退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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FIRE BIRD良かったよ。
Ringing Bloomも良かったよ。

もうね、ソロパートがカッコ良過ぎてヤヴァイ(語彙力喪失)






第4話 返す居場所(1)

2月18日 22時58分

 

高層ビルの中層から、スコープ越しに向かいのマンションを覗く。

すると耳に付けた通信機から

 

『No,0。

標的が目的の部屋へ入った』

 

「確認した」

 

『くれぐれも手を抜いたり』

 

(余計な一言が多い…)

 

「集中出来ん。

切るぞ」

 

『!待て!』

 

何か言われる前に通信機をミュートにした。

人はうるさ過ぎると集中出来ない。

かといって、完全なる静寂した空間では雑音が無く、余計に落ち着かないという。

だが、今この空間は爽やかに流れる風と街から聞こえる聞き分けのつかない小音だけだった。

 

「…」

 

再度スコープを覗き、部屋を見ると3人の男が立っていた。

昼頃に姫に見せられた顔写真と一致している。

 

(そういや…あの特殊機関の奴。

家族が居るんだったな…。

それで脅されて特殊機関のデータを…)

 

そう思いながらスコープ越しに取引を見ていると男2人がデータを受け取った後、特殊機関の知り合いに何か話した。

すると男は急いで背を向けて玄関へと向かおうとした瞬間。

 

公安の1人が拳銃で男の背後から射殺。

壁で隠れて男の方はよく見えなかったが、血飛沫だけが見えた。

 

(さっさと終わらせよう…)

 

約1km離れた遠距離スナイプ。

ここは政府が用意したビルなので他者に音を聞かれることはない。

つまりそれは、俺にとって都合の良い場所であった。

 

(やっぱこの体勢ならマズルブレーキは必要なかったな…)

 

マズルブレーキ…銃や砲を撃った時の反動を抑える器械。

 

(まず公安の奴から…)

 

敵の頭部よりやや右斜め上に標準を合わせた。

そして引き金を迷うことなく引き、パシューンという鋭い音と共に男の頭を砕いた。

すぐさまリロードしてから照準を次の標的に合わせる。

狙撃銃から伝わる2度目の衝撃。

 

さっきまで動揺して腰が抜けていた元内閣府の老人がスコープ越しで首から血を流して倒れるのを確認した後、俺は通信機を拾い

 

「終わった。

処理はそっちに任せる」

 

一言だけ告げて再びミュートにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして翌日の朝

 

俺は学校へ行こうか迷っていた。

今行った所で、遅刻は確定だ。

なぜなら9時50分だから。

昨日は報告と説教で寝るのが2時間ほど遅くなった上に、目覚ましをかけ忘れていた。

 

皆勤賞なんてものに興味はない。

ましてや、明日明後日死ぬかも知れない命だというのに、学校なんてモノに時間を費やして良いのだろうか。

 

(てか、俺昨日人殺したばっかだから会いたくないんだが…)

 

などと考えながら今はベッドの上だ。

 

(サボるか…?

いや…でも…前に1回だけ友希那に怒られたし…)

 

「……学校行くか…」

 

すると

 

「お兄ちゃん!!」

 

バンッと扉が勢いよく開き妹が出てきた。

 

「うおっ!?

お前学校どうした!?」

 

「仕事で何やからしたの!?」

 

「は?

いや、昨日は何も失敗してないが…」

 

「だったらなんで!あたしの!パソコンに!

今日お兄ちゃんが海外へ移動する通達が来てんの!?」

 

「はぁっ!?」

 

「ていうかお兄ちゃん。

昨日、上の命令無視して狙撃したんだって?」

 

「うるさかったからな」

 

「しかも、あの嫌味と説教がやたら好きで有名な上司に向かって?」

 

「ああ」

 

「それじゃんっ!

