退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第5話 紗夜さんのお礼 〜中編〜

ただ今、正座中…

 

「…そろそろ私も本気で怒りますよ?」

 

紗夜のごもっともな言葉に俺は頭が下がりまくる。

そして

 

「あのー…ですね」

 

「はい」

 

「あれは不幸な事故のようなモノでして…」

 

「ええ。

それは日菜に聞いたのでわかっています」

 

そう言われて、紗夜の隣にあるソファで猫のようにゴロゴロする日菜に目が自然と逸れる。

 

(なぜ…俺が主犯に…)

 

そう思いながらも弁明を続けようとした。

しかし紗夜が先に

 

「ですが、私が気になっているのは、如月さんです」

 

と言った。

それに反応して

 

「おねーちゃん大胆っ♪」

 

日菜の小悪魔的な横槍が入り、俺もそれに乗って

 

「おー」

 

と関心の声を上げた。

すると

 

「違います!

私はただ如月さんの対応が気になるだけであって、決して如月さんの事が恋愛的な意味で気になるという訳では…!」

 

「ちょいちょい紗夜さんや」

 

熱く語る紗夜を止めてから

 

「な、なんですか?」

 

「そんなに必死に否定されると、男という生き物上。

むしろその逆を考えてしまうので…」

 

途端、紗夜の顔が沸騰したように真っ赤になった。

 

「き・さ・ら・ぎ・さ・ん!?」

 

ビクゥッ!!

 

「す、すまん!今のは軽いジョークだ…」

 

俺は両手を前に出して止める素振りを見せる。

そして紗夜が怒ると思った瞬間

 

「……はぁ…。

すみません。

少し取り乱しました…」

 

「お、おう…。

それで、なんで俺が気になるんで?」

 

「……最近…。

如月さんと日菜の距離が縮まり過ぎなのではないでしょうか?」

 

暗い顔をして聞いて来た。

 

「……?それがどうかしたのか?」

 

「いえ…。

ただ…そういう時。

お2人を見ていると、何故か胸が」

 

紗夜が何か言いかけた瞬間

 

「おねーちゃんお腹空いたー!

早くご飯作ってよ〜!」

 

ゴロゴロとソファの上で転がっていた日菜が、どうやら空腹のピークを迎えたようだ。

 

「…はぁ…わかったわ。

今用意するから少し待っててちょうだい」

 

そう言って紗夜は説教を止めて、キッチンを見てから

 

「如月さん。

キッチンを使わせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「良いぞ」

 

「ありがとうございます」

 

少しだけ会釈して、紗夜は髪をまとめた。

 

「如月さん。

エプロンもお借りしてもよろしいですか?」

 

「エプロンか…。

確か…そこの引き出しに入ってたはずだが…」

 

後半呟きながら薄茶色のタンスの引き出しを開けて少し漁ると

 

「あっ」

 

(あったあった…。

けど…コレは紗夜が気にいるのか…?

まぁ…他にもあるけど、まずは試してみるか)

 

そう思い、1着のエプロンを取り出した。

 

「では、ありがたくお借りさせてもら…。

…えっ!?」

 

「ほれ」

 

「まさか…それを着るんですか!?」

 

紗夜が驚くように言った。

そして俺は、手に持った可愛い犬の絵が描かれたエプロンを紗夜の前に出した。

 

「もちろん。

コレはダメなのか?」

 

「いえっ……そんなことは…。

可愛い…」

 

「今はこれしかないナー」

 

若干棒読みで横へと目を逸らして言った。

すると紗夜が、犬のエプロンを見つめながら何か考えた後

 

「そ、そう…ですね。

これしかないなら仕方ありませんね」

 

そう言って犬のエプロンを着た。

 

「……っ」

 

自分の着ているエプロンを少し引っ張り、見惚れている紗夜のご飯が出来るのを待つ事にした。

 

 

〜〜数分後〜〜

 

 

現時刻19時10分。

 

日菜はご飯が出来たら起こして、との事なので、俺は小説を読みながら、紗夜を手伝おうか悩んでいた。

そしてパタンと閉じた本をテーブルに置いて

 

「俺も何か手伝う」

 

手短に伝えてキッチンへ向かった。

しかし

 

「いいえ。

私が作らないとお礼になりません。

如月さんはどうかソファで、ごゆっくりしててください」

 

予想してた通りに丁寧に断られた。

が、そう言われるのはなんとなくわかっていたので

 

