戦姫絶唱シンフォギア L ~咎人と業火の魔剣~ 作:ご近所の林さん
高校3年生の神無木結弦は、学外研修を終えた矢先の空港で大量のノイズによる襲撃に巻き込まれる。絶体絶命の場面、結弦の前に現れたのはS.O.N.Gに所属するシンフォギア装者 立花響だった。
時を同じくして、いち早く護衛任務に当たっていた風鳴翼と雪音クリスの前に、『咎人』を名乗る組織の構成員、『双星』のベルムリッタとアンネリッタが襲いかかる。彼女達の目的は翼達が護衛する完全聖遺物・魔剣『レヴァンティン』の奪取にあった。激しい戦闘の中、合流した立花響の一撃に激怒したアンネリッタは、獣のような凶暴性を発現。圧倒的な攻撃により響達を一瞬にして窮地へと追いやる。そんな中、響達を迎えに戻った結弦を乗せたヘリがアンネリッタに撃墜されてしまう。ヘリに搭乗していた結弦は瓦礫の下敷きになり瀕死の重傷を負うが、突如として聴こえる声に従い、魔剣と契約を果たす。
魔剣の力を発現した結弦は『双星』を撃退するが、力を使い果たしその場に倒れてしまう。
・神無木結弦(かんなぎゆづる)
18歳 一般高等学校3年生
魔剣と契約しちゃった人。一般人ながら優れた直感と状況判断能力を有するが、精神的に未熟なせいか能力が安定しない。
・アンネリッタ
『咎人』の構成員、黒い人はこの子。すぐに怒る。すぐに暴走。秘めた力でもない限り、今後は獣声叫びっぱなしとなるだろう。
・ベルムリッタ
『咎人』の構成員、白い人はこの子。ストッパー役で終われるものかよ!
では、第二章よろしくお願いします。
『終わる日常』①
―――
――――――
『契約者が現れたそうですね。』
月明かりが差し込む薄暗い空間の中、宙に浮く鏡の中にはローブを纏った妖艶な女性が映っている。
女性は自らの前に立つ魔術師風の男に向け厳かな声で語りかけた。
「その通りです。現在、契約者は敵方に身を寄せているようですが、いかがしましょう?」
『焦る事はありません。少なくとも魔剣の切っ先がすぐにこちらを向くことはないのです。ならば、今は他の手札を揃える事を優先しましょう。』
「承知しました。では、回収したデータの解析と調整に専念させていただきます。」
そう言った男は、闇に呑まれるようにして音もなくその場から消え失せた。
『頼みましたよ。』
そう呟くと、彼女は手を伸ばし、鏡の前には突如として結晶体が現れた。
結晶の中には神無木結弦の姿が映っている。
すると、彼女は結晶体に映る結弦の姿を、愛おしむ様に見つめ小さく笑みを浮かべた。
――――――
―――
5月29日
~S.O.N.G本部 メディカルルーム~
「ぅ・・・・」
目を覚ました結弦の視界には知らない天井が広がっていた。
考えの纏まらない頭で辺りを見渡すと、至る所に見慣れない機材が並んでいる。
「(・・・まるでSF映画だ。)、痛っ・・・。」
一頻り辺りを見回した後、起き上がろうとする結弦の体に激しい痛みが走る。
「なんだこれ、筋肉痛・・・?」
苦笑いをしながら、なにげなく痛みのある右腕をさする。
その瞬間、彼の脳裏に、炎に包まれた際の痛ましい光景が鮮明に蘇った。
辺り一面に燃え盛る炎。
飛行機とヘリの残骸。
その中に見える人の腕。
そして、自らの体から千切れた右腕と、潰れた両足。
「う、あぁ!あぁあああ!!!!」
フラッシュバックを引き起こした彼は混乱し、奇声を上げてベッドから転げ落ちた。
全身の筋肉が感じる痛みと、転げ落ちた衝撃の痛みに蹲る彼には、続いて激しい吐き気がこみ上げる。
「ウッ・・・、」
その時、突如としてメディカルルームのドアが開き、金髪の少女を先頭に数人の男女が部屋へ入ってきた。
この施設の医療スタッフであるのだろうが、パニックを起こした今の彼にそれを理解する事はできなかった。
