退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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めっちゃ投稿期間空いてしまって申し訳ない。




第2話 奇襲と趣味とボスと…

控え室

 

「みんな、お疲れ様!」

 

彩が仕事終わりの挨拶をすると日菜が何か思い出したようで

 

「あっ、そういえば彩ちゃん」

 

「?何?日菜ちゃん」

 

「今日大事な所で噛んでたよね?」

 

「うっ…」

 

事務所での仕事が終わり、帰る準備をしてから少し休憩していると日菜が不意をつくように聞いてきた。

 

「か、噛んだかな〜…?」

 

目を泳がせる彩に千聖は逃げ場を無くすようにして

 

「ああ…。

司会役の彩ちゃんが、大事な映像が流れる前に噛んじゃった部分ね」

 

「そーそー♪

『次はこのブイティーあーりゅです』ってところ。

カメラさんにしっかり撮られてたもんねっ☆」

 

日菜がいたずらっぽくニヤリと微笑むと

 

「うぅ…。

つ、次こそは!

絶対に失敗しないように頑張りゅから!」

 

「あ、噛んだ」

 

「ふえぇ…!」

 

「ふへへっ。

彩さんらしいっすね」

 

「ま、麻弥ちゃんまで〜!」

 

「あ、アヤさんはどんな時でも諦めません!

だから、次もきっと大丈夫です!」

 

「そ、そうだよねっ。

うんっ!ありがとイヴちゃん!」

 

彩が若干の自信を取り戻した所で、日菜が

 

「それはそうと、早く家に行こうよっ!」

 

既に帰る準備をしていた。

すると千聖が

 

「私は明日と明後日のスケジュールを確認するから、今日は遠慮するわ」

 

と言って控え室のドアまで近づいて行った。

 

「ええー!?なんでー!?

千聖ちゃんも一緒に行こうよー!」

 

日菜が駄々をこねるように言うと千聖はドアノブから手を離して

 

「そんな強引に言われても無理よ…。

それに、日菜ちゃんの家へ行って、みんなで何を話すの?」

 

「んー…色々?」

 

「答えになっていないのだけれど…」

 

呆れ気味に言うと麻弥が

 

「ま、まぁでも…。

行けないなら仕方ないですよ日菜さん」

 

そう言われて、ほっぺを膨らませた日菜は少し唸って考えた後

 

「むぅ……。

あっ!そうだっ!」

 

目をキラキラさせて閃いた。

 

「あたしの家で陽菜くんの話しよっか!」

 

『賛成(です)!』「…えっ?」

 

千聖は少し反応が遅れて声を出した。

すると千聖が

 

「…やっぱり私も行くわ」

 

くるっと振り返って言い

 

「やたっ♪」

 

日菜は嬉しそうに微笑んだ。

そして

 

「それじゃあ、ここに長居するのもスタッフさんに悪いから。

早く日菜ちゃんの家へ向かいましょう」

 

「はーいっ♪」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

氷川家に到着。

 

家の中へ上がってから、全員が楽な服装に着替えた後。

5人でそれぞれの飲み物が入ったティーカップを置いたテーブルを囲むようにして、椅子やソファに座っている。

そして、彩が

 

「陽菜くんの話かー…。

難しいなぁ…」

 

と呟くと椅子に座ってお茶を飲む麻弥が

 

「まぁ確かに。

陽菜さんの話は色々ありすぎて、どれにしようか悩みますもんね」

 

頰をぽりぽりと掻きながら言い、それに日菜が

 

「んー、それじゃあ…。

今年に入ってから、みんなが陽菜くんとの間にあった出来事の話しよっ!

時計回りで!」

 

唐突な発案に

 

「それで良いんじゃないかしら。

その方が愚痴…話しやすいでしょうし」

 

千聖は笑顔で言い直した。

すると彩が

 

「あれ?気のせいかな?

今一瞬、千聖ちゃんの口から」

 

「なんでもないわよ」

 

「え、でも今」

 

なんでもないわよ?」

 

千聖の笑顔に息を飲む彩。

すると

 

「じゃあ最初はイヴちゃんから♪」

 

そう言って日菜はイヴを指差した。

そしてどことなく乗り気のイヴは

 

「はいっ!

今年に入って、私がハルナさんとの間にあった出来事は…」

 

「うんうんっ!」

 

「ショッピングモールで私とハルナさん。

しばらくの間2人だけであちこち見に行ったことですっ!」

 

「それってつまり、陽菜さんとのデートってことですか?」

 

麻弥がそう聞くとイヴは顔をりんごのように赤く染め上げ

 

「ち、ちち、違いますよ!

でも、ハルナさんのことは友達として大好きです!」

 

恥ずかしがるイヴ。

すると日菜が

 

「良いなー!

あたしも陽菜くんとデートしたい…」

 

既に1話目で机にダウンしていた。

 

「あはは…。

日菜ちゃんは、陽菜くんのこと好きだもんね」

 

彩がそう言うと日菜はうずくまっていた腕からコロンっと顔を出して

 

「うん、陽菜くん好き、大好き。

でも、全然構ってくれないんだよねー…。

はぁ…」

 

ため息を吐く日菜。

すると千聖が

 

「ふふ。

いつか構ってくれる日が来るわよ」

 

「……うん」

 

「それじゃあ、次は麻弥ちゃんの番ね」

 

「ジブンは…そうですね。

この前、荷物を運んでいる時。

陽菜さんに手伝ってもらったり」

 

『……』

 

「演劇部で色々と手伝ってくれたり…。

それくらいですね」

 

『……』

 

「?どうかしましたか?」

 

麻弥がきょとんとした顔で聞くと千聖が

 

「いえ…麻弥ちゃんらしいわ」

 

(欲が無いというか…深追いしないというか…)

 

「ええっ!?」

 

麻弥が驚きながら困惑した。

しかし、それを解消する暇を与えないかのように

 

「じゃあ次あたしの番っ☆

えーっと…」

 

日菜が人差し指を頰に当てて考え

 

「あっ、そうだ!