「これって、なんで俺の晩ご飯作ってるんだっけ?」

 

「私個人としてのお礼です」

 

「じゃあ、俺にも作らせてくれ。

それに2人でやった方が手間が省ける」

 

そう言うと手伝うつもりが、紗夜を悩ませてしまった。

すると

 

「わかりました。

では、如月さんは鶏肉をひと口サイズにしてください」

 

「了解」

 

そうして、紗夜の隣で調理を手伝ってしばらく経った頃。

 

カシャ

 

「ん?」

 

何か音がしたような気がして目を離した。

すると

 

「!如月さん。

ちゃんと手元を見てください」

 

「あ、ああ…すまん」

 

そして目を手元に下ろすと紗夜が

 

「にしてもやはり…。

自分で料理が出来る、とは言っていましたが…。

自分で言えるほどに手先が器用ですね」

 

「そうか?」

 

「ええ。

私は、『何センチに切ってください』と書かれていると、その通りに切らないと気が済まないんです。

ですから、如月さんのようにサクサクと切れるのは、少しばかり羨ましいです」

 

話を聞きながら包丁で食材を別の入れ物に移した。

 

「まぁ多分。

俺は、ちょいと趣味感覚でやってたから、その時やってた感覚で切ってるからだろうな。

そんなに気にすることじゃないと俺は思うぞ。

…ほい、出来た」

 

そう言って紗夜に切り分けた食材を渡した。

 

「!そうですか。

本当に…他人の心を軽くするのは得意ですね

 

「え?」

 

「いえ、なんでもありません。

では、如月さん。

後は混ぜるだけなので、ゆっくり待っていてください」

 

「わかった」

 

紗夜に言われた通り、ソファで待つ事にした。

3人用のソファには、日菜が2人分の席を取って気持ち良さそうに横になってよく寝ている。

 

「…」

 

仕方なくソファの空いた隙間に座ってから本を手に取り読む。

30ページ程めくった頃に

 

「陽菜くん……好き……」

 

寝言が隣から聞こえて、ため息をついた後に

 

「……知ってる」

 

独り言で返して、日菜の頭をそっと撫でて

 

「……えへへ…♪」

 

手を止めた。

 

「……おい…日菜。

さては起きてんな?」

 

ビクッと日菜の体が震えた。

すると

 

「あははっ♪バレちゃったかー☆」

 

むくっと起き上がり、日菜は微笑んだ。

 

「返せ。

一瞬でも可哀想と思った俺の罪悪感を返せ」

 

「じゃあお返しにキス」

 

「却下」

 

「なんで!」

 

「キス魔かお前は…」

 

呆れたように言うと日菜はプクーっと頰を膨らませてただ睨んでいる。

すると

 

「2人とも、ご飯が出来たので座ってください」

 

「はーい!」「へーい」

 

返事をしてソファを離れ、日菜が紗夜の横に座った。

4人用テーブルのうち2席空いているので、俺はその片方に座る。

そしてテーブルに並べられているのは、ビーフシチュー、ポテトサラダ、白米、etc…。

 

(普通に美味そう…)

 

見ているだけで腹が鳴りそうなくらい美味そうだ。

 

「いただきまーす♪」

 

日菜が待ちきれなかったようで、スプーンを持って先に食べ始めた。

 

「全く、日菜ったら…」

 

紗夜が少し微笑んだやれやれ顔で言ってから

 

「では、私たちも食べましょうか」

 

「おう」

 

そして『いただきます』と言ってから、紗夜の手料理を堪能した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食後

 

キッチンで洗い物をする俺。

本来なら紗夜がやったのだが、俺が紗夜を説得してやらせてもらっている。

代わりに紗夜は服などを洗いに行ってくれていた。

 

「……」

 

黙々と作業をして、食器を並べ終わった頃。

ふと気になって日菜に

 

「そういえば日菜」

 

「んー?」

 

「なんで俺の家に来てたんだ?」

 

そう尋ねると、より一層日菜は不思議そうな顔をして

 

「なんでって…なんで?」

 

「いや、だから…。

紗夜が俺の家で料理すること知ってたのか?」

 

「あー!

