退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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今回は友希那視点で始まります。




第10話 初めてのチョコは甘い味?

2月14日 木曜日

 

早く起き、忘れ物が無いように時間を確認してから、いつもより10分ほど早くに家を出た。

 

 

その数十分後

学校に着き、まだ静かな教室に入って自分の席に座った。

そしてカバンのチャックを開け、中にある透明な小包と、横に添えられた保冷剤を見てから、後ろ端の席を見た。

 

そこには、いつも陽菜が座っているが、当然まだ陽菜は来ていない。

それを見て少し安堵の息を漏らす。

 

(そういえば…いつもギリギリで来ているわね)

 

しかし、陽菜がまだ来ていないとわかった時に少し安堵した自分がいた。

 

(?…今…どうして安心したのかしら…?)

 

そう思って考えているとガラッと教室の扉が開き

 

「おっはよー!」

 

日菜が入ってきた。

日菜は、日頃陽菜以外のクラスメイトともコミュニケーションがしっかり取れているので、挨拶を交わせば、ほとんどの人が今目の前で起こっているように返事をしてくれる。

すると日菜はこちらに近づいてきて

 

「ねぇねぇ♪

陽菜くんは?」

 

(どうして私に聞くのかしら…)

 

「まだ来ていないわ」

 

「そっかー…」

 

しょぼんと落ち込む日菜。

それを見て

 

「もしかして…如月にチョコを渡すつもりだったの?」

 

「うんっ!

でも、どうしようかなー。

今から陽菜くんの家に行って直接渡そっかなぁ♪」

 

「…さすがに今から行くのはやめておいた方が良いんじゃないかしら…」

 

「?どーして?」

 

「もし会えたとしても、周囲の人達の中にあなたのファンが居たら大変な事になるわよ」

 

「そっかー…そっかぁ…」

 

2回言って待ちきれない様子で時計を見る日菜。

すると

 

「こうなったら電話して…!」

 

「落ち着いて待っていなさい」

 

こうして陽菜が来るのを日菜は待った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

8時50分

 

朝のホームルームの時間。

しかし、まだ陽菜は来ていなかった。

 

(どうしたのかしら…)

 

少し心配になっているとガラッと扉を開けて入って来たのが、ずっと待っていた陽菜だった。

そして第一声が

 

「寝坊」

 

という遅刻理由を省略した言葉だった。

呆れて見ていると陽菜はこちらに気づいて、少しギクッとした後。

『なんかわからんがすまん』と口パクで言って手の平を縦にして、自分の席に着いた。

 

(渡す時はどうしたら良いのかしら…?

1対1で渡す?

それとも、日菜が渡す時に一緒に渡した方が、まとめやすくて良いのかしら…?)

 

『まとめやすくて』という自分の思った言葉に対して少しモヤっとした。

すると1時間目のチャイムが鳴った。

 

(また後で渡しましょう)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1時間目の終了を報せるチャイムが鳴った。

そして陽菜の方を見ると

 

「じゃーんっ!

陽菜くんにチョコあげるー♪」

 

日菜が嬉しそうに早速チョコを渡していた。

 

「お、おう。

ありがとう…」

 

「どういたしましてっ!」

 

「…チョコとか初めて貰ったな」

 

(初めて?)

 

胸の中心がモヤっとする。

 

「ホントっ!?

それって、あたしが初めてってこと!?」

 

「まぁ、そうなるな」

 

(……そう。

日菜が初めてなのね…)

 

またも胸がモヤモヤが大きくなる。

 

「やったあー!!」

 

「とはいえ、貰うとは思ってなかったからな…。

入れる袋とか持って来てないぞ俺…」

 

「なんで!?」

 

「?何が?」

 

「今!今食べて欲しいの!」

 

「悪いな。

俺はそういう間食はしない主義なんだ。

おやつとかは…まぁ3時くらいに食べれば問題ない」

 

「えー…ちょっとだけで良いのに…。

あっ!でも、凍った冷却剤ならあるよ?」

 

「なぜ今の流れで…。

……あ、そうか。

それくれるなら貰う」

 

「良いよ♪

はい、陽菜くん☆」

 

「助かる」

 

陽菜は保冷剤をゲットし、バックの中にチョコと一緒に入れた。

そしてそのやり取りを見ていた友希那は、日菜に乗じて渡そうとするが

 

「…!」

 

緊張していた。

ライブでもほとんど緊張なんてしたことがない。

 

(どうして…今になって緊張するのかしら…?

