退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第5話 暗躍するタイムリミット

友希那たちには黙って海外に向かった。

しかし、後悔しても、もう今は雲の上。

俺はやる事もないので、寝ることにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同刻 日本 芸能事務所

 

「あー…疲れたよぉ…」

 

着替え終わった日菜がぐったりと机にうつ伏せになる。

 

「ふふ。

お疲れ様、日菜ちゃん」

 

その隣に座る彩が労いの言葉を送るとガチャ…と扉が開き、千聖が入ってきた。

 

「あっ、チサトさん。

おかえりなさいですっ」

 

イヴが声をかけると千聖は真剣な表情をしたまま口を開いた。

 

「イヴちゃん。

それとみんなも。

少しだけ時間良いかしら?」

 

『?』

 

「どうしたんすか?千聖さん」

 

「事務長が呼んでいるわ」

 

「事務長が!?」

 

「なんでー!?

早く帰りたいのにぃ…!」

 

「私にもわからないわ。

でも、呼ばれたからには意味がある。

とにかく行ってみましょう」

 

そうして千聖は全員を引き連れて事務長室へと向かった。

しばらくすると部屋に着き、ノックをしてから中に入った。

 

『失礼します』

 

声を揃えて言い、ドアを開けると椅子に座った綺麗な茶髪を持つ女性が居た。

そう、事務長だ。

そして千聖は事務長に

 

「私たちが呼ばれた理由はなんでしょうか」

 

と尋ね、それに事務長は頬杖をついて

 

「そうねぇ…。

簡潔に言えば、あなた達の近くに『ある男の子』が居るでしょう?

その子との接点を絶って欲しいの」

 

『!!』

 

困ったように言うと日菜が

 

「えー!?なんでー!?

陽菜くんと話したら、るるんっ♪ってするよ?」

 

そう言い、事務長はため息を吐いてから

 

「残念だけど、そういう問題じゃないのよ日菜ちゃん。

アイドルはスキャンダル禁止。

それはみんなも理解しているわよね?」

 

「それはわかってるけどさー…」

 

「なら、それを理解した上で守りなさい。

それに、あなた達の学校にもファンが居ることを忘れないで。

先週、そのファンが少しばかり学校でのあなた達とその子のことを書いたことがネットに上げられていたわ」

 

『えっ!?』

 

「どれもその場に居ないと確証を得られなく信憑性が無い上に、プライバシーの権利に関わるから消されたけれど…。

もし核心をつくような文面があったら、大問題になっていたかも知れないの」

 

『……!』

 

「これ以上の危険を侵すのはやめなさい。

今、全盛期を迎えているあなた達に、スキャンダルなんてモノは好ましくないの」

 

『……っ』

 

「と言うわけで、あなた達はしばらく『陽菜くん』との接点を絶ちなさい。

もし何かあったらこっちとしても()()()大変になるから、関わっちゃダメ」

 

「それは…個人的にも、ですか?」

 

「もちろんよ。

私にはそこまでの力は無いけれど。

その人に関して個人的にもアイドル的にも関わっちゃダメ。

もし関われば、()()()()に止められることになる。

あなた達を守るにはこうするしかないの」

 

「…わかりました」

 

『っ!!?』

 

「ち、チサトさん!?」

 

「わ、わかったって……。

これで良いんすか!?」

 

「仕方ないわよ。

あの人とのスキャンダルなんかで、この仕事を終わらせたくないもの。

ほら、夜も遅いし帰るわよ」

 

千聖はそう言うとイヴと日菜の背中を押し、事務長に目線を送ってから

 

「それでは、事務長失礼します」

 

そう言ってドアを閉めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「千聖ちゃんっ!」

 

帰り道に声をかけられて振り向く。

するとミニバッグを持った彩が息を切らしていた。

 

「はぁぁ…やっと追いついた…」

 

「ど、どうしたの?彩ちゃん」

 

「あのね…!

その…千聖ちゃんが、あんなにすぐ諦めたのには、他の理由があるんだよね?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「だって、あの別荘までみんなを引っ張って行った千聖ちゃんが、そう簡単に諦めるわけないから」

 

「!……そうね。

……理由は…他にあるわよ」

 

「!それって…どんな?」

 

「さっき、事務長が言っていたでしょう?

私たちが下手に動けば、スキャンダルを建前に天皇に捕らえられると」

 

「えっ…?」

 

「さっきの事務長が言っていた『あなた達を守るにはこうするしかない』。

アレは私たちが下手に動けば、天皇に囚われるということでしょうね」

 

「ええっ!?」

 

「大方、私たちが陽菜関連で動かないよう天皇が圧力をかけているんでしょう。

だから、事務長は私たちを守るために陽菜との接点を無くそうしているの」

 

「!!」

 

「良い?彩ちゃん。

絶対に陽菜に関わってはダメよ」

 

「でも…」

 

「予想よりも早くに先手を打たれたわ。

もう私たちは動くことが出来ない」

 

「それでもっ!

