退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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前回、あと2話で終わると言ったな…。
アレは嘘だ( ˙-˙ )

てことで今回4章の最終話ね。



第13話 【孤独の神童】VS【孤高の歌姫】

「条件は、Roseliaの解散」

 

友希那が必ずのってくると踏んでの提案。

するとリサが

 

「ちょ、ちょっと待ってよ陽菜!

ボーカル対決って…。

陽菜は一度も負けた事無いんでしょ?」

 

「ああ。

だからこそ、だ。

誰も越えられなかった壁を超えてみろ」

 

「私があなたを超える…?」

 

「ああ。

友希那の全てを持って、俺と戦ったら…。

俺が今の友希那が見る景色を変えてやる」

 

「っ!!」

 

「この勝負、受けるか?

怖気付いたなら、今すぐ断ることだ」

 

「!それは…」

 

今、友希那の中には不安しか無かった。

しかし、すぐに彼の言った『景色を変える』という言葉を思い出し

 

「…如月との勝負、受けるわ」

 

「…そうか」『!?』

 

「それじゃ、この対決の審査員は…」

 

そこまで言うと

 

「ちょっと待った」

 

待ったをかけて出て来たのは、CiRCLEのオーナーだった。

そして

 

「……何しに来た」

 

「いやー、その勝負。

あたしが取り仕切ろうかと思ってね?」

 

「…はぁ…。

まぁ、公式戦になるけどこっちの方が都合が良いか。

じゃあ審査はオーナーに任せる。

審査基準は…。

『1番未来ある演奏を出来た者の勝利』だ。

異論は認めん」

 

「!……へぇ…。

面白い審査だねぇ」

 

オーナーは俺の思惑を見抜いたようだが、気には止めなかった。

すると日菜が

 

「それって、もし陽菜くんが負けたらどうするの?」

 

「…そうだな。

日菜は俺が負けたら何をして欲しい?」

 

「んー…。

あっ♪じゃあ〜。

陽菜くんが負けたら、ここにいる全員のお願いをなんでも1つ聞くこと!」

 

「…いや、それは無理だな。

せめて、友希那のお願いを1つ聞くことくらいだ」

 

「むぅ…」

 

日菜が不服そうに頰を膨らませた。

そして俺は全員に聞こえるように

 

「期間は1日。

明日このCiRCLEでライブをして、審査基準に適った方の勝ちってことで」

 

『っ…!』

 

「それじゃ、明日の対決。

曲はオリジナルでも、カバーでも良い。

それでいいか?」

 

「ええ。

異論は無いわ」

 

そして少し空気が霞んだまま、俺は立ち去っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

CiRCLE

 

陽菜が立ち去った後、オーナーが

 

「で、どうする?

相手はあの【神童】

いくら湊 友希那の才能が鬼才でも奴のいる場所には届かないよ」

 

「でも、如月にはブランクがあるわ。

私が勝てるとしたら、歌い続けた信念と歳月だけ。

なら、如月のブランクを突く」

 

友希那の作戦にオーナーはため息を吐いた後

 

「ブランク…ねぇ。

アンタらも、あの如月 陽菜を知らない訳じゃないんだろう?」

 

そう聞いた。

すると

 

「ええ…。

もちろん、知っています…」

 

紗夜が目を閉じてから、自分を落ち着かせるようにして言った。

そして

 

「【神童】如月 陽菜。

たった半年という歳月でFWFのメインステージに立ち、優勝候補とまで言われた史上最高峰のボーカリスト。

もし、あのフェスに『3人以上の参加』という決まりが無ければ、如月さんは、たった1人でフェスのトップに登り詰められたと言われています」

 

『っ!!』

 

息を呑むと共に圧倒的な絶望感が襲いかかる。

いつも側で見守ってくれていた人を相手にした時。

それは天敵に代わり、心からの安心が不安に変わった。

 

「陽菜って…そんなにすごかったんだ…」

 

リサが悔しそうに呟く。

一度は体験したからこそ、悔しいのだ。

陽菜とセッションした時には気がつかなかった。

 

いや、()()()()()()()のだ。

ミスはしていない。

けれど、【神童】の才能に匹敵するほどの技術を持ち得ないリサには、才能と共に演奏するという高揚感があっただけだった。

劣等感も無く、ただ技術が足りない事にすら気づかなかった。

そんな悔しさを持っているとオーナーが

 

