退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第4話 これから先の未来の約束

翌日

 

学校に入って下駄箱で靴を履き替えた。

 

すると階段付近で俺は腕を引っ張られ、階段の裏手に隠れるように足を運ばされた。

そしてその犯人はというと…

 

「!千聖!?」

 

名前を呼ぶと千聖は人差し指を自分の口元に近づけながら

 

「静かにして…!

誰かに聞かれでもしたら面倒だわ」

 

「あ、ああ…?」

 

「あなた、今の状況わかってるの?」

 

「?何が?」

 

「昨日。

日菜ちゃんがアイドルをやめる、って宣言した事よ」

 

「あぁ…そうだったな…。

嫌なことを思い出した…」

 

「よく思い出す程に忘れられるわね」

 

「まぁ…な」

 

(今日は他に楽しみにしてた事があるんだよ…)

 

「まぁいいわ。

それで、その理由が『好きな人が出来たから』

…あなた、確実に心当たりがあるでしょう」

 

「……うむ……」

 

「知らない、なんて通用しないわ。

あなたも、そこまで鈍感じゃないでしょうから…」

 

先に言おうとしていた答えを言われて八方塞がりになってしまった。

そして、諦めた俺は千聖に

 

「まぁ……。

あれだけ『好き』って言葉を連呼されてれば…な。

日菜だって感性にだけ任せて言ってる訳じゃないんだ。

だから、あの言葉がそれくらい本気だって事ぐらいはわかってる」

 

「…そう。

日菜ちゃんは今、事務所の許可を得ていないから辞めていないけれど。

あまり事務所側が留め続けておく事も出来ないの。

だから、日菜ちゃんとしっかり話し合いなさい」

 

「…ああ。

ただ、千聖もどんな結末だろうと、受け入れるようにしておいてくれ」

 

「……そうね。

別に、あなたが日菜ちゃんと付き合おうと。

私には関係の無い話よ」

 

そう言ってスクッと立ち上がった千聖に

 

「?日菜がアイドルに戻って来るか来ないかの話だけど?」

 

と一応言ってみると千聖は歩みを止め振り返って

 

「っ……!

勘違いさせる言い方はやめてもらっても良いかしら?」

 

千聖は若干怒りを込めて言い放ち、上へと戻っていったが、一瞬、なぜか少しだけ、千聖の顔が赤くなっていたような気もした。

 

「?普通に言っただけなんだが…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

教室へ入ると、当然のごとく待っていたのは、ざわざわとした空気と

 

「陽菜くんっ!」

 

1人のご機嫌麗しい少女だった。

そして俺はいつも通り自分の席に座ると突然後ろから

 

「ねぇねぇ♪」

 

「なんだ?」

 

「陽菜くんと恋人になってもいい?」

 

(やっぱり俺か…)

 

日菜の発言で確信に変わった。

そして

 

「……あのなぁ…。

今、日菜は事務所に引き止められてんだろ」

 

「うん、そうだよ?」

 

「だったら、今はまだアイドルだ。

それと、あんまり長く話したら周りに見られる」

 

さっきからクラスの視線で、気が散ってしまう。

しかし

 

「あたし、そんなの気にしないもんっ♪」

 

「…とにかく、日菜。

放課後に話があるから、ちょっと待っててくれ」

 

「?一緒に帰るの?」

 

「場合によってはそうなるかもな」

 

「わかった♪」

 

キリのいい所でチャイムが鳴った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み 校舎裏

 

いつも通り来ると、友希那の方が先に着いていた。

なぜか周りを気にしてキョロキョロしていたが、こちらに気づき

 

「!…やっと来たわね如月」

 

「俺いつも通り早く来たはずなんだが…」

 

すると友希那が膝の上に乗せていた弁当箱を気恥ずかしそうに

 

「これ…。

作ってきたわ」

 

と言って渡してきた。

 

「ありがとう。

助かる」

 

受け取ってから隣に座り、弁当箱を開けようとすると

 

「その…あまり味と見た目に期待はしないでちょうだい」

 

と珍しく友希那が自信なさげに言った。

 

「…」

 

気にせず開けた。

腹が空いてたから。

そして中に入っていたのは、サンドウィッチ。

少し形が崩れて、焦げの付いた具材がはみ出していた。

 

「いただきます」

 

