【SAO+PSO2】ソードアートオンライン【パラレルダイヴファンタジア】 作:ポメラニマン
激動の長旅の凄まじさは一つ残らず雲を吹き飛ばし、晴れ晴れとした青一色の空が広がっていた。
予定よりも早く到着してしまったらしい。
待ち合わせの最中、橘皐月は上空を眺める事で暇をつぶす事にした。
駆け抜けた経験が未だに意識を刺激するが、兎にも角にもこの世界は平和であった。
都内高級店の店先、かつて彼女が依頼を受けた場所と同じ店が集合場所として選ばれていた。
「ピロン!……ピロン!」
少し感覚を開け鳴る「集合チャット」の着信音に、皐月は思考の世界から呼び戻された。
・「多分ついた、どこいんの?」
・「拙者も」
チャットの内容は簡素なものであったが、彼女達にとっては充分なものであった。
「おかしいな、着いたって…どこにいるのよ」
彼女達は「玲奈誘拐」の聴取を控え、個人間で連絡先を交換していた。
しかし、この瞬間にも「再開の約束」は生きており、それは別件として楽しみにしていた。
皐月は辺りを見渡すが、やはりそれらしい姿は見当たらない。
そろそろ諦めようと決断する直前、自分と同い年くらいであろう少年はギリギリで視界に滑り込んだ。
少年は遠巻きにも自分と目が合っている事から、皐月は彼がそうだと結論付けた。
距離が近づくにつれ、歩き方にぎこちなさが増す彼は見ていて少し微笑ましくも感じた。
「あの、秋雨さんでいらっしゃいまするでしょうか!!」
下手くそな敬語は、やはり彼が緊張している事を匂わせる。
それが如何にも彼らしく感じ、可笑しくなり吹き出した。
「っふ、はい。秋雨さんでいらっしゃいまするですよ」
少年は自らの人見知りが災いし恥をかいた事を自覚すると、顔を赤くし嘆き出した。
「治せるもんなら治してくれよぉぉぉぉぉ」
彼は心の叫びを留めておくことが出来ないのだろうか?
少し可哀想に思った皐月は、からかうことを止め謝罪した。
「からかってごめんね。何か〈you〉ってそのまんまで…可笑しくて」
ふふふ、と笑いを堪える少女は見たことない容姿であったが、どこか懐かしい雰囲気は「you」の緊張をほぐした。
「んで、俺たちは合流出来た訳だが…ポンの奴は着いてる筈だよな」
「その筈なんだけど、どこにも見当たらなくて」
もう一度注視して見渡してみると、綺麗に整えられた街の彩りに一役かう立派な樹木の木陰。
そこには、身を隠すようにこちらを覗き込んでいる人影が一つ。
皐月はそれが渦中の人物だと確信し、彼女の様に楽しげにスキップしながら近づいた。
木陰の正面まで到着すると、覗き込む様にはみ出した頭は勢いよく引っ込んだ。
「玲奈」
呼んでみたが無反応。
戦いで(そよ)揺れた枝が葉を擦り付け、「サァー」っと虚しい音を立てるのみであった。
「れいなさーん」
めげずに再び呼んでみる。
「プップー」とクラクションを鳴らした男の「危ねぇだろー」と激動する声が響くのみ。
「武士は潔い者だと思うよ…出ておいでよ」
三度目の正直に木陰からゆっくりと露わになる容姿。
「SAO」はナーヴギアを通じて脳波から全身をスキャニングし、「自分そのもの」な姿でゲーム内での生活を課せられる。
そのため、実質彼女らは初対面では無いはずなのだが、なぜ彼女はこんなにも緊張しているのだろうか。
「ササッ」っと木陰から飛び出すと、玲奈は無言で皐月の手を引っ張り少年と対峙していた。
「あの、ゆ、〈you〉さんでいらっしゃいまするでしょうか!!」
彼女は先程の〈you〉と全く同じ言葉を口にした。
彼女もまた、現実世界では人見知りであった。
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「そろそろ良い時間帯だし、中に入ろうか。依頼主だった人もう来てるから」
三人揃って少しばかりの時間歓談すると、互いの緊張は解れたらしく、丁度予定された集合時間が訪れていた。
