退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第8話 リサ姉さんのガス抜きと俺の退屈な世界

家に銃が届いた。

 

(カラーリングもしっかり黒で統一されてる。

てことは、夜が本番か…)

 

すると紙が挟んであり、それを取って読むと

 

『現物は、ボルトアクション式となっている。

精度を高めるために、セミオートからボルトアクション式へと造り替えた』

 

※ボルトアクション…1発撃ったら、手動で次弾を装填する動作。

[セミオートは撃つと自動的に装填するが、手動の方が精度が良い]

 

(よく俺のスタイルをおわかりで…)

 

『弾は10発のみ』

 

(少な)

 

『また、このスーツケースが身分証明書となるので空港には必ず持参すること。

日時、2月20日6時30分着

場所、成田空港。

これを見た(のち)、紙は直ちに処分せよ。

本命令は天皇陛下直命のため、拒否権は無い』

 

「…身分証明書…?

てか、また成田まで行くのかよめんどくせぇ…」

 

(…まぁ、それより…。

()()天皇も面倒なことしやがる。

俺が普通に暮らしたいこと知ってるくせに…)

 

そう思いながら黒い暗証番号付きのケースを閉じた。

正直なところ、今の日常が気に入っている最中。

俺の大事な日々に、わざわざ政府が関わってきて欲しくない。

 

だが、そうもいかない。

これが届いたという事は近々()()()()()()()()()があるという事だ。

 

(……ん?

そういや、CiRCLEで、まりなさんからバイトに誘われたのに、オーナーがそれを断った。

それも『オーナーが俺の名前を聞いた時』って、まりなさん言ってたよな…)

 

「……あぁ…なるほどな」

 

CiRCLEのオーナーが断った理由がわかったところで、俺は頭の中を整理した後。

 

(…にしても…あの共学になる合併があったから引っ越したのに、もう政府にバレたか…)

 

「……んなことより、風呂入るか」

 

そして1時間後、海外へ行く準備を色々し、部屋に戻って来るなり早々。

俺は身体を倦怠感と共にベッドへ乗せた。

 

(眠い…けど。

腹減った…)

 

このまま目を閉じれば眠れる。

 

(どうしようか……)

 

「…………あっ」

 

ある事を思い出して、下に降りていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リビング

 

冷蔵庫を開けると冷気と共に俺が認識したのは、パックに入れられた食べ物だった。

そして、それを取り出し

 

「紗夜さんマジ助かる」

 

なんて独り言を発しながら、レンジで温めた。

それから少しひんやりしたリビングでスイッチがオフになったままのコタツに入り込んだ。

 

「いただきます」

 

紗夜にも感謝しながら、手作りの肉じゃがを食べた。

そして食べ終わった後には、紗夜に感謝メールを送って、返信は既読がついてから、5分ほど経ってから律儀な文章で返ってきた。

その後、俺はすぐに寝た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝 2月10日 日曜日

 

今は、まだ2月初旬の肌寒い頃。

 

朝起きると、皮膚に直接氷が当てられているのかと思うくらいに寒かったので、下のリビングにあるコタツへと向かった。

洗濯機の回っている音が聞こえる中、リビングに着いた。

 

「あっ!陽菜起きたんだっ!

洗濯機の中に入ってた服とかは干しておいたよ☆

それと、もうすぐ朝ご飯出来るからちょっと待っててね♪」

 

「ああ…助かる」

 

俺はコタツに入り、その温もりで若干の朝の眠気が来ていると

 

「はーい☆

リサ姉さん特製の鮭おにぎりだよっ♪」

 

「ありがとうリサ。

……うおっ!?リサっ!?」

 

コトッと食器を置き、エプロン姿で髪を上げているリサ。

 

「あははっ♪

その反応はテンプレだね☆」

 

そう言うと、リサはエプロンとシュシュを取りながら

 

「それじゃ、洗濯カゴの中にこれ入れて来るねっ♪」

 

そう言って洗面所の方へと向かっていった。

するとすぐに戻ってきて

 

「?どーしたの?」

 

「いや待て……どうやって家の中に入ったんだ」

 

「えっとね、アタシが陽菜の家に来たら、陽菜の妹が

『お兄ちゃんをよろしくお願いします』

って、アタシに任されちゃった♪」

 

「断ってね?