チョコを渡すだけなのに…)

 

そう思ってもバックの中にあるチョコの包みを見ていると、逃げ出したくなるような感情に圧される。

そして、そうこう戸惑っているうちにチャイムが鳴ってしまった。

 

「!」

 

(…次の休み時間は、必ず渡してみせる)

 

そう決意した友希那であったが…

 

 

〜〜2時間目終了後〜〜

 

 

(今度こそ…)

 

「!」

 

渡そうと席を立ち、陽菜の席の方を見ると居なかった。

すると教室の後ろ口から

 

「ハルナさんっ!

これどうぞ!」

 

「おお…何かと思えば…イヴもか。

ありがとな」

 

(若宮さん?)

 

陽菜の声が聞こえて振り返ると、そこには陽菜がイヴからチョコを貰っている姿だった。

 

「ハルナさんのために私。

一生懸命作りましたっ!」

 

「そこまでして作ってくれたのか?」

 

「はいっ!タンセイを込めて作りました!」

 

「そりゃ有難い」

 

「ふふふ♪」

 

陽菜がイヴの頭を撫でると、イヴは満足そうに笑顔になった。

 

「……」

 

少し羨ましそうにジトっと見つめる友希那。

しかし、すぐに目的を思い出してチョコを手に持つと今度は

 

「あっ!陽菜くん居た居たっ!

麻弥ちゃんこっちに陽菜くん居たよー」

 

「あっ、はーいっ!

今行きます!」

 

彩と麻弥が来た。

そして予想通り

 

「はいっ。

これ、陽菜くん用の手作りチョコレートだよ。

良かったら食べてねっ!」

 

「ジブンも、陽菜さん用に作ってきたんですよ。

あっ!味にはあんまり期待しないでください…」

 

アイドルからチョコを貰う陽菜。

こんなの目立たない訳がない。

 

周りの男子からの負のエネルギーを感じる視線と、女子の不思議でならない表情が、このクラス内で充満していた。

すると

 

「ありがとな3人とも。

お返しは…決まったらまた連絡する」

 

「はいっ!」

 

「陽菜くんのお返し、楽しみだなぁ」

 

「確かに…。

ジブンもどんなお返しが来るのか楽しみです!」

 

「おおう。

ハードル上げるのやめんか…」

 

会話が弾み始め、2時間目は渡せず。

 

「……」

 

(また後で渡せば良いわ)

 

 

 

〜〜3時間目終了〜〜

 

 

少ししてからガタッと席を立ち、寝ている陽菜の席に向かおうとした。

しかし

 

「日菜」

 

外から聞こえた声は紗夜だった。

それに気づいた日菜は

 

「あっ!おねーちゃん!」

 

「んおわっ!?」

 

嬉しそうにしながら陽菜の腕を掴んで教室の前の入り口へと向かって行った。

そして

 

「あまり強引に引っ張っては駄目よ日菜」

 

「はーいっ♪

それで、おねーちゃんも陽菜くんにチョコ渡すんでしょ?」

 

「……どうしてそう思うのかしら?」

 

「だって、おねーちゃん昨日。

0時過ぎてもチョコ作ってたじゃんっ♪」

 

「!ま、まさか見ていたの?」

 

「あははっ♪見てたよー。

おねーちゃんが頑張ってチョコクッキー焼いてるの☆」

 

途端に顔を真っ赤に染め上げる紗夜。

すると寝起きの陽菜が

 

「そうなのか?」

 

と聞くと

 

「別に…私が作った物を渡したかっただけです。

市販だと気持ちが伝わらないと思いましたので」

 

「気持ち?」

 

「ええと…。

これは…その…日頃の感謝の意を込めたチョコです」

 

少し照れ臭そうにチョコを渡す紗夜に日菜が

 

「本命だって陽菜くん!」

 

「!義理です!

