戦姫絶唱シンフォギア L ~咎人と業火の魔剣~   作:ご近所の林さん

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それでは勢いよくやっていきます。


第一章『邂逅 戦姫と魔剣』

『…死ぬ…かな…』

 

信じたくなかった。だから出てきた言葉だったと思う。

でも、その時の俺は誰がどう見たって助からなかったと思うんだ。

視界に映るのは、瓦礫と飛行機の残骸、そして炎。

動くのは左腕だけ。

他は感覚がない。

潰れたのか、千切れたのか。

考える余裕もなかった。

正直助かったとしても、死んだ方がマシだと思える状況なのに、

俺はずっと叫んでいた。

 

『…死にたくない、死ねないっ、死んでたまるかっ!!』

 

声が出なくなるまで叫び続けた。

 

『…だく…ない…ね…い』

 

とうとう声がでなくなった時、ハッキリと声が聞こえたのをよく覚えている。そいつは、俺にこう言った。

 

(求メヨ…力ヲ…契約ヲ…)

 

霞んだ視界の中で、俺は迷うことなく手を伸ばした。

伸ばしてしまった。

 

 

 

………

 

 

5月26日

 

~某国際空港~

 

「おいっ、起きろよ!結弦!」

 

「んあ…」

 

神無木結弦が目を覚ますと、機内では乗客達が降りる準備をしていた。目の前のクラスメイト、木村も既に荷物を持っている。

 

「もう着いたんだ。てか俺の荷物は?」

「自分で取れよ。あとお前寝すぎな。」

「ハハっ、悪い悪い。起こしてくれて助かったわ。よし、じゃ行くか。」

 

軽く伸びをした後、手早く荷物を降ろす調子のいい友人に対して木村は少し溜息をついた。彼のそういった面は木村としても熟知した所だが、流石に呆れもするらしい。そういった木村のちょっとした鬱憤は

小言に変わって結弦に降りかかる。

 

「だいたい今朝だって俺が起こさなかったら、って、おいっ!聞いてんのかよ!」

「分かってるって、それよりさ、あれ。」

 

小言を遮るようにして結弦が指差した先には、一般の飛行場には場違いな物が数機並んでいた。

 

「戦闘機と、戦車?」

「さっき見かけた時より増えてる。なんかヤバいぞ。」

「いつもの勘か?」

「いや、いつもよりヤバい。」

 

結弦が真剣な表情で木村に返答したその時、窓の外が一瞬眩しい光に包まれ凄まじい爆発音と共に強い衝撃が彼等の乗る飛行機を襲った。緊急時の警報と乗客の悲鳴が響き渡り、後ろの乗客が前方に押しかけることで、機内は一瞬にして大混乱へと陥った。

 

「おいっ!結弦!早く行くぞ!こんなとこいたら死んじまう!」

「落ち着け!非常口が開かなきゃ俺らの座席じゃ降りる前に巻き込まれて踏み殺されるぞ!」

 

結弦の言う通り、よく見ると前方では人が混雑してるばかりか転倒している姿も見える。それでも後方からは勢いよく前に移動しようとする連中ばかりだった。しかし、それよりも気がかりなのは友人の冷静さだ。結弦はこれだけの大混乱の中で、座席から動かずじっと外を見つめている。

 

「木村、ヤバいどころじゃないぞこれ」

「なんだよ!何が見えるんだよ!」

 

木村が言うと、結弦は窓の外、燃え盛る戦闘機と戦車の方向を指さした。

 

「…ノイズだ」

 

~S.O.N.G本部~

 

「…ノイズ、だとぉ!!」

 

S.O.N.G総司令官である風鳴弦十郎が驚きの声を上げる。彼等にとって襲撃は想定内の事態であったにも関わらず、司令室内にはイレギュラーを知らせる警報が鳴り響いていた。

 

「はい!アルカ・ノイズではなく、この反応はノイズです!!」

「馬鹿なっ!バビロニアの宝物庫が再び開かれたとでも言うのか!」

「いえ、それは有り得ません。」

 

司令室中央に立つ金髪の少女エルフナインは驚きを残したまま、しかしはっきりと断言した。

 

