退屈な日々を忘れたい俺がなぜバンドの手伝いをしているんだ......   作:haru亜

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第5章 欠けた存在
第1話 欠けた心


あの日から時が少し進んだ2月25日 月曜日

氷川家

 

「はぁ……学校かぁ……」

 

腕を組んで机に乗せ、重い溜め息を吐く日菜。

いつもみたいな明るさも元気も感じない。

2秒ほど静寂が時間を支配した後

 

「……やだなぁ…」

 

テーブルに顔を伏せた日菜の声は籠っていた。

 

「…いくら辛いことがあっても、学校は学校よ」

 

「あそこは……陽菜くんとの思い出たくさんあるもん…」

 

「……」

 

「おねーちゃんなら、行けるの?」

 

「それは……っ」

 

「…はぁ…」

 

また溜め息を吐く日菜。

 

「はぁ……」

 

釣られて紗夜も溜め息を吐いた。

両者とも、相手が参っているのがわかっていたからだ。

その慰め方すらも思いつかない。

すると

 

「……おねーちゃんと一緒になら、学校行く…」

 

気の抜けた声で呟かれ、紗夜はこの後一緒に登校することにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いつものように、変わらない通学路を歩く。

桜の木は蕾が実り始めていた。

けれど、それにすら何も感じなくなっていた。

ずっとあの日の止まった時間の中に居る。

ただ学校へ向かうために足を進めていると

 

「おーい、友希那ー?

ちゃんと聞いてる?」

 

「!…何が…かしら?」

 

ハッとして意識を戻し、隣にいる兎が逆さまになっている耳飾りをしたリサに目を向ける。

 

「もー、この間言ってた新しい曲の練習。

今日一緒にやろって言ったじゃんっ」

 

「そういえば…そうだったかしら?」

 

「ええっ!?

この距離で話してたんだよっ!?」

 

そう言われると、そんな感じのことを言ったような気もする。

 

「…そう…だったわね」

 

朧げに返した。

そしてしばらく歩き学校の正門が見えてきた頃。

 

「そういえば…さっ。

昨日の日曜日…友希那用事があるって言って練習休んでたけど、どこ行ってたの?」

 

リサの切り出した話には心当たりがあった。

あの夜が明け、日本に戻ってきた次の日。

私は天皇に呼ばれて、またあの別荘へと足を運んだ。

けれど、そのことはリサ達には話していない。

私だけが知っていれば良い事実の確認に行ったのだから…。

 

「……別に、少し遠出していただけよ」

 

「遠出?友希那が1人で?」

 

リサの言い方に少し引っかかった。

 

「どういう意味かしら?」

 

と聞くとリサは目を泳がせながら

 

「やっ、えーっとぉ…。

友希那が1人で遠出するなんて心配だなぁ…って」

 

「……」

 

「あはは…」

 

「遠出くらい1人で出来るわよ」

 

私はちょっとだけ見栄を張った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お昼休み

 

幼馴染の教室にやってきて、キョロキョロと見渡すと廊下側の席に座る友希那が居た。

 

「友希那〜。

ジュース買いに行こっ♪」

 

「…わかったわ」

 

「……」

 

思い詰めたような顔をする幼馴染。

そのまま気を紛らわせるために別の話をしながら、一階の自動販売機まで来た。

 

「アタシは……これにしよっと♪」

 

お金を入れてからボタンを押すとピッと音が鳴り、抹茶ラテが出てきた。

手に取ってから隣にいる友希那に

 

「友希那は何飲むの?」

 

と聞くと

 

「……」

 

ボーッとしていた。

すると声をかける間も無くハッと気づき

 

「!…ごめんなさい…。

何か話していたかしら…?」

 

とだけ返ってきた。

 

「っ…ううんっ…。

なんでもないよ?」

 

リサは笑顔を見せて誤魔化した。

 

(やっぱり…友希那…)

 

不安になり思わず考え込みそうになっていると友希那がブラックコーヒーのボタンを押した。

 

「ちょちょちょっ!?

友希那それブラックコーヒーだよ!?」

 

「……あっ…」

 

取り出してから気づいた友希那。

 

「うっかりしていたわ…」

 

「いやいや!

うっかりし過ぎだって!

友希那、今までこんな間違え方したことないよ?」

 

そして

 

「ねぇ……友希那。

もしかして……まだ気にしてる…?」

 

「……」

 

その言葉で蘇ってきたのはあの日の夜のことだった。

あの夜。

話をした。

何が起こったのか全て話した。

話を聞いて泣くのを堪えた人もいれば、その場で泣き崩れる人も居た。

けれど、友希那だけは泣く素振りもそれを堪える素振りも見せなかった。

他に何かあるとすれば、蘭と一悶着あったくらい。

それを天皇である姫に止められた後『ありがとう』とだけ言われて結局、その日は姫によって全員が家へと返された。

 

「…そんなことは、気にしていられないわ。

今私たちが気にするべきことはもっと他にあるはずよ」

 

「でも…忘れられてないんでしょ?」

 

「……リサは忘れることが出来たの…?」

 

「!……それはっ…無理…だけど…」

 

「……そう。

私もよ」

 

一言発した。

そして、リサは教室へと戻って行く友希那の後を追った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方その頃 教室では

 

「はぁ……」

 

日菜が座る席の周りに女子が集まっていた。

 

「日菜ちゃん元気無いね」

 

「どうしたの?」

 

3人のうち2人が心配して声をかける。

すると日菜は伏せていた顔をゆっくりと怠そうに上げた。

 

「なーんか…るんっ♪ってすること無くなったんだよねー…」

 

「そうなの?」

 

「あー、そういえば…日菜ちゃんが好きだったあの人。

前の席にいたけど、先週から学校来なくなったもんね」

 

それを聞いて日菜はまた俯いて

 

「『あの人』じゃないもん…」

 

ポツリと呟いた。

 

「えっ?