実は、この前陽菜くんの家におねーちゃんと泊まったんだー♪」

 

『えっ?』

 

日菜以外の声が重なった。

すると千聖が目元を暗くしながら

 

「…一応確認するけど…。

()()、寝る時は別々だったのよね?」

 

「?うん。

あたしはね!」

 

「えっ…?」

 

「あたし…『は』?」

 

「うん。

おねーちゃんは陽菜くんと一緒に寝てたよ♪」

 

『ええっ!?』

 

「さ、紗夜ちゃんが!?」

 

「意外と大胆ね。

紗夜ちゃんの性格ならそういう事はしないと思っていたのだけど…」

 

「うん。

だから、あたしがジャンケンで陽菜くんとおねーちゃんくっつけて、一緒に寝て貰ったんだー♪」

 

楽しそうに話す日菜に彩が

 

「それって、日菜ちゃんにとって意味あったの?」

 

「あるよー☆

おねーちゃんと陽菜くんが付き合って結婚してくれれば、この家に陽菜くんが住んでくれるもんっ♪」

 

「2人と離れるという可能性は無いのね…」

 

「さすが日菜ちゃん…」

 

千聖と彩が呆れながらも感心した。

 

「じゃあ次、千聖ちゃんねー♪」

 

日菜の声にピクッと反応した千聖。

 

「私は…プライベートであの人と会う事は無いから何も無いわよ」

 

そう言ってティーカップを持って紅茶を口にひと含むと

 

「えー?

じゃあ、バレンタインはー?」

 

「!!」

 

「千聖ちゃん。

陽菜くんに渡してないの?」

 

「わ、私は…」

 

(言えない…。

夜更かしして作ったなんて…。

絶対に言えないわ)

 

そう思った千聖は余裕を持った表情を作り

 

「ええ。

ちゃんと義理チョコをあげたわよ」

 

なぜかそこだけ強調した千聖に彩が

 

「あ…れ…?

陽菜くん、確か千聖ちゃんに手作りのチョコを貰ったって」

 

「彩ちゃん?」

 

「…えっ…?」

 

「次は彩ちゃんの番よ」

 

千聖のどこか黒い笑顔で押し切られそうになる彩。

するとイヴが

 

「アヤさんは、ハルナさんと何かありましたか?」

 

話題を彩に投げかけた。

 

「えっ!?

わ、私も特にそれと言って」

 

彩は誤魔化そうとしたが千聖が

 

「あら、1つあるじゃない。

前に陽菜が風邪を引いて、彩ちゃんがお見舞いに来た時」

 

「わー!!待って千聖ちゃん!

その話は無しだよーっ!」

 

必死に千聖の口を止める彩。

 

「そういえば、その時。

彩さんと千聖さんは陽菜さんの看病したんですよね」

 

「そうよ。

その時、私は遅れてやって来たのだけれど。

到着した頃には彩ちゃんが看病していたわ」

 

「ほっ…」

 

彩が一安心したところで

 

「ベッドの上でいちゃいちゃしながらね」

 

「千聖ちゃん!?」

 

「一体彼にどんな想いを寄せているのかしら」

 

「へぇっ!?は、陽菜くんのこと…!?」

 

変な声が出た上、顔を赤くしながら口ごもる彩。

そしてそれを見ていた日菜が

 

「あーやーちゃーん?」

 

「ひ、日菜ちゃん!?」

 

彩が気づくと、そこには頰をぷくーっと膨らませた日菜が居た。

 

「良いな!いちゃいちゃっ!

陽菜くんといちゃいちゃ!」

 

「ええっ!?

い、いちゃいちゃなんてしてないよ!

ただ陽菜くんの熱を測ってただけで…」

 

「ふーん……」

 

日菜は疑いの目で彩をジーっと睨んだ。

すると

 

「ねーねー千聖ちゃん。

彩ちゃん、どうやって測ってたの?」

 

という日菜の質問をされた千聖は

 

「確か…おでこをくっ付けていたわね」

 

と答えた瞬間。

 

「いちゃいちゃしてるじゃんかー!!!」

 

目に小さな雫を浮かべながら日菜が羨ましそうに言った。

そして続けて

 

「もー!陽菜くんのばかぁ!!浮気ものー!!」

 

本人は居ないが、言いたいことをそのまま吐き出した日菜。

すると麻弥と千聖が

 

「お、落ち着いてください日菜さん!」

 

「でも確かに、陽菜は女たらしな部分があるわね」

 

「ま、まぁ…ジブンもたまにそう思います。

しかも、本人はそれを天然でやってる所がなんとも言えないです」

 

「いずれにせよ。

陽菜には直して欲しい部分があるのよ」

 

「ふへへ、そうですね」

 

会話を和ませて、日菜の頰が若干萎んできた頃にイヴが

 