「アンタたち。

才能ってなんだと思う?」

 

「えっ?」

 

「サイノウ…ですか?」

 

「うーん…。

ジブンはあまり考えたこと無いですね」

 

「んー…私もです」

 

「あ、でも、やっぱり。

才能といえば、日菜さんじゃないでしょうか?」

 

「あたし?」

 

麻弥とイヴが悩んだ後に、麻弥がそう言うとオーナーはキョトンとする日菜に向かって

 

「じゃアンタに聞くけど。

アンタは自分の才能についてどう思う?」

 

「う〜…ん…。

あたし、才能って良くわかんないんだよねー」

 

「わからない?」

 

「うん。

あたし、もう誰かを傷つけるのはイヤ。

でも、あたしの才能のおかげで、あたしを見て欲しかった人が、前より真っ直ぐに見てくれるようになったもん。

だから、あたしは良くわかんない」

 

「…そうかい。

ま、()()()()()自分の才能に真っ向から向き合ってくれる相手が居るってことさ」

 

「?あたしには?」

 

日菜は何か引っかかると思うと瞬時にそれが何か理解して、流れるように質問をした。

するとオーナーは少し昔のことを話すかのようにして

 

「……昔、同じことをアイツに聞いたことがある。

そしたら、アイツは…」

 

『才能ってのは、場合によっては(はふり)をもたらす。

だが、()()()()()()()は一種の呪いだ。

誰かと一緒に演奏すれば必ず傷つけ、歌うことすらも出来ず。

ただ自分の力だけを高める為の呪い。

だが、いくら呪いが強大でも、1人だけじゃ限度がある。

それが俺の閉じ込められている鳥籠の中の景色だ』

 

『っ!!!』

 

「流石に驚いたさ。

まさか、自分の才能を呪い呼ばわりするとはねぇ」

 

そう言って一息入れたオーナーは話を続けた。

 

「それに、アイツはこうも言ってた。

自分の居場所は、天頂の果てが見えず、出ようにも出口は見えず、閉じ込められた大きな鳥籠だ、と。

まぁ、アタシがこの言葉の意味を理解するのに、半年はかかったけどね」

 

すると紗夜が

 

「!待ってください。

それではまるで、如月さんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいではないですか」

 

紗夜の言葉を聞いた瞬間、オーナーは黙って頷き、私の頭の中で、ある言葉が蘇った。

それは

 

『知り合いに1人。

今も自分の世界から抜け出せずに、助けを求めてる奴がいてな』

 

というフェスの帰りに陽菜が発した言葉だった。

 

「…!」

 

(もし、あの言葉が本当なら。

如月は、もしかしたら…)

 

1つの予測が脳裏をよぎった。

そして

 

(如月は、ただ求めたが故に失望して。

あるココロを忘れているだけ…。

…なら、今の私が敵うかどうかなんて気にしていられない)

 

「本当に…忘れやすいんだから…」

 

「えっ?」

 

「湊さん?」

 

周りに何か聞かれる前に立ち上がり、決意を固めて

 

「明日のボーカル対決。

何が何でも勝たせてもらうわ」

 

「…そうかい。

ま、どうせ客もこの時間帯はあまり来ないだろうからねぇ。

テキトーにそこら辺のスタジオを好きに使って良いから練習しといて良いよ。

だって、そうでもしないと【神童】には勝てないからねぇ」

 

そう言ってから店の奥へと向かって行くオーナー。

するとオーナーは振り返って付け足すように

 

「ああ、それと…湊 友希那。

お世辞にもアイツのことを2つほど教えておこうかい」

 

「?」

 

「1つ。

アイツは、自分の2つ名である【神童】を嫌ってる。

2つ。

アイツはブランクを物ともしない」

 

「!」

 

(ブランクを…?

いえ…それより、今の意味は…)

 

「そんじゃま、アタシは別の仕事があるんでねぇ」

 

と言って奥へと姿を消した。

すると紗夜が

 

「こうなった以上、今は練習をするのみですね。

私は過去の如月さんが受けたボーカル対決の記録を探してみます。

それが、何か参考になるかも知れません」

 

「ありがとう紗夜。

私はAスタジオで練習してくるわ」

 

「わかりました」

 

「あっ!友希那!