陽菜くんはどうなっちゃうの…?」

 

「そこはまぁ…情けない話。

他力本願になるでしょうね。

後は、他の子たちに任せましょう」

 

「…そっか。

私たち何もしてあげられないんだね…」

 

気を落としているのが丸わかりの彩を見た千聖は

 

「それは…どうかしらね。

今は無理でも、あの人が帰って来た時に、何かしてあげられるんじゃないかしら?」

 

「!そっか…!

そうだよねっ!」

 

「それじゃあ、その時まで大人しく待っていなさい」

 

「うんっ!」

 

(なんだか…子犬みたいね…)

 

素直に納得する彩を見て不覚にもそう思った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方で、その頃の海外では

 

無事に着くと車が用意されており、そのまま俺を呼び出した親父さんの所へ運ばれた。

 

高層ビルが立ち並ぶ地域に、1つだけ異質な雰囲気を放つ黒い高層ビル。

 

そこに入ってエレベーターで最上階まで上がると、だだっ広く薄暗い空間が目の前に広がっている。

 

壁の横に付けられている明かりは、映画館にでも使われてそうな薄い光が部屋を照らしていた。

そして電気が点けられ、部屋全体が見えた瞬間に

 

「オラァ!!」

 

その掛け声に見合う勢いの飛び蹴り。

右から来た蹴りを腕でガードすると薙ぎ払われそうになる。

 

「…っ!」

 

しかしそのまま振り切られ、数メートルをスライドした。

 

「…いきなりなんだオウガ」

 

「ちっ…骨くらいは折れてると思ってたのによぉ。

元気そうじゃねぇか」

 

「本番前に折ってどうすんだよ…」

 

腰に手を置く黒人のオウガ。

そしてその背後にもう1人影が見えた。

 

「また会いましたね、陽菜さん」

 

「!」

 

腰に銃を武装しており、俺とは正反対の色をした真っ白な髪を持ち、ついでに言うと片手にカロリーメイト(チョコ味)を持って食べる真紀(まき)

 

「陽菜さんも食べますか?」

 

「いや…要らん…」

 

「そうですか。

美味しいのに…」

 

ムシャムシャとカロリーメイトを食べているこんな彼だが、約3年前に同じ任務を遂行した事がある上、俺が特殊機関の中で信頼している数少ないNo,(ナンバー)だ。

 

ここでふと、別荘で姫が話していた『日本からの特殊機関が俺を除いて2人ほど来る』と聞いていたのだが、この会場には俺含めて3人しか居ない。

 

(オウガは元から日本に居ない。

日本からの特殊機関は真紀と俺で2人…。

てことはあと1人は居るはずなんだけど…)

 

そう思っているとエレベーターの扉が開いた。

俺はその時、中から出て来た2つの刀をぶら下げた1人の少女にギクッとした。

すると少女と目が合った瞬間

 

「なっ…!

あ、あなた…は…!」

 

「えーっと…名前は確か…。

宮本 ()()()…だったよな?」

 

そう。

いつの日か、イヴに連れられて剣道部の見学に行った時、そこの部長を務めており、身長があこくらいの子であった。

一応、学校では先輩にあたる…。

 

(しずく)ですっ!!

それじゃあ、ど○森の秘書じゃないですか!」

 

「冗談だ」

 

「んなっ…!

い、いえ…それよりも!!

どうして、あなたがここに居るんですか!?」

 

「俺も特殊機関の1人だから。

こう言えば納得出来るか?」

 

「なっ……それじゃあ、あなたのナンバーは?」

 

「No,0」

 

「ゼロッ!?

それって、仕事出来るかどうかもわからない人が付けられるランクじゃないですか!」

 

「俺が得意なのは、狙撃と体術の2つくらいだからな。

お前らみたいになんか極めてる訳でもないから、仕方ないだろ」

 

「!総司令!