あたし、それは知らなかったよ?」

 

「じゃあ、なんでいる?」

 

「家に帰った時。

おねーちゃんが鏡の前で服を選んでたり」

 

「おう」

 

「鏡の前で髪を気にして、分け目を弄ってたんだよねー。

だから、おねーちゃんが陽菜くんの家に行くってわかったんだ♪」

 

「?なんで?」

 

「なんでだろうね〜♪」

 

日菜がボヤかすように言うと紗夜が戻ってきた。

 

「?何か話していたの?」

 

「別に」「べっつにー☆」

 

「?」

 

紗夜が首を傾げて中に入ってくる。

すると

 

「…如月さん」

 

「ん?」

 

「その…つかぬ事をお聞きしますが…。

今日のご飯はどうでしたか?」

 

「?普通に美味かったぞ」

 

「!…そうですか。

なら良かったです」

 

紗夜は、ほんの少しだけ頰を紅く染めて口元を緩ませていた。

その横でソファに転がる日菜も、ニヤニヤと笑みをこぼしながら紗夜のそれを見ている。

 

「……何をニヤニヤしているの日菜」

 

「べっつにー?

おねーちゃんはわかりやすいなーって、思ってただけだよ♪」

 

「…なんのことかしら?」

 

(こっちも、なんの会話してるのかわからないんですけど…)

 

そう思っていると

 

「では如月さん。

私たちはそろそろ帰りますね」

 

そう言って持ってきた水色のミニバッグを持つ紗夜。

それに

 

「ああ」

 

短く返事をした。

すると

 

「ねぇー陽菜くん」

 

「ん?」

 

「泊まっていっても良い?」

 

「だめよ日菜!」「良くない」

 

「えー!?なんでー!?」

 

「なんで、じゃありません。

そもそも、どこで寝るつもりなの?」

 

「陽菜くんのベッド」

 

「それが1番ダメに決まっているでしょう!?」

 

「じゃあ俺はリビングで寝ることになるな」

 

「如月さんも何を言ってるんですか!?」

 

「なんでー!?

一緒に寝ようよー」

 

「寝ません!」

 

ソファの背もたれにへにゃっと前かがみになる日菜。

日菜なりの『離れたくない』という意思表示なのだろう。

 

「てか、明日の仕事は?」

 

「……それは…夕方から色々あるけど。

でも、それくらい良いじゃんかー!

あたし泊まるなら寝ないもんっ!」

 

「あるなら帰って準備し…。

いや寝ろよ。

朝まで寝ろ」

 

や!!

陽菜くんとおねーちゃんと朝まで話したい!」

 

「どうして私も泊まることになっているの!?」

 

「なんで朝まで話さなきゃならんのだ…」

 

「ねぇー、おねーちゃん良いでしょー?

陽菜くんの家だよ?

おねーちゃん泊まりたくないの?」

 

「…っ…でも…」

 

「ここなら、陽菜くんのお世話も出来るけどなー」

 

「……っ…」

 

「それに、陽菜くんの朝ご飯も作れちゃうしー」

 

「…っ…」

 

「陽菜くんの部屋にだって入れちゃうもんねー♪」

 

「……っ……!」

 

日菜の誘惑じみた言葉にかなり悩む紗夜。

 

「あのー…紗夜さん?

そこは考えどころじゃ無いんですが…」

 

「…わかったわ」

 

「え何を!?」

 

「すみません如月さん。

今日だけ、泊まることは出来ませんか?」

 

「いや…出来ないことは無いけど…」

 

「もし明日。

何か小さな用事が1つでもあるなら、私たちは帰ります。

如月さん、明日のご予定はありますか?」

 

「……無いですね」

 

「では、最後に改めて。

申し訳ありませんが、今日だけ泊めてもらっても良いですか?」

 

生真面目に聞いてくる紗夜と

 

「おねーちゃん頑張れー!」

 

ソファで目をキラキラさせながら紗夜を応援する日菜。

俺はその姉妹の頼み事に

 

「……はぁ…。

本当に今日だけだからな…」

 

仕方なくそう言った。

当然、その後に聞こえてきたのは、日菜のはしゃいで喜ぶ声と俺の目に移った、ちょっと嬉しそうに微笑む紗夜だった。




お気に入りありがとうございます。

hanajan4様 ドラリオン様
ふるるる様 sin0408様

前回のタイトル変えてすんません(今更感

いやね、しゃーなかった。
前半と後半にしようと思ってたけど、中編なかったら足りん。

後半で詰め詰めは…ね。

それは…なんか…作者が嫌だった。

ですので前半より、前編に変えました。
(3日以内とか言っといてギリギリだった件)

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