あの地平線の夕焼け目指して   作:偽帝

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初めての羽沢珈琲店とつぐみと蘭

とある休みの日。特に何もすることもない俺は朝からずっとベッドに横たわっていた。完全にニートである。

 

 

「ん」

 

 

夜まで数時間また寝ようかと思った時、携帯が鳴った。電話の相手は蘭、通話ボタンを押して携帯を持つ。

 

 

「はい?」

「あ、お兄ちゃん。起きてた?」

「これから寝ようと思ってところだよ」

「やっぱり。土日は有意義に過ごすことも大事だよ」

「はい・・・」

 

 

蘭には俺がいつも休日どう過ごしているかなんてお見通しだった。電話しながら窓のほうに移動してカーテンを開けると、向かい側の家の二階の部屋・・・蘭の部屋から蘭が手を振っていた。

 

 

こっちも手を振り返して窓の近くのベッドに座る。

 

 

「あの、蘭さん。カーテン、このまま開けっ放しですか?」

「当たり前・・・」

「え、でも歩いている人に丸見えになる可能性が・・・」

「駄目。あたしが寂しいからっ」

 

 

な・・・。ホント、可愛いこと言ってくれるなあ蘭は。胸キュンしまくりだよ、心臓がいくつあっても足りないくらい!

 

 

「わかった・・・、それで何の用だ?」

「つぐみが新メニューの試作品を味見してほしいって言われたから、お兄ちゃんと一緒に行こうかなと思って。あたしも時間空いてたし」

「羽沢珈琲店?」

「うん。つぐみの実家でお店の手伝いしてるんだ」

「そうなのか」

 

羽沢って聞いた時点でもしかしたら、と思ったけどやっぱりそうだった。つぐみの実家は珈琲店なのか。

 

 

「で、新メニューの試作品は何なんだ?」

「確かガトーショコラって言ってたはず・・・」

「それは美味しそうだな、コーヒーと一緒に食べたら尚更」

「でしょ?あたしはもう準備できてるから、下で待ってるね」

「ん、俺も急いで準備するよ」

 

 

服を着替え身だしなみを整えて家を出ると、先に家の外で待っていた蘭が一歩二歩とこっちに近づいてくる。

 

 

「ごめん、遅くなった」

「大丈夫・・・、行こ」

 

 

蘭は大丈夫と言ってくれたけど、少し時間をかけてしまたのは事実なので申し訳程度に頭を撫でる。恥ずかしそうにしてる蘭はさりげなく俺と手を繋いで足早に歩き進める。

 

 

「ちょ、歩くの早くないか蘭?」

「早くないっ、別に普通だからっ」

「そっか、恥ずかしかったのか。電話する時にカーテンは開けるのにな」

「うるさいっ」

 

 

やっぱり照れてる蘭は可愛い。繋いでいる手が少し力んでいるのを感じる限り、やっぱり恥ずかしいのだろう。

 

 

そのまま半ば蘭に引っ張られる形で、俺は歩き進めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ここ」

「おー・・・」

 

 

商店街を歩いて、数分で羽沢珈琲店に着いた。珈琲店というがたぶんカフェや喫茶店のことなのだろうか、今までこういう店はあまり入ったことなかったけど楽しみだ。

 

 

扉に掛けられているプレートにはCLOSEになっているが入っていいらしい。

 

 

ドアを開けると、喫茶店によくあるドアベルの音が鳴る。どうやら他には誰もいないらしいけど、居心地の良さそうないい雰囲気が漂っていた。そしてすぐに、エプロンをつけたつぐみが奥から出てきた。

 

 

「つぐみ、来たよ」

「あ、蘭ちゃん、春先輩、いらっしゃい!好きなとこ座って下さい!」

「うん。どこ座る、蘭?」

「ん、そこ」

 

 

蘭の指差した先は二人用のテーブル席だった。向かい合うのは当然なのに蘭は時々俺と目を合わせては逸らすのを繰り返している。

 

 

「二人とも、飲み物どうする?」

「せっかく羽沢珈琲店に来たんだから、コーヒーで」

「うん、あたしも同じ」

「コーヒー二つと、ガトーショコラも一緒に持ってくるから待っててねっ」

「あんまり、急がなくていいからな」

 

 