早めに店内に入ることも出来たのだが、中に入る前にこの「人見知り」をどうにかしないとという危機感が半分あったため先延ばしにする事にしていた。
もう半分は、いわずもがなだろう。
上昇するエレベーターに乗っている最中に会話は無く、各々は瞬間的に様々な事を思い起こしていた。
彼女らはこの高級店に、「お気楽なパーティ」をしに来たわけではない。
このエレベーターが到着するまでに、各自覚悟を準備しておかねばならない。
「チィィン」と到着を知らせる鐘が鳴ると、目的地は彼女らを出迎えた。
皐月を先頭に店内を歩むと、最奥地に据えられた目立たない席に一人の男性の姿を確認すると、依頼主、菊岡誠二郎が腰を落ち着けていた。
「えと、どちらで呼んだらいいでしょうか?」
皐月は菊岡の職業が気軽に公にして良いものではない事を知っているため、戸惑いつつ確認をとった。
「その心配はしなくていいよ。初めまして、僕は総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員、菊岡誠二郎というものなのだが…」
なんだけど?と菊岡が言葉を切った意味がわからず、かといってどう対応したらいいかもわからなかったので、一同は成り行きに任せ沈黙を保った。
「初対面で、それも仰々しい職業を名乗る大人が相手となると君たちも緊張してしまうことだろう。しかしこの肩書きはこれから行う公務においては名乗らねばならなくてね」
気を使ってくれた事に気がついた初対面の二人は、「いえいえ」と小刻みに首を振る素振りを見せた。
「僕のことは菊岡と呼んで貰って構わない。それで、僕は君たちをどっちで呼んだらいいかな?」
三人は見合い無言の相談をした結果、どちらでも構わないという結論に至ったことを皐月が代表して伝えた。
「それじゃあ、僕も名前で呼ばせて貰う事にするよ」
菊岡は一同の表情を注視していたが、嫌がる予兆を見せなかったため遠慮なく呼ばせて貰う事にした。
縁あり眼鏡をクイと中指で掛け直すと、菊岡は座り直し会話の準備を整えた。
「それじゃあ、まずは僕の持つ情報から君達に提示しよう」
高級店の一室、その片隅で密かにこの事件の「現実世界」と「仮想空間」の答え合わせが開始された。
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「まず始めに、プロデューサー村木智史はログアウト直後自らを〈ラフィンコフィンの生き残りプレイヤーネームpoN〉と名乗ると舌を噛みちぎり絶命した」
「!?」
そんな馬鹿な、と各々違った驚愕の形を見せている。
菊岡は一人一人の表情を品定めするように見つめ、間髪を入れずに問いかける。
「村木には玲奈さん誘拐の容疑で話を聞くつもりだったが…玲奈さん、君を誘拐したのは彼かい?」
「はい、間違いありません」
「疑問なのだけど、君がSAO生還後に口にしたプレイヤーネームと同じなのは何故だい?」
痛いところをつかれたが、この人には嘘をつくだけ自分を追い詰める結果になる事だろう。
玲奈は真実を語ることにした。
「彼がSAO生還後に計画していた殺人を止めるためです」
彼女は真実は語ったが、余計な情報は語らなかった。
菊岡はそれを予想していたのか、玲奈を見据え続ける。
「SAO生還後の君の姿は、まさしく話に聞くレッドプレイヤーそのものだった。今は随分と落ち着いているようだね。まるで別人のようだ」
「SAOで彼は私を洗脳し入れ替わり生還する事を計画していました。その計画を逆手にとって殺人を止めようと考えていました」
「なるほど、質問を続けるよ。君はその殺人をどこで知ったんだい?」
「SAO内の監獄で知りました」
嘘はついていない
「それは、君も牢屋にいたということかな?」
「いいえ、私は看守をしていました」
「poNが村木だと気がついたのはいつだい?」
「誘拐の少し前です」
「PSOPはいつ始めたんだい?」