こんなナンバーの人に任務を遂行させるのは危険です!!」

 

(そこで親父さんに振るのか…)

 

すると

 

「今回の任務にソイツは入れる。

これは決定事項だ」

 

「っ…!!」

 

親父さんは意外にも否定はしなかった。

 

「とにかく、全員集まったな。

それでは、始めるぞ」

 

親父さんの威圧を感じ並んだ。

 

「今回はテロだ。

それも、少しばかり面倒な」

 

すると大きなスクリーンにプロジェクターでグラフが映し出された。

 

「テロリストの戦力は約1000人。

場所は、モスクワの森林奥にあるトンネルだ」

 

「トンネル?」

 

「見かけはトンネルだ。

元は中で掘った資源を運ぶための貨物車が通っていた場所だからな。

今は使われなくなったそこを拠点としている」

 

「んじゃ、中にでっかい空洞でもあんのか?」

 

オウガの質問に親父さんは頷いた。

 

「そして当然。

そこの入り口と内部には、それぞれ手練れの武装集団がはびこっている」

 

「はぁ…。

それで、テロリストの正体は?」

 

「テロリストの正体は、約3年前に起きた戦争の敗残兵だ」

 

「3年前?」

 

「ああ。

10月中旬から、その年を越すまでに起きた戦争。

つまり、3年前にお前と真紀が止めた戦争だ」

 

(…第1回ガルパのすぐ後だったから、本当にシンドかったな…)

 

あの頃を思い出していると親父さんは話を進めた。

 

「今回のテロは、会議をしている日本の頭を完全に抑え込んだ。

こうやって話している今も、テロリスト共は新型ドラッグを使って日本の国民を人質に取っている」

 

(あぁ…あの気持ち悪くなるやつか…)

 

「おそらく独自で開発したものだろう。

テロリスト共は、自分たちの要件を飲まなかった場合、それを日本の国民に無差別に投与すると言っている」

 

「…なるほど。

まぁ確かに、日本には痛みを感じさせない注射器とかあるからな。

満員電車とかでも投与する機会は幾らでもある」

 

「手段はそれを使うだろうな。

無差別なら特殊機関でも半数しか防ぎようがない」

 

(それでも半数なのか…)

 

特殊機関に何人の人間が居るのかは俺も知らない。

だが、半数も防げるのならそれなりの数は居るという事なのだろう。

 

「うむ…。

それじゃあ、テロリストの目的は?」

 

「すでに姫の所で聞いているだろう。

目的は不明だ。

だが、日本が持つ『何か』と取引しようとしているのは確かだ」

 

するとオウガが耳を掻きながら

 

「まどろっこしい。

要するに敵のアジト突っ込んで全員始末すりゃ解決すんだろ?」

 

「簡単に言えばそうなる。

そして、お前らに知って置いて欲しいのは、ここまでがテロリストと政府の話だ」

 

「あん?どういうこった?」

 

「…個人的な話もあるということだ。

これを見てみろ」

 

そしてスクリーンに映し出されたのは丸い円だった。

しかし、奇妙なデザインが施されており、左半分は月、右半分は太陽という分け方をされていた。

 

「これは…なんですか?」

 

雫が聞くと真紀が、どこから取り出したのかわからないポテチの袋を開けて食べながら

 

「これはテロリストの人から直接特殊機関(こっち)に送られてきたメッセージだよ。

あっ、これ美味い。

確か…[満点の星空の下、中空の満月の明かりと共に、名乗りを上げよ]だったかな?

やっぱり美味い

 

「?満点の星…?

一体なんのことですか?」

 

「それは僕らにもわからないんだよね。

何味だこれ?

これで得られたのは敵の位置情報だけだから。

コンソメかぁ…初めて食べたなぁ…

 

「はぁ…?

では、あなたは何かわかりますか?」

 

雫のスルースキルレベルはおそらくカンストしているのだろう。

そして俺はこちらに振られたが、すぐに

 

「さぁな…わからん」

 

と言って首を横に振った。

すると親父さんが

 

「陽菜。

お前は何故、天皇の子が狙われたと思う?」

 

「?何をいきなり」

 

「天皇の権力以外にも理由がある。

そしてそれは、まだ達成されていない。

これは俺の推測だが、おそらくテロリスト共が本当に殺したいのは天皇の子では無い」

 

「!!」

 

(目的は姫の権力じゃなかった…?

じゃあ一体何が目的で襲撃なんか…)

 

そう思っていると親父さんは何やら神妙な顔で

 

「今は日本の特殊機関が見張っているため、まだそう危なくはない。

だがいずれ、お前が覚悟を決める日はそう遠くないだろう」

 

「?それは一体どういう」

 

「今は敵アジトの殲滅が優先だ。

任務開始時刻は2日後、21日の午後9時。

それまで、各自準備をしておけ」

 

「「はい」」

 

律儀に返事をした真紀と雫だった。

俺は『わからない』という不安要素を抱えながらも用意された部屋へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

自室に入るや速攻でベッドに身を委ねた。

 

(一旦整理するか…)

 

そして天井を見上げて疲れを取りながら考えに入った。

 

(まず…日本での襲撃は姫の『何か』を狙ったもの、もしくは別の目的の為に姫を捕らえようとした。

そんで、こっちでは、テロリストがクスリを使ってまで日本の『何か』と取引しようとしている。

その『日本の何か』ってのは『姫の何か』とは別なのか、一緒なのか)

 

「うーむ…。

これはまだ…わからんな…」

 

(とりあえず、武装集団約1000人相手に4人は()()()もするが…。

その分俺が楽だから良いか…。

それに、相手を捕まえて情報さえ吐かせれば、問題無いんだろうけど…。

って…いやちょっと待てよ俺…?