悪魔で日頃の感謝を伝える為の義理ですから!」

 

紗夜は耳を赤くしながらも訴えるが陽菜も日菜のノリに乗って

 

「ほう?本命とな?

それは嬉しいぞ」

 

「なっ!?」

 

「あははっ♪

おねーちゃん顔赤くなってる!

可愛い〜☆」

 

「っ〜〜!

次は移動教室なので、私はそろそろ行かせてもらいます!」

 

そう言って自分の教室へと戻って行ってしまった。

 

(どうするのかしら…?)

 

そう思って見ていると、自分も紗夜と同じようにチョコを渡す目的を果たそうと、後ろにチョコを隠したまま近づいた。

 

「…あの…如ら」

 

陽菜を呼んで足を勇気と共に一歩前に出そうとした瞬間。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「あー!

もうチャイム鳴っちゃったぁ〜…」

 

なんともタイミングの悪いチャイムが鳴り、先生も入って来たので、戻って授業を受ける事にした。

 

(簡単に渡せると思ったのだけれど…。

渡すというのは、こんなにも難しいのね)

 

「はぁ…」

 

小さなため息を吐いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み突入

 

いつも通り、ちょっとした近道を使って校舎裏へ着いた。

そこでちょっとソワソワしながらも待っている。

しかし何分待っても来る気配が無かった。

 

(どうしたのかしら…)

 

気になっているとザッ…と芝生を蹴る音が聞こえて振り向いた。

すると

 

「やっぱ早いな…」

 

「!如ら…ぎ」

 

ようやく現れてくれた事に内心、ほんの少しだけ喜んでいた気がした。

しかし

 

「あれっ?友希那じゃんっ♪」

 

そこには、こちらに向かって手を振るリサが居た。

 

「!リサ…?

どうして…ここに?」

 

驚いてサッと後ろにチョコを隠して聞いてみる。

すると何故か手ぶらでいる陽菜が

 

「なんか着いてきた…」

 

ため息混じりにそう言った。

 

「…そう」

 

それに対して短く返した。

と同時に

 

(渡す機会が無くなったじゃない…)

 

心の中で少し拗ねる友希那。

そして、いつものように陽菜が隣に座ってくると思っていると

 

「リサは友希那の隣にでも座ったらどうだ?」

 

えっ?」「良いの?」

 

「構わん。

いつも1人分空いてるからな」

 

「それじゃあ、アタシ陽菜の横ね♪」

 

リサはそう言いながら2人の間に座った。

 

(どうして如月はいつもみたいに座らないのかしら…。

それに、わざわざリサを間に入れなくても、如月が私の方に詰めてくれば2人とも座れるでしょうに…)

 

胸の辺りがモヤモヤして箸の進むスピードが速くなる友希那。

そして、それを見ていたリサは友希那と目が合い

 

「?どうしたの?」

 

「えっ!?いやー…」

 

「リサ。

何かあるなら言ってちょうだい」

 

そう言うとリサは小声で

 

「もしかして、まだ陽菜にチョコ渡してないの?」

 

「!!」

 

「速く渡さないと溶けるよ?」

 

「……別に…昨日のチョコが如月の為に作ったとは限らないでしょう?」

 

「ふーん…そっかそっか♪」

 

ここでリサが普通のトーンに戻すと陽菜に

 

「さっきから何をコソコソ話してんだ?」

 

と聞かれるとリサは

 

「友希那がどーしても陽菜の横に座りたいんだってさー♪」

 

「!?」

 

「?友希那はいつも俺の隣にいるだろ」

 