差し出された手を振り払い、尚も奇声をあげる彼は拘束され、鎮静剤が投与される。
意識を失う刹那、金髪の少女が自分に向け『ごめんなさい』と呟く。彼はそこで意識を失った。
――――――
―――
―――数時間は立っただろうか。
まるで頭を強く打ったような鈍い痛みを感じて目を覚ました結弦が目にしたのは、見覚えのある特徴的なくせっ毛をした茶髪の少女だった。
彼が目覚めたことに気付いた少女の瞳には、溢れそうな程に涙が溜まっている。
「結弦さんっ!よかった・・・本当によかったぁ。」
強く結弦の手を握る少女。その少女の事はよく覚えていた。
今は鎧を纏っていないが、目の前にいるのは間違いなく自分の命を救ってくれたあの少女だった。
「おはよう、響ちゃん。あと、ごめん。」
謝罪の言葉を聞いて、響は痛みを感じる程強く彼の手を握り、勢いよく首を横に振る。
「ごめんなんて、言わないでください。私の方が、よっぽど、ごめんなさい。守れなくて。それに・・・」
「それに・・・?」
「それに・・・助けてくれて本当にありがとうございました!」
「・・・え?」
続けて感謝を述べた響きであったが、結弦は不思議そうな顔で彼女を見つめていた。
「俺が助けた?助られたならわかるけど・・・」
「え、覚えてな」
「ダメです!響さん!」
突然、大きな声が会話を遮る。声の主は、先程結弦に『ごめんなさい』とつぶやいた金髪の少女だった。
「彼の心は、まだ安定していません。無理に思い出させるような事を言ってはダメですよ。」
「エルフナインちゃん・・・。ごめん・・・。」
「・・・エルフナイン?」
「はい、僕の名前はエルフナインです。自己紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。」
「そんな、謝らなくていいよ。俺の方こそ、まだ自己紹介してなかったよね。神無木結弦です。さっきは落ち着かせてくれてありがとう。」
「覚えているんですか?」
「多分だけど、ごめんなさいって言ってくれた子だよね?」
「あう、そうです。ごめんなさい。」
「だから、謝らなくていいから。ね?」
「はい。ごめんなさ・・あっ」
結弦がいたずらそうに笑うと室内にほんの少し和やかな空気が流れた。
しばらくして話を聞くと、どうやらエルフナインは、彼が鎮静剤を打たれてから目覚めるまで、隣のモニタールームで彼のバイタルチェックを行っていたらしい。そして、ほんの数分前に響もこの部屋を訪れたのだと言う。
「そうか、迷惑かけっぱなしだったんだ。ありがとう、エルフナインちゃん」
そう言ってエルフナインの頭を軽く撫でると、彼女は頬を染めながら目を伏せたが、とても喜んでいるように見えた。年相応の可愛らしさ見せるその仕草は、結弦にもし妹がいればこんな感じかな等と、微笑ましい想像をさせる。
「えへへ・・・。はっ!いっいえ!これも僕の仕事ですので、気にしないでください!」
「ほんとその年で立派だね。今年でいくつになるの?」
「僕はホムンクルスなので、年齢は特にありません。ですが、皆さんからお祝いをしていだいたので今は1歳です。」
「ん?え、1歳?」
「結弦さん、それについてはまた後で説明してあげますから」
「あぁ・・・助かるよ。後で頼むね?」
互いに苦笑いを浮かべる響と結弦の横でエルフナインは不思議そうな表情を浮かべていた。
そしてしばらく談笑した後、結弦はずっと気にかかっていることを訪ね始める。
「色々話してたら気持ちが楽になったよ。ありがとう二人とも。もう大丈夫だから、あの後俺に何があったのか、教えてくれないかな?」
―――――、静寂、部屋に流れる雰囲気が変わる。
