退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ...... 作:haru亜
「オレの名前は西園寺 蓮ね。
趣味は…まぁ、色々」
名乗ると共に手を着いて近寄ってくる西園寺。
そして、危険を感じた友希那は後ろに下がる。
「んで、今から仕事前に遊ばせて貰おうと思ってさぁ。
ちゃんと抵抗してけろ」
西園寺はそう言うと友希那の足首を掴んだ。
「!離して!!」
「無理でーす」
足をグイッと近くまで一気に引っ張られる。
スカートがずり上がり、麗しい太腿が露わになる。
「!!」
「ねぇ、君って確かアイツの知り合いなんだよね?」
抵抗しようと友希那は両手で西園寺を押す。
しかし、左手をベッドに押さえ込まれた。
「っ…!」
「うんうん。
そういう抵抗も良いよ」
「アイツ…とは誰のことかしら…っ?」
「んー?知らない?
あの目つきが悪くて…。
き…きさ…?
名前なんだっけな…?」
「!…如月…」
「あーそそ。
そんな名前だったわ。
そんで、1つ聞きたいんだけど」
「?」
「そっちから見たら、オレって人間に見える?」
「…?あなたは人間でしょう?」
「……そう見えるんだねぇ…」
「?どういう意味かしら?」
「くだらない身の上話するけど、大人しく聞いてね。
オレは、3年前に起きた戦争で敗残兵として逃げてきたんだよ。
上がやられたから逃亡。
間抜け過ぎる決断を選ばされた」
「っ…!」
「そして、上を殺してあの戦争を止めた上。
オレたちの死に場所を奪ったのが、その如月とかいう奴が入ってる特殊機関らしい」
「まさか…それを恨んで?」
「それこそまさか。
あの戦争で、オレは確かに死ねた。
だから、殺してくれと頼んだ。
でも、アイツはオレを無視して生かした。
何も言わず、向かってくる敵だけを撃ち殺してね」
苦しそうな表情を浮かべる西園寺は、その苦しさからか、友希那の手首を強く握る。
「っ…!」
「ま、そん時はオレも髪こんなにボサボサじゃなかったし、アイツは見捨てたことすら気づいてないんだろうけどね」
「誰だって…人は殺したくないでしょう…!」
「そっち側からしたら、そうなんでしょーね。
でも、こっち側からしたら、そうじゃーないんだよねぇ。
殺せるから殺して、死ねるから死ぬ。
それがこっち側で生きてる奴らが持つ共通の概念だ」
「そんなのおかしいと思わないのかしら…?」
「思わないね。
オレたちから言わせてみれば、こっち側に居てこの概念を持たない方が、イカれてる」
「…なら、如月はあなたよりよっぽど正常な人間だわ」
ギリギリと手首を締め付けられる。
「いたっ…!」
「ごめんごめん大丈夫?
んで、話戻すけどさ。
別に恨んでるわけじゃない。
アイツの為さ」
「如月の…為?」
「そ。
戦争ってのは、もう戦場から逃げた時点で死んだも同然なんだよね。
あの時の逃亡は戦略的撤退でも、生きたいが為の逃げじゃない。
死にたかったから生きたんだ。
生きてる実感が欲しいから女を食ってた。
そんな時に、あの人が声をかけてくれた」
「あの人…?」
「うちのボスで、テロの首謀者。
会った時から狐の仮面をしてるから、素顔は見たことないんだけど…。
ま、正体がどうであれ、ボスはオレに死に場所を与えてくれると言ってくれた恩人でもある。
今までなんの信念もなく、最高と思える死に場所を探してたからね」
「……今まで何か信念を貫いたことはあるのかしら?」
「抱いたことはある。
でも、そんなの背負うより捨てた方が何倍も楽だったから、信念なんてのは、今は持ってすらいないぞ」
「抱く信念すら無いのなら、中途半端に私の邪魔をしないで。
あなたに構ってやれるほど暇じゃないの」
「なら、君はどんな信念でここに来たんだい?」
大きい手が支配するかのように友希那の顎に触れる。
「っ…あの人を助ける為よ」
そっぽを向いて手から離れる。
「信念を貫く強さって怖いなぁー。
いや、今は健気と言うべきなの?