「そういえば…ハルナさんについて気になったことがあります」

 

「?気になったこと?」

 

「はい。

たまにですが、ハルナさんは暗いような黒いような…。

とにかく、後ろに何かがあるような気がして…」

 

「何か…ですか?」

 

「うぅ…すみません。

言葉では上手く表せないです」

 

「そっかぁ…。

でも、私はわかる…かな」

 

彩がそう言うと日菜が

 

「?わかるって?」

 

「陽菜くんってもしかしたら、まだ私たちに大事なことを隠してるのかなぁ…って。

それに、今日のお昼くらいにも、陽菜くんの家に黒いリムジンと黒服の女の人が来てて、陽菜くんがそれに乗って行ったの見たけど…。

多分だけど、その黒服さんもこころちゃんの黒服の人でも無さそうだった」

 

『!!』

 

場の雰囲気が変わった。

少し神妙な空気になると日菜が

 

「陽菜くん。

どこに行ったの?」

 

「えっ!?

わ、私はわからないけど…。

あっ、ほらっ!

陽菜くんのお母さんとかに聞けば、どこに行ったのかわかるんじゃないかな?」

 

「ホントっ!?

じゃあ〜…みんな今日って暇?」

 

『えっ?』

 

「あの…日菜ちゃん?

まさかとは思うけれど……行く気?」

 

千聖は恐る恐る聞くと日菜はニヤリと口元を動かし

 

「うんっ!

今から陽菜くんの家に行こー♪」

 

そうして日菜に言われるがまま、全員で家へと向かうことになった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

如月家 到着

 

「着いたわね」

 

「えいっ♪」

 

千聖が呟いていると日菜はチャイムを鳴らしていた。

するとガチャ…と扉が開き、出てきたのは

 

「?パスパレの皆さん?

どうしたんすか?」

 

そこには素肌を晒すラフな格好をした少女が顔を出した。

そこで千聖が

 

「あなたは…確か陽菜の妹さんの咲織ちゃん。

だったわよね」

 

と病院でのことを思い出しながら聞くと咲織は

 

「はい。

あと、お兄ちゃんは出かけてますよ」

 

思考を読んだように言った。

 

「その事なのだけれど…。

彼がどこに行ったのかわかるかしら?」

 

その瞬間、咲織の視線が左へ動いた所を千聖は見逃さなかった。

 

「何か、知っているのね」

 

「……まぁ、今日は誰も居ないみたいですし、中に入ってもらって構いませんよ」

 

誰も居ない。

キョロキョロと周りを見渡している辺り、それは家の中ではなく、外の方に誰も居ないという意味なのであろう。

 

それを瞬時に理解した千聖は『やはり何かある』と思い、中へと入って行った。

 

ドンッ

 

「あっ!ごめんね!

痛くなかった?」

 

どうやら後ろで彩が咲織とぶつかったようだ。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リビング

 

3人用の横長ソファに彩、千聖、イヴが座る。

そして、2つある1人分のソファへ麻弥と日菜が別々で座ってズラッと並ぶパスパレメンバー。

 

その目の前には人数分のお茶を出して見下ろされる形でコタツに入って床に座る咲織。

そして話し合いが始まった。

 

「それで…お兄ちゃんがどこにいるのか。

それを知りたいのは何故ですか?」

 

その質問に日菜が

 

「?陽菜くんのことが知りたいからだよ?」

 

頭にハテナマークを出しながら言い、それに対して咲織は

 

「はぁ…。

まぁ、仕方ないですね。

ここまで探られるのもお兄ちゃんが悪いですし」

 

ため息混じりに呟いてからこう言った。

 

「特殊機関所属。

執行官No.0如月 陽菜。

それがお兄ちゃんの正体です。

付け加えれば、天皇が持つ不特定多数の最強の懐刀…というべきですね」

 

『ええっ!!!?』

 

「特殊機関…?執行官…?

天皇の…懐刀…?

えっ?えっ!?」

 

彩が混乱して重要単語しか言えなくなっていると咲織が

 

「落ち着いてください…。

今から必要最低限のことだけ教えますので」

 

彩に落ち着くように言ってから話を続けて口を動かした。

 

「まず、あなた方が知りたいお兄ちゃんの場所。

これは…おそらく天皇の別荘だと思います」

 

「別荘?」

 

「どうして、陽菜さんが今そんな所に居るんすか?」

 

「仕事…ですね。

それも、今回は3年前と同じくらいにかなり大きな仕事」

 

「3年前…?」

 

「…3年前といえば…。

ちょうど、11月の頃。

あなた達とお兄ちゃんが別れた辺りですね」

 

「11月頃…あっ!

