【SAO+PSO2】ソードアートオンライン【パラレルダイヴファンタジア】   作:ポメラニマン

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第35章「没ネタ」

 

衝撃は収まり、真空は空気で満たされる。

 

防御を兼ねた音速の殴り合いの余韻は鼓膜を狂わせる。

観客は体験した事のない激闘から解放され、静かに姿勢を崩した。

 

 

「〈you〉、お前そんな隠し球を持っていたのか」

 

「この一直線馬鹿!死にかけてから気がついただけだ!お前は加減ってものを知らねーのか!死ぬかと思ったわ!」

 

 

そろそろ頃合いと、合図すると両者は打ち合わせ通りフラフラと左右を掻き白旗を振る。

 

 

「降参する〉

〈参りましたあー」

 

 

「ウワー」と、重なる観客の歓声は人から発せらた声だとは思えない音で会場中を埋め尽くす。

それに混じり、「貴様らやってる場合かー」と若々しくも年季を感じさせる怒鳴り声が聞こえるが二人は承知していた。

全ては打ち合わせの範疇の戦い。

 

 

 

大歓声に背中を押され、向かい合う二人はゆっくりとその距離を縮める。

四人と一匹は自然体を装うが、場になれない一匹は未経験の緊張のためか、ゴクリと静かに唾を飲み込んだ。

 

 

「〈you〉、わかっているな」

 

「ああ、こっからが本番だ」

 

 

 

「あれー、なんで殺さないのかな?」

 

 

ーーー来た

 

 

歓声と戦いの余韻に紛れ込む様に、〈you〉の背後にはいつの間にか黒いポンチョを着たプレイヤーがユラユラと立ち尽くす。

 

頭上表記、プレイヤー名「poN」

 

会場は予期せぬ乱入者に乱戦を期待し沸き上がる。

眼中に無いと、フードの隙間から怪しげに見つめる瞳と「you」は目が合った。

 

「誰だお前?部外者が口出すなよ。それとも何か?差し入れでも持って来てくれたとか?」

 

キャストの声色は鬱陶しさの中にも微かに怒りと挑発が感じられる。

乱入者は愉快にニヤケ声を漏らしつつ、フードに手をかけると徐々にその容姿があらわになる。

 

 

「〈冥土の土産〉なら持ってるけど、欲しいー?」

 

 

司会者はマイクを握り締め、一人と一匹は気がつけば姿を消していた。

じっくりと睨み合うと、その緊張感は会場に伝染し固唾を飲んで見守る。

 

 

「ああ、欲しい。食うのは俺じゃねーけどな」

 

 

小さな鉄腕が中指を立てると同時に、偽殺戮者はその場に座り込み気怠げに足を伸ばした。

 

どういう事かと、会場はざわつき始めるが御構い無しに二人も戦意を捨て座り込む。

 

 

ーーー何をしている、早く殺せ!

 

 

一向に代わり映えしないリング上に会場の空気は劣悪なものとなり、次第に罵声がちらつき始める。

一同の注目を浴び切ったのを確認すると、罵声を蹴散らす様に偽殺戮者は勢い良く立ち上がり怒号を響かせた。

 

「うるさいなー!!お前達は皆殺しだ!!今から見せしめに一人ずつ殺していく!」

 

地面を貫くが如く振り下ろされた拳は、ヴァーチャル空間を振動させ反発して逃げ出した圧力は暴風となり会場の隅まで駆け抜ける。

 

「一応言っておくが、このイベント運営に奴は関係ないぞ」

 

司会者は被害を被った事を伝える。

 

それに乗じ小さなキャストは目一杯声を張り上げ囃し立てた。

 

「プレイヤーがそれ言っちゃ駄目だろ!荒らしかよ!特定中はよ!俺とりあえずログアウトして運営呼んでくるわ!イベント間に合うかなーマジ勘弁!」

 

 

罵声が飛び交う会場の中央、キャストはコンソールを可視化する。

 

「空気よめやぁー!!」

「俺報告いってくるわ」

「痛い目見てからじゃおせーからなー!」

 

 

その光景をひときわ怒りを滲ませ睨む男は抑えきれぬ憤怒をひた隠し見据えていた。

 

 

皆殺しだと…奴ら以外に手出しなど私は命令した覚えはない!

それに、犯罪の証拠を目の前にログアウトなど…気が狂ったか!

しかし、プレイヤー総出の大惨事では警察は動かずとも運営が動く!

クソが……時間が惜しい!

 

 

徐々に会場の敵意はリングの少女の元へと集まり、畳み掛ける様に司会者は自らの特権を帰還した少女に受け渡し、マイクを片手に行使した。

 

 

「村木さん、貴方言いましたよね。早い者勝ちって」

 

 

荒らしに次ぐ荒らし。

会場は呆れてログアウトする者やコンソールを展開し外部に情報を拡散する者で溢れかえる。

 

遂に完璧主義者は我慢の限界を超え、自らのコンソールを展開し殺戮の装置を起動した。

 

「作動音はどうした…なぜ鳴らない!」

 

不測の事態に顔色を変える殺戮者であったが、こうなってしまえば邪魔で仕方の無かった猫が役に立つ。

一先ず、情報を凍結させ手中に収める事が先決。

その後すぐログアウトし原因解明すればまだ間に合う。

何よりも、猫が何か仕出かすのが一番厄介!