多分それじゃんっ!」

 

「えぇ…。

でも、あの説教大好きオジさんにそんな力無いだろ。

それに、そんなこと出来るのは、せいぜい姫くらいだが…」

 

「…じゃあ、あのメールの説明出来るの?」

 

「出来んな。

ははっ」

 

「『ははっ』じゃない!

ミッキ○か!」

 

「お前それ存在消されるからやめろ!?」

 

「まぁ…とりあえずどうすんの?

今日出るなら、そのことお兄ちゃんの友達に言わなくても良いの?」

 

「…そう…だな…。

また怒られんのは嫌だからな…。

今日は普段通りに学校行くか…」

 

「遅刻も普段通り?」

 

「だとしたら俺の通知表の数字やばいな…。

あ、それとちゃんと発信源辿ってくれ」

 

「わかってる。

だからさっきから『ダヴィンチ』ちゃんがやってくれてるよ」

 

『ダヴィンチ』とは。

咲織が開発した自律型AIである。

検索をかければ大抵本人の意を汲んだように欲しい情報が来る。

 

G○○gle並みの情報量で、裏の情報にもアクセス出来るらしいが、他にも、自動逆探知、自動返信、GPSの自動索敵、自動ハッキングなど色々あるから、万能らしい。

 

とはいえ、全て咲織が自分の為に作ったので、本人の意を汲むのは当たり前といえば当たり前なのだろう。

 

「まぁ…『ダヴィンチ』ならすぐ終わるか」

 

「そそ。

だからお兄ちゃんは早く学校行ってきなさい」

 

「お前は行かないのか…」

 

「あたし、もう必要な出席日数取りに行ったから学校しばらく休む」

 

(こいつホント…)

 

咲織は漫画のようなセリフを言って部屋へと戻ろうとしたが、何か思い出したようで

 

「あっ、そういえばお兄ちゃんさ」

 

「ん?」

 

「なんでこの仕事続けてるの?」

 

「命令だから、だろ」

 

「違う違う。

そういうの無しで。

お兄ちゃん的な理由は無いの?」

 

「俺的な理由ってなんだよ…」

 

「あたしはお母さんから貰う小遣いが増えるからやってる。

お兄ちゃんはなんなの?」

 

「俺も金貰えるからで良いや」

 

「ちゃんと答えて」

 

「…さぁな。

まぁ、今日確かめてくる」

 

「?」

 

「さっさと自室戻って仕事しとけ」

 

「なんか腑に落ちないけど…。

まぁ、アレの元がわかったら後で連絡入れるよ」

 

「頼む」

 

そして妹が戻ってから、俺は怠い体で制服に着替えてカバンを持った所である事を思い出した。

 

(一応…連絡は入れておいた方が良いのか?

でも授業中だしな…)

 

少し考えたが、悪目立ちさせるのは悪いので連絡は入れないという選択を取った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

学校へ無事到着

 

(…1日くらい大差ないのになんで期限を急かすみたいに来るんだかな…)

 

そう思いながらも無人の下駄箱に靴を置き、上履きに履き替えて教室へ向かった。

 

教室の扉が見えて来る頃にチャイムが鳴る。

中で号令がかかるのが聞こえてから、扉を開けて中に入った。

 

多少注目されたが、そのまま席に向かうと日菜が何か企んでいそうな感じでニヤニヤしていた。

 

「何か良いことでもあったのか?」

 

そう言って椅子に座り、カバンを開けて教材を机の中に入れていると

 

「陽菜くん♪」

 

「なんだ」

 

「あたしが好きな人は誰でしょうっ☆」

 

「紗夜」

 

「そーだけどそーじゃないよっ!!」

 

「答えたらなんかあんのか?」

 

「あたしが喜ぶっ♪」

 

「なんもねぇ…」

 

「なんでっ!?」

 

「てか、次移動教室じゃねぇか…。

早く移動するか…」

 

「まだ時間あるよ?」

 

「どうせ先生に何か言われるだろうからな。

その前に言ってくるだけだ」

 

「ふーん…。

じゃあ!あたしも付いて行こーっと♪」

 

「…構わん」

 

そして先生に説明した後は普通に授業を受け、昼休みになるのを待った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

昼休み

 

それはいつもと同じ光景だった。

目の前にある枯れた大きな木が蕾を付けているのを、眺めながらも、俺は木の目の前にある校舎にもたれかかって座っている。

ぼーっとしながら木の背景に青空を写して眺めていると

 

「如月」

 

「…!

