退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第6話 覚悟

咲織は冷蔵庫からアイスを取り出して口にした。

リビングで眠っている5人を見てから、階段を上がる。

 

自室に戻り、パソコンの前に座って電波妨害装置を切ってからメールで

 

『予定通り眠らせたから、女の人だけの回収班寄越して。

あと、男は1人も寄越さないで。

あたしお兄ちゃん以外の男の人嫌いだから。

No,2』

 

多少途中から面倒になって文があやふやだが、気にすることなく送信し、返事が来た。

内容は、ただ『了解です』としか書かれていなかった。

するとスマホに電話がかかって来て、手に取って出ると

 

『咲織ちゃん。

お久やなぁ♪』

 

優しく微笑んでいるのが電話越しでわかる女性の声。

 

「!母さん。

仕事終わったの?」

 

『そうよ〜。

全く嫌になるわぁ…。

つい1時間前にAfterglowの子たちに会って、自己紹介して、連れ去るまで大変やったからね?』

 

「あぁ…そっちもソレの仕事だったんだ」

 

『そうなんよ〜。

姫ちゃん相変わらず、陽君の事になるとムキになるんだから。

あ、あと幻斎くんの部隊がポピパとハロハピのみんなを拘束できたって、連絡が入ったわ〜』

 

「そっか」

 

『まぁ、私の方が報告は10分早かったんだけどねっ☆』

 

「どうでも良いよ…。

ていうか、位置情報渡したのあたしなんだから、実質あたしの報酬だよ」

 

『えー…』

 

「それで…弦巻家は大丈夫なの?」

 

『んー…多分気づかれてるよ。

あそこの黒服さんたち有能だからね仕方ないね』

 

「…なら、もう特殊機関が出て来たことは割れてる頃だね…」

 

(とりあえず、こっちが最後の組か…。

なんとか明後日の取引までには間に合いそうかな…)

 

そう思っていると下からインターホンの鳴る音が聞こえて、通話を切ってから下に降りて回収班に引き渡した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同刻 海外

 

「……」

 

目が覚めると見慣れたくない天井が見えた。

そして体を起こし、部屋を出ると

 

「あん?」

 

オウガが居た。

 

「……」

 

しばらく沈黙するとオウガはニヤリと悪役っぽい笑みを浮かべ、俺は

 

「……もっかい寝るか…」

 

扉を閉めようとしたが、手を隙間に挟んで思いっきり阻まれ、抵抗はしたのだがグイッと全開にされた。

 

(なんて馬鹿力してんだ…)

 

「ちょうどいい。

おめぇも付き合え」

 

「……何に?」

 

「今から訓練所に行くんだよ。

ついでに、オレと模擬戦しようぜ」

 

「嫌なんだが…」

 

呆れながらメンドくさそうに言ったのだが、結局無理矢理連れて行かれた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

訓練所

 

ここは全体が黒く染まった高さ15mほどの空間がある部屋で、一辺ずつに薄く光る白の線が通っており、天井の隅や中心といった各所に設置してあるライトによって照らされている。

 

「あー、めんどくさかった…」

 

と呟くのは当然俺の口だ。

2回の模擬戦とはいえ、本当に面倒だった。

 

「…はぁ…」

 

ため息を吐くと

 

「よっ…と!」

 

腕の筋力と反動で起き上がるオウガ。

 

「ったくよぉ。

一体どうやってんだ?さっきの()()

どうやって負けたのか理解出来ねぇ」

 

「良いだろ別に。

『負けた』って所は理解出来てんだから」

 

「よしっ。

もう一戦やろーぜ」

 

「無理。

メンドくさい」

 

「なんだそれ…。

ん?そういや、オメェ特殊機関の次期総監候補だったよな?

どうしたんだアレ?」

 

「だいぶ前に日本で断った」

 

「勿体ねぇなぁ。

なれば一生遊んで暮らせるのによぉ」

 

「その分仕事が多過ぎる。

アレだけの仕事量、凡人には無理だ。

そう考えたら、親父さんはよくやってる方だな」

 

そう言ってペットポトルを手にとって水分補給をした。

するとシュカッと自動ドアを開ける音がして音源を見ると雫が居た。

 

「?あなた達も稽古ですか?」

 

「稽古っつーか。

本気の模擬戦だな」

 

オウガが答えると雫は俺を見ながら

 

「あなた…確か体術が得意でしたけど。

オウガさんに勝てるんですか?