アタシも一緒に行く!」

 

「ええ」

 

そうして練習が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

如月家

 

「…99戦中。

99勝、0敗…か」

 

静かな部屋で自分のボーカル対決での戦績を呟く。

才能のせいで他人と相容れないことを知り、他人との限界が知れたから、ただただ八つ当たりをするように、挑んできた相手は容赦なく叩き潰した中学時代。

 

ある日を境に【神童】なんて()()()()()()()()()()のせいで誰も俺に挑んで来なくなった。

俺が挑んで受けてくれたのは友希那の父親くらいだ。

 

あの時ほど(たぎ)ったことはない。

けれど、どうしてそう感じたのかは今でもわからなかった。

 

(まさか…友希那が受けるとは…。

親子ってのは本当に良く似るんだな…)

 

かといえ、内心は楽しみにしている。

それも、明日が待ち切れないくらい。

だが、1つだけ問題があった。

 

それは…ベッドの下にある黒いケースだ。

アレがあるせいで、いくら学校生活を楽しんでも、家の前に立つだけで一気に冷める。

 

(今の俺じゃ、本領も発揮出来ない。

友希那には悪いが…。

本領が出せない分、本気でやらせてもらう)

 

そう思っているとメールが届いていた。

普段通知をオフにしているから気づかなかったのだろう。

どうやら、友希那からのようだ。

そして

 

『明日の午後5時にCiRCLE集合』

 

その内容は至ってシンプルであり、下の文字列には

 

『必ず、あなたを超えてみせる』

 

とだけ書かれていた。

それを見た瞬間、俺はほんの少しだけ昔感じた『滾り』がなんだったのか解りかけた。

しかし、俺は明日に備えて早めに寝る事にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌日

 

CiRCLEの入り口へと到着すると、そこには友希那たちRoseliaメンバーが揃っていた。

そして

 

「答えを見つけたようだな」

 

昨日とは違い、迷いが一切見られない友希那に尋ねる。

 

「ええ。

私たちが忘れていた決意。

そして、あなたが忘れている本当の感情を。

私は見つけ出したわ」

 

本当の感情。

そう言われて、心当たりがあった。

あの『滾り』という感情だ。

 

「だから、今日。

私はあなたを超えて、私自身を魅せる」

 

決意を固めた友希那の目は、どこか懐かしく感じられた。

それは、きっと初めて友希那と出会った時の目に似ていたからだ。

いや、それよりももっと強く固い覚悟を感じる。

 

(俺が忘れている感情…か。

どうして、こんなにも滾るのか。

友希那との対決で、俺はそれをやっと知れるかも知れないな)

 

そんなことを考えながらも、俺は友希那に

 

「だが、約束は約束だ。

俺が勝ったら、Roseliaは解散だ」

 

「ええ。

私が勝てば、なんでも1つ。

叶えてもらうわよ」

 

「ああ」

 

そうして、公式対決が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地下ライブステージ

 

観客席の埋まりからして、2000人近くはいる。

そして、観客席の最後列には香澄や彩たちも来ていた。

 

「彩せんぱーい!」

 

元気に手を大きく振る香澄は、その後ろにバンドメンバーを引き連れていた。

 

「あっ!香澄ちゃん!」

 

「おはようございます!」

 

「おはよう香澄ちゃん。

それにポピパのメンバーも来てくれたんだね」

 

「はいっ!」

 

「つーか、私ら何にも聞かされてないんですけど…」

 

有咲がそう言うと香澄は

 

「ええー!?

今日のライブは、友希那先輩と陽菜が一緒に歌うんだよっ!」

 

驚きの声を上げてから、若干ひねったような説明をした。

すると千聖が

 

「それ…かなり違うわよ」

 

やれやれ顔で言った。

 

「ええっ!?」

 

「彩ちゃん。

どんな説明をしたのかしら?」

 

千聖が聞くと彩は少し冷や汗をかきながら

 

「え、えーっと…。

陽菜くんと友希那ちゃんがライブで歌うから観に来て…。

だったかな?」

 

「『対決』という単語が入ってないわよ」

 

「あっ…」

 

そういえば…という顔をする彩。

すると

 

「友希那先輩と陽菜が対決!?