普通にテロリストの要求がなんだったのか、親父さんに聞くの忘れてね?)

 

「はぁぁぁ…。

馬鹿か俺は…」

 

(まぁ…目的もわかんねぇのに考えてもなぁ…)

 

そう思うとふと別荘であった出来事を思い出した。

あの対峙した男が言っていた『ボス』という存在。

 

しかし、そのボスも男なのか女なのかもわからない。

わかっているのは、何故か俺は敵のボスに気に入られているという事だけだ。

 

(…俺が昔撃ち漏らした敵か。

それか、面倒なストーカーor変態か。

もしくは、どこかで俺に恨みを持つ奴か。

或いは……友人…)

 

「ってことは流石に無いか…」

 

(友人…か。

今頃、アイツらどうしてるかな…)

 

時間を見るとちょっと11時を回った頃だった。

 

(まぁ…寝てるか…音楽のこと考えてるか…。

はたまた、仕事してるか…のどれかだな。

嘘吐いたこと…隠し事してたこととか…謝ったら許してくれるかね……。

……いや…バレたら確実に怒られるな…)

 

こんなことを思ってはいるが、同時に『だったら話しとけよ』と思う自分がいる。

 

(だが、それはダメだ…。

自惚れかも知れないけど、話せばきっとアイツらは俺を助けようとする。

俺はそれが…何よりも怖い…。

第1こんな穢れた世界を見せたくない…。

こんな世界を見て、バンドに支障が出るのも怖い…)

 

だと言うのに、心の中では孤独を感じて嫌になる。

 

「…全く…中途半端だな…」

 

そうして俺は風呂に入った後、ベッドに潜って今日を終えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2月20日 日本

 

「今日は陽菜くんと何のお話しよっかな〜♪」

 

昨日の夜に注意されたというのに話す算段を考える日菜。

 

しかし、昨晩のことを知らない紗夜にとってはいつも通りのパジャマを着た日菜の姿だった。

 

「あ〜んっ」

 

机の上に置かれた2つのハムエッグトーストを手に取ってサクッと食べる日菜。

 

「如月さんと話すのは良いけれど、あまり困らせないようにね。

それと…はい、これ」

 

そして既に制服姿の紗夜は、2つのマグカップにお茶を入れてテーブルに置いた。

 

「あっ!ありがとー♪

でもね、おねーちゃん。

陽菜くんって返し方が変わってたり、予想通りだったりするから面白いんだよー☆」

 

「…そういうことでは無いのだけれど…」

 

言い直そうとしたが、朝から明るく元気に食べる妹を見て、紗夜はやれやれ顔で見過ごした。

そして

 

「まぁ良いわ。

それよりも…」

 

「?」

 

「一昨日、あなたが帰ってきた時。

あの水色のワンピースについて何も説明が無かったけれど、アレはどうしたのかしら?」

 

すると日菜は困り顔で笑顔を作ってから

 

「えっとねー…。

これ聞いたら絶対におねーちゃん怒る…よ?」

 

「…話してみなさい」

 

「怒らない?」

 

「話の内容に寄るわ」

 

「ええー!?

それ絶対に怒るじゃんかー!」

 

「良いから、話してみなさい」

 

姿勢の崩れない紗夜に観念した日菜は、別荘でのことを包み隠さずに話した。

意外にも3分ほどで別荘の話は終わり、紗夜はそれに対して

 

「……」

 

考え事をするように難しい顔で、無言になってしまう。

それも仕方がない。

自分で説明を求めたが、全てにおいて信じがたい話だったからだ。

すると紗夜はマグカップを手に取ってお茶を飲んだ。

 

「おねーちゃん?」

 

日菜が心配そうに声をかけると

 

「…大体は理解したわ。

要するに、あなたが着ていた服は血まみれになって、今はその天皇という方に預けている。

そういうことね?」

 

「うんっ!」

 

「はぁぁ…」

 

大きく深いため息を吐く紗夜。

 

「…どういうわけか…。

如月さんはその天皇さんとも何かしらの繋がりを持っていて、日菜を助けてくれた3人の方々とも知り合いのようね」

 

再確認を取ると日菜は黙って頷いた。

そして紗夜は

 

「如月さんの正体は…国家公務員…?

