あの地平線の夕焼け目指して   作:偽帝

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2018/05/28 更新


あの日の約束と彼女との再会

小学生の時近所に住んでいた少女と、ある約束をした。

 

 

「ね、約束だよっ、絶対また戻ってきてねっ」

「もちろん、約束だ」

「うんっ、ずっと待ってるからね。お兄ちゃん!」

 

 

親の事情で引っ越さなければならない、ということを話したらその少女は大粒の涙を浮かべて泣いてしまったのでなんとか慰めようと言った言葉だ。もちろん、必ず戻ってくる保証なんてない。それでも俺は、あの時住んでいたこの町に戻ってきた。

 

 

「5年ぶりか・・・、意外と変わってないんだな」

 

 

前に住んでいた家を売り払ったわけではなかったので、また同じ家に住むことになった。荷物もさっき移動し終えたので、久しぶりの町を散歩して見回っている。

 

 

俺の名前は宮坂春(みやさかはる)。高校二年生の17歳だ。転校先の羽咲学園高校には明日から通う予定だ。転校する前は女子高だったが、いつの間にか男女共学になったらしい。

 

 

「・・・」

 

 

散歩も一通り終わって自分の家の向かい側にある家の前まで歩いて、足を止める。親に言われる前にあいさつをしておこう。

 

 

 

約束していた彼女はここに住んでいた。表札が変わってないということはまだここにいるのだろう。周りの家よりも立派で格式の高そうな家。

 

 

彼女とは幼馴染、というのだろうか。歳は俺の方が1つ年上だが、いつも「お兄ちゃん」と呼んでは腕を組んだり手を繋いだりして学校に行っていた。

 

 

時々、自分で恥ずかしくなって手を離したりするが寂しくなってまたくっついてくる姿が可愛かった。歌が上手くて先生や友達に褒められた、という話を沢山してくれた。

 

 

「なんか、恥ずかしいな」

 

 

春休み中だから家にいるはず、なのだがなかなかインターホンに指が近づかない。5年ぶりに会ってなんて言えばいいんだ。久しぶり、とか寂しかったかって明るく話し出す?いや、なんか違う気がするな。ここはもっと丁寧で礼儀を入れてやるべきか?でも、一応幼馴染だったからそこまでする必要はないのかな。

 

 

「ま、明日でもいっか・・・」

 

 

別に今日絶対挨拶をしに行かなければならない、というわけじゃない。学校行くときとかにたまたま出るタイミングが同じで、そういう時に軽い感じで言うのも意外とアリかもしれないし・・・。それに、ずっと家の前に立っていたら不審者と間違われるかもしれない、今日は家に戻ろう。

 

 

振り返って自分の家まで歩き、ドアのカギを開け中に入ろうとドアを開けた。

 

 

その時、聞き覚えのあるのある声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・お兄ちゃん?」

 

 

声の聞こえた方を振り返る。紅い夕日を背に一人の女の子が立っていた。まるで、夕焼けを自分が背負っているかのように堂々と。

 

 

眩しくてまじまじと見れないけど、その声と面影で自分の中の疑いが確信に変わった。

 

 

彼女が約束を交わした少女、美竹蘭(みたけらん)本人だと。

 

 

でも、顔立ちはまだ幼い。彼女は、何かを確信したかのように返事を返す前に走って近くまで来た。

 

 

「お兄ちゃん、帰ってきたの・・・?」

「ああ。もしかして、蘭、だよな?」

「うん!あたし、蘭だよっ!!」

 

 

涙交じりの言葉とともに、両手でぎゅっと抱きしめられる。まさか本当に会えるなんて、と思っていたのでまだ少し現状を理解できないけど、ゆっくりと俺も抱き締め返す。

 

 

「ずっと待ってたんだよっ、寂しかったっ」

「そっか、待たせてごめん。蘭のことだからもしかして強気に全然寂しくなかった、とかいうかと思ってた」

「学校では普通にしてたけど、ほんとに寂しかったんだからっ」

 

 

ぎゅっ、と蘭が強く抱きしめてきた。顔も密着しているから見えないけど、頬が紅くなっていた気がする。

 

 

「いたっ」

「あっ、ごめん。痛かった?」

「ん、大丈夫。蘭、力強くなったな」

「そんなこと褒められてもう嬉しくないよ」

「そっかそっか、ごめんな」

 

 

お互いに抱きしめるのをやめて話していると、蘭は俺の右手を触ったり触らなかったりしている。彼女が何をしたいのか意図はわかったが、ここは自分から言わず知らんふりをする。

 

 

「・・・・・ぎたい」

「ん?」

「手、繋ぎたい。昔みたいに・・・」

 