なんで有咲なんで!?」

 

「いや私にもわかんねぇ…。

そもそもどっちが先に仕掛けたのかもわかんねぇのに…」

 

「仕掛けたのは陽菜の方よ。

もし、陽菜が勝てば、Roseliaは解散。

負ければ、陽菜は友希那ちゃんのお願いを1つ聞くことになっているの」

 

千聖が部分的に省略して話すと有咲の隣で

 

「どーしよ有咲!!

Roselia解散しちゃったら大変だよっ!!」

 

あたふたする香澄に有咲が

 

「落ち着けって。

確かに陽菜が勝つ可能性は高いけど…」

 

「うわぁ〜ん!!有咲〜!!」

 

「あーもう!るっせーな!

一旦落ち着けー!!」

 

有咲が香澄の相手をしている間に沙綾が

 

「どうして…陽菜さんはそんな勝負を?」

 

「…私にもわからないわ。

ただ言えるのは、陽菜が勝てばRoseliaの解散は確実よ」

 

『っ!!』

 

そしてステージの照明が落とされた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ライブ開始から、それなりの時間が経った。

 

Roseliaのボーカリストである友希那は、自身の限界。

ギリギリの5曲を()り、歓客はもちろん最高の盛り上がりとなっている。

そして、残りは俺だけとなった。

 

「…はぁ……はぁ…」

 

友希那は少し息を切らして休憩している。

 

「友希那…大丈夫…?」

 

リサが心配そうにしながら、買ってきた天然水が入ったペットボトルを渡し、友希那はそれを受け取って水分を取った。

 

「…ありがとうリサ」

 

そしてそのやり取りを聞いた1人の男が、立ち上がって静かにステージのマイクスタンドへ向かってゆく。

その手にマイクを握った。

 

(今の友希那たちが次に進むには、こうする他ない)

 

【神童】はかつて自分で封じ込めた片翼を、1つの信念の為に広げた。

そして…

 

『そこからじゃ見えない未開の極地から

さぁ、その絶景を証明する時だ』

 

曲が流れ始めて観客席側にいた彼女たちは気づいた。

 

「まさかこれって…!」

 

「陽菜さんのオリジナル曲!?」

 

『叶えたかった夢を叶えた時

心を埋める意味を成さない言葉に惑わされ

君はあるべき姿で彷徨った

それでも君は(いばら)の道を進み続けてゆく

 

「自分に誓ったことだから」とか

「もう心配は要らないから」とか

穢れを知らない 君の声が聞こえたんだ

 

 

もう迷わなくてもいい

狙い定めて越えて行け

導かれた結末でも

心を突き動かされて

ただ想いを馳せたならば

その瞳へと新たな世界を

【come with me!】

ココロに誓う確かな証明

煌めき鳴り響く永遠の歌を

 

 

Entrust all to the sound(その音に全てを委ねて)

In anticipation of the future in the eyes(その瞳で未来を見据えて)

Sing wearing ties on the body(その身に絆を纏って歌え)

Don't fear the darkness of the infinite(その無限の闇を恐れないで)

 

暗闇に浮かび仄めく迷い

濁る劣情押し寄せていても

心理をウツサセテ 可憐なココロの歌を

 

もう見失いはしない

刃を研ぎ澄まして行け

目覚めた記憶の感情

今を全て受け入れたら

革命の歌声で今

森羅に刻み付ける衝動を

キズナに誓う確かな証明

迷い無きココロの英雄と至れ…

 

 

たとえ君が闇に呑まれていても

僕が闇を奪い去って行くから

連なる絶望が茨の道にあっても

恋い焦がれるような純情で切り拓いて

 

 

もう迷わなくてもいい

5つの花は咲き誇り

導かれた終末でも

きっと乗り越えて行くから

純白のココロは今

果てなき(そら)を目指す者達よ

【Now,Did you ready?】

ココロに誓う確かな証明

未来へ咲く希望を謳い続けよう』

 

 

 

ステージから1番離れている位置からでも、【神童】の歌声を中心として会場を外へ圧迫する程のビリビリとした覇気が伝わってくる。

 

(!これが…彼の歌声…!)

