戦姫絶唱シンフォギア L ~咎人と業火の魔剣~ 作:ご近所の林さん
それでは宜しくお願いします。
―――魔剣そのもの。
弦十郎の言葉が結弦に重くのしかかる。
「・・・俺はもう人間じゃないってことですか?」
「人間さ・・・ここにいる誰もがそう思っている。だが――」
「そう思わない人も・・・いるってことですよね・・・」
「・・・すまない」
「・・・いいんです。仕方ないですよ・・・普通に考えれば、怖い。人の体だけど、中身は、もう化物みたいなもんなんですから・・・」
無理に笑う結弦の声はやはり少し震えている。
そんな彼の手を響が優しく握りしめた。
「・・・響ちゃん」
「・・・結弦さんは、化物なんかじゃありませんよ。だって、さっきも笑って話ができたじゃないですか。結弦さんは、あの時空港でたくさんの人を助けようとしてた結弦さんのままです」
「でも、響ちゃん、俺は・・・」
「・・・私はっ!・・・昔、全部吹き飛べって衝動に飲まれて街を・・・壊しました。それは私が弱かったから・・・、でも結弦さんは違う!あんなにボロボロになってたのに、私達を助けてくれた!だから、自分の事、化物みたいだなんて、そんなふうに言わないでください」
響が力強い眼差しで結弦を見つめる。
きっと響自身にとって、今の話は結弦には計り知れない程の後悔をはらんだ記憶なのだろう。だからこそ、その瞳からはそれを乗り越えた彼女自身の強い意志を感じる事ができた。
「・・・ありがとう、響ちゃん」
そう呟いて響の手を握り返した結弦の瞳から涙がこぼれる。
一生懸命に自分を励まそうとする彼女の健気な優しさがたまらなく嬉しかった。
「・・・風鳴司令。大きいことを言ったのに、こんな有様ですいません。もう、本当に大丈夫です。続きを聞かせて下さい」
涙を拭った結弦の声に、もはや先程までの震えは一切無い。
「いいのか?」
「はい。こんなに励ましてもらって、まだウジウジしてたら男じゃないですよ」
「・・・ああ、わかった。では、まず君が魔剣そのものという根拠について説明しておかなければならんな。エルフナインくん」
弦十郎が呼ぶと、エルフナインは手元の端末を操作し数枚の写真を表示する。
それらは全て人の形を移した写真だったが、知識の無い結弦でも理解できるほど違和感を有していた。
なぜなら、その写真には多くの白い部分が存在し、特に結弦が負傷した箇所と思われる部分は白一色に染まっていたからだ。
「・・・これは?」
「こちらは結弦さんの体内組織を投影した写真です。骨格や臓器をこちらの部分ですね。そして、各所に点在する白い部分は、結弦さんの細胞ではありません。今は未だ詳しいデータを解析中ですが、波形のパターンから『レヴァンティン』であると見て間違いないです。つづいて、2枚目の写真を見て下さい。」
「少しだけど、白い部分が減ってる?」
「その通りです。これは1枚目から24時間後の投影結果になります。信じられない事ですが、負傷部分を補うようにして密集していた『レヴァンティン』が、徐々に結弦さんの細胞と全く同じ物へ変質しているのです」
「ちょっと待って、『レヴァンティン』って一応魔剣なんて言われてるくらいだし金属だよね?」
「・・・はい、どのような成分構成かは判明していませんが、間違いなく金属です。お気づきの通りそれは本来有り得ない事ですが、本当にあなたの体に起こっている事なんです」
結弦は驚きのあまり言葉を失う。
『レヴァンティン』が発現した奇跡ともいえるテクロノロジーは、あくまで一般的な知識や常識しか持たない結弦には衝撃が強すぎるのだ。
「そして、これが最後の3枚目です。こちらは先程の写真から更に24時間が経過した時点での結果になりますが、この時点ではすでに各所の物質がすべて変換を終え、結弦さんの細胞として機能していました。ですが、それに伴って結弦さん自身から常に微弱なエネルギーが放出しだしたのです」
そう言われた結弦が自身の体を見回すが、特別に変化した部分や感覚などは一切なかった。
「ご自身でも気づかないほどの微弱なエネルギーでしょうが、それは間違いなくあの戦闘で結弦さんが使用した力と同種の物です。これは仮説になりますが、恐らく聖遺物のコアすらも結弦さんの細胞に変質し一体化していると考えられます」