 

蘭は頬を紅らめながらじっ、とこっちを見つめている。

 

 

「わかった」

「ん・・・」

 

 

そっと右手を差し出すと蘭は直ぐに掴んで、指を絡ませる。そして繋がれている手を見て口元を緩ませていた。

 

 

「蘭は、可愛いな」

「・・・・・っ」

 

 

ぽそっと言うと蘭の顔はさらに紅くなって、恥ずかしいのか俯いてしまった。どんな顔をしているのか覗いて見て見たいが、多分見してはくれないだろう。

 

 

「お、お兄ちゃんっ」

「どうした?」

「家・・・、来て?」

「は、えっ?蘭の家に、今から?」

 

 

まだ恥ずかしいのかそっぽを向いたままの蘭は一歩前に踏み出してからちらっ、と少しだけこちらを振り返った。

 

 

「久しぶりに会ったんだしさ・・・、少し話したいなーって、あたしの部屋で。だめ?」

「いや、俺は良いけど・・・蘭のお母さんとかいるなら先に挨拶とかしないと」

「今日は両親帰ってくるの遅いから、大丈夫。行こ?」

 

 

蘭に引っ張られるように向こう側の蘭の家まで歩き進める。蘭意外家に誰もいないってことは、もしかして二人っきりってことか・・・!?どうしよう、久しぶりに会っただけでも緊張しているのに、それを上回りそうな出来事がこれから起きようとしている。

 

 

「さ、入って」

「ああ、お邪魔します・・・」

 

 

玄関で靴を脱いで、蘭についていく形で二階の部屋に向かう。

 

 

部屋に入ると、可愛らしい人形が置いてあったり昔よりも女の子っぽい様相だった。

 

 

「適当に座ってて、なんか飲み物取ってくる」

 

 

蘭は背負っていたものを壁にかけて、一階に下りて行った。そういえば、ずっと何か持っていたけど・・・。

 

 

「ギター・・・?」

 

 

置かれたギターケースに視線をやる。蘭はバンドか何かをしているのかな?

 

 

「ごめん、オレンジジュースしかなかった、はい」

「ん、ありがと・・・」

 

ジュースの入ったコップを受け取って、ストローに口を付けて一口。

 

 

「・・・え?」

「なに、なんか変?」

 

 

テーブルを挟んで向かいに座ると思っていたが、蘭は当たり前のように隣に座ってきた。

 

 

「なんで隣?前とか、横とか空いてるのに」

「あたしは隣がいいの・・・、お兄ちゃんの隣が」

「そっか、蘭が良いならいいけど・・・」

 

 

さっきまで抱きしめたり密着していたけど、なんか変に緊張する。部屋の中にいて体が触れ合っているから、余計そう感じる。

 

 

「蘭さ、あれギターだよな?」

「あ、うん、そう。ギターだよ、あたしの」

「バンドとかやってるの?」

「うん。あたし含めて5人でやってるの。Afterglowってバンド名でやってるんだ」

「へー、なんか意外だな。蘭が音楽が好きっていうのは知ってたけど」

 

 

「うん、あたし意外の4人も羽丘学園だから、今度詳しく紹介するね」

「ありがと。でも、良いのか?」

「お兄ちゃんにも紹介したいくらい、楽しくて、面白くて、信じあえる4人だから」

「そっか、楽しみにしてるよ」

 

 

どうやら、俺が転校していなくなった後もバンドを通して良い友達に巡り合えたみたいだな。なんか、一安心だ。

 

 

「お兄ちゃんも明日から学校?」

「ああ、そうだよ」

「ね。また、昔みたいにさ、朝一緒に学校行かない?」

「・・・俺は良いけど、そのAfterglow?のメンバーとかに見つかったら説明するの大変じゃないか!?」

 

 

正直、俺としては一緒に行けるなら行きたいが、蘭の大切なバンドメンバーの友達のことを考えると、自分の思うようにはできない。

 

 

「その時はちゃんと皆に説明するよ。それとも、あたしとお兄ちゃんは一緒に行きたくないの?」

「いや、全然そんなことないよ!」

「ほんと?じゃあ、明日の朝、家の下で待ってるから」

「わかった、約束するよ」

「ん・・・」

 

 

蘭がゆっくりと肩に寄り掛かる。

 

 

「ねえ、お母さんたちまだ帰ってこないから、もうちょっと話しよう?」

 

 

 

窓から差し込む夕日が、二人の影を照らしていく。静かな、気まずさとは違う何か安心できる空気が部屋に漂っていた。

 

 

5年ぶりに会った蘭と、これからどういう日常が始まるのだろうか・・・・・。

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