「唯一解放可能なソロモンの鍵が失われた以上、宝物庫が開く事は有り得ません。そもそもフロンティア事変の折、宝物庫内のノイズも全て消滅しているはずです。」

「だが、現にノイズは再び現れた。しかも『アレ』を輸送するタイミングで、だ!」

「ええ、だからこそ今回も…」

 

『ゴチャゴチャ御託はあとにしなっ!!今更ノイズ!片っ端から吹っ飛ばしゃいいっ!!!』

 

豪快な台詞回しが2人の会話を遮り司令室に響く。

 

『雪音の言う通りです。司令。事の真意はまず目の前のノイズを切り伏せてからっ!』

 

凛とした声がそれに続くようにして応えた。

 

「うむ!お前達、任せたぞ!しかし、決して無理はするな!!」

 

『へいき、へっちゃらです!師匠!!』

 

最後にハツラツとした声が司令室に響き、先程までの異様な雰囲気を見事にかき消して見せた。しかし、先程まで会話していた2人、風鳴弦十郎とエルフナインは依然として怪訝そうな表情を浮かべている。

 

「(まさか、本当に発現するというのでしょうか…神話に遺るという『ラグナロク』が…)」

 

 

~某国際空港、滑走路~

 

開いた非常口から乗客が次々と滑り降りる。しかし、滑り降りた先はすでに炎に包まれ、その奥からは異形のバケモノが群れをなして忍び寄っていた。

 

「くそっ、辺り一面ノイズだらけじゃねえか!!」

「木村!あそこだ!あそこだけ火の手が薄い!走るぞ!!」

「えっ!?お、おう!!」

「皆も!こっちだ!頼むから走ってくれ!!」

 

結弦の誘導に従い乗客達は燃え盛る火の合間を縫うようにして走り抜けていった。

 

「よし、なんとか逃げられそうだな!」

「バカ木村!わかりやすいフラグ立てんなよ!」

 

『『キャアアアアアア!!』』

 

「それ見たことか!!」

 

叫び声を聞いた瞬間、結弦は踵を返して悲鳴の上がる後方に向かって駆け出した。

 

「おいっ!何してんだよっ!」

「助けに行く!お前は先に逃げろ!死ぬんじゃねえぞ!!」

「ぐっ、お前もな!絶対死ぬんじゃねえぞ!!」

 

自分とは逆の方向に向かう友人の姿を見て、結弦は少しホッとした表情を見せたが、すぐに気持ちを切り替え真剣な眼差しで悲鳴が上がる方向を見据えていた。

 

「死なせない、誰も死なせない!」

(あの時みたいに…)

 

脳裏にうっすらと浮かぶのは、今と同じように燃え盛る炎。自分に優れた力などなくても、今出来ること、やるべき事をやると誓ったあの日の光景だった。決意を嘘にしない為に。

そして、彼が向かった先では、今まさにノイズが1人の女性に襲いかかろうとしていた。

 

「っ!!」

 

間一髪のところで女性をかばいそのまま横に転がった。

 

「大丈夫ですかっ!?」

 

声をかけたが、女性はすでに気絶している。はっとして前を向くと、1体のはずのノイズが次々と分裂し、やがて彼の周りをすっかり取り囲んでしまっていた。

 

「ウソ…だろ…」

 

必死になって辺りを見渡すが、彼の脳内ではすでに分かりきっていた。活路等どこにも無いのだ。

恐怖の感情よりも、悔しさが彼を苛んだ。

 

「やっぱり、俺じゃ守れないのか…」

 

そう呟き諦めたように目を閉じると、音だけが鮮明になった。

燃え盛る炎の音、遠くに響く爆発の音、ノイズの躙り寄る音、自分の心臓の鼓動、そして…

 

『Balwisyall Nescell gungnir tron』

 

歌が聴こえた。

今まで聴いたことのない、綺麗で、力強い、歌。

目を開くと先程まで辺りを囲んでいたノイズの姿はなく、舞い上がる炭を背にし、その身に鎧を纏う凛とした少女の姿だけがそこにあった。

 

「あ、君が、ノイズを…?」

「はい!もう大丈夫ですよ!私が皆さんを守りますから!!って、うわわわ!お兄さん、頭から血が!!だっ、だだ大丈夫ですか!?」

「え、ああ。ちょっと切っただけです。大丈夫!」

「ほんとですか!?よかったぁぁぁ」

 