見た感じあなたより体格差がふた回りあるみたいですが…」

 

「まぁ、見た感じそう思うか。

でも、俺が今までオウガに負けた回数は4回だけだ」

 

「それは何回中ですか?」

 

「ざっと50回」

 

「嘘ですか!?」

 

「嘘じゃねぇよ…」

 

「だって、オウガさんはNo,3の持ち主ですよ!?

No,0のあなたが勝てるわけ」

 

「はぁ…やったらわかる。

3回勝負な」

 

「…わかりました」

 

そして再び部屋の中心へと動くと

 

「おい待てコラ」

 

「?どうしたオウガ」

 

「おめぇ後3回も出来るならオレとも戦え」

 

指を差して言ってきた。

 

「無理。

面倒だって言ったろ」

 

「コノヤロウ…」

 

すると雫がシュルル…と帯を外し木刀を取り出した。

 

「あなたも木刀を使いますか?」

 

「要らん。

アレは使い方がよくわからんからな」

 

「そうですか。

では…」

 

雫が構えると空気が変わった。

ピリピリと肌に伝わる殺気。

どうやら本気で来るようだ。

 

(…さて…と。

やるか)

 

左手を前に突き出して間合いを図る。

右手は追撃に備えるだけ。

瞬発力で動き、瞬間的に間合いを詰める雫。

 

右から中段薙ぎ払い、からの下段斬り上げ。

それを少し横に体を反らして避けた後すぐに来る上段振り下ろし。

俺が一歩下がると同時に一歩前に出る雫。

さらに、流れるような斬撃によって間合いを殺される。

 

(あー…これは負けるな…)

 

そう思った瞬間、木刀の切っ先が喉元で止まった。

 

「…やっぱり、前に竹刀を使っていた時の方が手応えはありましたよ」

 

「…2回目やるか」

 

「?まだやるんですか?」

 

「3回勝負って言っただろ?」

 

「また負けますよ…?」

 

「そこは大丈夫だ。

もう()()()()()()()

 

「?」

 

雫は不思議そうにしていたが、木刀を持ち納刀した後に抜刀の構え。

そして静寂に満ちた瞬間。

最初に鳴ったのは、シッ…と木刀で空を切る音。

そして、次に鳴ったのはトンッ…と雫の首を手刀で触れた音だった。

 

「っ!!?」

 

「ほい。

俺の勝ち」

 

呆気にとられたような表情で、片手で首を押さえながら目を見開いて俺を見る雫。

 

「い、今…どうやって躱したんですか?」

 

「普通に避けて、背後に回って、首をこう…トンッとした。

それだけ」

 

「…さっきのリズムを掴んだとは?」

 

「…まぁ、簡単に言うと。

人の行動にはリズムがある。

歩数、歩くスピード、呼吸、瞬きの回数。

そして、それらの様に無意識のうちに出る行動を、俺は一回見たらその先を読める」

 

音楽にも使われるリズム。

不運にも、幸運にも、この力は俺にとって使いやすい。

 

「なるほど。

だから『リズムを掴んだ』という訳ですね」

 

「ああ。

とりあえず、もう一回やるか?

それとも止めるか?」

 

「…今日はここまでにしておきましょう。

わたしも、今は勝てるビジョンが湧きませんから」

 

「そうか…。

それじゃ、俺は明日に備えて寝る」

 

そう言ってドアに近づくと俺がセンサーに反応する前に開き、真紀が入って来た。

 

「?陽菜さん。

もう帰っちゃうんですか?」

 

「ああ。

用事済ませてから寝る。

暇ならオウガの相手してやってくれ」

 

「えぇ〜。

オウガさん手加減しないから嫌なんですよー」

 

「頑張れ」

 

アバウトに返した後、俺は武器保管庫へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

武器保管庫を使用する際は、指紋認証と虹彩認証、そして音声認証が必要だ。

ここまで厳重な理由には色々ある。

 

誰かの貴重品だったり、誰かが掘り起こした古代の遺物だったり、と色々あるのだが、そんな中でも俺が大事に保管しているのは、黒曜石で出来たナイフだった。

ここには、ちゃんと保管されてるかどうかを確かめに来た。

 

「…確か…ここら辺に…」

 

番号が振り分けられた複数の小型金庫の1つに番号を入れて開けた。

 

「あった」

 

手を伸ばして掴んだのは、刃が黒曜石で出来ており、刀身は鋼で出来ている黒いナイフだった。

形状はサバイバルナイフに似ているが、それより断然に軽く、耐久度もそれなりに高い。

 

無茶をすれば刀身が折れて壊れるが、それに関しては使い方次第でどうにかなるので問題ない。

 

(…明日の夜9時…。

ってことは、時差的に日本は…午前2、3時って所か…?)