「そーだけど、いつもみたいに2人だけで…んんっ!?」

 

リサがこれ以上何か言う前に背後から両手で口を押さえた。

 

「な、何してんだ友希那…」

 

「リサが余計なことを言う前に止めただけよ」

 

「余計なこと?」

 

するとリサは抑えていた手をスッと下から抜けて

 

「それは秘密♪」

 

と答えた。

 

「そうか」

 

陽菜も特に追求することはなく、昼休みもチョコは渡せずに時間だけが過ぎて行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

5時間目終了後

 

休み時間になったが、渡そうにも、いざとなると胸が熱くなって一向に渡せない友希那。

そして一息ついて周りを見ると、そこに陽菜の姿は無かった。

 

「?」

 

(どこに行ったのかしら?)

 

そう思って、フラ〜ッと教室を出て歩いて探しに行く友希那だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃。

 

(なんか千聖に呼び出された…)

 

そう思いながら千聖のいる2-E組の前の入り口で足を止め、ガラッと扉を開けると

 

「!は、陽菜さん…!?」

 

「ん?燐子か」

 

扉のすぐ近くの席に燐子が小説を持って座っていた。

そして

 

「ちょうどいい。

千聖はどこにいるんだ?」

 

「えっと…白鷺さんなら、あっちに居ます…」

 

そう言って燐子が指差した先に、1人別格のオーラを放ち窓の外を見て、見た目は完璧に見えても、目だけは退屈そうに眺めている友人が見えた。

 

「助かった。

ありがとな燐子」

 

「!は、はい…!」

 

お礼を言ってチラホラと千聖に向けられた視線が、段々俺が千聖に近づくにつれ、視線の向きが俺に変わる。

しかし、そんなこと気にしてられない。

 

(来て、とか言われて来なかったら。

後で千聖になんて言われることやら…)

 

なんて考えながらも、退屈そうに窓を眺める千聖に

 

「何を黄昏てんだ」

 

と声をかけると千聖はビクッとしてから

 

「いきなり声をかけないでくれるかしら」

 

「今の状況でどうやって気づかせろと…」

 

「そうね…。

じゃあ、これから私に声をかける時は『ワン』と1度鳴いてくれるかしら?」

 

「俺は千聖の犬か…」

 

「2割くらいは冗談よ」

 

「残りの8割ガチだったのか…」

 

「…まぁ、時間も無いから早く済ませましょうか」

 

「そういや、なんで呼ばれたんだ?」

 

「コレよ」

 

そう言って千聖が差し出したのは、可愛い小袋に包まれたアーモンドチョコだった。

 

「コレって…もしかして」

 

「今日はバレンタインでしょう?

あなたは日菜ちゃんくらいしか貰い手が居ないでしょうから、私が余り物の1つをあげるわ」

 

「ふっ…残念だったな。

日菜の他に、もう既にイヴやら麻弥やら、リサやらetc(エトセトラ)…に貰ってr」

 

「じゃあ私のチョコは要らないという事ね」

 

「俺が悪かった」

 

「最初から、他の女から貰ったチョコの話をしなかったら良かったのよ。

はい、市販のチョコをあげるわ」

 

「さっきの手づくり感満載のチョコはいずこに…」

 

「…そんなに欲しいのかしら?」

 

ため息混じえ、目を細めて聞いてくる千聖に

 

「?欲しいに決まってんだろ。

余りでも千聖が作ったチョコだぞ?」

 

「!!」

 

途端に顔を紅く染める千聖。

そして

 

「…なら、ちゃんと味わって食べなさい」

 

「おう」

 

なんとか演技で搔い潜った千聖は、渡せた事にスッキリしていた。

そして帰ろうとした陽菜だが

 

「あの…陽菜さん…」

 

「ん?」

 

燐子に呼び止められて足を止めた。

 

「あ、あの……迷惑かも知れませんが…。

わたしなりに…頑張って…作りました…。

だから…そ、その…受け取ってください…!」

 