 

(すごい…!

陽菜くんを中心に、歌声に意識を吸い込まれているみたい…)

 

千聖と彩は声が出ない程の驚き。

それは言葉では表しにくい程にどうしようもなく、収まらない高揚感が身体の中を駆け巡るような感覚だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

裏方

 

椅子に座りながら陽菜の歌に聴き入った。

そして気づかされた。

世間からの期待、その重さ、全ての負荷が青薔薇の棘。

青薔薇の道を歩くということは、自分たちの頂点に続く道。

それは、同時に茨の道を歩くということでもある。

 

(私たちが恐れていたのは…世間からの期待に応えられなくなった時。

それは、誰にもRoselia(私たち)の世界を魅せることが出来ないということを意味する。

けれど、期待なんて恐れずに今の私たちを魅せつける。

そして、茨の道を進み続けることで、私たちは誇りと世間の期待を背負って前へと進むことが出来る…)

 

史上最高峰のボーカリストが込めた歌詞を聴き解いた。

彼が前に言っていた『才能の制御について』

アレはきっと、青薔薇の棘を意味していた。

 

鋭く尖った棘は、いずれ自分にも突き刺さる。

Roseliaが世間から注目されて期待を寄せられた。

その期待で、今回押し潰されそうな程に心苦しかった。

 

つまり、あの言葉は、陽菜がここまで心配してくれた上での忠告だったのだ。

もし、彼にそう言われていなければ、油断して青薔薇の茨につまづいて前へと進むことが出来なくなっていたのかも知れない。

 

それに気づくと共に来た安心感と少しの残念。

 

「また…助けられてしまったわね…」

 

Roseliaが5人で演奏してやっと世界の片鱗を魅せられるようになった世界観だというのに、あのボーカリストはたった1人で『音の想像世界』という世界観を魅せられる。

 

それも羨む暇も無いくらいに感動させられた。

なんて綺麗で繊細で優しくて力強く、心を突き動かされる歌声なのだろう、と。

しかし、それと同時に自分の胸が熱くなるのを感じた。

 

(…如月は、きっとこの感情を忘れているのね。

助けられたのなら、今の私が取る選択肢は1つだけ)

 

「……もう一度、歌ってくるわ」

 

そう言って水入りのペットボトルをリサに渡した。

 

「えっ!?ちょっ!友希那!?」

 

「今…少しだけ胸が熱いの。

この熱が冷め止まないうちに…。

私は如月と真っ向から歌い合いたい」

 

「友希那……」

 

「私の隣に並ぶのだから、それくらいは見届けてちょうだい?」

 

「!も、もー…ズルいなぁ…友希那。

アタシが止められなくなるのわかって言ってるでしょ?」

 

「ふふ…そうね。

…それじゃあ、行ってくるわ」

 

また1人、次へと歩む為にステージへ進んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「歌うのか?」

 

すれ違いざまに聞く。

 

「ええ。

確かに今の私では、あなたには届かないかも知れない」

 

「ならなんで」

 

「あなたと真っ向から勝負したい。

ただそれだけの話よ」

 

「真っ向から…」

 

「いくら自分が相手より劣っていても、勝負したくなったのよ。

今まで積み重ねてきた本気の自分を打ち負かしてくれる相手に、真っ向から挑んで、結果を出す。

その結果を次に生かす。

これが、あなたの忘れてしまった向上心(ココロ)よ」

 

「っ!!」

 

「私は、【神童】じゃない如月 陽菜と歌い合いたい。

競い合って、滾ってしまうこの感情も分かち合いたい。

…もう、あなたを独りにはさせない」

 

そう言って、友希那はステージ中央へ足を進めてマイクを握りしめた。

そしてマイクに口を近づけて

 

『PASSIONNATE ANTHEM』

 

囁いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

友希那の魅力的で焦燥と音楽に対する純粋な情熱。

そして、それらをいっぺんに感じさせてくれる歌声。

 

(なんだ…。

友希那は友希那なりに答えを出せたんだな…)

 

少し嬉しいような哀しいような感情が漂う。

 

友希那の隣に並ぶ仲間。

それは、俺が手に入れられなかった唯一の存在。

だが、それ以前に俺は、自分の鳥籠から抜け出せなかった。

でも、それは俺が才能のせいにしていただけで。

本心では、誰かと互いに認め合い、競い合って、高め合いたかった。

 