あ、友希那か…」

 

「?どうしたの?」

 

「何が?」

 

「ぼーっとしていたけれど…。

何かあったのかしら?」

 

そう言いながら隣に座る友希那。

 

「…桜の木を見てた」

 

「そう」

 

ザァーと風の吹く音が通り過ぎた頃、俺はまた何も考えずにぼーっとしていた。

すると

 

「如月?」

 

「…ん?」

 

「本当に大丈夫なのかしら?」

 

「…大丈夫だ」

 

「…そう」

 

友希那はそう言うと布に包まれた弁当箱を渡してきた。

 

「まずは、お昼ご飯を食べなさい」

 

「…そうするか」

 

俺は弁当を受け取り、腹8分ほど膨らませた。

前回食べた時より少し味付けが変わっている辺り、友希那も少しずつ成長しているのがわかる。

そしてしばらくして食べ終わったので弁当を布で包んだ。

 

「ごちそうさま、美味かった。

それと、ありがとう」

 

友希那に箱を返すついでにお礼を言うと友希那は弁当箱を受け取った後に

 

「ねぇ如月」

 

「?」

 

「あなた…目の下にクマが出来てるわ」

 

「えっ?」

 

手で目元を確認してから

 

「あー…昨日の夜のヤツか…」

 

自分の口から呟いていることに気づくと友希那が首を傾げて

 

「昨日の夜?」

 

「……まぁ、ちょっとした夜更かししててな…」

 

「っ…そう……」

 

ふと友希那が悲しそうな寂しそうな表情を見せた。

 

「どうした?」

 

「…別に…なんでもないわ。

ただ、程々にしないと今日みたいに遅刻するわよ」

 

「っ…」

 

(言うべき……なんだろうか…。

…いや…今言えば、日菜みたいになる可能性がある…。

あの時は、アイツらが居てくれたから助かっただけだ。

二度目の奇跡は無い)

 

そう思った俺は友希那に少しでも感づかれる前に

 

「なぁ友希那」

 

「?」

 

「最近Roseliaどうだ?」

 

「?普通よ」

 

「……もうちょい詳しく頼む」

 

「そうね…。

リサは…クッキーを焼いて来てくれるから、休憩時間になれば、みんなに配ってくれるわ。

…いつも誰かさんの分は余っているみたいだけど」

 

「それはすまんかった…」

 

横目で見られ反論の余地もなく謝ると、友希那は少し微笑んだ後に

 

「紗夜は…いつも通り、あことリサを注意していたりするわね」

 

「友希那は注意されないんだな…」

 

「されないわよ。

…あまり…」

 

「あまり…ね。

なんだ…友希那も注意されるんだな」

 

「あなた程じゃないわ」

 

「う…む…。

それを言われたら何も言えんな…」

 

「ふふ。

そういえば、あこも早くあなたに会いたいと言っていたわよ」

 

「はは…」

 

(無理そうだなぁ…)

 

「…あこは元気か?」

 

「ええ。

いつも元気過ぎるくらいよ。

燐子も少しずつ変わろうとして、今はコンビニでの買い物を1人で出来るように頑張っているわ」

 

「それは良いな。

もしかしたら、Roseliaの中で1番成長するのは燐子かもな」

 

「そうかしら?