「それで、魔剣そのものか・・・、勝手なイメージだけど、手術で摘出したり除去したりもできないってことだよね?」
「はい、その通りです。悔しいですが、現存する技術では、結弦さんと『レヴァンティン』を分離する方法はありません。加えて、『レヴァンティン』に関わる伝承はそのほとんどが破壊を象徴するものばかりで、今回の症状の解明に繋がりそうな記述は一切残っていませんでした」
「なるほどな。ちなみに、どんな伝承があるの?」
「・・・神話曰く、世界を焼き尽くし【ラグナロク】と呼ばれる終末を引き起こした剣である。と、記述されています。他の伝承も、若干の違いはありますがほぼ同様の内容です」
「【ラグナロク】・・・」
「・・・結論を出すには早すぎるかもしれませんが、敵の目論見の一端にこの伝承が関わっている可能性は否定できません。弦十郎さん、そろそろ敵について結弦さんにもご説明した方が・・・」
「うむ、そうだな・・・。では、それは俺から話そう。友里、データを出してくれ」
「了解しました」
再度モニターに映像が表示される。モニターの中では、緑・そしてピンク色のギアを纏った2人の少女が輸送機を守りながらノイズと交戦している。
「今から9日前、欧州のとある政府から要請をうけた俺達は『レヴァンティン』の輸送任務に携わっていた。その際、現地入りしていた俺達の仲間がノイズの襲撃を受けたのだ。これはその時の戦闘記録になる。今映っている2人は、暁切歌くんと月読調くん、どちらも俺達の仲間だ」
調と切歌が次々とノイズを撃退していく。
そして、一際大勢の群れの中心から竜巻が起こり、その中心からは白銀のギアを纏った女性が現れた。
「えっ、あの、この桃色の髪の人って、もしかしてマリア・カデンツァヴナ・イヴ?」
「ああ、そうだ。マリアくんもS.O.N.Gの一員、俺達の仲間でな。まぁ、彼女の場合は知名度があって当然だな。」
―――マリア・カデンツァヴナ・イヴ
突如として現れ数か月の間に歌姫としての地位を確立した世界的に有名なアーティストだ。そんな歌姫が、ノイズを物ともせず次々と切り裂き殲滅していく。
「強い・・・。ノイズがまるで何もできてないじゃないですか」
「彼女たちの実力なら通常のノイズ等まるで問題ない。だが―――」
視線を移した弦十郎に気づき結弦も食い入るようにモニターを見つめる。
周辺のノイズを全て撃退した後、離陸する輸送機を見送る3人が何かに気づき再び武器を構えた。
―――
『何者かしら?』
マリアが剣を向けた先には、魔法使いのような恰好をした男が一人佇んでいた。男の顔は月明かりに照らされ辛うじて見える程度だが、およそ男性とは思えない美しい顔立ちをしている。
『こんばんは、お嬢さん方。尋ねる前に、まず自ら名乗るべきでは?』
『必要ない』
『そうデス!悪党に名乗る名前なんかねーデス!』
『ふふ、礼儀知らずなお嬢さんだ。まぁ、いいでしょう。私の名は、ドレッグス・ヴィーペル。『咎人』に属する者です。それでは、自己紹介も済んだことですし、戦いましょうか?』
魔法使いのような外見とは裏腹に男が取り出したのは細見の長剣だった。ゆらりとした構えを取る男の姿に、対峙しているはずの3人は呆気にとられたのか明らかに油断している。
『あら、ずいぶん似合わない獲物を使うのね?』
『ええ、私もそう思いますよ』
そう呟いた男の体が消え、マリアの目の前に突如として現れる。
『なッ・・・!』
『・・・未熟ですね』
そして、男の掌底がマリアの腹部をとらえた瞬間、彼女の体は凄まじい勢いで弾き飛び後方に止まっていた別の輸送機に叩きつけられた。
『マリアッ!!!』
『余所見はいけませんよ?』
『ッ!切ちゃん!後ろッ!!』
調の声にはっとした切歌が後方から忍び寄る男の剣をぎりぎりの所で受け止めたが、同時に放たれた掌底をよける事が出来ずマリアと同じように後方に弾き飛ばされた。
『ふむ、油断しているとは言えこの程度ですか。・・・ほう?』
男が振り向くと、調は淡い光を放ちながら美しい歌声を奏でていた。男は落胆した表情を見せながらため息をつき、調に向かう。
『―――Gatrandis bab・・・かはッ!!!』