「誘拐された日です」
なるほど、と菊岡は「スーッ」と微かに息を吐き話に聞き入る少年を見つめた。
「〈you〉君、君はとても真っ直ぐだ。玲奈さんしか知り得ない情報にもまるで自分の事かの様に反応を見せてくれる。君は三人の中で唯一SAOサバイバーでは無い人物だ。もっと警戒しないと駄目だよ」
話の矛先が自分に向くとは思っていなかったのか、気を抜いていた少年は思わず息をのんだ。
「二人は玲奈さんの話す殺人計画を信じた。監獄内で洗脳された看守の少女を助けたと皐月からは聞いている。しかし〈you〉君、君は会ったばかりの者が話す殺人計画をどうしてそこまで信じる事が出来たんだい?」
菊岡の視線に威圧的なものは一切感じないが、それだけに嘘はつきたくない。
本当の事を話そうにも信じてもらえる様な事象ではない。
しかし、〈you〉の戸惑う素振りは菊岡にとっては重要な鍵となった。
そんな事も知る由もなく、〈you〉は神妙な面持ちで真実を語る事を決断した。
「信じてもらえるなんて思ってねーけど…嘘ついて騙すくらいなら、嘘つき呼ばわりされた方がマシだ」
もうそれしか説明する術は無いと二人に合図すると、小さく頷き可決される。
〈you〉は、これまで体験した全てを話した。
自らも体験した違う世界の事、縦軸横軸関係無しの次元超越、加えて皐月に教えて貰った話。
「なるほど、当日僕は誘拐犯の居場所しか聞いていないが…確かにそれだと僕に協力を取り付けるのは難しいと判断するだろう」
「騙すつもりはなかった…でもこんな話信じてもらえるなんて思えなかった」
菊岡の微動だにしなかった骨盤は背もたれに落ち着き、自身のPCを取り出すと〈決定的な証拠〉を一同に開示した。
「君の話は僕の持つ不可思議な証拠と一致するものがある。これを見て欲しい…これは君達だよね?」
その映像は、ショップエリアから村木ことムサシがログアウトした後のものだった。
「これって…」
ショップエリアに突如現れた穴と、三人が消えていく瞬間がバッチリと収められていた。
「自殺の動機解析のために押収したのはいいけれど、これについて私はお手上げでね。運営は重大なバグだと断定しさっそく改善に取り掛かっていたよ」
そう一言だけ言うと、供述が一致し過ぎている事から一時固定概念を捨て、落ち着く体制に座り直した。
「因みに、彼らが再びここを訪れる可能性はあるかい?」
「多分、もう二度と無いと思います」
それを聞くと、菊岡は押収したコピー映像を消去し捨て去った固定概念を元の位置に戻した。
「…答えてくれてありがとう。玲奈さんの精神鑑定の結果が出次第、彼女への監視も解くように話をつけよう」
そういうと、菊岡の目線はメニュー表へと流れ、一同の凝り固まった筋肉は解れ緩んだ。
「質問のお礼をさせて欲しい。なんでも好きな物を頼んで欲しい」
「そんじゃ遠慮なく」
三名が仲良くメニュー表と睨めっこを始める頃、菊岡はそれとは別件の報酬について語り出した。
「それと、皐月。報酬の件だが」
「いいんです……自分でやってみたいんです」
晴れ晴れとした皐月の表情には以前と異なる熱を感じ、菊岡はそれを尊重しそれ以上何も言わなかった。
「そうか…それじゃ、そろそろ注文は決まったかな?」
「全部!!!」
「全部!!!」
「全部!!!」
「ぜ、全部かい!?」
思考により脳が糖分を欲したからか、はたまた長旅の疲れに染みたのか。
美味しそうに味わう子供達の表情は、菊岡にとっての報酬であった。
四人に分配された二人分の人見知りは友情の熱に溶け、甘党達は笑顔でアイスクリームと共に平らげた。
木陰の人影がなぜ三度目の正直なのかとか、色々散りばめてみました。
一つ絶対に伝えたいのは、これは恋愛ではなく友情です。
読んでくれて感謝です!
多分これで終わりです!
またね(o^^o)ノシ
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