みんな、いずれ対等に渡り合えるほど成長するわ」

 

「…それは楽しみだな」

 

(…その成長を間近で見ることは叶わないかも知れない。

それでも、やっぱり成長して俺を超えてくれたら嬉しいか…)

 

「なぁ友希那。

バンドは楽しいか?」

 

「…私は…まだちゃんと、言えないわ」

 

「自分が未熟だからか?」

 

「ええ…。

だから、いつか私が心の底から『楽しい』と言えるまで待ってちょうだい。

その時は、必ずあなたを鳥籠から出してあげられるはずよ」

 

しっかりと目を見て話す友希那の頭にポンっと左手を置いた。

 

「!如月?」

 

「待ってる」

 

(俺が仕事を続けてる理由…か。

そんなの、守りたい存在が増えたからって理由だけで充分だな…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

「友希那ー♪

一緒に帰ろー☆」

 

終礼が終わるとリサが迎えに来た。

友希那はカバンを持ってから陽菜の席を見ると、もうそこには陽菜の姿が無かった。

 

「友希那?」

 

「…なんでもないわ。

行きましょう」

 

そうした帰り道にリサが暗い表情を見せる友希那に

 

「…ねぇ友希那。

何かあったの?」

 

「えっ?」

 

「なんか暗い感じだったからさっ。

もし良かったら、アタシが相談に乗るよ?」

 

「…そうね。

今日の昼休み…如月に嘘をつかれたわ」

 

「ええっ!?」

 

「如月とは長く付き合って来たから、少しわかるようになって来たわ…。

嘘を隠すための嘘…と言ったらわかりやすいかしら?」

 

「嘘を隠すための嘘…かぁ…」

 

(陽菜も、アタシたちを()()から守ろうとしてるのはわかってるんだけど…。

その何かがわからないからなぁ…)

 

「でもさ友希那」

 

「?」

 

「これってアタシの予想…っていうか見解なんだけど。

陽菜っていつも自分の為じゃなくて、誰かのために動いてるじゃん?

だから、もしかしたら今回もそういう風に動いてるんじゃないかな」

 

「…わかっているわ。

だから嫌なのよ」

 

「?嫌って?」

 

「如月はいつも誰かのために動いている。

けれど、それは裏を返せば自分のために動いたことがないということよ」

 

「そっか…。

友希那はそういうの嬉しくない?」

 

「嬉しくないわ。

自分を傷つけてまで助けられる義理はないもの」

 

「…そっか…」

 

(友希那は、陽菜が傷ついてまで自分が守られるのは望んでない。

でも、陽菜は…そこまでして助けちゃうんだよね…。

きっと…また…自分だけ傷ついて…)

 

「リサ?」

 

「!ううん。

なんでもないよっ!

あっ!CiRCLE見えて来たし、早く行こっか☆」

 

「……そうね」

 

お互いこれ以上は何も言わず、そのまま練習へと入っていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕陽が沈み、静寂な夜が来た頃。

俺は空港へ来ていた。

 

そして検査で引っかかり、待合室に連れて行かれ、今は椅子に座って入り口に立つ背後の警備員2人に監視されている。

 

(なんか…めっちゃ睨まれてんだけど…)

 

そう思っていると奥の扉からサングラスをかけた黒服さんがやってきて、奥の方へと誘われた。

しばらくすると、1つの機体が見えてきた。

 

(プライベートジェット機とは…。

わざわざ費用のかかることを…)

 

そう思っていると案内役の黒服さんが

 

「準備はよろしいでしょうか?」

 

「…ああ」

 

「では、中へどうぞ」

 

(居場所が無かった俺に、友希那はRoseliaという場所を与えてくれた。

でも、もう返しても良いよな…?)

 

俺は感謝しながらも最期を迎えるために日本を離れた。




ヴェルレイン様 ノギウズ様
普通の石ころ様

お気に入りありがとうございます。

やっと本番入る…。
4.5章の物語が進むのはここからです。

それと、タイトルの(1)はちゃんと意味があるので、そのまま置いておいてくだされ。

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