それ、普通に断ってね?」

 

「ままっ、良いじゃんっ♪

今日一日中、陽菜のお世話はリサ姉さんがやってあげるから♪」

 

リサは胸に手をかざして、やる気に満ちた顔である。

 

「一日中は勘弁してくれ…。

てか、これ食べて良いのか?」

 

そう言って、机の上に置かれているおにぎりを指差した。

 

「もっちろん☆

あ、でも、白ご飯がまだ熱いから火傷には注意だよっ♪」

 

そう言われたが、とりあえず手に取って食べようとすると

 

「……リサ?」

 

「んー?」

 

「なんでそんなジロジロ見てんだ?」

 

リサが両手で頬杖をついて、なんだか嬉しそうな顔をしてこちらを見ていたので、聞いてみるとリサはニコニコしながら

 

「陽菜が美味しそうに食べる所を見たいからだよ♪」

 

即答の回答が予想外だったので驚いた。

しかし、気にせずに食べると

 

「!…美味い…」

 

「!ホントっ?」

 

「ああ、美味い。

俺の母親よりも美味い」

 

「そ、そんなことないって!」

 

照れ隠しをするように、前に出した両手を左右に振って否定するリサ。

そして

 

「…うん。

…これならリサは、将来」

 

そこまで言うとリサが食いつくように

 

「えっ!?

将来…何?」

 

何かを期待しているキラキラした目で見てきた。

それが何かわからなかったが

 

「将来は良い…」

 

「うんっ!」

 

「家政婦さんになれるな、って」

 

「えっ…?」

 

「だって、家事全般出来て、作ってくれる料理も美味しい。

それでいて、洗濯とか気が回り過ぎだからな。

これは、将来良い家政婦さんになりそうだ」

 

そう言い、俺はリサの作った手料理を堪能している。

リサはそれを、しばらく呆れた顔で静かに微笑みながら堪能していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして食べ終わるとリサが食器を持って行って洗ってくれた。

 

それくらい自分でする、と言ったのだが、リサは押し退()けるように「リサ姉さんに任せなさい」とだけ言って食器を洗った。

すると食器洗いが終わったリサが隣のコタツに入ってきた。

 

「狭いんだが…」

 

「えへへ♪

これなら2人とも温くて良いじゃんっ♪」

 

「…あんまりくっつくなよ」

 

「日菜には、いつも抱きつかれてるのに?」

 

「あれは不可抗力だ」

 

「その返しもテンプレだね」

 

「う…む…」

 

言葉に詰まって少しの間があった後

 

「…まぁ、アレだ。

俺は本当の妹がいるから、日菜みたいな妹キャラは大丈夫なんだけど…」

 

「けど?」

 

「リサみたいなお姉さんキャラは、なんというか…難しい」

 

「?難しいって何が?」

 

肩が当たるほどに、グッと距離を縮めてくるリサ。

おそらく、天然でやっている。

そして俺は少し肩を離してから

 

「その…俺は甘やかされるのが苦手だ。

でも、リサみたいなお姉さんキャラは甘やかそうとしてくるだろ?」

 

「うんっ♪」

 

「簡単な話。

それにどうやって甘えたら良いのか、俺はわからん」

 

「もしかして…」

 

「……」

 

「そんなこと気にしてたの?」

 

「っ……そうだな」

 

「今までもずっと?」

 

抵抗はあったが、仕方なく俺は頷いた。

するとリサがパァっと明るくなって

 

「陽菜っ!!」

 

「!?」

 

コタツに入っていたリサが即座に両手を広げて抱きつこうとしてきたので、俺は急いで逃げようとしたが、コタツの設計、もとい、コタツの足が手の行く先を阻み、それを許さなかった。

 

「そんなこと気にしてたなんて…!