まぁ…でも」
「?」
「今まで君みたいな子は少なからず見て来たよ。
どれだけ自分が危険な状況でも、『自分』を保ち続けていた。
姿形は元より、言語も出身も違えど、似たような性格だったねうん。
実に惜しい…」
「っ……」
「残念だけど…。
そういう性格を持つ子は大抵がヤってる最中に泣く。
中には、肌に触れられただけで怖くなって叫びながら抵抗する子も居た。
だから、そういうのは殺して静かにさせた」
「!!」
「でも、それも飽きた。
静かになったらなったで、気味が悪い。
だから、次はナイフで切ったり刺したりしても殺さずに、血を流す瀕死の状態で遊んでた」
「!…どうして…そんなことを?」
「んまぁ、その問いには後で答えるよ。
…こんな行為にすら飽きて来たら、オレはもう人間じゃあなくなる。
最後の砦ってヤツかなぁ…そうなんだろうなぁ。
実際、もう半分くらい飽きかけてるんだけどね」
「なら…!」
「『なら、やめたら良い』か?
その言葉も散々聞いたよ。
でも、残った人間味がどうしてもこの快楽を手放さない。
手放してしまえば、本当に人間ではなくなる。
オレは、最低でも人間でありたいからねぇ」
「……!」
この男は、どこか頭のネジが外れてしまっていた。
堪え難いモノ、そして精神がおかしくなるほどに残酷で退屈な世界を、その光の無い目で見て来たのだろう。
すると西園寺は何か思い出したように手をついた。
「あ、そうだ。
君ってまだこういうの未体験だよね?」
「!何を…言っているの…?」
突然の意図不明の質問に困惑する友希那。
「いやー、もしそうだったら、アイツの目の前で奪ってやろうかと思ってさぁ。
本当にああいうのは俺の気に触るタイプの人間なんだよ…。
イジメて嬲って散々弄んだら、アイツも楽に死ねるんじゃないのかねぇ」
「……あなたもそうやって…如月をイジメるのね…」
「ん?」
パシンッと小さく弱々しい音が鳴った。
「へぇ…」
西園寺は目を見開いて頰に僅かな痛みを感じた。
「気に触るからイジメる…?
それは誰かを見下していないと不安で堪らないだけでしょう?
だから、そうやって気楽にイジメて安心を得ようとする。
それにすら気づけないなんて、本当…可哀想な人」
「……ふーん…。
君って面白いね」
「…」
「今は、君が圧倒的不利な状況。
今から何をされるかわかったもんじゃない。
『わからない』から人は恐怖を抱くのに…君は真っ向から反論した。
これって人間だから…?
いや…通常は臆病だから人間の勇気…?
ま、どっちゃでも良いや」
「っ!」
叩いた右手をすごい力と共に左手と重ねられる。
腕を振り解こうと暴れて抵抗したが、片手で制された両手を上に挙げられ押し倒された。
「まぁ、初めてはアイツの前で奪うとして。
さっき君が聞いた『なんでそんなことを?』って問いに答えようかな。
オレはね、ヘマトディプシアっていう精神病らしい」
「ヘマト……ディプシア…?」
「そーそー。
ま、聞いたことないだろうけど。
別名は、吸血病。
その名の通り、血を見るか吸わないと何かが満たされないようになる。
だから、オレは瀕死の状態になるまで身も心も追い詰めて追い詰めて追い詰めて…用が済んだら殺す様にしてるんだよねぇ」
「!あなた…。
そうなった人たちが…どれだけ理不尽な目に遭ったと思っているの?」
「さぁ?
人の心なんてわからないっしょ。
君もそーじゃないのー?
アイツの心わかんないんでしょ?」
「私は知っているわ。
如月のことをちゃんと」
「ふーん…。
ま、前置きもこれくらいにして…。
今から抵抗してちょ。
抵抗すればするほど、
西園寺は腰から小さいナイフを取り出した。
友希那は首筋にヒンヤリとした刃を当てられた。
「!!」
背筋がヒヤッとする。
斬られる恐怖。
そして、いつ斬られるのかわからない恐怖。
様々な恐怖が渦巻いていると自然と体が動かなくなった。
「大丈夫。
深くは斬らないから」
そう言うと西園寺はスゥーと肌に当てたナイフをゆっくり引いた。
「痛っ…!」
首に鋭い痛みが走った。
薄い赤色の線が浮かび上がり、ほんの少し血が流れて白いベッドに染みる。
更に両手を封じられ抵抗出来ない恐怖に小さく身体が震えていることに気づいた。
その時、西園寺の背後に人が立っているのが見えた。
「!」
狐の仮面を被り白いコートを着て、後ろで手を組んでいる。
西園寺はたった今気配に気づいたように、振り向き様にナイフをお見舞いした。
はずだった。
「っ!?」
目にも止まらぬ早業でナイフを奪われ、西園寺は頸動脈付近に冷たい刃を当てられた。
「西園寺。
何勝手なことをしている」
「いやぁ…お楽しみの最中なんですけど…。
ボス…」
困ったように返事をする西園寺の言葉を、友希那は聞き逃さなかった。
(ボス…?