もしかして、第1回ガールズバンドパーティですか!?」

 

「そうです」

 

「まさか…その時から陽菜くん。

ずっと天皇の懐刀として働いてたの?」

 

「その時から…というより、ずっと昔です。

あなた達がお兄ちゃんと出会う前。

そして、お兄ちゃんが初めて命令され、仕事を無事に終えて帰ってきたのは、11歳の頃ですね」

 

『えっ!?』

 

「じゅ、11歳…ってまだ小学生じゃ…」

 

「それに『仕事を無事に終えて』とは、どういう意味かしら?」

 

「そのままの意味です。

怪我1つなく、執行官として責務を果たしました。

あの天皇は拒否権を与えてはくれませんから」

 

「ど、どういうこと?」

 

全員が嫌な予感を抱きながらもそれを当てるように咲織はこう言い放った。

 

「お兄ちゃんに与えられた仕事は、簡単に言うと…そうですね。

戦場で生まれた残党兵全ての殲滅。

これが最初に与えられたお兄ちゃんの仕事です」

 

「それって……つまり…」

 

「はい。

9年前にお兄ちゃんは人を殺しています。

何人も、何十人も…。

多分だけど、報告書には載っていない数も合わせれば、最悪300人は超えてますね」

 

咲織はそう言ってからお茶を啜った。

まるで、それが普通であるかのように。

すると

 

「そんなの…ダメです…」

 

「…!イヴちゃん?」

 

「だって…おかしいです…。

どうして…まだ小学生のハルナさんが、人を殺めてしまわなければならないのですか?」

 

イヴの震えた声による質問に咲織はこう答えた。

 

「如月家とは、元よりそういう家系です。

蘭ちゃ…美竹さんのような100年続く華道の家系があるように。

如月家は、政府と昭和が始まる頃からの深い因縁のような繋がりがあります」

 

「それでも…!

どうして…ハルナさんに仕事をさせてしまうんですか…!?」

 

「……」

 

「どうして……ハルナさんばかりが…また独りで傷つかないとダメなのですか……?」

 

「イヴちゃん……」

 

イヴの震えた小さな肩を千聖が優しく手を置く。

それを見た咲織は

 

(少し…試してみよっかな…)

 

「……執行官No.2如月 咲織。

あたしもお兄ちゃんと同じ境遇に居ます」

 

「えっ?

それじゃあもしかして…」

 

「あたしはお兄ちゃんよりちょっと遅かったけど…。

中学生になった頃に執行官入りしました。

とはいえ、あたしは人を殺したことがないので安心してください」

 

そう言うと千聖は目を少し鋭くして

 

「それは…どういう意味での発言かしら?」

 

「人殺しは嫌いじゃないですか?」

 

「…正直、関わりたくないわね」

 

「千聖ちゃん!?」

 

「でも、彼は私の…友達よ。

連れ戻す理由はそれだけで充分」

 

千聖は自分なりの答えを口に出したが咲織はどうも引っかかり

 

「……それは、人殺しでも友達だから許せる。

ということですか?」

 

「少し違うわ。

友達だから人殺しだとしても構わないのよ。

それに、陽菜は好き好んで人を殺めてしまった訳ではないのでしょう?」

 

(あ、見透かされた。

この目は見透かした人がする目だ)

 

そう思って半分ほど諦めた咲織。

そして

 

「まぁ…そうですね。

でも、お兄ちゃんは溜め込むタイプですから、吹き出す時は一気に、ですよ。

その時は、絶対に不用意に近づかないでください」

 

彼女たちが入ってはいけない領域に踏み込むことを確信したので念を押すと日菜が

 

「…もし…陽菜くんがこっちに戻ってきたら、あたし達と一緒に生きられるよね?」

 

「それは無理です。

もしそちらに帰れば、死刑は免れません。

まぁ…ざっと58回は死刑に出来ますよ」

 

「!!」

 

「だから、自分たちだけでお兄ちゃんを連れ戻せるとは思わないことです」

 

「…出来ないかどうか。

それは今は置いておきましょう。

死刑を免れる方法を、知っているなら教えてくれる?」

 

「…無い…とも言えないから困りますね」

 

「なら、教えてちょうだい」

 

「…お兄ちゃんが1度でも死ねば、全て帳消しに出来ます。

本人が居ないのに死刑を重ねることは出来ませんから」

 

「…そう」

 

陽菜を助けるイコール生きたまま助けるというご都合な事実は無い。

『死』による救済もあるのだと知らされた千聖たち。

そして

 

「……長居したわね。

私たちはこれで失礼するわ」

 

「はい。

あっ、それと…1つ聞いてもいいですか?」

 

「?何かしら?」

 

「お兄ちゃんと初対面の時。

なんて呼ばれてましたか?」

 

至って普通の質問だが、何か不思議に思える質問でもあった。

それに日菜は

 

「あたしは『日菜』って呼ばれてるよっ♪

陽菜くんに名前呼ばれるの、あたし好きなんだー♪」

 

元気に応えたが、メンバーはどことなく日菜の元気が無いような気もしていた。

すると前の質問に咲織は

 

「どうして初対面にも関わらず、名前で呼ばれるのか。

これって、お兄ちゃんなりにちゃんとした意味があるんですよ」

 

「?意味って?」

 

「生きる意味、もしくは、生きていて欲しい人。

『君には存在している意味がある』という意味を込めてその人の名前を呼ぶんです。

与えられた名前を持ちながら、その名前の意味を知らない上に、知ることすら出来なかった頃のお兄ちゃんが考えた1つの自己論です」

 

「そ、そんな意味があったの…?」

 

「…これから、どうするんですか?」

 

「えっ?」

 

「これを知って、あなた方は今まで通りお兄ちゃんに接することが出来ますか?

少なくとも、そこの綺麗なお姉さんなら演技力があるので問題は無さそうですけど、他の方々が感づかれてしまえば、それからお兄ちゃんとの会話は一切成り立ちませんよ」

 

『っ……』

 

「…それ以上の覚悟はしておいてください」

 

そうして、玄関まで来た頃に

 

「あ、忘れてた」

 

『?』

 

「お兄ちゃんの場所は彩さんのスマホに転送しておきますので、これ返しておきますね」

 

そう言って咲織は服のポケットから彩のスマホを取り出して渡した。

 

「!うんっ!わかっ……た?