 

そう思いながら、ナイフを戻して部屋に戻った。

 

(……()()の星空…か。

あの文字を見るのは本当に…懐かしい。

…向こうで何にも起きてなければ良いんだがなぁ…)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同刻 日本

 

 

「…希那…!」

 

遠くから声が聞こえる。

 

「起きてってば友希那…!」

 

「っ!!」

 

体を揺すられて目を開けると、目の前には心配そうに覗き込むリサと紗夜が居た。

 

「…あなた達…。

ここは…?」

 

頭を押さえながら聞くと紗夜が

 

「ここが日本であることは確かです。

けれど問題は…」

 

何か言いにくそうな表情をしていた。

すると

 

「あれっ!?

おねーちゃんだ!

なんで!?」

 

あこの声が聞こえ、その次に

 

「あこっ!?」

 

巴の声がした。

声主の方へ友希那は視線を移すと、そこには巴以外にも蘭やモカ、つぐみ、ひまりといったAfterglowのメンバーが揃っていた。

 

「!どうして…美竹さん達が?」

 

「他にも、先程から壁の向こうでPoppin'partyの皆さんとハロハピの皆さんが元気に騒いでいるみたいです」

 

「…完全に如月の関係者として連れて来られたみたいね」

 

「そのようです。

…にしても…」

 

「?」

 

「今井さん。

さっきから何をキョロキョロしているんですか?」

 

紗夜がそう言うとリサは

 

「んー…?

や、ここって森の中なのかなーって思ってさ」

 

「?森?」

 

「うん。

窓の外見ても木しか見えないから、そうなのかなぁ…って」

 

「森の中……。

それがどうかしましたか?」

 

するとリサは難しい顔をして

 

「いやー…森ってことは…その…。

やっぱりアレが出ちゃうじゃん?」

 

「アレとは?」

 

「……虫…」

 

「あっ」

 

紗夜は察した。

 

「そういえば…昔からリサは虫が大の苦手だったわね。

そんなに怯えなくても良いんじゃないかしら?」

 

「む、虫だけはどうしても無理なんだってばぁ!」

 

「…それは色々と難儀ね」

 

するとギィ…と擦れる音を立ててドアをサングラスをかけて染めたような金髪を持つ使用人っぽい女性が立っていた。

 

「皆様。

お目覚めになりましたのなら、こちらへどうぞ。

天皇様がお待ちです」

 

『っ!!』

 

(天皇…?

ということは、ここは天皇のお屋敷かしら…?)

 

紗夜はそんな思考を巡らせながらも、その使用人っぽい人について行くことにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

赤いカーペットが敷かれた廊下を歩き、使用人の後ろに並んで歩く。

ここには、ガルパの4バンドが揃っていたが、パスパレの姿は見当たらなかった。

 

「………はぁ…」

 

紗夜が珍しく疲れたように深いため息をついた。

 

「珍しいわね。

紗夜がそんな風にため息を吐くなんて」

 

そう言うと紗夜は

 

「ふふっ…。

そんな風に見えましたか?」

 

「ええ。

如月の事…かしら…?」

 

「正解です。

覚悟はしていたつもりでしたが…。

正直なところ…今までのどれが本当の如月さんだったのか、わからなくなって来ました」

 

「……」

 

「如月さんの昔話はどれも音楽が絡んでいました。

けれど今考えてみれば、それは表面上だけの話で、私は()だけを知って()があることも考えずに安心しきっていたのかも知れません…」

 

「…紗夜は、考え過ぎているのね」

 

「えっ?」

 

思ってもいなかった返答に思わず素っ頓狂な声を出した。

 

「たとえ、表面上だけだったとしても、今まで如月と過ごして来た時間は紛うことなく本物よ」

 

「!」

 

「だから、そんなに心配して気負ったりしなくて大丈夫。

如月は如月なのだから」

 

「…それもそうですね。

ただ…如月さんの隠し事はこれで最後にして欲しいものです」

 

「そうね」

 