ということは、この人が如月を狙っている張本人…)
そう思っていると狐の仮面を被った男が
「ここには入るな、と伝えておいたけど…。
その吸血病も考えものだな…。
輸血パックはどうした?」
ナイフを納めてから言った。
「昨日全部切らしちゃったんだよなぁ〜」
「4日前に5つもあげたのに…。
いつか嘔吐しても知らないよ」
「戦う前にするから問題ないってばー。
それよりも…さっさと出て行ってくれない?
こういう所を男に見られる趣味無いし」
「僕もそんなもの見る趣味なんて無いよ。
でも、彼女は大事な人質なんだ。
返してもらおうか」
「はっ、やれるもんなら力尽くでやって」
「ほいっ」
友希那はその場のやり取りを全て見ていた。
しかし、その瞬間だけは何が起きたのかはわからなかった。
目の前に居た西園寺が、急に吹き飛ばされたように壁にぶつかって伸びている。
そして友希那が見て認識出来たのは、強い風圧と狐の男が左足を下ろしたという事だけだった。
「悪いね。
どうにもアイツは若い女の子を見ると、その血を吸わないと落ち着かないらしい」
「……あなたは…?」
友希那は、その男の声にどこか違和感があった。
どこかで聞いたような声。
けれど、夢の中の幻みたいに霞んでいて、どうしても思い出せない。
「僕のことは…まぁ、狐さんとでも呼んでくれ」
「狐…さん?」
「一応、君の服を調べさせてもらった。
あ、もちろん全部女性の皆さんがやってくれたよ。
何か仕掛けられてたら大変だから」
「…そう」
「それで、服を返そうと思って連絡に来たんだ。
とりあえずこっちに服あるから、付いてきて貰えるかな?」
「……」
セリフが誘拐犯のそれ過ぎて不審に思う。
当然身を引く。
すると
「そんなに怖がらなくても、僕が護衛するから大丈夫。
こう見えても、腕には自信あるから」
こちらの不審を取り除くように言った。
確かに、先程のモノを見れば安心出来る部分もあった友希那。
しかし、それ以前にまだ思い出せないのがもどかしかった。
「…あなたは誰?」
「狐さん」
「……。
私は…あなたにどこかで会った気がするのだけれど…」
「その答えが知りたいなら、僕の言う通りにすることだ。
それと…」
「?」
「僕は君の交渉もお願いも聞けないし、受け入れられない。
だから、大人しく付いてきてくれると助かるな」
「…そう。
わかったわ」
不本意ながらも、ここで答える気が無いとわかったので付いていくことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
9階 ビル
服を回収してから、長い廊下を歩いて行くと檻の中へと入れられた。
残念ながら、姫から貰った黒い端末は反応しない。
ここに入る前に『
話し合いが出来るのなら、早く会いたい。
心の隅でそう思いながら半信半疑で扉をくぐり、今に至る。
ここには鉄格子の檻と黒い床。
そして檻の向こう側には、監視カメラの映像が流れるモニターが右に複数台並んでおり、その奥には大きな黒い扉があった。
さらに、左側にある2つの大きな円柱カプセル。
中には溝のような黒い液体。
それとは真反対の白い液体。
「アレは…」
「気になるかい?」
檻の外にある別の扉から入って来た仮面の男。
「この2つは…まぁ、君たちの知ってる言葉で簡単に言うと麻薬だね」
「!」
「黒い液体は、身体に異常を来たし、その力の流れをクスリが誘導して痛覚麻痺と筋力向上を与える。
その副作用として、活動時間は個体差に寄るけど平均が10分程度。
極めて依存性が高く、活動時間を過ぎれば、文字通り廃人となってボロボロになり死に至る。