しかし、それも()()()()()()()()()()()()誰も真っ向から勝負せず、才能に潰されることを恐れた。

 

(それなのに友希那は、俺に真っ向から挑んできた。

たとえ負けても、その結果を次に生かすことが出来ると言って。

人は負け戦はやらない。

その負けで得られるものがあるとわかっていても、小さなプライドが邪魔して確証の無い利益を求めた負け戦には応じない。

だが、友希那はそんな負け戦を成長の糧として、進んで取り入れようとしている)

 

「…やっぱり、友希那はすげぇな…」

 

しっかりとした負けを実感出来ない俺には得られ無かったモノをこれから友希那は手に入れられる。

 

(人は負ければ強くなるとは…よく言ったもんだな…)

 

そう思いながら、俺は最期のライブを見届けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ライブ終了後

 

観客席は本当に全て埋まっていたのが嘘のようにガランとしていた。

そんな光景を見たあとに、俺は受付へ向かった。

そして

 

「やっと来たかい」

 

「…ああ」

 

店の窓の外を見ると既に外が暗くなっているのがわかる。

俺が勝てばRoseliaは解散。

友希那が勝てば、俺は友希那のお願いをなんでも1つ聞く。

 

(守れるかどうかもわからない約束をするなんてな…。

まぁ…良い。

これが最期の俺が歌う歌ならそれで満足か…)

 

「そんじゃ、判決を言い渡そうじゃないか」

 

どう転ぼうが、これで決着だ。

そう考えているとオーナーが

 

「と、言いたいところだけど…。

今回に限って、アンタら2人で決めな。

どちらが『未来ある演奏が出来たのか』」

 

「「……!」」

 

俺はそれを聞いて、少し気持ちが高ぶった。

もしかしたら…という1つの予想に。

 

「そんじゃま。

如月 陽菜と湊 友希那。

どっちが良かったのか指しな」

 

「「どちらが良かったのか…ね」」

 

俺と友希那はそう呟いた。

そして

 

「如月よ」「友希那だ」

 

お互い相手を認め合うようにして指を差す。

それと同時に俺は高揚感を感じた。

すると友希那が

 

「あなたの歌声。

いつ聴いても私は惹き込まれた。

あの『音の想像世界』という世界観も。

たった1人だけで魅せるなんてことは、この先いくらかかっても私には出来ない。

練習をしている時は無かったというのに、あなたの歌声は前に聞いた時よりも圧倒的に精錬されていた。

あなたには、まだ伸び代がある」

 

「!いや、伸び代があるのは友希那の方だ。

超えられないとわかっている壁を超えようとした。

たとえそいつに才能があっても、自分と差が開き過ぎている相手に対して、対等に渡り合おうとするのは、誰にも出来ることじゃない。

大半の奴らは、敵わないと決めつけて萎縮(いしゅく)してしまう。

でも、友希那は違った。

その心意気は必ずRoseliaが成長していくための糧になる!」

 

「!!

…いいえ…!

私たちがFWFに出るのに約2年かかった。

けれど如月は、FWFにたった半年という歳月でメインステージへ立った。

もし、如月がもう一度互いに刺激しあって、競い合えるようなバンドを組めば。

必ず如月1人では届かなかった頂点へ手が伸びるわ!」

 

「!!

いや、だから…!

友希那はまだ成長中なん」

 

「はーい。

そこまでそこまで」

 

「「!!」」

 

オーナーが柏手を2回程打ち、俺と友希那はそれに気づいて口論じみたことは止まっていた。

すると

 

「アンタら。

そうやって互いを認め合ってるって事でいいかい?」

 

オーナーに聞かれて、俺はオーナーから友希那へと視線を変えると、友希那と目が合い、そして

 

「…そういうことになるな。

まぁ、俺は友希那の勝ちだと思うが…」

 

「ええ、そうね。

私も如月が勝ちだと思うわ」

 

「おい待て友希那?」「何かしら?」

 

もはやただの意地の張り合いである。

互いにそんなことは理解しているが、どうしても退きたいのに退けない。

本当に、小さなプライドというのは邪魔で、どうしてもそれに左右されてしまう傾向がある。

すると

 