って、あれ?なんで私のスマホ…?」

 

「さっきスリました。

それからパソコンに繋いでロック解除したので、いつでも送れます」

 

「えっ?えっ!?」

 

「あたしこういうの得意ですから。

お兄ちゃんを助けたいならこれくらいは警戒心持っておいた方が良いですよ」

 

「わ、わかりました」

 

なぜか敬語で返す彩を見て千聖が若干呆れていると

 

「それと、最後に念を押しておきます。

あなた方が今から入ろうとしているこちら側は、死地だということ忘れないでください」

 

「…うんっ!」

 

「……それじゃあ、失礼します」

 

そう言って咲織は扉を閉め、リビングへと戻り

 

「あー…敬語疲れた…」

 

1人呟いたのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

陽菜の位置情報を貰ったパスパレ一行。

 

「…みんなは、これからどうしたいのかしら?」

 

千聖の質問に真っ先に答えたのは日菜だった。

 

「あたしは行くよ。

陽菜くんに会ってちゃんと話したいもんっ」

 

「ちゃんと紗夜ちゃんに話すのよ?」

 

「…うん、わかっ…た…」

 

「?日菜ちゃん」

 

曖昧な返事をされて少し気になった千聖は首を傾げると、日菜は納得いかないような表情をしながら考え事をしていた。

 

「……?」

 

なんで?とでも言いたげな日菜だったが、すぐに目の色が変わり何かに気づいた。

 

「……あ………っ!」

 

「ど、どうしたんすか?日菜さん」

 

「あたし…わかったかも…!!」

 

「わかったって…何が?」

 

「あたし、ずっと気になってた。

『どうして陽菜くんは、あたし達に大事なことをいつも何も頼ってくれないんだろ』って。

『あたしは気にしないのに』って、ずっと思ってた。

でも、今の千聖ちゃんの質問で、あたし。

『おねーちゃんを巻き込みたくない』って思った。

だって、話したらおねーちゃんは絶対に助けに来るもん」

 

日菜は能弁になって話すと彩が

 

「陽菜くんも…同じ気持ちだったってこと…?」

 

不安になり心配するように聞いた。

 

「う〜…それがわかんないんだよねー」

 

「えっ?わからない…?」

 

「だって、あたし陽菜くんじゃないもん」

 

『!!!』

 

当然といえば当然である。

しかし、今の日菜の発言は、自分が陽菜じゃないからわからないのなら、本人に直接聞けば良いという考えを自然に伝えてもいた。

それに瞬時に気づいた彩たちは

 

「私…陽菜くんのこと知った気でいたくない。

だから、私はちゃんと陽菜くんと話をするために行く」

 

「私もハルナさんのことを助けたいです!

難しいかも知れませんが…。

もうこれ以上ハルナさんに酷い目には会って欲しくないです!」

 

「ジブンも、やっぱり友達が苦しんでいるなら助けたいですね。

それに、お礼も言えてないことが多いですから」

 

「なら、これで決まりね。

日菜ちゃんは、紗夜ちゃんに連絡するのかしら?」

 

「うんっ!

『心配しないで』って送るっ♪」

 

日菜はそう言ってメールで紗夜に連絡を入れた。

 

「バスで行きましょうか。

着いた時は、目的地まで少し離れてしまうけれど。

そこは歩くわよ」

 

「ええーっ!?」

 

「仕方ないでしょう。

場所があの山の中にあるのだから」

 

「山の中?

そこに陽菜くんがいるの?」

 

「ええ。

それじゃあ、行くわよ」

 

そうして千聖たちは陽菜に会いに行くため、天皇の別荘へと向かって行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方で、その頃の天皇の別荘では…。

 

ガッシャアアン!!

 

俺は後ろを見ることなく机を踏み台にして、姫の腕を掴んだ。

 

「きゃっ!」

 

可愛らしい悲鳴をあげるが、そのまま姫を連れてソファの後ろへと隠れ、琴吹も同時にソファの後ろへと隠れた。

 

この一連の行動が終わった約1秒後には、部屋にガラスの破片が散乱する音が聞こえ、俺の手の甲に銃弾で出来たかすり傷があった。

 

(なんだ…?)

 

そう思ってゆっくりと顔を出すと、そこには黒いスーツ姿の男が2人、大柄な男が1人に、フードを被った男が1人立って居た。

すると

 

「そこの2人。

すぐにその天皇を差し出せ」

 

居場所はバレている。

隠れているソファの方へ、(ガバメント)を向ける2人の男。

 

「うむ…」

 

(手前の2人の武装は()()だけか。

すぐ後ろの厳ついオッサンは見たところ武装無し…。

あともう1人は…フード被ってて見えねぇな…)

 

どうしようか悩んでいると琴吹が

 

「どうしますか?