まるで初対面の相手と話すかのように緊張しながら、見た目で勘違いしそうなハート型のチョコを差し出した燐子。

すると周りから

 

「ねぇ、またあの目つきの悪い子チョコ貰ってるよ」

 

「んー…あたしはあの人のどこが良いのかわかんないね。

なんか怖い」

 

「あーわかる。

私もなんで、あの人にチョコが集まるのかよくわかんない」

 

と女子のグループ。

次に

 

「あのヤロウ…。

遂に委員長からもチョコ貰いやがって…」

 

「燐子ちゃん優しいもんな〜。

…どうする?」

 

「処す?」

 

「処す?」

 

「処さない」

 

と男子のグループ。

それを聞きたくなくても聞こえてしまう燐子と陽菜の立ち位置。

もちろん片方にダメージは無いのだが、もう片方は…

 

「ぅぅ…」

 

声が小さくなると共に身を小さくしていた。

 

燐子は、俯いて顔の表情を隠しているつもりなのだろうが、耳まで真っ赤に染まっているのが丸わかりだ。

 

しかし、特に周りの言う事を気にしていない陽菜は

 

「せっかく燐子が頑張って作ってくれたんだから、貰っとくぞ」

 

そう言って受け取り、教室を出て行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同時に、その頃の友希那は渡り廊下を歩いていた。

ただそれだけなのに

 

「……」

 

(どうして私の所にチョコが集まるのかしら…?)

 

両腕いっぱいに抱えたチョコ。

ほとんどがファンと言う女子からだったのだが…。

たまに男子がチョコを渡すと同時に色恋沙汰の告白をされた。

しかし、全て断っている。

 

(如月はどこにいるのかしら?)

 

そう思いながら探索を続けていると、2-Eの教室から陽菜が出てきた。

それも、2つのチョコを持って

 

「……」

 

それを見て、また胸がモヤッとする友希那。

しかし、これがなんなのかわからないまま

 

「如月」

 

と正面から呼びかけた。

すると

 

「ん?友希那もチョコ貰ったのか」

 

呑気に返事をする陽菜。

 

「ええ」

 

(今チョコを渡せば…)

 

「……!」

 

そして気づいた。

フラ〜っと陽菜を探しに教室を出たので、チョコを持ってくるのを忘れた事に。

 

「はぁ…」

 

ついに溜まっていた大きなため息が出てしまう。

 

「?どうした?」

 

「いえ…なんでもないわ。

それより如月。

今日は一緒に帰れるかしら?」

 

「ん?まぁ帰れるが…。

どうした?」

 

「いいえ、帰れるなら良いのよ」

 

今伝えるべき事を伝えれたので、重いチョコを教室に持って行こうと振り返った。

しかし、やはり…と思い

 

「如月。

今日の帰り。

他の人は誘わないでちょうだい」

 

「え?なん」

 

「わかった?」

 

「…はい」

 

有無を言わせずに念を押した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後の教室

 

 

運が悪いのか良いのか。

掃除当番をランダムで2人当てられ、陽菜と掃除をして誰も居なくなった教室。

 

「だー…やっと終わった…。

あーめんどくさかった…」

 

陽菜は箒に両手を乗せて愚痴を零した。

 

「あなたはそう言うけれど…。

ちゃんと綺麗になるまでやっているじゃない」

 

「まぁ…頼まれた事だからな。

とりあえず、後はゴミ箱の袋を変えたら終わりだ」

 

そう言いながらガサガサと新品の袋を広げてゴミ箱に付ける陽菜。

 

「……」

 

それを見ながら、スカートのポケットに入れたチョコを握る。

ドクン…ドクン…と時間が経つにつれ、渡す事を考えるとどうしても胸の高鳴りをはっきりと感じてしまう自分。

 

「……ふぅ…」

 

そんな自分を溶かすように、小さく息を吐いてから一旦落ち着かせて、目の前にいる陽菜に向かって

 

「如月」

 

と声をかける。

 

「ん?」

 