「あっ…!」

 

口に入れた瞬間に心配そうな声を小さく上げる友希那。

そして

 

「……」

 

サンドウィッチを普通に食べているだけなのに、横からの視線がすごい。

 

「なぁ…友希那さんや?」

 

「?何かしら?」

 

「そんなにジロジロ見られると食べにくいんですが…」

 

「気になるから見ているのよ」

 

「そ、そうか…」

 

「そうよ」

 

そして、しばらくして食べ終わってから

 

「…うむ。

美味かったぞ友希那」

 

「!…本当に?」

 

「?ああ」

 

「…そう。

なら…良いのよ」

 

友希那は一言だけ返事をして、嬉しそうに自分の残り少ない弁当を食べ始めた。

 

(そんなに気になるのか…?

ただ焦げが苦くて卵に味が付いてないだけなんだが…)

 

普通に美味しかった。

卵は別段、脂っこい訳でもなく、少し焦げが付いているだけなので、ハムと合わせて食べると焦げも美味しくなっていた。

 

(まぁ…こんな気持ちじゃなきゃ、もっと美味く食べられたんだろうけどな…)

 

俺は弁当箱を袋で閉じながら、そう思った。

すると食べ終わった友希那が

 

「それで…あなた。

日菜のことはどうするの?」

 

なかなか、痛い所を突いてきた。

 

「う…む…」

 

俺は反応に困ったが、すぐに切り替えようとして

 

「…恋人にはなれない。

でも、断ろうか迷ってるくらい…だな」

 

「…そう」

 

「……」

 

少しの静寂な空間が出来ると

 

「1つだけ、聞いてもいいかしら?」

 

「どうぞ」

 

「どうして恋人になれないの?」

 

「……答えなきゃダメか?」

 

ここで友希那が『いいえ』と言ってくれれば、俺は答えずに済む。

のだが

 

「ええ。

私はどうして日菜の事を断るのか知りたいの。

だから、答えて」

 

「…そうか。

まぁ、理由は自分勝手で簡単だ。

今の平和な日常が気に入ってるから…だな」

 

「っ…!」

 

その時、友希那に空虚感と不満足感が同時に襲ってきた。

それも、胸が締め付けられるような幻の痛みと共に

 

「……なるほど…ね。

日菜だけでなく、他の人が如月を好きになっても、その人の想いには応えられない、というわけね…」

 

「ああ」

 

体育座りをしながら身を縮こまらせる友希那。

そして

 

「だからこそ、日菜の心には傷をつけないようにする」

 

「…どうやって?」

 

「そこなんだよな…。

何か良い案は…。

あっ、そうだ」

 

「?何か思いついたの?」

 

「ああ。

ちょっと手伝ってくれないか?友希那」

 

「?別に良いけれど…。

何を手伝えば良いのかしら?」

 

「相手の断られた時の気持ちを知れば、どうにか出来るかもしれない。

だから」

 

「ええ」

 

「俺にフラれる役をしてくれないか?」

 

「……」

 

友希那は絶句した後

 

「あなた…拷問をする趣味でもあるの?」

 

「無いけど!?」

 

「いやよ。

絶対にいや」

 

まるで子どものように拒否する友希那。

そのまま、友希那が引き受けてくれることはなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

曇り空から漏れる太陽の光が教室の窓に入った頃。

教室には俺と日菜だけが残った。

そして

 

「日菜。

残ってもらった理由はわかってるか?」

 

「うん。

なんとなーくだけど…。

これから陽菜くんが言うセリフもわかる気がする」

 

日菜はいつもの明るさとは裏腹に、寂しそうな表情を浮かべた。

 

「なら、結論から言うぞ。

…俺は日菜とは恋人にはなれない」

 

「…そっか」

 

「理由は、俺は今の日常が好きだからだ」

 

そこまで言って、もし日菜が泣き崩れでもしたら、しばらく側にいる覚悟でいた。

すると

 

「うんっ♪わかった☆」

 

日菜は泣き崩れるどころか、いつものように笑って返事をした。

 

「…平気か?」

 

「ヘーキヘーキ♪

こうなる事も予想してたからっ♪

それに、これまで陽菜くんに何度もフラれてるからねっ」

 

「うっ…」

 

少しずつ込み上げていた罪悪感が一気に上がってきた。

すると

 

「う〜ん…そっかぁ。

それじゃあ、陽菜くんも一緒に考えてくれる?」

 

「何を、だ?」

 

「ほらっ、この前生放送のテレビで言ったこと。

アレを弁明しないと元に戻れないんだよねー。

だから、一緒に考えてよっ♪」

 

「…それくらい良いか。

まぁ、それは帰りながら話そうか」

 

そしてしばらく2人で考えを出し合った結果。

 

「じゃあ、こんなのはどうだ?」

 

下駄箱へ来た頃にそう言って耳打ちで教えると

 

「あははっ!