絶唱の旋律を唱える間もなく、男は調を吹き飛ばした。
『・・・唄わせるわけないでしょう。あなた方はもう少し戦いを知るべきですね?』
余裕の表情を浮かべた男に突如短剣が飛んでくる。男は難なくそれを避け、飛んできた方向に視線を送った。
『ふむ、立ち上がれるだけの力はありましたか』
そこには先程吹き飛ばされたマリアの姿があった。
『このままで……終われるものかッ!!』
剣を抜いたマリアは凄まじい速度で男に向かっていく。
繰り出される剣閃は鋭く、そして確実に男の急所を狙って放たれるが、男は嬉々とした表情で剣をいなし続けていた。しかし、無数の剣閃は徐々に速度をあげ次第に男の衣服に触れ始める。そして、ついに剣が頬をかすめた時、男は今までいなしていた剣を弾き、間合いを取るようにして後方へと飛んだ。
『先程とはまるで別人、良い腕でした。やはりあなた方は窮地にあってこそ、思いがけない力を発揮するようだ。今回は、それが見れただけ良しとしておきましょう・・・」
『待ちなさいッ!あの子達にこんな事をして・・・ただで逃がすものかッ!!!』
呼びとめに振り返る男は、まるで路傍の石を眺めるような目でマリアを見る。
『・・・何をバカな事を。私は、あなた方を見逃してやると言っているのです。しかし、焦らずとも我等の目的の為、またすぐお会いできるでしょう。その時までに、せめて殺す価値くらいは見いだせるようになって下さい。それでは―――』
そう言うと、男は手にしていた結晶を地面に叩きつけ、そこから発生した光に飲まれるようにして消えていった。そして、映像自体がそこで停止する。
――――――
流れた映像の一部始終を見た結弦は驚愕のあまり絶句していた。
彼自身、少なからず武術の心得がある故に敵の持つ計り知れない実力をモニター越しに嫌という程感じたのだ。
「・・・なんなんですかあいつ。まるで格が違う。あんなのが、敵?」
「ああ、そうだ。だが、脅威なのは奴だけじゃない。空港を襲撃してきた連中も、圧倒的な力で俺達に襲いかかってきた。もしかすると、奥には更なる実力者が控えているしれん。そして、そんな力を持った連中が狙っているもの、それが『レヴァンティン』だ」
「そんな奴らが俺の中の『レヴァンティン』を・・・」
「君には申し訳ないこと続きだが、今後戦闘は更に激化するだろう。それが起動した以上、奴らもそれなりの戦力を投入するはずだからな」
「…皆さんが強いという事はなんとなく分かります。それでも、このあいては……」
「確かに強大な相手だ。だが、何も恐れる事はない。俺達が絶対に君を守ってやる!!」
「でも、それじゃ司令達が危険な目に・・・」
「問題ない!こう見えても、俺達は結構な修羅場をくぐりぬけているんだぞ?」
「司令・・・」
豪快に言い放つ弦十郎。
それに伴うようにして発令所にいる全員が結弦の方を向き、皆一様に大丈夫といわんばかりの表情を見せていた。傍らに立つ響やエルフナインも同じような表情で結弦に笑いかける。
「ボク達に任せて下さい!」
「そうです!平気、へっちゃらですよ!」
「・・・2人とも」
結弦の胸に暖かい物がこみ上げてくる。そして、結弦はようやく安心したように微笑んだ。
――――――
―――
「弦十郎さん、伝えなくてよかったんですか?」
結弦が発令所から出て行った後、不安そうな表情をしたエルフナインが弦十郎に問いかける。
「伝えずとも、今までの話で理解してしまっただろう。それよりも今は上からの命令を撤回させる為に根回しが必要だ」
命令という単語を聞いたエルフナインが怒りに震えその小さな手を強く握りしめる。
彼らは上層部や日本政府からとある要請を受けていた。
―――『レヴァンティン』に封印処理を施し、深淵の竜宮へ隔離せよ。
「上層部は、あくまで結弦さんを物としか認識していないのですね・・・」
「だからこそ、俺達が彼を守ろう。敵にも、国にも、好きなようにはさせん」
「・・・はい!」
今回もお付き合いいただきありがとうございました。
OTONAの喋り方がよくわかりません・・・
親しみやすさと威厳ってどうすればいいのか。
この流れだと次回はビッキー回になりそうです。
次も勢いよくやります。