二人の体勢に無理はないです、多分・・・。
今日の授業も終わり、後は家に帰るだけ・・・、なんだけど、朝から一日中とてつもなく眠いので、このまま少し学校で寝てから帰ることにしよう。
教室から出て行くリサ達に手を振って、俺は自分の机に突っ伏しゆっくりと瞼を閉じた。
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「・・・る・・・て」
「?」
「春、起きて」
俺を起こそうとしてくれる女性の声と共に体を小刻みにゆっくりと揺すられる。
なんだかずっと起こそうとしてたみたいなので申し訳ない気持ちと、誰がそうしているのかを確かめる為にゆっくりと顔を上げる。
起こしてくれた主は友希那だった。
「ようやく起きた。余程疲れたいたのね」
「うん、おはよ・・・。それで、何か用でも?」
友希那は隣の椅子に座ると、鞄の中から数枚のプリントを出した。
「またわからない所が?」
「ええ」
「数学に英語、科学もですか・・・」
このプリントの数から察するに、もしかして結構溜めていたのかもしれない。
「教えてほしいの、いいかしら?」
「もちろん。・・・でも、ほんと勉強苦手なんだね」
「勉強に興味がないだけよ・・・」
「にしても、もうちょっと早く持ってきてくれれば・・・」
莫大な量、というわけではないが数十分では終わらなさそうだ。
「だって、その・・・」
「・・・?」
友希那は恥ずかしそうに頬を紅くして、少し俯いた。
「教室に入るのが恥ずかしかった、とか?」
「ち、違うわっ!中々入るタイミングがなくてっ、そしたら今日になっちゃったのよっ」
プリントを手に持ちながら友希那はあたふたしている、たぶん図星だろう。思い返してみれば、そういえば蘭以外の視線を廊下の方から感じたこともあったような・・・?
ニヤニヤしながら彼女を見ていると、そっと友希那に両手を掴まれる。
「ね、お願い」
そんな一生のお願いみたいに言わなくても、最初から断る気はないのに。
友希那の手がすべすべで気持ちいいのと、まじまじと見つめられているせいで俺もあまり直視できない。
「ん、別に見捨てたりしないから大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
「そこだと教えにくいからさ、こっちに座ってよ」
友希那を移動させ、目の前の席に座らせる。何か緊張しているのか、友希那は前で両手を握りながら体を小さくしている。
そして、じーっとプリントを手にとってどう教えようか考えている俺を観察している。
「・・・、何か?」
「いえ、なんでもないわ。気にしないでちょうだい」
「そっか」
また直ぐにプリントに視線を戻す。別に何も問題はないけど、なんとなく気まずい空気が流れる。
何でもないと言ったものの、友希那はまたこっちを見つめているからだ。
とりあえず、気にしてないフリをしてプリントを1枚、自分の顔を隠すように持ってくる。そして、上から友希那を覗いてみると案の定、彼女と目が合った。
友希那はまた顔を紅くする。
「ひゃっ、なによっ!?」
リアクションも可愛い。
「いや、ちょっとイジってみただけ。ごめんごめん」
「もうっ・・・!」
怒って頬を膨らませている姿も可愛い。
初対面はもっと感情を表に出さない人かと思っていたけど、意外な一面・・・いや、もしかして、これが本来の彼女の姿なのだろうか。
「ごめんごめん、そんな怒らないでってば」
「別に怒ってないわよ・・・」
「そっかそっか。じゃ、プリントも沢山あるから早速やっていこう」
「ええ」
俺は持っていたプリントを机に置いて、シャーペンを所々に当てながら彼女に説明を始める。人に教えるのは得意分野じゃないけど、不器用ながらも自分なりに工夫しながら教えていく。
友希那も少しずつだけど、ちゃんと理解してくれているようだ。所々で頷いてくれている。
「ここは、こうすればいいの?」
「うん。その公式で合ってるから、そのまま当てはめれば解けるよ」
俺の言葉を聞いて、友希那はシャーペンを動かす。
放課後の教室で二人きりで、友希那とこんなことをする日が来るとは。
窓から景色を見ると、空はもう夕方に指しかかろうとしていた。良かった、このままいけば何とか暗くなるまでには終わりそうだ。
ぼんやりと外を眺めていたら机に置いていた手に何か感触が、と思って顔を戻すと友希那が自分の手を重ねていた。
「ん、もう解けた?」
「ええ」
プリントを見てみる。
・・・・・、うん、合ってる。けど、今はそれよりも、
「手・・・」
「あ・・・・・、もうちょっとだけこうしていていいかしら?」
「うん、いいよ」
そう返事を返すと、友希那は口元を緩めて優しい表情をしながらゆっくりと俺の手を包むようにぎゅっと握った。
「春の匂いと、手を握っていると何だか落ち着くの・・・」
・・・・・・・・・。
めちゃんこ可愛いやん、この子!!