こちらには武器がコレしかありません」

 

そう言って見たことのない真っ白なマグナムを胸ポケットから取り出した。

 

「弾は?」

 

「6発です」

 

「仕留め切れるか?」

 

「射撃には自信がありますが…。

この数相手だと、3人が限界でしょう」

 

「充分だ。

じゃあ、銃構えてる護衛タイプの2人を頼む。

もう2人のフードとマッチョは俺が引き受けるから」

 

「わかりました」

 

「じゃあ2秒後」

 

お姫様抱っこしていた姫を下ろしながら言うと琴吹は頷き

 

「1…」「おい!!聞いてい」

 

「0」

 

合図と同時に俺はソファの横から飛び出して、テーブルの上にあったナイフを1つ取り、標的との間合いを一気に詰める。

 

「なっ!?」

 

さっきまで脅していた相手が怯んだ。

右から攻めて、銃口を向けられる前に奪い取ったあと、男を盾にして横を通った。

 

その直後に背後で2発の銃声が鳴り、俺はすぐさま奥にいる筋肉質の男との間合いを詰めた。

 

「ガハハ!!

特殊機関の1人!

相手にとって不足な」

 

ピッ

 

「はぁ…」

 

ため息を吐くと同時に、男はズシンという音を立て首から大量の血を流して倒れた。

 

(敵地で余裕持ち過ぎだろ…)

 

呆れていると残りの敵は後フード男1人となった。

そして

 

「後はお前だけだ。

大人しく殺されてくれれば楽なんだけど…」

 

そう言うとフード男は後ろポケットから何やらドス黒い液体の入った注射器を取り出し、プシュッという音を鳴らして自分の首へ打った。

 

「ウッ…ガァア……!!」

 

苦しそうに喉をかきむしって血を流す男。

すると

 

ヴァアアアアアアアア!!!!

 

「っ…!」

 

獣のような咆哮に空気が振動して窓がガタガタと震える。

いや、もう既に外見が変わり過ぎていた。

 

(皮膚からはみ出した骨、顔に浮き出てる血管…)

 

「全く…こうも外見キモくなるから海外産のドラッグは嫌いなんや…」

 

俺は呟きながらこのバケモノと対峙していた。

琴吹はというと躊躇なく、バケモノに向かって2発の銃声を鳴らした。

 

ビスッビスッ

 

着弾はしているが、微妙な音だ。

すると

 

「ウ……ガァアアアア!!!!

 

バケモノは対峙している俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。

 

(見境なし…)

 

「…理性は残ってなさそうだな」

 

振り下ろされる拳を紙一重で避けてから、蹴りで肘の関節を普段曲がらない逆方向へと折り曲げてからナイフを喉に突き刺し、ズッ…という鈍い音と共に抜いた。

すると

 

「ヴ………ァ……!!!」

 

ドサッと倒れ込んだ男は他の男と同じように血溜まりを拡がらせていく。

 

「はぁ…。

なんでこの場所がわかったんだコイツら」

 

俺はそう言いながら、フード男の()()()()()をフードの上から手探りで探す。

すると

 

「お、あったあった。

ほい、琴吹さん」

 

俺は中身の入った注射器を琴吹さんに投げ渡した。

琴吹さん、それに動じず華麗にキャッチ。

 

「これは…クスリですか?」

 

「ああ。

まぁ…多分そんなに綺麗な代物でもないだろうから、ガスとかには気をつけ」

 

念を押そうとするとユラッ…と、先ほどまで血を流して倒れていたフード男が立ち上がった。

 

「ク……スリ……!」

 

(1回しか打ってないクスリに対して…コレとは…)

 

「末期…だな」

 

「クスリ……カエ…セ…!!」

 

文字通り血の涙を流しており、目が全体的に赤黒くなっている。

 

「……お前らは何になりたかったんだろうな」

 

目を見ながら問いかけた瞬間、俺の左にある髪を何かが高速で通り過ぎ、フード男の脳天を貫いた。

すると

 

「らしくないですね。

何をボーッとしていたんですか?」

 

琴吹さんの持つリボルバーの銃口から微かに煙が上がっていた。

 

「…別に…道を踏み外した人の成れの果てってのは怖いなぁ全く。

なんて思ってただけだ」

 

「今の状況で、あなたなら簡単に殺せたでしょうに」

 

「人の命は軽々しく扱っちゃダメって習わなかったのか?」

 

俺は顔に付いた血を袖で拭ってからナイフを地面に捨てた。

そして

 

「んで、どうする姫。

多分囲まれてる可能性あるけど」

 

「…仕方ありません。

無血で潜り抜けられるほど甘くはないでしょうから…」

 

「そうか…。

この家って武器庫あるのか?」

 

「はい。

地下の倉庫にあります」

 

「んじゃ、案内頼む。

既に潜入されてるかも知れないから、琴吹さんも気をつけて」

 

「はい」

 

そして話を聞く限り、どうやら少し離れた場所に地下に続く扉があるらしい。

 

なので、地下に続く扉へと向かう廊下を歩いて行くと、段々と()()()()()()()

 

(この臭いは…。

いや、だとしたら多過ぎるだろ…)

 

そう思いながら俺は姫を真ん中に移動させ、琴吹に背後の警戒を頼んだ後、警戒しながら角を曲がると

 

「……これは…」「……」

 

「全員…死んでいます…ね」

 

これほどの惨殺手口を見たことない姫が静かに告げた。

 

「ああ」

 

血の海に横たわる黒服の人たち。

血で塗られた壁に手のひらや体を釘で打ち付けられている黒服もいた。

 

所々に空薬莢が散らばっている辺り、抵抗したがやられた。

いや、銃が役に立たなかったのであろう。

それほどの相手に対峙した。

 

(クスリ…か?

でも、理性無しで…?