大袈裟なリアクション、ケガに気づいた時の動揺の仕方、先程までの凛とした顔つきとは違う緩んだ顔つきで笑う少女を見て、張り詰めていた結弦も緊張がほぐれ笑いがこぼれた。それ程までにこの少女、立花響の笑顔には力があった。

 

「よし!じゃあ、えーっと、、、」

「ほえ?」

「えーっと、なんて呼んだらいいですか?」

「え、え、あ、私ですか!?」

「いや、君しかいないから」

「立花響です!えーっとお兄さんは?」

「俺は神無木結弦、結弦でいいよ。じゃあ、逃げ切るまでよろしくな!響ちゃん!」

「ひ、響ちゃん?わ、なんか恥ずかしい…」

「ん?どうした、響ちゃん?」

「ひゃい!いえ、大丈夫です!って、うわー、しまったぁぁぁ」

 

先程気絶した女性を抱き抱え、走り出そうとするその後で響は大声を上げ蹲っている。

 

「あのー、響ちゃん?」

「うう、一般の方には秘密にしなきゃいけないんで、本当は名前も機密事項だったのにうっかりしゃべっちゃいましたぁぁぁ、あぁ、また師匠に怒られる…」

「…大丈夫です。何も聞きませんでしたから、って事には?」

「ならないです…」

「よく分からないけど、ご愁傷様です…」

「うぁーー!」

 

叫ぶ響を起き上がらせ、ようやく結弦達は避難を始めたのであった。

 

~S.O.N.G本部~

 

「うぁーー!!」

 

先程までの響の様子が司令室のモニターに映し出されている。その様子に、風鳴弦十郎は溜息を、その他の職員は笑みを浮べていた。

 

「司令、どうしますか?」

 

弦十郎の後から現れた緒川 慎次が尋ねる。

 

「先程の少年か?避難後に機密保持の為の説明を受けてもらうが、データを見てみると意外と面白い人材かも知れんぞ?」

「はい、機内のカメラ等も確認しましたが、混乱したあの状況下での冷静さ、分析力、それに行動力ですね。どれをとっても18歳の高校生とは思えません。」

「うむ、それに率先して人を助ける心意気も見事なもんだ。まぁ、少しばかり無茶をやりそうだが、うちの弟子に比べれば可愛いもんだな」

「わかりました、それでは避難後は司令にお任せします。」

「おう、招待だけは頼んだぞ」

「了解です、それでは。」

 

会話を終えた弦十郎は再びモニターに目を移す。ノイズの撃退、避難誘導はここまで順調に運んでいるが、敵の標的であるはずの『モノ』へのアクションが一向に見られない。それが違和感を感じさせたのだ。

 

「司令、天羽々斬及びイチイバル、当該地域のノイズを殲滅。まもなく護衛対象の元へ到着します。」

「よし!さぁ、これであちらさんも動くことだろう。」

 

~某国際空港、専用格納庫前~

 

青と赤の鎧を纏った2人。風鳴翼と雪音クリスは、護衛対象である輸送機の前に到着した。旅客機周辺の惨状に比べて、この周辺だけが明らかに攻撃を受けていない事が2人にも不気味な違和感を残していた。

 

「敵さん一体何が目的だ?空港襲撃なんて大それてんだ。間違いなくコイツが本命のはずだけどな。」

 

クリスが怪訝そうな表情で輸送機を叩いてみせる。

 

「やめろ雪音、一応そいつは危険物だ。本来なら我らがここまで近づく予定ではなかったのだぞ。」

「万が一の起動を避ける為に、ってか。」

「あぁ、それともう1つ、例の『咎人』と呼ばれる組織だ。奴らは『コイツ』を使って世界を救うと言った。」

「あたし達が起動を避けても、そいつらは容赦なく起動させに来るってことだろ?心配しないでくださいよ先輩!元よりこっちは、後輩の仇討ちだ!絶対ぶっ飛ばしてやる!!」

 

『『ふふふふ』』

 

「っ!!何奴っ!!」

 

咄嗟に構えを取る翼とクリスの頭上、輸送機の上に見える人影が不気味に微笑んでいた。

 

『ぶっ飛ばすそうですよ、アンネリッタ?』

『出来るならしてもらいたいわね、ベルムリッタ?』

 