あの人じゃないの?」

 

勘違いしたまま聞き返す女子。

するとその隣にいた女子が

 

「でも…その彼が来ても、今はあんまり関わらない方が良いよ?」

 

声のトーンを少し下げて言った。

 

「?なんで?」

 

日菜が尋ねると

 

「ほら、あそこに居る3人組の男子居るでしょ?」

 

女子は目線を教室の前に集まる男子に向けて言った。

 

「あの人たち、結構前からその人の事嫌ってるっぽい」

 

「!なんで!?」

 

「しーっ!声が大きいよっ」

 

そう言って日菜より年下の子はゆっくりと振り返って3人組に聞こえてないか確かめてから、安心して話を続けた。

 

「まぁ…絶対に虐める前の嫌がらせだと私は思うなぁ…」

 

「?なんで?」

 

「…実は…あの3人ヤバいことしてるから…」

 

「ヤバいこと…?」

 

「うん。

高1の時、1人のちょっと暗い男子生徒が居たの。

その人を集団で虐めて精神科に行かせたって話があるんだけどさ…」

 

「うん」

 

「なんていうか…やり方が姑息だけど徹底的にやるのよ。

それも身体的にじゃなくて精神的に。

自分たちがやった悪行事を全てその子がやったことにしてネットに住所ごと晒したりしてた。

みんな気づいてたけど、誰も言えなかった」

 

「?なんで…?」

 

「あの真ん中にいる金髪のリーダーっぽい奴。

自分の家がヤクザの分家だから、それを鼻にかけて周りにいっつも手下を侍らせてる。

だから、みんな怖くて見て見ぬ振りをしてた…」

 

「…そっか…。

でも、あたしは…好きだから、虐められたら絶対に助けるもん…」

 

彼の名前を口に出すことを惜しんだ。

そして、口では未来形で話す。

もう死んでしまったと知られたくなかったから。

 

「日菜ちゃんがそう言うのは良いけど…。

極力アイツらには関わらないようにしなよ?

アイツら女にも容赦無いから」

 

「…うんっ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後 CiRCLE スタジオ

 

「これで…おっけーっと。

友希那、準備出来たよー」

 

ベースアンプを繋ぎ、準備が完了したので声をかける。

しかし、友希那は少し反応が遅れてから返した。

 

「……そう。

私は…どこの部分を歌えば良いかしら?」

 

「えーっと、ちょっとサビに入る前の部分が心配だから、そこを歌ってくれると助かるなっ」

 

「わかったわ」

 

2人の練習が始まった。

そんな中、リサは歌っている友希那の姿を見た。

普段より上手く、焦燥感も漂わせながら歌ってくれている。

けれど、どこか欠けているようにも感じた。

そしてひと通し終わって、そのまま休憩に持ち込んだ時、リサが切り出した

 

「ねぇ友希那」

 

「?何かしら?」

 

「さっき…友希那の歌声聴いてみて、アタシわかった…かも知れない」

 

「?」

 

「友希那。

ずっと1人で何か抱え込んでる」

 

「!急に何を言い出すの…?」

 

明らかに表情が固まった友希那をリサは見逃さなかった。

 

「わかるよ…。

だって、幼馴染だもん…」

 

「……」

 

「…アタシ、()()絶対に助ける。

だから…!」

 

「次…?」

 

友希那は驚いた様子で見ていたがすぐに冷静さを保ち、こう言った。

 

「それは…私を如月と重ねているの?」

 

「ぁっ…違っ…」

 

「……」

 

友希那はリサが言い切るまで黙っているつもりだったが、リサは言い切らず、自分で言葉を有耶無耶にした。

 

「リサ…。

あなたが私と如月を重ねるのは勝手よ。

けれど…もう如月は死んだの」

 

「…っ…!」

 

「受け入れがたい事実だなんてわかっているわ。

でも…あんな爆発に巻き込まれて如月が生きていると本気で思っているの?」

 

揺るがない目線が、不思議とリサの目を離さない。

そして…

 

「だよ…ね。

あはは…うん…知ってた…」

 

「……」

 

「本当……友希那は凄いよね…っ」

 

「?何がかしら?」

 

「ほらっ…。

友希那は陽菜が死んだのに…泣かないで、凄いなぁって…」

 

「凄い…?」

 

友希那から零れ落ちた一言を聞き、失言したことにリサは気がついた。

しかし、もう遅い。

その言葉を聞いた瞬間。

友希那は頭に血が一気に上る感覚があった。

 

「っ…ふざけないで!!」

 

「っ!」

 

空気が震えた。

 

「そんなことを言うのなら、私はどんな風にしていれば良いの!?

泣きでもすれば、如月が戻ってくるのかしら!?」

 

「!ゆ、友希…」

 

「あんなこと…平気なわけないじゃない!!」

 

「っ!!」

 

荒くした息を整えた後に友希那はいつもの様子で

 

「……今日は…ここまでにしましょう。

お互い、コンディションが優れないようだから…」

 

そう言ってスタジオを出て行った。

リサは引き止めることも出来ず、言葉も出せず、ただその場に崩れ落ちた。




ゆーんゆーん様 ヴァンヴァ様
らったた様 kazusan様

お気に入りありがとうございます。


めっちゃ投稿期間空いてしまって待ってた人には申し訳ありません。
リアルが忙し過ぎたのが原因ですね。
それはもう今回のイベがロクに回れなかったくらい…。
とにかくトラブルが多過ぎた。

次回はリサ視点で始まる所からお送りします。

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