俺と蘭にニコっと笑顔を向けて、つぐみは厨房の方へ歩いていった。慌ててる訳ではないと思うけど、あたふたして見える後姿が可愛い、ほのぼのする。

 

 

つぐみを見届けてまた視線を元に戻すと、蘭がむすっとしていた。

 

 

「お兄ちゃん、つぐみのこと見すぎ」

「ん、可愛くてつい・・・」

「・・・・・」

「ごめんってば、蘭!」

 

 

完全に嫉妬の目で蘭に睨まれる。ちょっと怖くて今度は俺が目を合わせにくい、でもさりげなく視線を合わせるとすぐに頬を赤くするので蘭はやっぱりチョロいのかも。

 

 

そんなことをしているとつぐみがトレーを持ってテーブルのとこまで来た。

 

 

「おまたせしました!羽沢珈琲店特性のコーヒーと新メニュー予定のガトーショコラですっ!」

「おいしそう。食べよっか、お兄ちゃん」

「そうだな」

 

 

冷やしていたのだろうか、ガトーショコラから冷気が出ている。フォークを手にとって一口サイズに分ける。

 

 

「うん。おいしいよ、つぐみ」

「これなら、新メニューとして出しても人気でそうだね」

「ほんと!?美味しいって言ってもらえたよかった、安心したよ~」

「これ、つぐみのお手製なのか?」

「はい!材料の量とか少し不安だったけど、二人のおかげで自信でました!」

「つぐみの力になれたならよかったよ。うん、コーヒーも美味しいし」

 

 

つぐみは、目をキラキラさせて喜んでいる、うん、可愛い。それにしても、ガトーショコラとコーヒーの組み合わせが意外と合うなんて知らなかった、今度から羽沢珈琲店に通いつめるのもいいかも。

 

 

そんなことを思いながらまたガトーショコラを小さく分けて、フォークにのせて食べようとした時。ふと、蘭と目が合った。しかも小さく口を開けていた。

 

 

「・・・蘭?」

「あっ」

 

 

何をしてるかわからなかったのでそのまま口に運ぼうとすると蘭はまた、「あっ」と呟いた。

 

 

「その、あーんて食べさせて」

「え?でも蘭、自分のあるじゃん」

「そうだけどっ、お願いっ」

「わ、蘭ちゃん大胆だねっ・・・!」

「そうだよ、つぐみいるけどいいのか?」

「うん、いい」

 

 

周りに他のお客さんがいないからなのか、それともつぐみの前では大丈夫と判断したのか蘭が食べさせてほしいと積極的なお願いをされた。これはするしかない!

 

 

「いくぞ、はい・・・」

「駄目、あーんて言ってほしい」

 

 

マジか、言わなくてもいいと思ってたのに駄目だったか、恥ずかしいな・・・。

 

 

「蘭、あーん・・・」

「んっ」

 

 

俺は椅子から立って中腰になり、フォークを近づけると、のっけていた一切れのガトーショコラを蘭ははむっと口に入れた。役目を終えて座ろうとしたがこんなときに限って蘭がじっと見つめてくる。蛇に睨まれた蛙のように動けない。

 

 

「蘭?」

「ん、おいしかった」

「そっか、よしよし」

「ん・・・」

 

 

満足そうな蘭の表情を確認して、また席に着く。立ち尽くして今の様子を見ていたつぐみは持っていたトレーで恥ずかしくて赤くなった顔を隠していた。よし、つぐみにもやってみよう。

 

 

「つぐみも、ほら!」

「ええ、私ですか!?」

「うん、美味しいよ?」

「はい、いただきますっ!」

 

 

つぐみもぱくっと一切れ口に入れてもぐもぐ噛んでいる。嫌いな食べ物を頑張って食べている子供を見ているようだ、きゅっと目を瞑っているのも可愛い。

 

 

「美味しいですっ、とっても!」

「よかったよかった」

 

 

リアクションと動きがいちいち可愛いので、フォークを置いた後つぐみの頭を撫でる。彼女の紙もサラサラしていて触り心地がいい。ずっと撫でてると少しうっとりしてきたのか、つぐみは俺に体を預けてきた。

 

 