 

しかし、アナウンスは容赦なく襲いかかる。

 

「貴方が教えてくれたのよ。作動装置や諸々は個人端末から繋いでるって。そのお陰で捜査の目を免れたんですものね」

 

ーーー私が教えた?そんな馬鹿な話が

 

 

「辿り着いてしまえば一瞬、壊すのもね」

 

 

目まぐるしく移ろう会場の空気に戸惑う会場の中、その片隅から殺戮者は怒鳴り声を上げた。

 

「猫風情が余計な真似をぉぉぉ!!!」

 

突如怒鳴り散らしたプレイヤーに観衆の視線は集中し、付近にいたプレイヤーは彼の姿に気がつくと驚きを皆に伝染させる。

 

「ムサシって…おい、主催者来てるぞ!」

 

主催者という言葉に一同の感心は偽殺戮者から移ろいをみせる。

 

「今の貴方にはもうゲームマスターじみた能力もない。イベントの責任、取らなきゃね」

 

偽殺戮者は怒鳴り声を辞め、どさくさに紛れ気怠げに付け加えた。

 

「因みに拙者あの人に依頼されましたー」

 

直ぐに殺戮者は周囲を取り囲まれ、大波は主催者に見解を求め押し寄せる。

 

「余興にしては荒れすぎだろ!」

「もういいからイベント始めろよ!」

「一から説明しろ!」

 

ーーー私の完璧なシナリオに…

 

ーーーもう殺戮は残されていない…

 

「邪魔だぁあぁぁあ!!!」

 

周囲をデタラメに薙ぐ様に振り下ろされた妖刀は、斬撃を広範囲にまで飛ばし死体の山を築く。

 

「おい!あの武器って」

 

赤黒い刀身に吐血を思わせる不気味で奇形な斬撃。

レジェンダリーの中でも幻、都市伝説として囁かれていた一振り。

妖刀村正の刃先を地面に引きずりながら殺戮者は怒りを露わにする。

 

「貴様ら全員皆殺しにした後、猫を使い私のシナリオは再び蘇る!!!この武器はバランスを超越した性能を秘めている!貴様ら風情が太刀打ち出来るなどと思うな!」

 

軌道を乱雑にうねらせ迫る殺意はひと塊りを異なる軌道で斬り裂き突き抜ける。

その斬撃の走った後には、奇妙な切れ口に真っ二つになるプレイヤーが命を散らし仄かに光る。

 

視界が開けるとギョロギョロと彷徨う視線は一匹を探し回り瞳を血走らせる。

ビタッと吸い付いた視線はリング中央を突き刺す。

 

「よくもはばかってくれたなぁぁぁぁ」

 

一直線に飛び出した弾道は、中央に集う五人と一匹を切り裂かんと憎悪を吐き出し迫る。

 

飛び出した少女は激しく鍔迫り合いで迎え撃ち、薙いだ剣戟は煌めき憎悪を後退させる。

 

「馬鹿な、貴様風情が弾いたのか!」

 

「コンバートしたの。これで人並みには戦える」

 

「私の計画は完璧で無ければならない!間違えなどあってはならない!」

 

血走る瞳を仲間から遮る様に、少女は出で立つ。

 

「貴方は最初から全て間違えていた。人を殺すことなんて間違ってる」

 

腰に携えた一振りのグリップを握りしめ、剣技を発動するが如く邪気を払わんと身構える。

 

「貴方が知らない世界の剣技、冥土の土産に見せてあげる」

 

その行為は、別のゲームであるこの場においては、単なる真似事に過ぎない。

 

「ALO」内、名刀秋雨の使い手として人生二回分使い古した構え。

何もしなかった彼女が、唯一成し遂げた努力の剣戟。

その抜刀術には名前などない。

 

これから襲い来るであろう衝撃に殺戮者の身体は無意識に反応を見せる。

 

一瞬の強烈なまばたきを終えると、目の前にいた筈の少女の姿はなく、二つ程地面が擦れ細い煙を漂わせているのみでだった。

 

「仇はとったよ……みんな」

 

背後から聞こえる声に殺戮者は悟る。

直立の命令を無視し、徐々にズレ落ちていく視線に思いあたる節を弱々しく呟いた。

 

「私が死ぬのか…滑稽だ」

 

綺麗に斬られた断面をなぞる様に、殺戮者「村木」の上半身は真っ二つに滑り落ちた。

輝く電子の粒子に誘われ、ムサシの身体は砕け散った。

 

「…よくわからないが、やったぞぉぉぉぉぉ」

 

事情を知らない者達の歓声は好き勝手に湧き上がる。

彼らにとってはこれもゲーム内イベントの一環だったのだろうか。

これまでの惨劇も知らず、呑気にハイタッチなどして盛り上がっている。

 

 

歓声に包まれつつ、彼女は帰りを待つ者達の元へと歩みを進める。

この場所に辿り着くまでに、どれ程不安だったか。

どれだけ弱い自分を我慢したことか。

 

一歩一歩を噛み締めながら彼女はこれまでを振り返る。

その者達の元へ辿り着く頃、大粒の涙が頬を伝った。

 

「おかえり」

「おかえり」

「おかえり」

「おかえり」

「お帰りニャウ!」

 

綺麗に揃った労いの言葉に、秋雨と橘皐月は涙で溺れた視界を拭い去り応えた。

 

「ただいま」

 

 

「一先ずおつかれー!!!」

 

 

事情も知らず盛り上がる彼らに習い、五人と一匹はハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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