可愛いなぁもう♪ほれほれ♪」

 

リサに両腕で締めつけられる。

もちろん、本気で逃げようと思えば逃げられるのだが、それイコール、リサに怪我をさせるという事になる。

だから、怪我をさせない範囲で今全力で抵抗している。

 

「んー!んんー!!んん!!んー!!ん!!」

(訳:はなせ!ハナセ!HANASE!花背!花瀬!!)

 

「んふふ〜♪

これからは、リサ姉さんにいーっぱい甘えて良いんだよ〜☆」

 

ボフっとリサの中心に顔が埋められ、同時に甘酸っぱく、爽やかな香りが漂って来る。

 

「!?んー!んんんんんん!!!」

(訳:おい!胸押し当ててんのわざとだろ!!)

 

「何言ってるのかわかんないなー♪」

 

(ヤバい…!

そろそろ息が保たん…)

 

そして、なんとかリサの腕を振りほどいて逃げようとするも、コタツの設計が以下略。

さらに、押し倒された俺はリサの顔の前に手を出して

 

「ま、待て待て待て!!

落ち着いて離れろリサ!」

 

「アタシは落ち着いてるってば♪」

 

そう言って両手を押し倒した俺の顔の横にドンと置く。

そして少し間が空いた後

 

「床ドン♪」

 

「テンションだだ上がりじゃねぇか!」

 

「こーら☆逃げるでない♪」

 

「この状況は普通逃げるわ!」

 

「もー、あんまり拒絶してたら、嫌われちゃうよ?」

 

「えっ!?」

 

「なーんて言ってみたりして♪」

 

「しまっ!ギャアアアアアアア!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数分後

 

「……」

 

俺は机に頭を乗せて意気消沈していた。

リサはこの数分間で、ある程度満足したようで、今は2階の掃除をしている。

 

(リサの包容力やべぇ…)

 

あまりの優しさについ裏を読んでしまった。

リサはもしかしたら勘づいているのかも知れない。

昨日の発言と言い、今日のリサの態度といい。

 

(…まぁ良い…。

リサは優し過ぎる時があるからな。

今回もそれが出たんだろ…)

 

そう、勝手に結論付けた。

すると2階から

 

「陽菜ー!」

 

と名前を呼ばれて、俺は返事をしないまま2階に上がり、ドアが開いている俺の部屋へと入った。

そして

 

「どうした?」

 

部屋をピカピカになるくらいにまで掃除と整理をしてくれたリサに声をかけると

 

「このベッドの下にある黒いケースって何?」

 

「!…触ったのか?」

 

「う、ううん…?

陽菜の大事な物だったら、大変だから触ってないけど…」

 

「そうか。

…それは…まぁ、俺の大事な物だから触るのは禁止だ」

 

「オッケー♪

それにしても…凄い大きいケースだけど。

中には何が入ってるの?」

 

その質問にどう答えようか迷ったが、1秒ほど悩んだ後

 

「ただの貴重品だ。

一応言っておくが、そのケースにも触れるなよ」

 

「はーいっ♪」

 

念を押した。

黒いケースに出来れば触れて欲しくないからだ。

そして俺はリビングに戻ろうとすると

 

「あっ!そうだ☆」

 

リサが本棚を見ながら何か閃いたようだ。

 

「今度はどうした?」

 

「ね、今からCiRCLE行かない?」

 

「練習でもするのか?」

 

「うんっ♪

アタシのベース陽菜に聞いて欲しいな〜」

 

本棚を前にチラッと横目で見てくるリサ。

 

「…へいへい。

行きましょうかリサ姉さん」

 

「…ん?

今の呼び方もう一回言ってよ♪」

 

「……」

 

「もー!黙らないでよっ!

