退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第5話 紗夜さんのお礼 〜前編〜

2月8日 金曜日

 

(天気…良いなぁ…)

 

まだ咲いていない桜並木が続く通学路を歩く。

 

(それだけならまだ楽なんだが…)

 

そう思っていると横から

 

「…ですから、勝手に私を理由に使うのは…。

って、如月さん。

ちゃんと聞いていますか?」

 

紗夜の声で意識を現実に戻した。

先程から、昨日の件で説教を受けている。

 

「日菜の弁明に紗夜の事を提案したのは悪かった」

 

俺は最後に聞こえた紗夜の言葉の並びを使って返事をすると

 

「わかってくれれば良いですが…」

 

「?」

 

「それよりも…。

なんですか?『ほっぺにキス』って?」

 

なんか怒気をはらんだ声で言われた。

 

「そのまんまの意味だろ」

 

「そんな事はわかっています。

ですが……その…。

どうして…そんなに平然としていられるんですか?」

 

何か言いにくそうに聞いてきた紗夜。

質問に答えようとしたが

 

「!まさか…日菜と合意の上で」

 

「してねぇよ。

いきなり腕を引っ張られて頰にキスされただけだ」

 

「そう…ですか」

 

なぜか安心したように一息つくと続けて紗夜が

 

「まぁ…それはそれとして。

如月さん」

 

「ん?」

 

紗夜が改まったような声を出すので気になっていると

 

「その……もしよろしければ、今日の放課後。

お礼をさせてくれませんか?」

 

「お礼?なんの?」

 

「昨日の件です。

日菜がご迷惑をおかけしたので。

如月さんの迷惑で無ければ、今日の晩御飯は私に作らせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「……マジで?」

 

「はい。

私が如月さんの家へ作りに行きます。

それと少し、如月さんの私生活が気になりますから…

 

そう言われて

 

「それは助かる!」

 

思わず食い気味に言ってしまった。

お陰で、後半、紗夜が何を言ったのか全く聞こえなかった。

そして

 

「…最近。

料理せずに何も食べないことが多かったからなぁ…」

 

しみじみ言うと紗夜は

 

「!ちゃんと1日3食食べないと身体に悪いですよ」

 

「俺の家。

年末年始で親いない上に、妹も誰かの家に泊まりに行ってるからな。

ご飯を作れないわけじゃないけど、めんどくさい」

 

「そうだとしても。

面倒なら私に一言言ってください。

そうすれば、いつでも作りに行きますから」

 

「おお…」

 

「ですが、その場合。

私は今井さんみたいに甘やかしたりはしないので、必要最低限の事はしてもらいますよ」

 

「はは…。

そこまでしなくても大丈夫だ」

 

「そう…ですか」

 

紗夜がほんの少し残念そうにしている気がした。

 

(にしても、紗夜の手料理か…。

友希那とリサの手料理は食べたことあるけど。

紗夜の手料理は何気に初めてだな)

 

そう思いながら校舎に入っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

教室に入ると、またもや騒ついていた。

 

「あっ、来たよ例の子」

 

「ねぇ、あの子が氷川 日菜の好きな人じゃなかったの?」

 

「いや、好きなのはお姉さんらしいぞ。

ま、結局のところ、フラれたんだろ」

 

「へぇ…じゃあもう、日菜ちゃんがあの男に着く気は無いんだ」

 

などの会話が聞こえてくる。

当然、気にせずに自分の席へ向かうと

 

「むぅぅ…!」

 

日菜が両頰を膨らませて不機嫌そうに座っていた。

 

「…どうした日菜」

 

そう言いながら席に座ると

 

「だって…!

みんな陽菜くんの悪口ばっかりだもんっ!」

 

「悪口くらい気にせんでも良いだろ…」

 

日菜の愚痴に返事をしながら準備を進めていると

 

「あたし、そういうの嫌い!」

 

「知らん」

 

「いーやーなーのー!」

 

声と同じリズムで朝からバシバシと背中を叩かれる。

 

「叩くなよ…。

それより、今日」

 

するとチャイムと同時に号令がかかった。

 

(まぁ…別にご飯の件は話さなくてもいいか)

 

「やっぱ、なんでもない」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み突入

 

いつものように校舎裏に来ると、またもや友希那の方が先に着いていた。

 

(おかしいな…。

俺の方が先に教室から出たはずなんだが…)

 

そう思いながら、友希那が気づくまで立っていると

 