そらすことなくエルフナインを見つめる結弦に対して、少しの沈黙をおいた少女は意を決した表情で口を開く。
「それは・・・実際に見て頂いた方が良いと思います。」
「見る?」
「はい、今から連絡しますので、少し待っていてください。」
そう言った少女は椅子から立ち上がり、少し離れた場所で通信を始めた。
傍らでたたずむ響は、不安そうな表情でエルフナインを見つめている。
鎮静剤の効果で落ち着いたとはいえ、2人の様子は結弦に一抹の不安を抱かせるには十分だった。
ほんの少しの通信を終えて、エルフナインが再び結弦に近づいてくる。
「許可がおりました。行きましょう、発令所へ。」
~S.O.N.G本部 発令所~
「司令、お待たせしました。」
「おう!来たな!」
車椅子に乗せられて向かった先で待っていたのは、腕組みをした筋骨隆々の体躯をもつ男だった。
「まずは初めましてだな!俺の名前は風鳴弦十郎。ここの総司令を務めている。そして、今君がいるこの場所は超常災害対策機動部タスクフォース、通称S.O.N.Gと言う国連直轄の組織だ。」
「国連直轄・・・」
「ん?」
「あっ、いえ、なんでもありません。俺は神無木結弦と言います。湾岸地区にある○○高校の3年生です。この度は助けて頂いた上に治療までしてもらって本当にありがとうございました。」
「ああ、それについてはこちらも礼を言わねばならん。俺達の仲間を救ってくれた事、感謝する。」
「・・・風鳴司令。申し訳ないんですが、俺はその時のことをほとんど覚えていなくて・・・」
「そうか、やはりか・・・。わかった。では早速本題に入ろう。」
弦十郎の視線が、急に厳しいものへと変わる。発令所内には緊迫した空気が漂っていた。
「今から君に見せる映像は、もちろん最重要の機密事項になる。見てしまったが最後、後戻りはできないと思ってくれ。それに加え、君自身の心にも、強いショックを与えるかもしれない。それでも、見るか?」
あえて厳しい言葉を紡ぐ弦十郎。それでも、結弦の答えに変わりはなかった。
「・・・はい。お願いします。仮に、強いショックを受けたとしても、すぐにできるかわかりませんが、なんとかしてみせます!」
「・・・わかった。藤尭、やってくれ!」
「わかりました。モニターに4日前の戦闘時の映像を出します。」
藤尭と呼ばれた男性が手元の操作盤を巧みに操る。一瞬のうちにして中央のモニターに映像が流れ始めた。
「・・・なんだこいつ」
モニターに映し出されたのは、黒いオーラを纏いそこから無数の黒い腕を伸ばして叫ぶ赤い目をした怪物と、その前に蹲る3人の少女達だった。
結弦はその中に響がいるとすぐに気付いたが、恐らく仲間と思われる2人共々ボロボロになった姿を見て、言いようのない怒りに襲われ拳を握りしめた。
結弦は、大量のノイズを一瞬で倒してしまった響の強さを知っている分、この黒い何かが尋常でない戦闘力を有している事をすぐに理解できた。
そのうえで、この強大な存在を相手に、当時の自分はいったい何ができると信じていたのだろうか。
――――何もできるわけがない。
彼はそんな傲慢な思い違いをした自分自身がどうしようもなく許せなかった。
そして、怪物が伸ばす無数の黒い腕が再び振り上げられ、その腕は近くを飛んでいた1機のヘリを撃墜した。
「あれって俺が乗っていたヘリ・・・。そうか、この時こいつに攻撃されて、それでヘリが落ちて、その後・・・」
結弦の脳裏に再びフラッシュバックが起こり、続けざまに激しい吐き気が湧き上がる。
頭の中で鐘を鳴らされているような感覚と、湧き上がる吐き気を飲み込み、彼はモニターを見続けた。
そして、ヘリは輸送機に激突し、小規模な爆発を繰り返て激しく炎上していた。