いえ…公務員ではないわね。

なら、天皇の下で働いている…ということかしら?」

 

「……!!」

 

意表を突かれたように口を開けて驚く日菜。

 

「ど、どうしたの?

やっぱり、この考えはおかしいのかしら?」

 

「ううんっ!

7割くらい当たってる!

やっぱりおねーちゃんすごいっ!!」

 

「!別に…これくらいちゃんと考えれば誰でもわかるわよ…。

それで、7割というのは、天皇の下で働いているという所ね。

あなたはそれをどこで知ったの?」

 

「陽菜くんの妹ちゃんから聞いたよ?」

 

「そう…。

詳しい話は如月さんに聞くとしましょうか」

 

「はーいっ♪」

 

元気な返事をしてからトーストをパクパクと食べる日菜の姿を見た紗夜が

 

「それと日菜」

 

「?」

 

「食べ終わったら早く着替えて来なさい。

もう時間ないわよ」

 

「えー!?

おねーちゃん一緒に行こーよー!」

 

「どうしていつも顔を洗ってから着替えないのかしら…」

 

「だってお腹空くからぁ…」

 

「とりあえず、早く制服に着替えて来なさい。

5分だけなら待ってあげるから…」

 

「やったぁ!

すぐに戻ってくるから待ってておねーちゃん!」

 

日菜はダッシュで自分の部屋へと向かっていき、残った紗夜は皿に乗せた1枚のハムエッグトーストを食べた。

 

(全く…如月さんには色々と聞かなければならないようですね…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

学校 2-Bの教室

 

「?」

 

日菜は入ると早々に陽菜が来ていないことに気づいた。

 

(んー…また遅刻かな?)

 

そう思いながら自分の席に着くと、担任が入って来て朝のホームルームで名前を呼ばれていく。

 

「川崎くん」

 

「はい」

 

「えーっと…ああ、そうか」

 

担任は何やら思い出した後続けて

 

()()()()

 

「はい」

 

担任は『熊谷さん』と確かにそう呼んだ。

 

「「?」」

 

それを聞いていた2人がピクッと反応した。

その前に呼ばれるはずの特別な友人が呼ばれていなかったのだから当たり前である。

すると日菜が

 

「…せんせー!

陽菜くんの名前呼んでないよー?」

 

疑問に思ったのであろう。

手を挙げて言うと担任は

 

「あぁ…。

如月くんは、今連絡が取れなくてね。

ご家族とも連絡が取れないため、欠席扱いとして飛ばさせてもらった」

 

「えっ…!?」

 

(陽菜くんが…来てない…)

 

そう思った途端、冷や汗が出た。

それと共に

 

「如月って誰?

そもそんな奴このクラスに居たっけか?」

 

「それってタッちゃんが前に『あいつイジメようぜー』

とか言ってた奴じゃなかったっけ?」

 

「あー…オレそんなこと言ったか?」

 

「言ってた」

 

「…そういや、なんか隅っこの方で地味に居たな。

つーか、しょうみそういう奴は居なくなってくれた方がマシだわ」

 

「わかるわぁ。

ああいう奴って、一緒の空間に居るだけで場がシラケるよな」

 

「陰キャは陰キャらしく、家に引きこもっとけって話」

 

「それ言えてる」

 

悪意を主成分にした言い方でコソコソ話して含み笑う1部の男子生徒。

それとは別に

 

「如月くん…って誰だっけ?」

 

「ほら、いつも日菜ちゃんと一緒に居る。

あのー…目つきの悪…鋭い()()()の…」

 

「あー!居た居た。

でもなんで急に?」

 

「さぁ?

でも、前から暗かったし、家族とも連絡が取れないってことは…。

もしかして…家族心中とか…?」

 

「無い……とも言い切れないけど…。

あんま話したこと無いし、わからないね」

 

「そだね」

 

コソコソと聞こえてくる女子の声。

そしてHRが終わろうとした時に担任が

 

「ああ、そうそう。

お前らに取っては嬉しいニュースだ。

明日から次の週が来るまで休校になる」

 

『おおっ!』

 

「だから、その間の課題をやろう」

 

『はぁっ!?』

 

「ほれ、クラス委員長。

みんなに配ってくれ」

 

少なめの課題プリントを渡されて、HRが終わった。

そして周りが少しザワザワしている中、1時間目が始まった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1時間目が終わり、号令が済んだ後。

日菜が真っ直ぐに向かったのは友希那の所だった。

 

「友希那ちゃん!」

 

「?何かしら?」

 

「色々怒りたい!