ただ…クスリが効いてる間は、理性が無くなるけど…。
首を落とされるか、脳を破壊するか、致死量を上回る血を出さない限りは死なない」
読み上げている資料には、人間の天使化〔Angel metal drag〕と書かれており、その隣には人間の悪魔化〔Devil love drag〕と書かれていた。
「白い液体は…まぁ、
痛覚麻痺と筋力向上は無い代わりに、視力強化と超集中がある。
理性はあって廃人になる可能性が低くく、依存性も皆無だけど…。
血液の流れが速すぎるから、最悪血管が破けて死ぬか、血反吐吐いて倒れるか…のどちらかだね。
まぁ、この2つ以外は黒い方と一緒だ」
「どうして…そんなクスリを?」
「…敗残兵たちの願いを叶える為。
そして救う為」
仮面の男は一言だけそう言った。
その意味を理解するには、まだ情報が足りなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここが…敵のアジトか…」
まるでサンタのようにデカイ袋を担ぎながら呟いた。
鉄製の扉を3回ノックしてから、4.0㎏積んだC4をセットする。
少し離れた壁裏に隠れて息を整える。
「はぁ…」
(やっぱ死ぬ気でやるなら正面突破に限る)
そんな馬鹿なことを思いながら起爆した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地響きと共に五月蝿い警報音が鳴り響いた。
それと共に複数あるモニター全てがオレンジ色の閃光に染まった。
「C4とは…。
さては3年前の戦争でアメリカ軍からパクって来たな?」
何やら意味がありそうなことをボヤいた。
何事かと思っていると狐男はボタンを押して警報音を止めた。
男の見ている大画面のモニターを見ると、入り口に顔見知りの人が立っていた。
「如月…!」
「さてと…」
「…待ってちょうだい」
「?」
「如月と話がしたいの。
だから、ここに来るまで手を出さないでちょうだい」
「…もし、陽菜がここまで辿り着けたら、5分ほど話をさせてあげるよ」
「!」
『全員に最後の命令だ。
侵入者は即座に排除。
1人だからって気を抜かず、死ぬ気で挑むように』
ガチャと通信機を置く仮面の男。
やはり、こちらの話を聞く気は無かったようだ。
すると狐男はこちらを向いた。
「そんなに心配しなくても大丈夫。
ダミーの方に部隊の10割近くまで放り込んだから、ここには50人も残っていない。
だから、そう簡単に殺されはしないよ」
「……如月は、あなたの正体を知っているのかしら?」
「知らなかったけど、もう気づいてる。
僕が送ったメッセージで」
「メッセージ?」
「ああ。
陽菜が…昔間違えた言葉を使ってね」
そう言うと1つのモニターにメッセージが表示された。
「『満点の星空…?』」
「そう。
これ実はね。
小学校の頃に、国語のテストで陽菜が書き間違えた問題なんだよ。
ここを『天』じゃなくて『点』って書いたんだ。
100点取って僕に並ぼうとした矢先に、凡ミスして落ち込んでたのは懐かしいなぁ…」
昔の話に浸ってしみじみと言う。
(…この人は、どこまで昔の如月を知っているの…?)
そんな疑問が生まれる。
しかし、それよりも聞きたいことがあった。
「1つ…聞いてもいいかしら?」
「なんだい?」
「どうしてあなたは、こんなことを?」
「どうして…ね。
理由は難しいのと簡単なので2つある。
まぁ、簡単な理由としては疲れたからかな」
「疲れた?」
「世間からの期待…と言えばわかるだろう?