炎上する輸送機の手前では、悲痛な叫び声を上げる響の姿がある。モニターを通してそれを見た彼は、傍らに立つ響を少し見上げた。
気付いたのか、それとも見ていたのか、目が合った彼女は少し照れたように笑い、再びモニターに目を向ける。
彼もそれに続いてモニターに目を向けた瞬間、炎上している輸送機から耳をつくような甲高い音と共に光の柱が上がった。
「ここからが本題の場面だ。よく見てほしい。」
弦十郎がそう告げる。結弦は注意深く画面を見つめた。すると、次第に光は薄れ、中から人影が現れた。
「・・・これが、俺?」
光の中から現れた結弦は、揺らめく炎のようなオーラを身に纏い、左手には巨大すぎる剣を携えて宙に浮いていた。しかし、よく見てみれば、彼の体は全身血に染まり、その体に右腕は無く、両足は有り得ない方向を向いたまま力なく揺れている。
「・・・くっ!」
突然、無傷のはずの腕と脚が疼き不快な痛みが走る。
気力を振り絞り再びモニターに集中した結弦だったが、自身の許容範囲を超える出来事の連続は、平時の彼が発揮する優れた状況判断能力を完全に奪い去ってしまっていた。
「(なんなんだ。あのボロボロなのが、俺?ありえないだろ・・・大体腕も脚もちゃんと無傷で・・・、それにあんな剣、一体どこで・・・)」
刹那、結弦の脳裏にある言葉が浮かびあがり、震える声でその言葉を呟いていた。
「・・・『レヴァンティン』の契約。」
それは小さな声だったが、近くにいた弦十郎、響、エルフナインの耳にははっきり届いていた。
その言葉を聞いた弦十郎は眼を閉じ、響とエルフナインは視線を下に反らす。つまるところ、彼らにとっても認めたくない事実であったのだ。
そんな彼らをよそに結弦が乾いた笑いをあげた。
「ははは・・・冗談・・・だろ・・・」
信じられないことに、結弦の右腕は徐々に再生し、ひしゃげた両足も今はぶれる事すら一切なく一見して力を取り戻したように見えた。そして、両手で剣を握りしめた結弦は、目の前の黒い何かに向けて剣を振り下ろす。振り下ろされた剣からは迸る剣閃は、黒い何かを切り裂き、その太刀筋からは火柱が立ち上がり、重く低い爆発音を上げて遥か海の先までも続いていった。
やがて、爆発音が遠く薄れていった頃、地に降り立った彼が纏う炎の様なオーラは巨大な剣に吸い込まれ、剣は常人でも持てるサイズへと変わった後、粒子に分解して消え失せた。
モニターから映像が消えた後、発令所内にはしばらくの沈黙が続く。
言葉を発する者は誰一人おらず、当人である結弦は一連の信じられない光景を受け入れる事に囚われていた。
そんな中、最初に声を発したのはやはり弦十郎であった。
「これが、君に起こった出来事の全てだ。」
弦十郎に肩を叩かれた結弦は、その時ようやく悟る。
今何を思考しようとも、受け入れがたくとも、目にしたものだけが真実であり全てなのだ。
そんな結弦の体に恐れから震えが起こる。
彼は、自分の腕に血が滲む程強く爪を立て、必死に震えを抑えようとしていた。
そして深く息を吸込み、なんとか言葉を紡いだ。
「・・・まず、教えて下さい。俺は・・・何になってしまったんですか・・・?」
震える声で弦十郎に訪ねる。
恐れや不安を噛み殺そうとする彼の様子に意を決した弦十郎は、少しの沈黙の後、彼の問いに答える。
「―――君は、完全聖遺物の一つ、魔剣『レヴァンティン』と融合した。君がなったものとは、『魔剣』そのものだ。」
第二章その①にお付き合い頂きありがとうございます。
ちょっとした回想のお話になってしまいましたので、第一章とほとんど変わらんやんとなるかもしれませんが、勘弁してください。。。
1番の目的は、エルフナインの頭を撫でさせたかっただけです。
次回はもう少し勢いつけます。