【SAO+PSO2】ソードアートオンライン【パラレルダイヴファンタジア】 作:ポメラニマン
菊岡に指定された病院へ向かう途中、「橘皐月」(たちばなさつき)は「SAO」での体験を思い出していた。
危機感を感じる時、彼女は決まってあの場所が頭をよぎる。
しかし、それはあの場所で戦い抜いた経験を思い出す訳ではなく、自らの姿を悔いる様に見つめるひと時であった。
SAO生還者といえば、皆が命懸けで戦い抜いた訳では決して無い。
自分がその良い例であり、その約二年は未だに皐月を縛り付けている。
デスゲームが宣言された場所、「始まりの街」で彼女はクリアされるまでの約二年間を過ごした。
そして、「レベル1」の最弱プレイヤーは命を懸けて戦い抜いた者達、夢半ばに散っていった者達のお陰で現実世界へと何もせずに生還した。
クリアされてから一番最初に触れたのは暖かさだったけど、感じたのは絶望だった。
世界が真っ白に光った時、私はようやく死ぬんだなって悟った。
自分が死んじゃうっていうのに、嬉しさを感じていた自分が、今でも時々夢に出て来て気持ち悪くなる。
中でも、「始まりの街」であのゲームが宣言された時の事は一番良く覚えてる。
というより、その二つしか覚えてない。
いろんな人がいた。
突然走り出した人とか、友達を見つけるために大声出して探し回ってる人とか。中には大泣きしてる人もいた。
何かしなきゃって走り出そうと思ったら、私は自分が涙を流しながら崩れ落ちてるのに気がついた。
いつそうしたのかは、全く覚えてない。
気がついたら、手がすごくあったかかった。
身体が動かなかったから、それが誰の手だったかはその時まだわからなかったけど。
起きたばっかりだったけど、すごく眠くなったのを覚えてる。
手のひらは凄く柔らかくて、あったかくて。無意識に握ったかも知れない。
そしたら急に、私の顔を誰かが覗き込んできた。
最初は誰だかわからなかったけど、少ししたらそれがお母さんだって気がついた。
お母さんは凄く泣いてて、微かに聞こえる声は喜んでたと思う。
それを見て、心底泣いて喜ぶ顔って絶望した時の顔とそっくりなんだな、なんて瞳に映る自分を見て絶望した。
リハビリ生活中、事情聴取に来る人はいつも決まって同じ人だった。
最初の頃は、来たことも帰ったことすらも気がつけなかったかも知れないけど、日が経つ内に彼の会話が耳に入る様になってた。
たぶん何日も来てくれたんだと思う。
彼の話す内容は、とても怖かった。
デスゲームの中に閉じ込められ、それでも命を燃やして生き抜く様子。
ある事件では、酷い殺され方をした人もいた。
仲間の為に、自分の命を喜んで投げ出した人もいた。
夢半ばに散る事しか許されなかった人達がいた。
全てのプレイヤーを助けるために、命を託した人達がいた。
その物語が知ってる情報を全て話し終える頃、私はその人がどんな顔をしているのか確認できる様になってた。
でも彼は何も言わないし、その話以外は何も教えてくれなかった。
彼が最後に来た日聞かせてくれたのは一人の女性の話だった。
いいかい、この話を最後に僕はもうここに来る事はない。
SAOに幽閉された者達と、共に戦っていた内の一人の話。
彼女は命の危機に晒された寝たきりの我が子のため、自分もその現実と戦うことを決意した。
それからの毎日は不安が尽きる瞬間はなく、悪夢の様な時を過ごしたことだろう。
髪がベタつかない様に気を使い、心拍数が上がる事が無くとも毎日身体を拭いていた。
私が仕事で様子を見に来ると、娘の手を愛おしく握りながら微笑んでくれた彼女も、僕は無かった事にはさせない。
これは、君のお母さんの話だよ。
それからの毎日は、今となってはあっという間だった。
リハビリは足が千切れる程痛かったけど、その痛みが無かったら後悔で頭が可笑しくなりそうだった。
頭を可笑しくする時間なんて、私にはもう一秒だって無かった。
同時進行で勉強の遅れを取り戻すのは正直辛かったけど、何もしていない時間の方がもっと辛かった。
退院は予定より早かったみたいで、それからも止まる事なくいられたのは、お母さんが応援してくれてたからだと思う。
「アミュスフィア」を買ったのは、アルバイトにも慣れてきた頃だったと思う。
その頃には溜まっていた勉強もひと段落し始めた頃で、予習に入るくらいまで進んでた。
「アルヴヘイムオンライン」略称「ALO」を知ったその日、日を跨ぐことなくプレイした。
でも、フルダイブしたその日はその場から動けないままログアウトするだけだった。
動けないならと、勉強は「ALO」内でする事にした。
はじめのうちは、とても進みが悪かったけど段々それもなくなった。
気がつけば、趣味の全てを「ALO」に使うまでになったのは自分でもどうかと思うけど、代わりにVRへの拒否反応は無くなってた。
それから…………………………
「間も無く〜○○駅、お下りの際は〜」
「あ、いつの間に着いたんだ」
「プシュー」と深呼吸をし吐き出された蒸気は、力尽くで閉ざされた扉をこじ開けた。
読んでくださった方々、ありがとうございます。
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