それ、るんっ♪ってキタかも!」

 

「おう。

そんじゃ、俺はCiRCLEに行ってくる」

 

「うんっ!

頑張ってねー♪」

 

そして靴を履き替えて向かおうとすると

 

「あっ、そうだ陽菜くん」

 

「?」

 

「隙ありっ!」

 

腕を引っ張られて体勢が崩れ、それを整えようとした。

しかし

 

「!?」

 

頰に当たる柔らかい確かな触感に意識を半分くらい持っていかれた。

そして3秒ほど固定された時間が過ぎると

 

「あたし、やっぱり陽菜くんのこと大好きっ♪

陽菜くんが生きてる今の日々も、これから先の日々もずっと好き!

だから、今のキスはこれから先の未来でも、陽菜くんが好きっていう約束ねっ♪」

 

日菜は、なんの後悔も無さそうな無邪気で素直な笑顔を見せた。

そして

 

「そうか。

ありがとな日菜」

 

小さな日菜の頭を少し撫でてから、学校を出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

Roseliaの練習が終わり外に出ると、いつも通りすっかり夜になっており、あこと燐子も付いてきた。

 

「ねぇねぇ陽兄ぃ!

今日のあこ、どうだった?

サビのところでドラムをこう…ドバーンッ!

ってするところとか!」

 

「そういや、あれってあこのアレンジなんだな。

カッコ良くなってたぞ、あこ」

 

「えっへへー♪」

 

こうして頭を撫でていると、どうしても日菜のことを思い出してしまう。

すると

 

「?……陽菜さん…。

何かありましたか…?」

 

燐子が心配そうに聞いて来たので

 

「何…ちょっと今日は特別な日だっただけだ」

 

「特別な日…ですか…?」

 

「ああ。

まぁ、これで俺は平穏な日々に戻れるわけだ」

 

「「?」」

 

2人が不思議そうな顔をしていると、カランカランと音を立てて残りの3人が出て来た。

 

「如月さん。

ちょっとお話があります」

 

「?ああ」

 

そして帰り道は、リサの気遣いで紗夜と2人だけで帰っていた。

 

「それで、話ってなんだ?」

 

「日菜のことです。

今日、日菜から連絡がありました」

 

それを聞いて、紗夜に日菜の事で何か言われるんじゃないかと身構えた。

すると紗夜が

 

「その内容が、これだったんですが…」

 

「ん?」

 

紗夜が見せて来たメール内容は至ってシンプルだった。

 

『陽菜くんのほっぺにチューしたよっ♪』

 

(あ、予想の斜め上に行ったわ)

 

「どういうことなのか…。

きちんと説明してくれますか?」

 

「いや…あの…。

妹に手を出されて怒る姉ってのは素敵だけど。

違うそうじゃない」

 

「…今日はもう遅いですから、続きは明日にしましょう。

絶対に逃げないでくださいね?」

 

「………はい」

 

どうやら俺は、次の日に何か約束されることが多いらしい。




お気に入りありがとうございます。

Luna Ballad様 にゃるサー様
こういっちー様


↓こちらはオマケです。
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如月家

俺はいつも通り課題を確かめた後、下に降りてリビングのテレビをつけた。

「!」

(日菜…。
ということはパスパレの…)

そのままテレビを見ていた。
すると司会者が、この前の日菜の発言に関して質問したところ。

『好きな人はおねーちゃんです!』

「あっ、止めとくの忘れてた」

あのセリフは、今日の放課後。
俺が日菜に耳打ちで教えた言葉だった。

だが、そう呟いても、もう遅い。
この生放送が流れた後に、紗夜からの電話が何回もかかって来たのは、きっと気のせいだろう。

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