でも、そんなことより陽菜くんが来てないっ!」

 

「そうね。

私もさっきのHRは少し腹立たしかったわ。

それと、連絡は私も気になってさっきしてみたけれど、何も返ってこないわよ」

 

「さっき?」

 

「あの先生が如月と連絡が取れないと言っていたから、その時にメッセージを飛ばしてみたの。

既読は今も付いていないけれど」

 

「ああっ!」

 

「?」

 

「あたしもそうすれば良かったぁ!」

 

すぐに連絡するという手段を忘れていたことに後悔する日菜。

 

「日菜…あまり大きな声を出さないでちょうだい。

周りから見られているわ」

 

「?」

 

しかし日菜は周りから見られていても「なんで?」と言いたげにしているので、友希那は諦めた。

 

「いえ…やっぱりなんでもないわ。

それより、珍しいわね」

 

「?何が?」

 

「そこまでして、如月と連絡しようとする理由よ。

いつもと同じように遅刻しているだけかも知れないというのに」

 

「それは…!」

 

言葉に詰まる日菜。

教えてしまっても良いのだろうかという考えが()ぎる。

すると友希那がため息を吐いた後

 

「…()()()()、私が何かに触れそうになると、隠し事をするのね」

 

「!」

 

友希那にそう言われ、ビクッとする日菜。

 

「如月もそうだわ。

私が核心に近づくようなことには絶対に触れさせない」

 

「っ……!」

 

「日菜。

あなたがそんなにも焦っているのは、今如月に何か起きているということかしら?」

 

友希那は日菜の目を見て聞いた。

不思議と目を逸らせない日菜は

 

「…今はわかんないけど…。

もしかしたら、これから陽菜くんにそういうことが起きるかも知れない…」

 

すんなりと話した。

 

「……そう」

 

友希那は一言口にすると教科書類を机の上に置いた。

そして

 

「…日菜。

私は、中途半端な覚悟で如月と関わりたくないの。

だから、何か知っていることがあるなら全て話してちょうだい。

あなたが話せないのなら、如月の話を聞いた場所を教えてちょうだい」

 

「!それって…陽菜くんを探してくれるの?」

 

「?ええ」

 

「ホントにっ!?」

 

何故か嬉しそうに手を握ってくる日菜。

 

「え、ええ…」

 

「やったぁ♪

あたし、今事務所の人から陽菜くんと関わっちゃダメって言われてるんだよねー…。

学校なら話せると思ったんだけどなー…」

 

「?…?…?

言ってる意味がよく理解出来ないのだけれど…」

 

説明を求めようとする友希那だったが、日菜が

 

「わかった!

それなら、咲織ちゃんに聞くのが良いよっ♪」

 

「咲織…?

如月の妹さんかしら?」

 

「そそっ♪

あたし達も妹ちゃんから聞いたからっ☆」

 

「?あなた以外に知っている人が居るの?」

 

「パスパレのみんなは知ってるよ?

それで、陽菜くんの居る所に行って危ない目にあったから、事務所の人に関わっちゃダメーって言われたんだー」

 

肩を落として露骨にガッカリする日菜。

 

「…如月が何か危険なことに関わっていることは理解したわ」

 

(全く…如月は一体何をしているのかしら…)

 

呆れながらも彼を思い浮かべているとチャイムが鳴った。

 

「それじゃあ、友希那ちゃん。

後は頑張ってねっ♪」

 

「ええ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後

 

結局、陽菜が学校へ来ることは無かった。

送ったメッセージにも既読が付かない。

 

「……」

 

送ったメッセージを見ながら歩く友希那。

すると後ろから

 

「ゆーきーなっ♪」

 

背中を知っている手でトンッと押されて振り返るとリサが居た。

 

「リサ…」

 

「まーた暗い顔してる。

もしかして、今日陽菜が来てなかったから?」

 

「!リサどうしてそれを…」

 

「ヒナから聞いたよー。

陽菜と連絡取れないって泣き付かれちゃって。

それで、友希那は何を悩んでたの?」

 

「別に、なんでもないわ」

 

「あははっ☆

友希那ってば、陽菜の口癖が感染(うつ)ってるよ♪」

 

「!」

 

「陽菜もよく『なんでもない』って誤魔化してたからねーっ☆

友希那とは幼馴染だからすぐにわかったよ♪」

 

「…そう」

 

「それで、どうしたの?