「!…居るなら声をかけてちょうだい」

 

「すまんな」

 

そう言って座ると友希那が

 

「これ。

今日の分も作ってきたわ」

 

「おう、ありがとな」

 

お礼を言って差し出された弁当箱を受け取った。

すると

 

「昨日のよりは、上手く作れたと思う…わ」

 

「ほー、それは楽しみだな」

 

軽く返しながら箱を開けると、卵の焦げは前回と一緒で付いていたが、昨日より見た目が少しだけ良くなっていた。

 

そしてひと口食べようとすると

 

「如月」

 

「ん?」

 

「一昨日。

都内でコンテストがある、と言ったのを覚えているかしら?」

 

「ああ、そういや言ってたな」

 

「そのコンテストなのだけれど。

来週の土曜日にあるから、観に来てちょうだい」

 

「わかった。

その場所は?」

 

「…帰ってから詳しい場所を連絡するわ」

 

「そうか」

 

会話が終わりひと口食べると

 

「…今日のパンは美味しいかしら?」

 

「うむ」

 

「そう。

なら、良いの」

 

今のでよく伝わったな、と我ながら思っていると向こうから誰かやって来るのが見えた。

 

「おーいっ、2人とも〜♪」

 

走って来ていたのはリサだった。

そして

 

「どうした?」

 

そう聞くとリサは少し息を整えてから

 

「お昼一緒に食べようと思ったんだ〜♪

はいこれ、2人の分のクッキー。

お腹いっぱいだったら、残しても良いからね☆」

 

そこまで考えて渡して来る辺り、このクッキーはリサの優しさに溢れている。

 

「ありがたく頂戴するわ」

 

「リサのクッキーだからな」

 

友希那と俺は、1つずつ袋に包まれたクッキーを取った。

するとリサが

 

「ねっ♪2人とも☆

恋ってしたことある?」

 

これまた唐突な質問。

だが、俺と友希那は至って普通に

 

「無い」「無いわ」

 

と答えた。

しかし、リサは友希那の方を見てニッコリと微笑むと、友希那の表情が少し引きつった。

 

「?」

 

キョトンとする俺を見たリサが

 

「あははっ♪

じゃあ〜…2人とも告白とかされたことは?」

 

「それも無いわ」

 

「俺は無……あるな」

 

言い直した。

流石に、忘れるわけにはいかない出来事だ。

 

「陽菜は放課後、ヒナに告られてるからねっ♪」

 

「ああ。

…ん?

ちょっと待て、なんでリサがそこまで知ってんだ?」

 

「なんで、って…。

ヒナが女子のグループで話してたからだよ。

いわゆる女子トーク♪」

 

(女子トーク怖い…)

 

そうして、チャイムが鳴るまで3人で昼食を取っていたが、リサの質問は少しだけ続いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

ホームルームが終わってから、俺は紗夜の教室である2-D組へと向かった。

するとずらずらとクラスから人が騒々しく出てきた。

そこに

 

「!…如月さん」

 

「迎えに来たぞ」

 

「わざわざ私のクラスまで来てくれたんですか?」

 

「まぁな。

それより、日菜を教室に置いてきたんだが…」

 

「帰る場所は一緒ですから、そんなに気にすることはありません」

 

「…それもそうか」

 

そしてそのまま紗夜と帰ることにした。

その帰り道。

 

CiRCLEが見えて来た頃に

 

「そういえば…今日は音楽雑誌の発売日でした。

少しショップに寄っても良いですか?」

 

「ああ」

 

「ありがとうございます」

 

そうして紗夜と近くの音楽ショップに入り、雑誌コーナーへ向かった。

 

「あっ…ありました」

 

そう言って紗夜が手に取った雑誌が少し気になった。

 

「それ、何が書いてあるんだ?」

 

会計をする紗夜に尋ねてみると、紗夜は少し神妙な顔をして

 

「これは…ギター、ベース、キーボード、ドラム…。

種類は様々ですが、これにはそういったプロの方々が載っています。

いつもなら手に取る前に悩むのですが…」

 

「それは違うのか?」

 

「はい。

今回は、プロの中でも世界一と言われる方々が載っているんです。

ぜひ、その人達のコメントを見たいので」

 

「なるほど」

 

そして会計を済ませて、外に出て家へ向かい始めた。

すると

 

「…如月さん。

1つ…聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「ん?」

 