君も同じ経験をしたのだから」
「!」
「はっきり言って、ああいうのは退屈になる。
僕が何か作れば、勝手に盛り上がって評価する。
だから名誉も称号も全部捨てた。
その先に何かがあると思ったから、こっち側に入った。
陽菜も本当はそうしたいだろうな…」
「…私は…」
「?」
「如月が私たちを捨てるとは微塵も思わないわ」
「そうだね。
陽菜がどれだけ本心を隠していたとしても、君たちを決して裏切らないし、約束も守るだろう。
だが、それは同時に、君たちの為なら悪魔にでも魂を売るということだ」
「…私には…それがわからないわ」
「陽菜がどうしてそこまでして助けるのか。
『それ』とはこれのことだろう?」
「ええ」
「…陽菜が初めて人を殺してから心を閉ざしたのは11歳の頃。
そしてその前にも後にも、小学校の頃にイジメが原因で不登校になった。
中学時代では転校して、1年の時にバンドに入りボーカルとしての才能を開花させた。
しかし半年で解散。
それから3年間、完全に心を閉ざしたままずっと暮らした。
そんな時、陽菜は君と出会った。
あの校舎裏で」
「!…どうして…。
いえ、あなたはどこまで知っているの?」
「陽菜はずっと監視されているんだ。
本人は知らないけど、数年前から陽菜は前の天皇に監視されていた」
「!どうして…?」
「陽菜は1度、普通の生活に戻ろうとした。
でも、政府はそれを許さなかった。
おそらく陽菜の父親の件。
あの汚職の情報漏洩を恐れたからだ」
「!如月は…あの事件のことを知っているの…?」
「ああ。
知ってるよ。
知ってなお、政府に駒として使われている。
その分今も、相当溜め込んでるんだろうね」
「!!」
「話を戻すけど…。
政府はすぐにあの男。
葉一を使って約3年前に陽菜を戦場へ引きずり込み、人を殺させて、特殊機関に居させ続けた。
しかし、そんな事実を隠してまで陽菜は君たちとの縁を切れずにいる。
本当はいつでも切れたはずだったのに切らなかった」
「……」
「これらを踏まえた上で、どうして傷だらけになっても助けるのか。
それは、君たちが陽菜の人生を大きく変えた友達だからだ」
「…っ…!」
「納得したかい?」
「…それが自分が傷ついても良いなんて理由になるのかしら?
如月は、もっと自由に生きて良いと言うのに…」
「そうか…」
その時だけ、狐の男の声色が変わった。
それもどこか落ち込んでいるような後悔しているように感じていると
「そういえば、君はどうしてここに来たんだい?」
話題を変えられた。
「…如月を助けるためよ」
しかし、友希那は少し無愛想に返す。
すると狐男は肩を落としながら話した。
「むっ…。
それは君の1つの目的に過ぎない。
真意はどうなんだい?」
「っ…!」
「僕に嘘は通じないよ」
「…如月もあなたみたいに鋭ければ良いのだけれど…」
「陽菜って意外と変なところで鈍感だろう?
「昔から?」
「おっと失言。
それで、本当のところはどうなんだい?」
「…よくわからないわ」
「わからない?」
「…ええ。
如月は友達…とは少し違うわ。
なんと言えば良いのかしら…。
親友…かしら?」
狐の男は考え込む友希那を見ながら思う所は多少あったが、それは口にせず飲み込む。
そして狐は、友希那の悩みを解消させるためにキーワードを口にした。
「『好意を寄せている人』…かい?」
「こう…い…?」
「そう。
異性の好きな人、又は、片想いしている人。
他にも色々あるけどキリないからやめておこ…ん?」
「……」
すると友希那は探偵のように顎に手を添えて何か考え始めた。
その数秒後、一瞬にしてカァアア…と友希那の顔が真っ赤に染まった。
「あれ?当たってた?」
狐が赤くなる友希那をからかうように言うと
「!!」
ビックリしたまま表情が固まってしまった。
「陽菜は人を殺してる。
それでも、アイツの側に居たいかい?」
「…そうね。
如月はきっと多くの人たちの人生を終わらせた。
けどそれは、その人を救う為か誰かを助ける為かのどちらかは如月以外誰にもわからない。
その決断が正しかったかなんて誰にも肯定出来ず、否定も出来ないわ」
「……」
「けれど……。
真実を知っても、そんな彼でも『もっと側に居たい』『もっと側に居て欲しい』と思ってしまう自分が居る…。
だから、例えこの想いがエゴだとしても、私は如月を必ず連れて帰るわ」
「…それはエゴでも醜いエゴじゃない」
「えっ…?」
「それに、恋情というのは脳が起こす一種のバグでね。
人は矛盾するからこそ、
でも偽物ではないんだ。
だから、そのバグは大事に育てた方が良い」
「そう」
すると狐の男はモニターに目を移した。
「にしても、流石だな。
もう7階に到達したか」
急いで大画面のモニターを見ると、先程まで1階にいた陽菜がもう7階まで上がって来ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バーーーーーーーーーー!!!!