友希那は紗夜に微笑んで言葉を返した。

すると前の使用人が1つのドアを2回ノックしてから扉を開けた。

 

「失礼します」

 

そこは綺麗に配置された家具とソファに座る1人の女性。

神々しいほどに容姿端麗で、薄い布を被ってはいるが、整った美顔が布越しに透けて見える。

 

「姫様。

お客様をお連れしました」

 

「ありがとう琴吹。

下がっても大丈夫ですよ」

 

琴吹と呼ばれた使用人は全員を中へ誘導した後、ドアを閉め、天皇の左後ろへと回った。

 

『……』

 

全員が沈黙する中、天皇は小さく息を吸って吐いた。

そして口を開いたのでついに話す。

かと思われたが…

 

「はぁ……すぅ……はぁ……」

 

余程緊張しているのか、深呼吸を繰り返す天皇もとい姫と呼ばれた同じ歳くらいの人。

すると紗夜が

 

「あの…まず説明をしていただけると助かります。

なぜ私たちがここへ連れて来られたのですか?」

 

「っ!は、はい…!」

 

そう聞くと姫はおどおどしながらも大人しくなった。

それを見た燐子は

 

(…もしかして…人見知り…かな…?)

 

姫の特徴をピンポイントで見抜いた。

そして天皇が困惑しかけるとその背後にいた琴吹が

 

「落ち着いてください姫様。

何の為にさっきまで会話の練習をしていたんですか…」

 

「こ、琴吹…!

そんなことは皆様の前で言わなくて良いの!

これはわたしが話すと決めたことですから!」

 

「でしたら、早めに話してください。

皆様からしたら、ただの誘拐犯ですよ」

 

「うっ……」

 

メンタルダメージを受けた姫。

すると

 

「ただの誘拐犯というより、これ誘拐なんだけど…」

 

「は、話は聞いてあげよう?蘭ちゃん」

 

「…わかってる」

 

蘭が呆れて言うとつぐみが宥めた。

 

「…ここはこちらに居る次期天皇の天崎 姫様の別荘の1つです」

 

琴吹が隙を見て話すと

 

「て、天皇…!?

わぁ…!すごいっ!本物だぁ!

見て見ておたえっ!有咲っ!」

 

香澄はこんな時でもブレない。

 

「うん、すごい。

ところで、天皇はすごく偉い人ってことだよね」

 

おたえもブレない。

 

「いや、おたえの認識は間違ってないけど。

その認識だと色々危ねぇ…」

 

「「?」」

 

「それに、もし天皇だとしても、なんで私たちが連れて来られたんだよ…」

 

「あっ!確かに!

なんで!?どうして!?

友達になりたかったの?」

 

グイグイ天皇に迫る香澄。

 

「ひゃっ!い、いえ…!

あの…別に…そういうわけでは…」

 

たじろぐ姫。

しかし、香澄は止まらない。

 

「ええー!?

私てっきり友達になりたかったんだと思ったんだけどなぁ…。

あっ!バンドって知ってる?

すっごくキラキラしてるんだよっ!」

 

「あっ……えっ…あの…」

 

気づけばペースを呑まれた空気は、淡々とバンドのことを話し続ける香澄を見ていた有咲がついに

 

「ブレーキの踏み方を学べ香澄!

初対面で、んなグイグイ行ってんじゃねぇ!

話が全然進まねーだろ!」

 

「ハッ!」

 

「効果音はいいから退がるぞ香澄…」

 

親猫が子猫を運ぶように連れて行く有咲。

そして若干涙目でビクビクしている姫だったが

 

「て、天皇と言っても…次期です。

わたしは…まだ正式な天皇ではありません」

 

「あ、あの…。

…そんな人がどうして私たちをここへ連れて来たんですか?」

 

りみの問いに姫はコホンと咳をして仕切り直した。

 

「それは、ここが陽菜の友人達を守るのにうってつけの場所だからです」

 

「うってつけ?」

 

「はい。

ここからは、順を追って説明します。

納得なさるかはわかりませんが…」

 

そうして説明を受ける中。

Roseliaメンバーだけは全て知っていた。

あの家で聞いたことと同じ過去の話。

しばらくして話が終わると蘭が

 

「…話は大体わかったけどさ。

これって、最初から陽菜さんを特殊機関から抜けさせていれば、こんな事にはならなかったんじゃないの?」

 

少し苛立ちを抑えて言った。

 

「そうですね。

ですが、それはわたしの父と政府の方々が決めたことです。

天皇が持つ裏の権限を持たないわたしがどうこう出来る問題ではありませんでした」

 

「なら、父親が間違っていることをしているのに、それについて何も言わなかったってこと?」

 

「もちろん、わたしは反対しました。

けれど、そんな人たちが子どもの言うことなんて聞くと思いますか?」

 

「っ…!