デレた時の破壊力半端ないって!!とてつもなく可愛いやん、そんなんできひんやん普通!!
おっと、心の中で荒ぶってしまった。いけないいけない、平常心だ。
「もうちょっとだから、頑張ろっか」
「うん・・・!」
ーーーーーーーー
「よし、終わったー」
「本当にありがとう、春。遅くまで付き合ってもらって・・・」
「気にしないでいいよ。それより、今度は緊張しないで教室入ってきてね。リサもいるしさ」
「ええ、頑張ってみるわ」
鞄にプリントをしまい終えて椅子から立つ友希那を確認して、俺はゆっくりと姿勢を崩してさっきまでの体勢を作る。時間的に、もう少しだけ寝れるはずだ。
「春は帰らないの?」
「ん、少しだけ寝るよ。まだ眠いからね」
「ホント、寝足りないのね、おやすみ」
「うん。じゃあね、友希那」
お互いに手を振った後、友希那が廊下の方に歩いていくのを見送りながら瞼を閉じた。
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このまま寝れると思っていたら、数分後、違和感に気づいた。
さっきから耳に風のような何かが当たっている気がする。
耳を澄ましてみると、どうやら風ではなくてどちらかというと吐息がかかっているようにも感じる。
いったいこれは何だ?・・・・と思っていた時。
「・・・にゃー」
予想外の言葉が聞こえて、体がビクっとする。この声の正体は間違いなく友希那だろう。さっき帰ったんじゃなかったのか!?
本当は起きているけど、寝ているフリをしながら何とか誤魔化していると友希那は両手を俺の肩の辺りに置いた。
感触的にギュッと掴んでいるだろうなあと思っていると、さっきよりも吐息が近く感じる。彼女はどれだけ顔を近づけているのだろう。
「にゃーっ」
・・・・・!!
どうしよう。ずっと平気だったのに、急に意識しだしたら机に突っ伏してるこの体勢が苦しくなってきた。でも、ここで体を動かせば起きていることが間違いなくバレる。
心臓をドキドキさせながらなんとかやり過ごすと、そっと肩から友希那の手が離れた。
諦めたか終わったか?と、思ったら今度は後ろから手が伸びてきてって・・・・・ん、これもしかして抱きしめられてない?
俺の胸辺りで腕を繋いだと思ったら、今度は顔を頬にくっつけてきた。
あ、これ完全に抱きしめられてますね。
それにしても、さっきから積極的過ぎやありませんか?これ本当に友希那さんですか?本当は違う人だったりしないんですかね?
と、自分の中で疑ってみるけど、やっぱり友希那本人であることには変わりなかった。
「春が起きるまで、こうしていようかな・・・」
な、何を言っているんだ?思考が追いつかない。
呟いた後、そのまま友希那は頬擦りしている。なんかもう色々とやばい、頭爆発しそう。
背中で密着していると、彼女も鼓動を高ぶらせているのがわかった。あと胸が・・・、いや、これはやめておこう。
「春っ、一緒に帰りたいな・・・」
はい、俺も一緒に帰りたいです。
でも今起きると大変なので、もう少し寝たフリを続けることにしよう。もっと堪能することもできるし。
この後外が暗くなるまで、俺は寝たフリをしていた。