複数の銃弾の音が重なり合い、壁にぶつかる。
被弾しないように、壁の下から相手の方へ鏡を向けて人数を確認する。
(さっきから銃弾が止まないと思ったら…。
前の3人が撃ってる間に、後ろで3人がリロードか…)
この正方形に作られたビルのフロアは、ぐるっと障害物無しに一周出来る。
4分の1に割っても、1つの道のりが30mはあるので多少時間はかかるが、回り込まれると挟み撃ちにされる。
このフロアには、20人ばかりの敵兵が居た。
しかし、さっき10人ばかり殺したので、残りの4人がどこに行ったのかは明白だった。
(もしそうなら、アレに上手く引っかかってくれると助かるが…)
アレとは、来る途中で仕掛けておいたお手製の爆弾トラップだ。
赤外線センサーに反応があるとすぐに直径5メートルの範囲で爆発するトラップ。
その赤外線も、咲織が改良したので99%透明な線で見分けはつかない。
なんて解説していると爆発音と地響きが聞こえてきた。
(今の爆発で4人は死んだな。
なら、残りの6人は…)
聞こえてきた爆発音に動揺を隠し切れず慌てていた。
(一瞬の隙があれば殺し切れる…!)
そう思いながら、俺は無音の足運びで15mの距離を一気に詰めた。
親父さんから習った武術『天衣無縫』
音も気配も感じさせないまま、相手の虚を衝いて足を運ぶ初歩の無名技。
「……ふっ」
吐き出す息。
月明かりに照らされるナイフが滑らかに白い軌跡を描く。
それと共に舞う血飛沫と倒れる多種多様の男たち。
あまりに簡単過ぎた。
人の命は重いというが、このナイフで首に向けて一振り。
たったそれだけの行為で他人の命をこうも簡単に奪える。
今まで、任務で人を殺すごとに首に鉛がかけられているような
つまりそれは、人を殺すことに
『天衣無縫』は無名の技がほとんどだ。
この走馬灯を引き出す技すら名前は無く、あるのは奥の技である3つだけだ。
そして、俺は顔にかかった生々しい血を服で拭き取った。
(…送られてきたメッセージ…。
それに、あの放送で聞こえた声…)
「はぁ……。
本当に理想から嫌われたな…これは…」
呟きながら階段を上がるとそこはとても物静かだった。
人の気配も無く、ただただ静寂がこの空間を支配している。
「……」
(…ここに敵を配置していない訳がない。
ということは…)
突如、背後で軋む音が聞こえて前に転がる。
ヒュンッと宙を斬る音。
そして振り返りざまに横に持ったリボルバーで前方に3発入れる。
しかし
「だーめっ」
薙ぎ払いの一線で右手に持っていたリボルバーごと壁に弾き飛ばされ、急いで後方に距離を取る。
「…日本刀…。
随分と長い刀身をお持ちで…」
見たところ90cmか1m程ある。
柄も入れれば1m20cm以上は確実だ。
そんな刀を振ったのは、なんと黒いスーツを着た女だった。
「ねぇ…ボウヤ。
少し…おねぇさんと…遊んで…行かない…?」
ゆったりとした話し方。
それとは裏腹に、この女は先ほど見せた目で追えないほどの剣速を持っている。
「悪いが、痴女と遊んでる暇は無いんだ」
「あはっ…。
面白い…ジョーク…ね。
おねぇさん…ちょっとだけ…頑張っちゃお…」
そう言って地面を蹴り、距離を詰めて放たれた中段斬りを黒曜ナイフで受け流す。
しかし、リズムを変えて襲う斬撃。
「チッ…」
上段斬りを受け止めて地面に押し込まれそうになり、刀を力任せに跳ね上げる。
そのまま追撃しようと懐に入ろうとしたが、すぐ距離を取られた。
そして、女は驚いた顔をしてゆっくりと話した。
「そのナイフ……ボスが言っていた……世界で1つの折れないナイフ…かしら…?」
「……そういうアンタは、1つの流派を習ってる訳じゃないな。
複数の流派を織り交ぜながら敵を追い詰める剣技か」
「正解……。
ボスが……見込んだだけのことは……あるのね……」
(……この女は…
クソっ…!時間がないってのに…!)
焦りでナイフを強く握りしめる。
すると俺と痴女はこちらに近づいてくる何かに気づいた。
その次の瞬間
「伏せてください!!」
聞き覚えのある声がして伏せると1つのポニーテールを揺らす人影の描いた一閃が痴女の刀とぶつかった。
「!雫!?」
「ここは引き受けます!
あなたは早く上へ!」
「!?」
意味がわからなかった。
行く前に、抜刀してまで止めようとした雫が何故手助けをしたのか。
整理できない疑問が渦巻いていると
「別に…あなたの為でも、あなたの大事な人の為ではありません!