「そんじゃま。

この勝負は『引き分け』ということで」

 

「は?」「引き分け?」

 

「そ、引き分け。

客も居ないから再戦は出来ない。

アンタたちは、1対1で引き分けだよ。

今日はそれで納得して、もう帰りな」

 

「えぇ…マジかよ…」

 

「さ、帰った帰った。

アタシにも仕事があるんだよ全く…」

 

愚痴っぽく呟かれた後、俺含めた全員が追い出される形でバラバラに帰って行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

帰り道

 

俺は友希那と帰っていた。

本当ならパスパレメンバーの彩や千聖。

そしてRoseliaとポピパのメンバーたち共、一緒に帰る予定だったのだが、何故かリサや沙綾がメンバーを連れて別ルートで帰っていった。

 

もちろん日菜は

 

『陽菜くんと一緒に帰りたいのー!!』

 

と駄々をこねたが、紗夜がため息をつきながら

 

『40分ほどなら、ギターのセッションしてあげるわ』

 

と言い、日菜はものすごい葛藤を見せた後、紗夜に付いていった。

そして今は2人っきりの状態で帰っている。

 

(にしても…【天才】と称された四宮 凛音を倒し。

本領ではないとはいえ【神童】である俺と引き分けた…か)

 

彼女の横顔を見ながら考えていると友希那が視線に気づき、目が合った。

 

「?どうかしたのかしら?」

 

「いや、なんでも」

 

(本当に…。

今後のRoseliaを見届けられないのが残念だな…)

 

そう思っていると友希那が

 

「ねぇ如月」

 

「ん?」

 

「今日の約束。

アレは両方打ち消しなのよね?」

 

「あー…そうだな。

Roseliaは解散しないし、俺が友希那のお願いを聞くこともない」

 

「……そう…」

 

露骨に残念そうにする友希那。

それを見て

 

「いや待てなんだその様子は。

友希那は一体俺に、何を頼もうとしてたんだ…?」

 

「あなたの弟子にしてもらおうと考えていたわ」

 

「……え?ふぁ?」

 

一瞬耳を疑い、俺は再度確かめるために

 

「俺の聞き間違いか…?

今弟子とか聞こえたが…」

 

「そうよ」

 

「俺の弟子?」

 

「ええ」

 

「いや…あの…言ってる意味がわからないんだが…」

 

足を止めて頭を抱えながら言うと友希那は平然とした顔で

 

「そのままの意味よ。

如月が私の師匠になるの」

 

「それは頑張って理解した…。

だが、俺は具体的に何をすれば良い…」

 

「弟子に…してくれるの?」

 

「内容によっては考えよう」

 

「そう。

大した内容では無いのだけれど…。

私と一緒にボーカルで競い合ってくれれば、それで良いわ」

 

「…普通の条件なら、友希那負けるぞ」

 

「次こそは勝ってみせる」

 

『次』という言葉を聞いて嬉しいような虚しいような感情が渦巻いた。

しかし、俺は顔には出さず、友希那に伝えられることを今伝えておこうと思い

 

「なぁ友希那」

 

「?何かしら?」

 

「俺から逃げずに真っ向から競い合おうとしてくれて。

ありがとな。

助けるつもりが、逆に助けられた」

 

「それはお互い様よ。

……でもまだ…。

あなたはあなた自身の鳥籠に閉じ込められているのでしょう?」

 

「…そうだな。

こればっかりはどうしようもない」

 

「…そんなことないわよ」

 

「えっ?」

 

「如月は私に鳥籠から出る方法を教えてくれた。

なら、かつて如月がそうしてくれたように、私も如月を鳥籠から解放してあげる。

だから、それまで待ってちょうだい」

 

「……ああ。

待ってる」

 

俺はまた、淡い期待を込めて守れもしない約束をしてしまった。




wizardrain様 シャンクス様
まーちゃん!様
あと名前が見えないあなた!

なんか久々に言った希ガス。
そんなことより4章はここで終わりです。

次は…4.5章かな?

んー…グロ要素が…増えそう(粉蜜柑)
ものすんごい表現が下手くそですが、次の話で鳥肌が立ったらスミマセヌ。

てことで(?)じゃあの。

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