「えへへ・・・。また、いつでも来て下さいね、先輩」

「うん、通いつめちゃうかも」

「ほえっ!?ほんとですか?」

「まあ、そんなに時間が空いてるかもわからないけどね。つぐみがいいなら、邪魔にならない程度にお店も手伝うよ」

「ありがとうございます、その時は是非っ・・・!」

 

 

俺の提案につぐみは快く了承してくれた。

 

 

「お兄ちゃん・・・」

「あ、蘭!?」

 

 

忘れていたわけではないが、後ろを振り返ると蘭が謎の禍々しいオーラを纏っていた。そして今までとは違うジト目で俺を見つめる。

 

 

「ら、蘭・・・?」

「・・・・・

 

 

名前を呼んでも返事を返さないで、蘭は自分のガトーショコラがのった皿とフォークを持って席を立ち、俺の前まで歩いて止まる。そのまま無言でフォークで分けてこっちに向けてきた。

 

 

「お兄ちゃんも、あーん・・・」

「え、ちょっ」

「あーん!」

「はい・・・」

 

 

されるがままに、蘭の切り分けたガトーショコラを口に入れる。黙々と食べ進めても、目の前の蘭と隣でまじまじと見つめているつぐみが気になって味がわからない!

 

 

「これで間接キスだね、お兄ちゃんっ」

「え、あ・・・!」

 

 

自慢気に言った蘭だけど恥ずかしいのと緊張しているのがごっちゃになっているのかじっとこっちを見たまま震えいてる。ぷるぷるしてる。言ったはいいもののその先のことを考えてなかったパターンだ。俺もなんて返せばいいかわからない、でもさっき俺からつぐみにもあげたからそっちも・・・。

 

 

「それなら私も先輩からしてもらったから同じだよね、蘭ちゃん?」

 

 

このタイミングでつぐみ言っちゃったよ!火に油を注ぐレベルのことを、しかも蘭に!蘭の視線がさっきより強くなってる気がするんだけど、おっかないんだけど!

 

 

「つぐみ、それに関してはじっくり話し合わないといけないね」

「いや、話し合わなくていいから!」

 

 

そこまで話し合う事か!?まあ、大事なことかもしれないけど、これで二人の仲が悪くなってほしくない。

 

 

「二人とも、とりあえず落ち着いて」

 

 

ここで黙っていたら間違いなく二人は火花を散らしていたかもしれない。もちろん、二人の信頼関係を考えると骨肉の争いにはならないかもだけど。

 

 

蘭とつぐみの頭にポン、と手を置く。やっぱり二人とも触り心地のいい髪だなあ、撫で撫でしたい!、けど今は我慢だ。

 

 

「俺にとっては蘭もつぐみも大事だからさ」

「ん、お兄ちゃん・・・」

「春先輩っ」

 

 

二人ともほぼ同時に顔を上げて俺を見つめる。よく見ると頬だけでなく耳も赤くしていた。とにかく、これで落ち着いてくれるだろうか。手を離して、椅子に戻ろうとしたその時、

 

 

「落ち着いたけど、なんか納得してないから」

「え、蘭?」

 

 

突然、蘭が後ろからぎゅっと抱き着いてきた。

 

 

「私もっ!」

「つ、つぐみ!?」

 

 

今度は前からつぐみに抱き着かれる。前はつぐみ後ろからは蘭に挟まれるように抱き着かれた、これはまさしくサンドイッチ状態だ!。

 

 

蘭は俺の背中に頬擦りしていて少しくすぐったい、対してつぐみは一生懸命にずっとこっちの方を見つめている。

 

 

「あの、いつまでこの状態なんですか?」

「それはあたしとつぐみが決めることだから。少なくとも、もうちょっとは続くからねお兄ちゃん」

「先輩って意外とがっしりしてるんですねっ、私も先輩を見てますっ!」

「つぐみ、ずるい・・・」

 

 

健気で純粋なつぐみに対して、蘭は俺の背中越しにそっと言った。多分つぐみには聞こえてないと思うけど・・・、服に顔をくっつけたまま蘭が喋ったから凄くくすぐったい、ぞくぞくする。

 

 

結局、いつも通りしばらく二人から解放されなかった。よくよく考えるとサンドイッチの具というよりサンドバック状態だけど、密着されていることには変わらない。別にちょっとドヤ顔になんてなってないからね?本当だから!!

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