その父親って今どこにいるの!?

意味わかんないんだけど…!!」

 

「ら、蘭ちゃん抑えて抑えて…!」

 

苛立つ蘭をつぐみが小声で止めていると姫は口を開きこう言った。

 

「わたしの父なら、もうこの世に居ません。

先日のテロリスト達の襲撃で、父も母も知り合いも全員殺されましたから」

 

『!!』

 

「殺され…た…?」

 

「はい。

とはいえ、前の天皇が死んでも、わたしが天皇になることはありません。

わたしは剣璽渡御(けんじとぎょ)の儀を行なっていませんから」

 

「刑事特許の儀…。

って、何かしら?美咲」

 

「『剣璽渡御の儀』ね。

前の天皇が皇位継承の証として次の天皇に剣と勾玉を渡すの。

わかる?」

 

「わかったわ!

きっとアレのことね!」

 

「アレ?」

 

「そう!

きっと私の家の物置部屋にある剣と石ころのことよ!」

 

「うん。

ホントにありそうだけど、それ多分違う。

大体あったとしても、なんでこころの家にそんなのがあるの…?」

 

美咲が後半呟いて言うと姫は

 

「…弦巻家ならあるかも知れませんね」

 

「えっ!?嘘!?」

 

「いいえ。

弦巻家は正体不明ですが、わたしの父は、よく大事な物は弦巻家に頼んで保管してもらっていましたから」

 

「えぇ…。

それじゃあ、ホントにあるってことですか?」

 

「それは…行ってみないとわかりません。

けれど、今は外に出るのは危険です」

 

「?なんでですか?」

 

「テロリスト達はわたしを狙っています。

そして、もう1つの敵が存在します」

 

「もう1つ…」

 

(敵が多いなぁ…)

 

「それは政府側の人間です」

 

「へー、政府側の人間…。

って、えっ!?なんで?」

 

予想もしなかった敵に驚く美咲だったが、姫は話を続けた。

 

「明後日の午前3時。

政府はテロリストとの取引があります」

 

「取引?」

 

「はい。

テロリスト達は、日本の『何か』と取引しようとしています。

そしてその『何か』とは…わたしが持つ特殊機関の権限です」

 

『!』

 

「特殊機関は天皇の命令であれば、どんなことでも必ず遂行しなければなりません。

そして、特殊機関とは政府とわたしの父。

そして陽菜の父君とその兄である如月 葉一が作り上げた機関です」

 

「えっ…てことは…。

特殊機関は、陽菜さんのお父さん達が作ったってことですか?」

 

「そうなります。

特殊機関とは、最初は国の犯罪率を減らす為に作られた裏の機関です。

警察や公安が動けない難件でも、全ての情報に関するアクセス権を持ち人道から外れない程度に行使する裏の機関。

それが、一馬さんの最初に計画していた本当の特殊機関です」

 

「最初…?」

 

美咲は『一馬さん』という人物を頭の隅に置いておき、この最初の質問を尋ねた時。

暗くなった姫の表情から嫌な雰囲気を感じ取った。

 

「…最初はその案で設立されました。

しかし、政府はそれを利用し汚職を隠蔽するようになり、段々と人道から外れて行きました。

そこで止めに入ったのが如月 一馬。

陽菜の父君に当たる方です」

 

『!!』

 

「それって、結構危ないんじゃ…」

 

「危険でした。

ですが、この機関を主軸に作り上げたのは一馬さんと葉一さんの兄弟です。

当時、特殊機関の主な操作権利はこの2人にありました。

しかし、兄である葉一さんは一馬さんを止めました」

 

「どうして?」

 

「…元々2人の性格が相反しており、葉一さんは現実的な思考を持ち、一方で一馬さんは理想的な思考を持っていました。

葉一さんは『多少の汚れは必要だ』と言い、政府もそれに賛同し、それからというもの、一馬さんの考えも取り入れませんでした。

今となっては、特殊機関に残された一馬さんの考えていた案はほとんど残っていません」

 