リサ姉さん♪ってところっ。

ねっ?お願いっ♪」

 

「気に入ったんだな…」

 

「すっごい気に入った♪」

 

「だが断る」

 

「ええー…」

 

「それより、準備するから待ってろリサ」

 

「はーいっ♪」

 

そしてリサが部屋から出た後。

俺は着替えてリサのベースを取りに向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リサ家の前で待っている俺。

ふと隣の家を見ると表札に『湊』と書かれていた。

 

(そういや、2人とも家が隣だったな)

 

そう思いながらも待っているのだが、中々リサが出て来ない。

するとガチャッと勢いよく家の扉が開いた。

 

「ごめん陽菜!

待たせちゃった…?」

 

「別に気にすん…。

なんで着替えてんだよ…」

 

とはいえ、リサの服装は相変わらずセンスがある。

それも、不意に結構可愛いと思ってしまうくらいに似合っていた。

 

「まさか…遅れた理由って…」

 

「あはは〜……ごめん…」

 

そう言って鍵を閉めながら俺の横に歩いて来た。

 

「気にしてないから良い。

それより行くぞー」

 

「うんっ♪」

 

ガバッと腕に抱きついてくるリサ。

 

「腕にくっつくな…」

 

「こっちの方があったかいもんね〜♪

それに、陽菜にもっと近づけるし☆

 

「はぁ……CiRCLE着いたら離れろよ」

 

「んふふ〜♪」

 

リサが口元を猫のようにさせて甘えた声を出すが、俺は気にせずにCiRCLEへと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

リサと来る途中に練習の内容を確認した。

そして中に入ると、やはり居るのが

 

「いらっしゃいませ!

あっ!陽菜くんにリサちゃん」

 

元気に接待するまりなさんだ。

いつも居る気がしてならないが、そこはツッコまないようにしている。

 

「今日は2人で練習?」

 

まりなさんの質問に俺は答えようとしたが、リサが真っ先に

 

「はいっ♪」

 

と返した。

そして俺は

 

「えっと…。

3時間くらい入りたいらしいんですけど…」

 

「うんっ!わかった。

それじゃあCスタジオが空いてるから、何かあったら呼んでね」

 

そう言ってスタジオの鍵をもらい、俺とリサはそこへ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

赤いベースをケースから出して担ぐリサ。

それを見ながら椅子に座っている俺に

 

「何弾いてほしい?」

 

と聞いてきた。

 

「陽だまり」

 

即答である。

『リサといえば陽だまり』

という理論が俺の中ではもう決まっていたからだ。

 

「おっけー♪」

 

そしてリサはフェスの頃よりも綺麗な音を出せていた。

聞いていて飽きないくらいに…。

しかし

 

「……?」

 

少しの違和感を感じた。

 

(楽しんでる…のか?)

 

そう思いながらも、リサが弾き終わるまで黙って聴いた。

しばらくして『陽だまり』が終わり

 

「はーるなっ♪

次は何弾いて欲しい?」

 

「…ん?ああ。

じゃあ次は…BLACK SHOUTで」

 

「うんっ♪わかった♪」

 

そうしてリサの演奏を1時間ほど聴いた。

その間に、ミスは無いのに、いくつもの違和感があった。

そして少しリサが疲れてきた頃に

 

「まぁ、そろそろ休憩したらどうだ?」

 

と声をかけると

 

「……」

 

どこか魂が抜け落ちているように無反応だった。

それでも、ベースの弦を押さえ、ピックで次の準備をしている。

そして

 

「…リサ」

 

名前を呼ぶとリサはビクッと身体を震わせた。

 

「えっ!?あっ!ごめん!