目の前に佇む白と黒の少女。片方は全身白色の鎧を身に纏った少女、もう片方はそれと正反対に全身黒色の鎧を身に纏っていた。その様相に異様なものを感じた翼は一瞬刃を下げるが、クリスはそのタイミングで引き金を引いていた。

 

「はっ、お待ちかねだぜご両人!!あいつらの仇討ち!やらせてもらう!!」

 

無数に打ち出される弾丸は、白と黒の少女を的確に捉えていた。彼女達は弾丸を避けながら上空に飛び上がり、舞うようにしてクリス達の後方、輸送機から離れた場所に降り立つ。クリスは着地の瞬間を見逃さなかった。

 

「コイツでしまいだっ!!」

ーMEGA DETH PARTYー

 

脚部から放たれるミサイルが着地寸前の少女達を捉え、大爆発を引き起こした。雪音クリス自慢の必殺技の1つだが、翼とクリスに安堵の表情は無い。着弾した時点から絶えず聞こえる笑い声がその原因だった。

 

「ちっ、無傷かよ」

 

『無傷ではありませんわ、アンネリッタ?』

『そうだね、毛先が少し焦げたよ、ベルムリッタ?』

『美しい髪ですのに、野蛮ですわね、アンネリッタ?』

『野蛮人には美しさが理解できないんだよ、ベルムリッタ?』

 

「なっ!」

「落ち着け雪音!安い挑発だぞ!」

「くぅぅ、いいかよく聞けてめーら!うちの先輩の髪の方がよっぽど綺麗でサラッサラだぞ!ちなみにあたしの髪も悪くねえ!」

「ゆ、雪音!何と張り合ってるんだ!落ち着け!」

 

啖呵を切ったつもりのクリスの顔がみるみるうちに赤くなる。なだめている翼にしても、若干の照れを隠しきれていない。

 

『そろそろ、お仕事しましょうか、アンネリッタ?』

『コントを見に来たわけじゃないからね、ベルムリッタ?』

 

「くっ、貴様ら!一体何者だ!」

 

吠える翼に応えるように、彼女達はお屋敷の使用人がするような仕草に丁寧な口調で話し始めた。

 

『『これはこれは失礼を致しました。私共、『咎人』に属する者。主の命により、そちらの剣を頂戴しに参りました。申し遅れましたが、私共の名は、』』

『『双星』』

『ベルムリッタ』

『アンネリッタ』

 

『『と申します。以後お見知りおき下さいませ。』』

 

「剣を、頂戴する、だと?」

 

『『貴方様の事ではございませんので御安心下さいませ。』』

 

「くっ!!」

「先輩。あたしが言うのもなんだけど、落ち着け」

「私は冷静だ!」

 

『『私共の主が欲するのは、完全聖遺物『レヴァンティン』、滅びの力を宿す魔剣でございます。』』

 

~某国際空港 滑走路~

 

「はぁ、はぁ、だいぶ走ったけど…響ちゃん、これどんどん空港から離れてない?」

「はい、今向こうの避難が上手くいってないみたいなんで、こっちのヘリポートに直接迎えが来てくれるんですよ!」

「そういうことか…確かにノイズも施設側ばかり狙ってたし、こっちに来てくれれば安心だね」

「え、ノイズの攻撃してる場所わかったんですか?」

「そりゃ、見てれば誰だってわかるよ。人の逃げる方向とかね。なんかこっちに来させたくないように見えた。」

「ほえー」

「その感じ、俺変な事言ったかな?」

「いやいやいや、私ぜんっぜん分からなかったから、結弦さんすごいなーと思って」

 

談笑しながら待っていると、救助のヘリはすぐに到着した。結弦は抱き抱えたままの女性と共に手早くヘリに乗り込む。座席に女性を降ろした後、響にもその手を伸ばした。

 

「響ちゃんも、早く!」

 

伸ばした手を見つめる響だが、一向に手を掴む素振りがない。首を横に振ってその手を拒むが、顔つきは結弦を助けた時に見せたあの凛とした表情だった。

 

「ごめんなさい。まだ戦ってる仲間がいるんです。だから私、早く助けに行かなくちゃ!」

 

戦ってる仲間、助けに行く、およそ少女の口から飛び出す台詞ではなかったが、それが返って結弦を安心させた。彼女は戦場に身を置くもの。できる事も、やらなきゃいけない事も自分よりずっと多いのだと、そう感じたからだ。