「でも…確か陽菜さんのお父さんって交通事故で死んだんだよね?」

 

「ええ。

()()()という形で処理されました」

 

『っ!!』

 

「嘘…。

だって、陽菜さんのお父さんは、信号無視した子どもを助けようとして…!」

 

蘭が信じられないような話に反論すると

 

「ええ。

ですからそれも、全て仕組まれたことです」

 

「!」

 

遮るように言う姫の言葉に驚く蘭。

そして、姫は淡々と話し出した。

 

「あの日は陽菜が生まれる日でした。

そして、一馬さんは政府側にとっては邪魔な人間です。

ですから、その日に何も知らない無垢な他人の子どもを用意し、信号が赤になった時点で子どもを渡らせました」

 

「!…その子どもって…確か…」

 

「はい。

一命は取り留めましたが、容態が急変し死にました」

 

「っ…!

ホントに意味わかんないんだけど…。

今の話と陽菜さん全然関係ないじゃん。

そもそも、なんで特殊機関から陽菜さんを外さないの?」

 

「外さないのではなく、外せないのです」

 

「!なんでっ!?」

 

切羽詰まった蘭の声。

そして姫はその問いに対し

 

「わたしが天皇では無いからです」

 

至って簡潔な答え。

誰も何も言えなかった。

そして、予想を遥かに上回る話を聞いて静寂しきった部屋。

そんな中、美咲が手を挙げた。

 

「あのー…。

それと明後日の取引と何か関係があるんですか?」

 

あっ…はい」

 

(今忘れてなかったこの人…?

今絶対小さい声で『あっ』って言った)

 

「ええと…テロリスト達の要求は2つあります。

1つは、わたしと、わたしが持つ特殊機関の権限。

それをテロリスト達に渡すことです」

 

「え、ちょっと待ってください。

それって…もしかして、権利を譲渡する…ってことではなくて、天皇自らが取引材料になるってことですか?」

 

「はい。

テロリストの目的がわたしを殺すことではなく、人質に取る為だと判明しましたから」

 

(はい うん よし わかった。

あたし、もー驚かない。

というか、陽菜さん。

あのガルパ終わってからすぐに仕事向かったってことだよね?

いやー…だとしたらヤバイでしょ…。

こころ達の相手してから機関の仕事海外でやって、日本帰って来て、すぐゲーム入って、またガルパ2回目の準備して…って、超大忙しじゃん。

どう見ても、政府側の人たちが陽菜さんの精神を破壊しに来てるとしか思えないんですけど……。

って、今はそれじゃないか)

 

「というか、良いんですか?

天皇が日本に不在で」

 

「良くありません。

ですから、政府の方々はわたしの代わりとなる人質を探しています」

 

「えっ…。

それって無差別に…じゃないですよね。

じゃないと、あたし達が連れて来られた理由がそれ以外見当たらないし」

 

「はい。

あなた達は陽菜の友達です。

ですから、政府は友人であるあなた達に目を付けました。

人1人の存在なら、政府でも消せますし、それを探る者が現れても、政府側はまた『事故死』で処理させるでしょう」

 

(うわぁ…エグい。

というか、いくら陽菜さんが嫌いだからって、その友達を巻き込むのはお門違いってなんで気づかないんだろ…。

政府側の人ホントに陽菜さんのこと嫌いなんだなぁ…。

そんなに嫌いになる要素無いと思うんだけど…)

 

美咲がこんなことを思っていると紗夜が

 

「友人と言うのなら、何故Pastel*Palettesのメンバーがこの場に居ないんですか?」

 

と聞き、姫はすぐに答えた。

 

「彼女たちは今世間から注目されていますので、政府も特殊機関も、そう簡単には手を出せません。

ですから、彼女たちはここに居るより、いつも通り仕事をしてもらった方が安全です」

 

「…そうですか。

わかりました」

 

「もし妹さんのことが心配でしたら、連絡は取れますので安心してください」

 

「!どうして日菜のことを?」

 

「陽菜の身近な人間関係は、わたしが既に調べてあります。

もちろん、あなた達の人間関係も調べました」

 

(プライバシーってなんだっけ?)