悩みがあるなら相談してくれて良いからさっ♪」

 

「…今日如月が学校へ来ていなかったでしょう?」

 

「うんっ」

 

「だから、少し気になっているの」

 

「陽菜のこと心配?」

 

「…そうね」

 

そして友希那は

 

「今日…Roseliaの練習は無い。

だから、今から如月の家へ向かうわ」

 

「えっ!?」

 

「如月を引き止めるわ。

もし如月が家に居ないのなら、お家の人に居場所を聞く。

話はそれからよ」

 

「そっかそっか♪

なら、アタシも友希那について行くよっ☆」

 

「そう」

 

そうして友希那たちは如月家へと足を運んでいった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

如月家が見えてくると同時に家の前に3人ほど影が見えた。

 

「…燐子?

それに…紗夜にあこまで…」

 

「!友希那さん…今井さん…?」

 

「こんな所で何をしているの?」

 

友希那が尋ねるとあこが真っ先に答えた。

 

「前までは陽兄ぃ、ちゃんと練習に来てたのに最近来ないから、あこ気になって来てみたんですっ!」

 

「わ、わたしも……それがずっと気になってて…。

それに、今日陽菜さんが…『学校に来てない』と。

日菜さんが…白鷺さんに話していましたから…」

 

燐子も理由はあこに似ていた。

すると紗夜は

 

「湊さんと今井さんも、如月さんの件について来たのではありませんか?

ここに来るということは、おそらく同じ理由でしょうから」

 

友希那とリサが来た理由を見透かしたように言い当てた。

 

「みんな考えることは一緒という訳ね。

それで、お家の人はどうしたの?」

 

「それが…私も今しがた着いたのですが…。

どうやら家の人は留守のようです。

ただ…」

 

「ただ?」

 

紗夜が何やら言いにくそうにしていたがすぐに口を開いた。

 

「あれを見てください」

 

そう言って紗夜が指したのは家の扉だった。

 

「「「「?」」」」

 

不思議に思いながら見ていると

 

「あっ…」

 

燐子は小さな声をあげた。

 

「あれ…玄関の扉が…ほんの少し開いています…」

 

「ん〜〜…?」

 

あこは目を凝らして良く見ると、扉が完全に閉め切っていない状態が見えた。

 

「あっ!ホントだっ!

ちゃんと閉まってない!

なんで!?」

 

あこが驚きの声を出すとリサが

 

「こ、こういう時って警察…だよね」

 

呟くように言った。

しかし紗夜がそれに対し首を横に振った。

 

「それが、どうやらここでは出来ないようです。

私もかけようとしましたが、何故か圏外になってしまいました。

多分、この辺りだけでその異変が発生しているようです」

 

「圏外…って、いやいや紗夜?

ここ街中だよ?

そんなことあるわけ…」

 

リサが信じがたい話をされて、サッとスマホの通信状態を見た。

 

「って、あれっ!?

ホントに圏外になってる…!?」

 

「おそらく、ここに居る全員の携帯電話が圏外になっているでしょうね…。

何か妨害電波を引き起こすような物でも置いているのかしら…?」

 

紗夜が呟くように可能性の話をした。

すると

 

「あれ?

こんな所で何をしてるんですか?」

 

『っ!!』

 

ビックリして声も出なかった5人。

すると友希那の背後に居たのは

 

「!あなた…如月の妹さんの咲織…だったかしら?」

 

片手に小さめのビニール袋を持ち、赤いパーカーを着る咲織。

見たところコンビニから帰って来た所のようだ。

 

「はい。

お兄ちゃんの友人の人たちですね。

どうぞ中に入ってください」

 

すると咲織は扉に鍵を差して一瞬止まった後、鍵を回さずに扉を開けた。

 

『?』

 

今何をしたのか気になった一同だったが、誘導されるがまま家の玄関に近づくと紗夜は肌に冷たい空気を感じた。

 

(?この冷たい風…。

この家の中から?

まだクーラーをつける時期では無いけれど…)

 

疑問に思いながらも家の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リビング

 

紗夜とリサ、そして燐子は前にこの家へ来たことを思い出しながら横長のソファに腰をかけ、あこは目をキラキラさせて1人用のソファに座り、友希那は一見静かにしているように見えるが、内心ソワソワしながら別の椅子に座っている。

 

すると湯気の立つお茶を並べた咲織が

 

「すみません。

暖房つけたまま外に出たと思っていたんですが…。

間違ってクーラーをつけていたみたいで…。

とりあえず、暖かいお茶でも飲んでください」

 

そう言って渡されたお茶を各自手に取った。

 

「…?」

 

紗夜は、前とは違うお茶の濁りが少し気になり、ほんの少しだけ口に含んだ。

 

「んー…。

お兄ちゃんの話を聞きに来たんですよね」

 

少し困ったように言った。

すると

 

「ど、どーしてわかったんですか?」

 

