

「うん…」

 

「友達か親友で居てくれたら、それで良い」

 

そう言うと少し間が空いてから

 

「そっかぁぁ…」

 

日菜はガクッと落ち込んだ。

と思うと

 

「でもさっ、陽菜くん。

もし彼女が欲しくなったら、あたしがなってあげる♪」

 

素敵な笑みを浮かべる日菜を盗み見てから

 

「日菜はアイドルだから無理だろ」

 

「あははっ♪

今はまだ、ね

 

キーンコーンカーンコーン

 

チャイムが鳴ると同時に古文の先生が入って来た。

 

途中、日菜が何か小声で言った気がしたが、得意分野の授業なので、集中することにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み

 

いつもの場所へと久しぶりに足を踏み込んだ。

そこにはいつもの大きな木があり、少し蕾が膨らんでいた。

 

(へぇ…。

これはこれは……春になったら楽しみだな)

 

そう思いながら、眺めていると

 

「如月」

 

「うおっ!?」

 

急に背後から声をかけられて驚くと、そこにはいつものように片手に弁当を持った友希那だった。

 

「そんなに驚かないでちょうだい」

 

「わ、悪い」

 

「それで、何を…眺めているの?」

 

不思議そうに聞いてくる友希那に

 

「これ、多分桜の木だ。

だから、春になったら楽しみだなぁ…と思ってな」

 

そう言うと、友希那は手を少し桜の木に当てて

 

「そう。

…桜と青薔薇のイメージで、何か良いイメージが沸かないかしら…」

 

「今は学校だから、少しくらいは気を抜くように」

 

「わかっているわよ」

 

そうして、いつも通り壁際で食べることにした。

俺がビニール袋からサンドウィッチを取り出すと

 

「…如月」

 

「ん?」

 

「今日はコンビニで買って来たの?」

 

「ああ。

いつもなら母親が作ってくれてたんだけど、4月まで帰って来ないの忘れてたんだ」

 

「……」

 

すると友希那は何か考え始めた。

そして

 

「お弁当を…作ってあげましょうか?」

 

「えっ?誰が?」

 

「私が、よ。

それ以外に誰がいるの?」

 

「手料理を?」

 

「?私が作るのだから…そうね」

 

「ぜひお願いします」

 

「!わ、わかったら手を離して…」

 

友希那は自分の照れて赤くなった顔を見られないように、横に逸らして誤魔化した。

そして両手を離してから

 

「それより、今度バンドのコンテストがあるの」

 

「?コンテスト?」

 

一瞬フェスを思い浮かべたが、大方ハズレだろう。

 

「ええ。

都内にあるライブのコンテストよ。

事務所から勧められたの」

 

「あー、そういや、事務所入ったんだったな」

 

そう言って会話の間にちょいちょい食べながら話した。

すると

 

「リサから聞いたの?」

 

「ああ。

リサの看病ついでに聞いた。

それで、なんで俺にそれを?」

 

「一応、話しておこうと思っただけよ」

 

「そうか」

 

「…それで、お弁当は米とパンのどちらが良いのかしら?」

 

唐突に戻された弁当の話。

友希那が少し目を光らせながら聞いてくるあたり、やる気に満ち溢れているのがわかる。

 

「うむ……。

いつも通り、サンドウィッチで良いかな」

 

「具材は…何にすれば良いかしら?」

 

「なんでも良い」

 

「……」

 

「?なんだ?」

 

「『なんでも良い』は、1番困るセリフよ」

 

「そ、そうなのか。

じゃあ…無難にハムとタマゴのサンドウィッチで」

 

「わかったわ」

 

そうして昼休みは、他愛もない会話をして終わった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

Roseliaの練習は明日との事なので、10分前くらいに家へ帰って来た。

 

「課題は…何も出てないか…」

 

そう呟いてから、下に降りてリビングに行きテレビをつけた。

 

(なんか冷たい飲み物…)

 

そして冷蔵庫から冷めた缶のココアを手に取り、ソファに戻って、くつろぎながらテレビを眺めていると

 

『私たち、Pastel*Palettesです!』

 

「あっ、パスパレ…」

 

テレビにパスパレが映っていたのだから、そう呟くのも仕方がない。

そのままテレビに目を向けていると演奏が始まった。

 

(今日は演奏なのか…)

 

パスパレの演奏を聴き終わり、しばらくして終盤になった頃。

何やらテレビの向こうが騒がしかった。

するとマイクが日菜の手に渡った。

 

『それじゃあ重大発表するねー♪』

 

テレビから日菜のお気楽な声が聞こえた俺は、ココアをコクコクと飲みながら聞くことにしたが次の瞬間

 

『あたし、アイドルやめることにした!』

 

「ブフゥッ!!!!?」

 

ココアを吹き出してしまった。

 

「難聴かな…」

 

そう思いたかったが、さらに追い討ちをかけるように

 

『あたし、好きな人が出来たから!』

 

「なぜだ!?

なぜそんなにも猫のように自由なんだ!?」

 

俺はテレビを掴んで叫んだ。

しかし、当然向こうには聞こえることもなく

 

『ってことで、あたしアイドルやめるねっ♪』

 

日菜の引き起こした新たな波によって、俺の日々の波乱が収まる気配は遠ざかっていった。




魔星アルゴール様 Yamiyyy!!様
夾竹桃桃様 てぃけし様

お気に入りありがとうございます。
♪( ´▽`)

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