 

美咲は心の底からそう思ったが、今までの話を聞いて『そこまで驚くことじゃないな』という考えに至った。

すると

 

「1つだけ、聞いても良いかしら?」

 

友希那が言い出すと姫は黙って頷いた。

 

「今その代わりになる人質というのは居ないということであっているかしら?」

 

「ええ。

その認識で間違いないです」

 

「そう。

良かったわ」

 

「もし、何かご要望があれば、こちらで用意致します」

 

「なら、如月を呼び戻してちょうだい」

 

「……それは…っ…」

 

「…出来ないのなら良いわ」

 

友希那はそう言って立ち上がり、部屋を出て行った。

 

「あちゃー…。

友希那完全に怒ってるなぁ…」

 

友希那の異変に気づいたリサ。

しかし、リサだけでなくRoseliaメンバーである紗夜たちもそれに気づいていた。

 

「少し気になることを言っていましたが…それは湊さんと後で話すとしましょう。

天崎さん。

…私たちはこれからしばらくここで匿われる。

という認識で間違いないですか?」

 

「はい。

我々の出来る範囲内で出来ることなら、何不自由はさせません」

 

「そうですか…。

わかりました」

 

紗夜はそう言うとすぐに立ち上がった。

 

「さ、紗夜さん。

どこに行くんですか?」

 

つぐみが尋ねる。

 

「湊さんを探しに行きます。

おそらく、この中で1番辛い思いをしているのは彼女でしょうから…。

今井さんも来ますか?」

 

「うん…。

アタシも気になることがあるし…」

 

「そうですか。

では行きましょうか」

 

そう言って、紗夜はリサを連れて探しに行った。

すると

 

「…皆様にご迷惑をおかけしていることは重々承知しております。

ですが、陽菜が帰ってきた時。

もし、あなた方に何かあれば、陽菜はまた傷ついてしまいます。

ですから、もうしばらくここに居てください…!」

 

姫が深々と頭を下げる。

 

「…そういうことなら、あたしはここに居る」

 

「蘭ちゃんが残るなら私も!」

 

「!2人が残るならアタシも残るぞっ!」

 

「だったら、モカちゃんも残るよー。

ひーちゃんは帰るの〜?」

 

「の、残るよ〜!」

 

蘭が言い始めるとつぐみ達も賛同していった。

 

「沙綾。

お店とか弟と妹とか…どうするつもりだ?」

 

「今はお母さんの容態も良くなって回復してるから、弟と妹の面倒見てくれてる。

だから、2日くらいなら大丈夫だと思う。

心配してくれてありがと有咲っ」

 

「ばっ…!

別に…普通だろ…これくらいは…」

 

「有咲やっさしー!」

 

「香澄うるせー!」

 

「あはは…」

 

その隣では

 

「私たちも残りましょうっ!

みんなが居ればきっと楽しいことだらけよ!」

 

こころが言う。

 

(いや…こころは家に帰った方が1番安全なんだけどね)

 

そう思った美咲だった。

しかし、今帰らせるのは危険なので

 

「そだねー。

だから、あんまりここの黒服さんたちを困らせないようにしなよ、こころ」

 

とりあえず賛同した。

 

(…にしても…友希那さん…。

『良かった』ってどういうことだろう…)

 

もやもやした疑問が残ったまま、ここに残ることになった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「湊さん」

 

「…?紗夜に…リサ?

どうしたの?」

 

「『どうしたの』ではありません。

あんな台詞を置いて出て行かれたら気にも止めます」

 

「ねぇ…友希那。

もしかして…良くないこと考えたり…する?」

 

返ってくる解答を恐れながらも聞いた。

 

「…良くないこと…ね。

そうね。

確かに()()は良くない案かも知れない。

けれど、彼に会って伝えないといけないの」

 

「!」

 

「…湊さん。

やはり…」

 

「ええ。

明後日の取引。

私が代わりの人質になるわ」

 

「っ!!」

 

覚悟を決めた友希那。

はたしてそれは、英勇の覚悟か、蛮勇の覚悟か。

しかし、彼女の目ははっきりと決意を固めた瞳を持っていた。




蒼牙狼様 バーメル様
黑(不定期)様 彩音色様
マジンガー様

お気に入りありがとうございます。


どうも夏休みの昼夜逆転は当たり前マンです。
最近は日が沈む頃に起きて、朝日が出る頃に寝てます。
(もうすぐ学校&課題に一切手を付けてない)

そんなことより、美咲が友希那のことをなんて呼んでるかわからない…。
なので呼び方は予想で付けさせて貰いました。
そこはご了承くだせぇ…。

追記

不定期更新(夜22時)はしばらく続きます。

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