今なんか話してた?」

 

「いや、なんにも。

それより、1時間ぶっ通しでやってたんだから、ちょっとは休憩挟んだらどうだ?」

 

そう言うとリサはスタジオ内にある時計を見て

 

「あちゃー、もうこんなに経ってたんだ…」

 

「ほれ水。

ついでにタオルも」

 

リサにペットボトルとタオルを渡した。

 

「ありがとっ♪」

 

そう言って微笑みながら渡した水を飲むリサ。

 

(今の演奏…。

リサはRoseliaとして誇りを持って楽しんでいた。

でも、それと同時に何か別の感情が伝わってきたけど…)

 

そう思い、リサがベースを外して置いてから

 

「なぁリサ」

 

「んー?どうしたの?」

 

そう言って隣に座って来たが、俺は気にせず

 

「なんかあったのか?」

 

「なんか…って何が?」

 

「いや、なんていうか…。

演奏を聴いてもリサの音が聞こえなかった…というか…」

 

「……陽菜って音楽のことになると、たまにヒナみたいなこと言うよねっ」

 

「それはすまん…」

 

自分でも上手く言い表せないが、さっきの言葉を口に出した時。

不思議と違和感は無かった。

すると

 

「……でも…陽菜が感じてることは、強ち間違いじゃないかもね」

 

リサが今日初めて暗い表情を見せた。

そして

 

「実は…さ。

大分前に、Roseliaが事務所に入ったって言ったじゃん?

その時は、みんなフェスの時みたいに演れてたんだけど…」

 

「ああ」

 

「それからかなぁ…。

事務所に入ったら、事務所に勧められたライブとかで、忙しくなったりしてた時があったんだけど。

ある日のライブ終わりの取材とか色々答えてる時に…さ」

 

「……」

 

「『次はどんなRoseliaの頂点を魅せてくれるんですか?』

とか『次の新曲はRoseliaの何をイメージするんですか?』

…『次はどういったライブにするんですか?』

って、こんな質問が出て来たんだけどね。

最初は、友希那がそれに応えてたんだけど。

段々、友希那自身にも、アタシ達にも、その『次』って言うのが見えなくなってきちゃって…。

それに、1番苦しいのは…友希那が毎回その解答に悩んでる事なんだよね…」

 

「…」

 

「ごめん陽菜。

陽菜の期待、裏切るようなことしちゃって…。

でも…ちゃんと取り戻すから…」

 

へらっと我慢して笑うリサ。

 

「気にすんな」

 

俺がそう返すと、自分の右腕を左手でギュッと掴むリサの表情が一段と暗くなったが、俺は気にしなかった。

そして隣に座るリサが震えた声で

 

「ホントごめん…陽菜…」

 

「だから、気にすんなって。

それに…」

 

「?」

 

「それに気づいて欲しくて、俺をスタジオに連れて来たんだろ?」

 

「あははっ♪バレちゃったか☆」

 

気楽に笑うリサ。

 

「…おう」

 

「そっかそっか♪

陽菜もそこまで鈍感じゃなかったか〜☆」

 

「当たり前だ。

あと、その無理して笑うの疲れるだろ」

 

「!」

 

「前にも言ったけど、泣きたい時は泣いていい。

俺は逸らさずに受け止めてやるから」

 

「…も、う…待ってよ陽菜…。

そんなこと言われたら…ホントに…」

 

段々とリサの綺麗な瞳にキラキラとした雫が浮かぶ。

そして

 

「俺が泣かせたみたいになるのは勘弁だが…。

まぁ、とりあえず今は泣いても良いぞ」

 

その一言が引き金となったのか、リサは(すが)るようにして、俺の服を掴んだ。

しかし、服に顔を埋めてもボロボロと泣き崩れることはなかった。

 

「泣かなくていいのか?」

 

「いい…。

今泣いたら、アタシ…。

また陽菜を頼っちゃうから…」

 

「…そりゃ悪かった」

 

そうしてリサに捕まったまま時間だけが過ぎていった。

この間の時間が無駄と思うのは人それぞれだが、俺はそうは思えなかった。

それはきっと、Roseliaの中でリサが1番溜め込んでいるのだと思っていたからだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