 

「響ちゃん」

「はい!」

「負けんな!」

「っ!…はい!行ってきます!」

 

互いに拳を作り、それを軽く当てる結弦と響。

精一杯の笑顔で見送った結弦に、響もまた精一杯の笑顔で返した。

仲間の元へ駆ける彼女の心は何故か高揚している。少しむず痒いそれは、力が溢れるような感覚にも似ていた。

 

 

~某国際空港 専用格納庫前~

 

銃声と爆音の中、剣戟が鳴り響く。戦場に鳴り響くすべての音を紡いで、歌姫は魂を震わせていた。

 

「~蒼ノ一閃~!!」

 

「ーMEGA DETH FUGAー!!」

 

2人が繰り出す必殺技は、確実に相手を捉えている。しかし、相対する少女達は未だに無傷であり、そればかりか疲労した様子も見られなかった。もちろん、翼とクリスも未だ余力を残している。それでも、膠着した戦況を打破する一手を掴めずにいた。

 

「ちっ、なんであいつらあんなピンピンしてやがんだっ!」

「大技はすべて防がれている。が、小技では奴らを仕留め損なうか」

「なら、ゴリ押ししかないんじゃねーか?」

「仕方ない!やるぞッ!雪音!!」

「ああッ!い、く、ぜ、先輩ッ!!」

 

翼が生み出す炎の両翼にクリスの放った矢が交わり、まるで巨大な火の鳥が顕現したかのような一撃が、ベルムリッタに直撃する。アンネリッタはその後で片目を閉じ、もう片方の目でそれを見つめていた。

 

『この攻撃、流石にイージスが耐えきれませんわ、アンネリッタ』

『もう少しだよ、頑張って、ベルムリッタ』

 

「あいつら、何をしていやがる!」

「片方に防御を任せ、片方は…まるで記録」

 

『まだですの、アンネリッタ?』

『あと少し、あと少しだよ、ベルムリッ』

 

「どぉおりゃぁあっ!!!」

 

響の渾身の飛び蹴りが、アンネリッタの不意を付いた。咄嗟に左手でカバーしたが、衝撃に耐えられなかった彼女の体は、地面に激突するまで吹き飛ばされる。防御を任されたベルムリッタは、受け止めていた攻撃を別方向へ受け流し、アンネリッタの元へ飛んだ。

 

「立花響!参上!さぁ、どっからでもかかってこい!」

「おい、バカ。かかってくる相手は今お前が吹っ飛ばしたよ」

「え、そうなの!?よし、それなら大勝利だね!」

「立花、素直に助かった。と言いたいところだが、不意打ちは恥ずべきだぞ」

「え、えええーー!」

 

吹き飛ばされたアンネリッタの落下地点、そこから突如として地鳴りのような音ご鳴り響いた。傍らには狼狽えるベルムリッタの姿が見える。起き上がったアンネリッタは、かつて暴走を引き起こした響が放つ獣のような凶暴性を滲み出していた。

 

『鎮まりなさい、アンネリッタ!』

『グッ、ガァッ!!クソガキ…ドモ、ゴロスッ!!!』

『ダメ!アンネリッタ!!』

『ゴァァァァ!!!!』

 

叫んだアンネリッタからは無数の黒色腕が伸び、一斉に響達を攻撃し始めた。

 

「なんだっ、これ!」

「くっ、この手数は…」

「捌き、きれないっ」

 

一瞬にして黒に飲み込まれる3人。立ち上がりこそしたが、すでにその身に纏うギアは所々破損が見られ満身創痍と言った様相を表していた。しかし、それでも狂獣と化したアンネリッタは攻撃の手を休めない。更に黒色の腕を生み出し、今度は無差別に振り回し始めた。

 

「くっそ、体が」

「動け、今動かなければ」

「はぁ、はぁ、はぁ、、、えっ」

 

突如息を飲んだ響の視線の先には、先程結弦を乗せたヘリの姿が見える。結弦が響達を迎えに行くため、女性を下ろした後戻ってきたのだ。ヘリはさほど近いところにはいない、だがプロペラの発する音は獣の興味を引く上では十分すぎるほどだった。

 

「逃げて、もっと高く!逃げて!!」

 