当然、2人っきりの教室なので、声がよく聞こえて振り返った陽菜と正面で向かい合った。

 

「?どうした?」

 

「その…今日はバレンタインデーでしょう?」

 

「そうだな」

 

「だから…作ってきたわ。

その…チョコレートを」

 

気恥ずかしさと体温の熱さで頭がクラクラする。

しかし、それでも精一杯作ったチョコを、受け取って欲しいが為に、勇気を出して差し出した。

すると

 

「もしかして…友希那が作ったのか?」

 

陽菜に聞かれて、顔の表情がバレないように俯きながら、コクン…と小さく頷く。

 

「お、おお…!

えっと…本当に俺が貰って良いのか?」

 

「良いわよ…。

コレは…あなたの為に作ったもの」

 

「おぉ……」

 

「……」

 

静けさで思っていた言葉をついポロっと口から出してしまったことに気づくと恥ずかしさが余計に増して

 

「そういうことはあまり言わせないで欲しいのだけれど…」

 

「お、おう、なんか悪い…。

まぁ、有り難く受け取っとくぞ」

 

手の上からチョコの乗せていた重さが無くなった。

ついにチョコを陽菜に渡せたのだ。

すると

 

「ありがとな友希那。

俺の為にわざわざ…。

その手に貼ってる絆創膏も作ってる時の傷か?」

 

そう言われて、自分の指に貼られた絆創膏を見ると思い出したのが、作っている時に誰のことを考えて作っていたのか、だった。

 

「…ええ。

生まれて初めて、1人で誰かに作ってあげたいと思ったわ」

 

「そうか。

…それで、コレ今食べても良いのか?」

 

「い、今食べるの…?」

 

「せっかく友希那が作ってくれたんだからな。

それに女の子から貰ったチョコを食べるのは初めてだし」

 

一瞬『初めて』という言葉に、友希那は少し嬉しい気持ちになったが、すぐに

 

「ま、待ってちょうだい!

まだ心の準備が…!」

 

と止めたのだが、気にせずにパクっと食べた陽菜。

そして

 

「どう…かしら?」

 

味が気になって聞く友希那。

すると陽菜は、チョコをじっくりと味わって食べた後

 

「んー?美味しいぞ?」

 

そう言って微笑みかけてくれた陽菜に、友希那はドキッとした。

 

(どうして…この人と居ると、こんなにもドキドキするのかしら…)

 

不思議な体験だと思い込み、そのまま陽菜と約束通り一緒に帰っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

家に帰ってからキッチンに行き、貰ったお菓子が食べ切れない為、冷蔵庫を開ける。

すると如月に渡したはずのチョコが1つ余っていた。

 

(忘れていたわ…)

 

作った時、袋に入り切らなかった分のチョコを冷蔵庫から取り出した。

 

(そういえば、まだ自分で食べていなかったわね)

 

そう思ってチョコを取ってから、自室に戻り口に入れた。

すると

 

「っ!?」

 

とても塩辛く、思わず咳き込んでしまった。

 

(!塩と砂糖を間違えた…?)

 

しかし、少女は渡した相手が、このチョコを顔色変えずに笑って『美味しい』と言って食べてくれた事を思い出した。

 

「本当…バカね…」

 

口でそう呟いても、心の底から嬉しかった1人の純粋な女の子であった。




椛288様 鯵の素様
まーくtanaka様 SASAI様
サンコン(マウントベアーの山の方)様
meteor1923様

今更ながらお気に入りありがとうございます。




インフィニット・ストラトスを見てみようかと思うんだけど、作者(わたし)ってロボ系あんま見ないんよね。

見たとしても、鉄血のオルフェンズと最弱無敗のバハムートくらいですもん…。

オルフェンズに関しては単語がヨグワガンネ状態でした。

ただOPとガリガリは好きです。
ガリガリはね、キャラが好き

ちょっと本題に戻すけど、インフィニット・ストラトスはアニメ見た方が良いんですかい?

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