30分くらい経った頃。

リサが掴んでいた服から手を離した。

そしてリサが少し目の下を擦った後に

 

「もう大丈夫か?」

 

と聞くと

 

「うん…。

もう大丈夫だよ」

 

「なら良い」

 

そう返した。

するとリサがいつものように明るい声で

 

「ところでさ。

陽菜に聞きたいことがあるんだけど…」

 

「ん?」

 

「文化祭で陽菜たちが演った曲。

アレってなんで最初と最後の歌詞が違ったの?」

 

「んー…。

1番目は心を閉ざしながら始まり。

2番目はその代償としての崩壊。

最後の歌詞は、俺は自分の求めた()()()()嫌われた事に気づいたことを歌った。

あの曲には、俺が1人のボーカリストだった頃の想いと『バンドを通して友達を作りたい』なんて秘めた2つの想いが詰まってる。

それに、ただ型にハマっただけの歌詞なんて俺はつまらないと思うからな」

 

「へぇ♪」

 

するとリサは意気揚々とした表情を浮かべた。

そして

 

「それじゃあ陽菜。

一回だけ、あの曲一緒にしよっ♪」

 

「えっ?

あの曲を…か?」

 

「そそっ♪陽菜とセッションしてみたいし☆

あっ、それと前に友希那が言ってたんだけど。

手加減は無しだからねっ♪」

 

「はぁ…。

譜面はどうするんだ?」

 

「あの曲って、陽菜がネットに上げたんでしょ?

だったら、ネットにあるってことじゃんっ!」

 

「スマホの画面じゃ見にくいだろ…」

 

「そこは、まりなさんにお願いしてプリントしてもらうよっ♪」

 

そう言ってリサは、はしゃぎながらスタジオを出て行った。

しばらくして、リサは3枚ほどの譜面が印刷された紙を持って、まりなさんも連れて来ていた。

すると

 

「リサちゃんにギター弾いてってお願いされたけど…。

も、もしかして陽菜くんのお手伝いするの?」

 

相変わらずスーツを着込んで、ギターを持つまりなさんが恐る恐る聞いて来た。

 

「おいまさか…」

 

「それじゃあ!

ベースとギターだけだけど…演ってみよー!」

 

「さては説明してないな!?」

 

そう言ったが、リサはもうやる気満々なので、その気力に引っ張られるように俺とまりなさんは準備をした。

そして

 

「まぁ…リサがそこまで言うなら、本気で演るか…」

 

そう呟いてマイクスタンドの前に立った。

するとまりなさんも少し練習前に弾いていた。

 

「うんっ!

こっちは大丈夫そうだよっ」

 

「おっけー♪

じゃあ、カウント取るよー」

 

(そういや…ここに来た時。

オーナーは見なかったな…)

 

「3、2、1…」

 

そうして俺とリサ、まりなさんの一曲が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

演奏終了後

 

『……』

 

演奏していた時は別次元のように、リサとまりなさんが沈黙していた。

すると

 

「すごっ…。

今アタシの音…陽菜の歌声に全部持っていかれちゃった…」

 

「う、うん…。

私も、怖いくらいに陽菜くんの歌声に包まれたみたい…」

 

2人は感想を述べているが、1曲弾いただけで、体がもう限界なのだろう。

手と腕、足が少しカタカタと震えているのがわかった。

そして

 

「俺は約束通り、本気で歌った。

そろそろ、時間だし終わろうか」

 

そう言って俺はスタジオを片付けて鍵を閉めて、受付に鍵を返した。

そして今は、隣でリサが受付でまりなさんと世間話をしている。

 

「そういえば、Roseliaのみんな。

最近、前より有名になって来たよねっ。

それに、この前のライブもすごく良かったよ!」

 

「あははっ♪ありがとー☆

でも、詳しくは言えないけど…。

最近みんな迷い事がある…かなぁ…」

 

「だから、陽菜くんに相談しようとしたの?」

 

「へえっ!?」

 

「あははっ。

図星みたいだね」

 

「もー…」

 

まりなさんに図星を突かれて反応してしまった悔しさが声に出るリサ。

そしてまりなさんが軽くこう言った。

 

「でも、陽菜くんってなんていうか…。

『影でしっかり支えてくれる人』って感じがするからわかるなぁ…」

 

するとリサは

 

「そうそう!