あこが頑張って下手な敬語を使い聞いた。

 

「まぁ、あなた方で2回目ですから。

1回目は…」

 

「日菜たち…ですか?」

 

紗夜が言い当てる形で言い、咲織はコクンと頷いてから

 

「それじゃあ、お兄ちゃんの話をしましょうか」

 

そうして咲織は前と同じように順を追って説明した。

陽菜の仕事について。

過去について。

今居る場所についても、ありとあらゆる情報を話した。

そして

 

『……』

 

沈黙の時間が生まれ、赤い夕陽が窓から射し込む。

すると燐子が

 

「あの…1つだけ聞いても良いですか…?」

 

「答えられる範囲でなら」

 

「陽菜さんは…どうして…政府の方々から粗末に扱われているんですか…?」

 

「あぁ…。

理由は…『気に食わないから』

ただそれだけです」

 

「!」

 

「燐子さん。

…イジメに遭ったことはありますか?」

 

急な問いに燐子は弱々しく首を横に振った。

 

「イジメというのは、イジメる側とイジメられる側が必ず存在します。

このイジメる側の理由としては『ムカつくから』『弱いから』『嫌いだから』といった実に人間味が溢れる答えなんです。

そしてこれは、同時に人が持つ喜怒哀楽そのものです」

 

「……っ」

 

「…そして、政府の方々も喜怒哀楽を持つ人間です。

イジメられる側にお兄ちゃんが居て、ただ政府の人たちは『如月 陽菜』という人間が気に食わない。

そして、お兄ちゃんは政府の方々と気が合わないだけなんですよ」

 

「…っ…辛くは…無いんでしょうか…?」

 

「あぁ…その点は大丈夫ですよ」

 

「えっ…?」

 

「お兄ちゃん全然興味無いことは相手にしませんから。

そういうのは全部小学校の頃から『ああ、この程度の人間なんだな…』って思うようにしているらしいです。

まぁ…それでエスカレートしていった時もありましたが…」

 

苦笑いを浮かべる咲織。

すると紗夜が

 

「…やはり、如月さんが心の痛みに慣れてしまっているのは、そういう過去があったから、なんですね」

 

「…そうですね。

所で、皆さんは、お兄ちゃんが海外のどんな場所に居ても助けたいですか?」

 

「?ええ。

如月を助ける為に来たもの」

 

「他の皆さんも同じですか?」

 

咲織の問いに頷く一同。

そして

 

()()()()()()()()です。

でも、お兄ちゃんを助けたいなら、余計なことはしない。

これ一択です」

 

「?どういうことですか?」

 

「皆さんは、お兄ちゃんの大事な人たちですが、それは裏を返せば弱点にもなるということです」

 

「…なるほど。

もし、私たちが下手に動けば、如月さんの敵である人たちに捕まる恐れがあるということですか…」

 

「ご理解早くて助かります。

でも、お兄ちゃんの弱点を狙うのが、お兄ちゃんの敵だけとは限りませんよ?」

 

「?それはどういう意味…」

 

紗夜が尋ねると同時に、リサの頭が紗夜の肩に乗った。

 

すぅ……すぅ……」

 

「…ちょっと今井さん。

こんな所で寝ないでくださ…い…」

 

よく見ると、紗夜以外の全員が寝ていた。

 

(!これは…まさか…!)

 

突如くらっとして、頭を押さえる紗夜。

そして

 

「っ…まさか…部屋を冷たくしたのは…」

 

「お察しの通りです。

わざと部屋の温度を下げて、暖かい飲み物を飲ませました。

一か八かの賭けでしたけど、まぁこれで任務は完遂出来そうです」

 

「私たちが…ここへ来ることを……知っていたという…こと…?」

 

紗夜は眠りに落ちそうになりながらも聞いた。

 

「はい。

お兄ちゃんの周りの人たちは、既に全員監視されていますから」

 

「…やっぱり…このお茶に…」

 

「すみません」

 

「っ…!」

 

「さっきあなた方が『どんな場所に居ても助ける』という意思表示をしてくれて助かりました。

おかげで、気負いなく()()を進められそうです」

 

「どうする…つもりかしら…?」

 

「…そこはお答え出来かねます。

ただ…残された時間が少ないとだけ言っておきますね」

 

「!!」

 

紗夜は言葉が揺れて聞こえたまま、眠りに落ちた。




すつぬ様 foglia様 マグロの目ん玉様
羽乃 秦御様 GOMI@0101様

お気に入りありがとうございます。
そんでもって投稿遅くなりました。

一昨日くらいには9割型完成してたんだ。
でもね
今回のイベントパスパレ可愛い
だからね
遅れたんだ。


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