叫びを上げる響、一瞬だけヘリの中の結弦と目が合った気がしていた。

 

『ガァァァ!!!』

 

黒い腕はヘリの尾翼を掠めただけだったが、バランスを崩したヘリは左右に揺られ、回転しながら輸送機に直撃するようにして堕ちた。

 

「ぅ…あ…ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!!!」

 

悲痛な叫びが響いた。

 

 

~ 炎上する輸送機~

 

……

 

「…死ぬ…かな」

 

炎の中、結弦は静かに呟いた。 自身の死を、信じられなかったからだ。

 

「…パイロットさん……すいません」

 

戻ろう等と言い出さなければ、ヘリのパイロットは死なずに済んだ。はっきりと姿は見えないが、ヘリの残骸からは微かに人の腕のようなものが見える。

 

「…響ちゃん…ごめん」

 

力になれると思っていた。自分にできる事、やらなきゃいけない事なのだと思って戻った。その結果、1人を巻き込み、1人を悲しませた。家族の事も考えればもっと多くの人が、自分の思い込みで悲しむことになる。彼は、自分の無力さと無知を呪った。

やがて火の手は勢いを増し、辺りの残骸が高熱により崩れはじめた頃、結弦は声にならない声で叫んだ。

 

「…死にたくない、死ねないっ、死んでたまるか!」

 

生きて、この罪を償う。

償えなくても、自分の犯した罪の分、誰かを助ける。

だから死ねない。

 

「…し…ね…な……い」

 

遂に声も枯れ、それでも叫び続けた。

 

『求メヨ』

 

(求める…?)

 

『求メヨ、力ヲ、力モツ者、契約ヲ』

 

(よく聞こえない…あんた誰なんだ…)

 

『求めよ、我は魔剣。新たな主、力持つ者の声を聴き、契約を果たさん。』

 

(契約って、何をするんだ)

 

『ただ、求めよ。新たな主、力を求めよ。我はその声を聴き、力を与える。』

 

(力…、それがあれば俺も助けられるのか…)

 

『全ては主の望むままに』

 

霞む視界、唯一動く左手の先には、『何か』があった。

 

「……力を」

 

「…与えろっ!!『レヴァンティン』!!!!」

 

光、閃光は柱となって天高くまで登る。

 

~S.O.N.G本部~

 

「莫大なエネルギー量を確認!」

 

「それに伴い、新たなアウフヴァッヘン波形を感知!これは…」

 

「…レヴァンティン、だとぉ!?」

 

 

~某国際空港 専用格納庫前~

 

「…ぅ…あ…ウア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

「どうした!立花!立花!」

「おい、なんなんだ!あのヘリに誰が乗ってたんだ!」

「結弦…さん…、仲良くなれたのに…」

 

涙を流しながらも響はアンネリッタを睨みつけた。拳を握り唇を噛み締めながら睨み続けた。

 

「動け、動け、動け!!」

 

それでも響の体は動かない、もちろんそれは他の2人も同様だった。

そんな3人に獣は再び黒色の腕を無数に伸ばす。ただ相手を撲殺する為に放たれた無数の拳が3人の眼前に迫る。

刹那にも満たない時間、黒色の腕は跡形もなく消え去った。

突然現れた光が腕をすべてかき消したのだ。

 

「…結弦さん?」

 

全身覆う炎のように揺らめく焔色のオーラと巨大すぎる剣を携えているその人物は、紛れもなく響の知る神奈木結弦だった。

腕をかき消されたアンネリッタは尚も無数の手を伸ばすが、巨大な剣から放たれる閃光により、辺りは光に包まれた。

光が収まると、そこにアンネリッタベルムリッタの姿はなく。炎を纏った結弦だけがその場に立ち尽くしていた。

 

「…結弦…さん?ですよね?」

 

響がそう尋ねると、結弦は振り返りヘリで別れた時と同じように微笑んで見せた。響もそれに応えるようにして笑う。

それを見届けた結弦は静かに瞳を閉じた。

 

 




第一章お付き合いいただきありがとうございます。
言葉遣いや台詞回し等、その他気になったところがあれば、ご教授いただけると非常に嬉しいです。
シナリオ考えるの好きなんですが、文章にすると全くうまくいきませんね!
次も勢いでやっていきます。
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