それで、陽菜の弱い所とか探して補ったり。

陽菜が普段何をしてくれたら喜ぶのかなぁ…とか。

つい考えちゃうんだよねー♪」

 

それに対し、過剰な反応を見せた。

するとまりなさんが乗っかって来て

 

「それに、まだRoseliaにお手伝いさんが居るって世間では知られてないんだっけ?」

 

「陽菜はシャイだからな〜☆」

 

「おい聞こえてるぞ。

それと、俺は目立つのが嫌なだけだ」

 

一言ツッコミを入れてみると

 

「あははっ♪

それじゃあまりなさん。

アタシ達そろそろ帰るね☆」

 

「うんっ!

また今度ね。

今後ともCiRCLEをよろしくっ」

 

まりなさんの社交辞令じみた営業セリフを耳に入れた後、そのまま俺は自分の家へと帰った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……で、なんでまだリサがいる」

 

いつも通り手洗いうがいをして、リビングに来た。

しかし、リサはナチュラルに手洗いうがいを済ませて、俺の日常に溶け込んでいた。

すると先の質問にリサが

 

「今日のお礼ついでに、陽菜にプレゼントでもしよっかな〜♪って」

 

()()()()()、ということは、お礼とはまた別のことが用意されてるのであろう。

 

(なんてこった…)

 

そう思っていると

 

「あの…さ、陽菜」

 

「ん?」

 

珍しくよそよそしいリサ。

 

「その〜…陽菜って、甘いものとか大丈夫?」

 

「?おう」

 

「そっかそっか♪

甘いもの大丈夫なんだっ☆」

 

「?」

 

「とりあえず、陽菜の夜ご飯作るね♪」

 

「…」

 

ふとキッチンに向かうリサを見て、いっそのこと全部話したら楽になるんじゃないか。

などと考えてしまった。

しかし、頭を横に振ってその考えを振り払う。

そして

 

「リサ。

夜ご飯作ってくれるのはありがたいが…。

こういうのは今日だけにしておこう」

 

「?今日だけ…って、なんで?」

 

「…こういうことは1回きりの想い出にした方が、後で明るく見えるものだからな」

 

リサは不思議そうにしながら悩んでいた。

俺は何か言われる前に

 

「それに、だ。

リサにばっかり頼ってたら、俺がダメ人間になってしまいそうだ」

 

「そっかぁ…」

 

露骨に残念がるリサ。

すると

 

「じゃあ陽菜。

次は違う想い出、たくさん作ろうねっ♪」

 

「……ああ」

 

そうして、この後テーブルに出てきたリサが作ってくれた手料理を俺は頂いた。

同時に、嘘を吐くことに恐怖を覚えた。

 

嘘を吐いたら、その嘘で誰かを傷つける。

だが、嘘を吐かなければ、別のことで傷つけてしまう、巻き込んでしまう。

 

きっといつか気づかされる。

誰かに嘘を吐くとは、自分の無力さを思い知ることだと。

 

そして、そういう嘘を吐いた俺。

そんな俺の眼に映るのは実に残酷で、実にモノクロ写真のようで

 

()()()()()()()()()

実に…退屈に染まった世界である。




R YUU様 kazv716様
kage7120様 安羅様
MirudakenoHito様 空岸 鏡夜様

お気に入りありがとうございます。

多分、今回も含めて陽菜の正体に近づけますね。

やっと…やっとRoseliaの単行本買えました。
学校の帰りにメイト寄るのって、日によっては行く気無くなりますよね…


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