「如月さんの義兄弟である兄も、あなたと同じ【神童】と呼ばれていました。

ですが、如月さんは100年に1度の【神童】と呼ばれています。

その【神童】が2人もいるのは、一体どういうことなのですか?」

 

「んー…あの人は、音楽業界だけじゃないんだ」

 

「音楽業界だけじゃない…と言いますと?」

 

「勉学、芸術、武術。

あの人は、これらの道を極めた人だ。

その突破した才能が業界に知られてる。

だから、全業界での【神童】だ。

音楽業界以外…だがな」

 

「…そんな人が近くにいて…。

如月さんは自分と比べたりは、しなかったのですか?」

 

「しなかった。

多分…俺の方が音楽業界で優れてたっていう点もあって、少し余裕があったんだろうがな」

 

「!勝ってたんですか!?」

 

さぞ驚いたようで、紗夜の声がいつもより少しデカかった。

 

「まぁ…な。

てか、実際あの人と3回くらいボーカル対決したことがある。

俺があの人に勝てるとしたら、音楽くらいだ」

 

「如月さんは武術を習っていましたよね?

何の武術かは知りませんが、あれだけ出来れば、そのお兄さんに敵うのでは?」

 

そう言われて、俺は手を横にブンブンと振りながら

 

「無理無理。

武術とかに関しては、俺あの人に勝てたこと1度もないから」

 

「!…如月さんでも敵わないんですか?」

 

「昔、海外に行ってた時に何回か挑んだけど、あの時はカスリもしなかった…」

 

「?昔から海外へ行かれてたんですか?」

 

「その時は俺も学生とはいえ、やることがなかったからな。

それに、俺の武術はちょっと特別製だけど、今は役に立ってる」

 

「特別製…?」

 

「…この話はおしまいだ。

俺のつまらない昔話は止め止め。

ほれ見えて来たぞ」

 

話を多少強引に終わらせた。

そして言った通り、俺の家が目の前に来るまで近づいたので、鍵を開けようとすると

 

「では如月さん。

私は1度、家で着替えてからお邪魔させてもらってもよろしいですか?」

 

「構わんぞ」

 

「ありがとうございます。

では、買い物をした後にまた戻って来ます」

 

そう言って紗夜は急いで帰っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

如月家 現時刻 18時29分

 

「んー…ふわぁ…」

 

背筋を伸ばすと共にあくびが出た。

 

(眠い…)

 

そしてスマホを覗き見ると30分に変わった。

その時

 

ピンポーン

 

下からチャイムが鳴ったので、降りて玄関の鍵を見ると

 

(あ、閉め忘れてる…)

 

そして、扉越しにいる紗夜と思われる人物に

 

「開いてるから入って良いぞ」

 

と呼びかけるとガチャッと開いた瞬間。

 

「陽菜くんっ!」

 

「日菜っ!?」

 

「とりゃあっ!」

 

ガバッと俺の首に腕を回して抱きつく日菜。

飛びつくと同時に、靴を脱いでる辺りすごい。

 

「ちょっ!おい離れろ日菜」

 

「陽菜くんの匂いがするー♪」

 

日菜がそう言って服に顔を埋めて来た。

 

「顔を埋めるな!」

 

引き離そうにも、日菜が服を掴んで離さない。

なんとか離れようとして後退りをすると

 

「逃げないでよっ!」

 

「うっ…!?」

 

日菜に思いっきり締め付けられたその時

 

グイッ

 

「あっ…」

 

日菜と足がもつれた。

 

「きゃっ!」

 

日菜の悲鳴が聞こえたと認識したくらいに俺は、日菜の下敷きになって倒れた。

 

「ぐふっ…」

 

「いてて…。

あっ!陽菜くん大丈夫!?」

 

「ああ…。

俺は大じょ」

 

「…何をしていらっしゃるので?」

 

ぎくっ

 

恐る恐る日菜の後ろを見ると、玄関で立って俺たちを見下ろす紗夜。

そして

 

(たった今……大丈夫じゃなくなった…)

 

「如月さん?」

 

「はい…」

 

「少し…夜ご飯を作る前に、お話をしませんか?」

 

「えっと…嫌な予感がするんですがそれは…」

 

()()…。

してくれますよね?」

 

(めっちゃ怒ってるじゃないですか…)

 

そうして、俺は首を縦に振らざるを得なかった。




force3111様 剣舞姫様
聖告の大天使 ガブリエル様

お気に入りありがとうございます。

後半は…3日以内には上げたい!

ではまた!

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