ただ…!
わたしがあなたを止めたのは、あなたが死んだら若み…や…じゃなくて、わたしの部に悲しむ後輩がいるからです!
少しはそういう人の気持ちも考えてください!!」
雫の切羽詰まった言葉に渦は止まった。
「!」
「わかったら、早く行ってください。
刀の勝負で、わたしが負けることはあり得ませんので」
「…わかった。
終わったら上で合流だ」
「はい」
合流時間と場所を言わずに上へ続く階段へと向かっていった。
「余所見は……だぁめっ…」
「っ!」
長刀の切っ先を持ち、ぐるんっと回転させて刀を持っていかれそうになり、刀を引いて距離を取る雫。
「あなたは……だぁれ…?」
女がゆったりとした口調で問う。
「宮本 雫。
あなたは?」
「わたしは…孤児だったから…名前は無いの…」
「そうですか」
「それで……あなたは…わたしを…楽しませてから……殺してくれるの……?」
「剣技で競い合いたいのなら、相手しましょう」
「じゃあ……一刀交えるだけ…」
「…わかりました」
抜刀してから、構える2人。
女は息を吸って止めてから
「巌流・《燕返し》」
激しい動きではなく、ふわっとした5撃が雫を襲う。
「!」
雫の表情が読めなくとも、女は悟った。
この技では殺し切れない…と。
次の瞬間、女は自分の左肩から心臓部まで切り裂かれていることに気づかされた。
その小さな体から繰り出された斬撃は、まるで刹那だけに見える幻のような、視界を埋め尽くす閃光だった。
「終わりは……呆気ないもの…ね…。
それの…名前を……聞いても……?」
「…二天一流・外伝 零ノ型《羅刹千華》」
「零ノ型…」
「佐々木小次郎の真似事だけでは、巌流島での結果と同じになるのも当然です。
ただ…あなたがちゃんとした剣術を学んでいれば、結果は変わったかも知れませんね」
「ふふ……ありがとう……」
膝から崩れ落ち、女は血の海に倒れ込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これはこれは…予想外だね」
狐男が呟く。
モニター室の檻の中で、ある事が気になっていた友希那は質問を投げかけた。
「あなたは…如月を嫌っているのかしら?」
「まさか。
むしろ、尊敬してるさ」
「なら、如月をここへ連れて来れば良いでしょう?
あなたの部下たちに戦わせる意味は無いはずよ」
「それがあるんだよ」
「あるの?」
「言っただろう?
敗残兵たちの願いを叶える為、と」
その言葉を聞いて、先程の白い部屋で西園寺が言っていた『死に場所を求めている』という言葉。
「『自分が死ぬ場所』…それが、あの人たちの願いなの?」
「そう。
まぁ、陽菜が殺して初めて成り立つけどね」
「…あなたは…如月をどうするつもりなの?」
「殺すよ」
あまりにあっさりとした答えを告げ、そのまま口を動かした。
「とはいえ、勿体ない気もするけどね」
「勿体無い…とは、どういうことかしら?」
「陽菜は、この世界でただ1人。
僕を超えるほどの才能を持っているんだから」
「…!」
(僕を超えるほどの才能…?
つまりそれは…)
「バンド…?
いえ…ボーカル…」
ポツリと呟くと1つの可能性が見えてきた。
「あの声…。
まさか…あなた…!」
「……ん?」
男は何かに感づきモニターに視線を向けた。
モニターには全てのフロア、部屋の映像が映し出されている。
しかし、そこに映っているはずの人がどこにも居なかった。
その瞬間、向こうにある扉が轟音と共に檻の手前まで
パラパラと降ってくる砂粒。
そして、煙の中に揺らめく1つの影。
「結構早かったじゃないか。
そろそろ僕のゲームにも慣れて…」
「うるせぇぞ…」
狐男が言い終わる前に、煙を纏いながらナイフで斬りつけた。
「おいおい。
3年ぶりの再会じゃないか陽菜」
それを親指と人差し指で止める狐男。
そしてこの強さと声で俺は正体に確信を得た。
「おっ…?」
仮面の紐が切れ、仮面が落ちる。
この男は…
「あぁ…久しぶりだな。
マサヤ兄さん」
血の繋がっていない兄的存在であり、親父さんの息子だと。
日菜。様 祥真様 シルスキー様
お気に入りありがとうございます。
今回ちょっとだけ急いでしもうた…。