いや、そんなので人を壁に打ち付けるなんて芸当出来るわけが…)

 

そう考え込もうとしていると

 

「陽菜。

今は武器を優先しましょう。

この出血量では、助かりませんから」

 

冷静に告げた姫だったが、その目はどこか強がっているように見えた。

そして

 

「…そうだな。

今は地下に行くか…」

 

俺は慰めの言葉も何も言わず、地下の入り口へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地下の扉前

 

着く間に見たのは、やはり黒服さんたちの死と血塗られた廊下だけだった。

しかし、今見ているのは信じたくない事実だった。

 

「なぁ…姫。

ここが地下に行くための扉であってんだよな?」

 

「…はい」

 

「んじゃ…なんで既に扉が開いてんだろな…」

 

他の扉より、ひと回り大きい木の扉はこじ開けられており半壊した上、既に誰かが中に入っていったようだ。

 

「……」

 

少しの懸念を抱いていた。

なぜなら俺はこの先敵が来たとしても体術に頼るしかなくなっていたからだ。

しかし

 

(殺せば良いんだろ…)

 

俺は自分の考えの果てに至り、武器倉庫に行って武器を取ることを優先した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地下に続く螺旋階段を降りる。

階段に付着した水々しく赤黒く滴る大量の血。

何かを引きずったような跡が残っている。

しかし、どこにも死体が転がっていない。

すると

 

「…少し臭い始めましたね」

 

琴吹はそう言って白いマグナムの引き金に指をかけた。

その瞬間

 

嫌ぁああああ!!!

 

女の絶叫が聞こえ、俺は琴吹に向かって

 

「俺が先に行くから、琴吹さんは姫を護衛」

 

「了解しました」

 

「そんで、姫は応援要請……。

出来そうだったらやってくれ。

特殊機関の誰でも良い。

2、3人ほど来てくれれば助かる」

 

「わかりました」

 

姫は頷き、階段を上がっていった。

2人とも物分かりが良くて助かる。

 

とは口に出さず、俺だけそのまま階段を降りて行った。

するとしばらくして白い光が見え、明かりの灯る中へと足を踏み入れた

 

「…ここが武器庫か…」

 

確信を持てたのは、そこら辺に日本刀、洋剣、またナイフが立てかけられていたからだ。

しかし、狭い。

ここじゃナイフを振れても刀や剣を振ることが出来ない。

 

(…とりあえず、ナイフだけ貰っとくか。

俺の黒曜ナイフ海外に置いてきたしな…)

 

腰に20cm程のサバイバルナイフを引っかけると共に、1つ奥の部屋からグチャ…グチャ…という生々しい音が聞こえてくる。

 

そして俺は壁側に隠れて暗い部屋を覗きみると薄っすらと人影のような物が見える。

目を懲らすと

 

グジュッ

 

奇妙な音が大きく聞こえた。

そしてその音源には、血で塗れた灰色のボロコートを羽織る青年のような男がいた。

 

「あっ、やべ…。

これは…あーあーあー…。

瀕死の状態で服を剥ぎ取ってから思いっきり遊ぶ予定だったのに…。

間違えて殺しちまった…」

 

そう言って男はゆらっとした動きで立ち上がり、何か唸って考えた後

 

「まぁ、良いか…。

このままヤッても…ってん?

そこ、誰かいんの?」

 

「…」

 

俺は黙って息を潜めて腰にあるナイフに手をかけた。

すると

 

「まぁ、出てこないならこっちから行くけどな!!」

 

(!殺気…!)

 

急いで壁から離れると、ドゴンッという威力を思い知らされる程の音を立てて壁が砕け散った。

 

「ちっ…」

 

メンドくささに思わず舌打ちした。

 

「おっ、本当にいた。

あー良かった。

誰も居なかったらクソ恥ずかしい独り言になってたぜ…」

 

「…あっそ」

 

返事をすると男は紺色のハルバードを肩にかけてから

 

「冷たい。

まるでキンキンに冷えたビールみたいに冷たいよ」

 

「年齢的に飲めねぇだろ」

 

「これでも28歳ですー」

 

「なんだこいつ…」

 

「それって普通は心の中で思うセリフじゃなーいの?」

 

「敵地でよく喋る…」

 

「ま、ヨユーだったし?

それに、女が多かったし嬉しかったよ」

 

「…()()のことか?」

 

女性の裸足だけが光に照らされていて身体までははっきり見えなかったが男は、景気の良い人のような振る舞いでその足をガッと掴み

 

「そそ、()()のこと」

 

そのまま投げて半裸になった死体を俺の方へと転がした。

 

「……」

 

「なんていうの?

これが俺の趣味の1つっつーか。

瀕死の状態の女をヤッて、めちゃくちゃ抵抗されるの最高って思わねぇか?」

 

「……はぁ…」

 

呆れたようなため息を吐いて冷静さを保ちつつ、しゃがんで見開いた女の瞼を閉じた。

 

「まぁ、ソレは俺のミスで内臓潰しちゃってね。

マジミスったわぁ…。

ここに来たのも武器庫っていうから色んな道具期待してたんだけどね」

 

男は淡々と話し続ける。

 

「あ、そうそう。

上に居た女たちも、俺の2つ目の趣味でね。

釘で固定して遊ぶのも良いかなぁ。

なんて思いながら手のひら打ってたらショック死しちゃってよ。

それで俺萎えちゃっ」

 

「もういい」

 

5mあった距離を1秒で詰め、すぐさま男の首を掻き切ろうとすると

 

「てぇええ!?

あっぶねぇ…首切られるとこだった…。

全く、人の話は最後まで」

 

「お前の話なんて遺言だけで充分だ」

 

「あれま、遺言だけ聞いてくれる辺りやっさしい!

でーも…」

 

心にも思っていないことを言った後、男は軽々と重量感を感じさせるハルバードをクルクルと回転させ、矛先を俺に向けた。

 

「俺強いよ?」

 

「強いと勝てるは別って習わなかったのかオッサン」

 

「オッ……サン……」

 

初めて男の表情から()()()感情を感じられた。

それが怒りというのは、何も言う気にはならないが…。

 

(ここじゃ狭いな…)

 

なんて考えていると男はハルバードで並べてある武器を一掃した。

煙が舞い破片が飛び散る中、男は

 

「ふぅ…いやー危ない危ない。

オメェのペースにハマるとこだったぜ…。

んで、やるのなら、上に行ってやりたいんだけど?」

 

「……」

 

(俺もここじゃ殺しにくい…)

 

「わかった…。

だが、10mは離れてろ」

 

「りょーかいしやしたー」

 

また()()を被る男だったが、この時でさえも文字通り油断も隙もない。

そして上へ上がっていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「かー、全くなんだこれ。

こんな広い部屋が天皇ちゃんの別荘にはあるんだねぇ。

正直羨ましいっすわ」

 

「話がいちいち長い。

それと、お前名前は?」

 

「名乗るなら自分からって習わなかったか?坊主」

 

さっきの言い回しをパクってきた辺り、根に持ってるのは確定だろう。

 

「如月 陽菜」

 

俺は隠さずに名乗ると男は驚いたように目を大きく見開いて

 

「!ほぉ…。

これはとんだ大物だな」

 

「…どういう意味だ」

 

「いんや、こっちの話。

勝ったら教えてやるよ。

そんで、俺の名前は西園寺(さいおんじ) (れん)だ」

 

「そうか…。

なら、西園寺。

死んでも文句無しだ」

 

「つーまり…死人に口なしってこったぁ!」

 

5mの距離を置いて、突きと斬りをランダムに放つ西園寺。

右からの攻撃はナイフでしっかり捌き、左からの攻撃は左手だけの体術でなんとか捌く。

 

「守ってばかりじゃ勝てねぇぞ!!坊主!!」

 

「……っ」

 

(強いと自称するだけの裏付けされた実力は確かだな。

そろそろ左手が持たん)

 

「っ…!」

 

右から来た攻撃を上に弾いてから、懐へ潜り込もうとするが

 

「そう来ると思ってたぜ!!」

 

ハルバードを手放した西園寺に即座に反応され、右から来た回し蹴りを喰らい、鈍い音と共に壁に追突した。

 

「ごほっ…」

 

思わず咳き込むと西園寺は余裕の表情で

 

「おいおいどうした?

あの方から聞いた時は楽しみにしてたけど、ブランクあればこの程度か?」

 

余裕ある発言をし、それに対して俺の口元がニヤけてしまった。

 

「ん?何笑ってん」

 

西園寺は気づく気配が無かったが、すぐに気づくこととなった。

 

ブシュッ!

 

「!!」

 

「…おいおいどうした?

強いって言ってる割には、足に当てられた攻撃に気づけない程度なのか?」

 

「…やってくれんじゃねぇか坊主!!!」

 

今度こそ怒りを露わにした西園寺の追撃が来る。

そう思った瞬間

 

…バババババババ

 

外からヘリコプターの音が聞こえてきた。

しかし、どこが音が改良されていることに違和感を感じていると

 

「あ、やべぇ…。

俺の仲間が来ちまった…」

 

「仲間?」

 

疑問を抱くと同時に、西園寺はまたすぐに冷静さを取り戻し

 

「んまぁ…酷いなぁ。

今日はここまでかぁ…」

 

残念そうに頭を掻く西園寺。

するとヘリの音が大きくなるとガラス窓が割れると、西園寺は立ち上がった俺に対して

 

「あ、そそ。

ついでに教えておいてやるよ。

俺が坊主のことを知ってたのは、俺らの()()がオメェを随分と気に入っててな。

そりゃもう、出来れば殺すなっていう命令が出る程に」

 

「お前…俺のこと殺そうとしてたろ」

 

「顔写真無いから、間違って殺しちゃいました。

これで大体済む。

んなこたぁ置いといて…次会った時は、必ず殺すからな」

 

目に殺意を込めて、言葉に殺意を乗せて言い放った。

そして俺は

 

「あの女性みたいにお前が今までやってきたこと。

俺が殺すまで忘れるなよ」

 

「苦しんで死んでいった顔。

『やめろ』と懇願して殺した顔はよく覚えてるよ」

 

西園寺は最悪と思える言葉を吐き捨ててヘリに乗り立ち去っていった。

 

「…ボス…ね」

 

(…あとで姫に、ちゃんと葬式やってくれるように頼まないとな…)

 

そう思考していると段々ヘリの音が遠く聞こえてきた。




yamasan様 しろう様
S・maya様 黒乃彼方様
鍵姫(沙*・ω・)ゞ様

お気に入りありがとうございます。

い、14716文字…だと…!?
書いてたら1万5千文字超えそうだったので、ちょっと分けました。

次の話はすぐに投稿出来ると思います!


追伸
友希那が可愛過ぎたので、なんばマルイ行きます(今更感)

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