夕方くらいからとある用事で外出していたけど、予想以上に時間がかかってしまった結果、夜になってしまった。辺りはもう真っ暗である。
家に帰る為に、商店街のある道を1人で黙々と歩き進める。時間が時間なだけあって、周りの店は全部閉まっていて商店街は閑散としていて静かだ。
自分の歩く足音だけが周りに響いている。他には誰もいない、と思っていたら・・・。
コツッ
商店街の丁度真ん中あたりまで歩き終えたところで、後ろの方から何か靴のような音が聞こえた気がした。直ぐに足を止めて、耳を澄ましたけどそれ以上音は何も聞こえてこない。
「気のせい?」
振り向いて後ろを確認しても、誰もいない。いる筈もないか、と思って気にせずにまた歩き始めるが、
コツコツコツ・・・
うーん、やっぱり誰かいるような気がする・・・。しかも俺が振り返ったら音が止まったのを考えると、目的は俺だろう。ストーカーとかだったら怖いな。
とりあえず、早く商店街を抜けよう、と思っていたら俺が足を動かすよりも後ろにいる何者かの足音の方が早くなる。
コツコツコツコツ!
「ヤバっ」
振り返らずに、俺も全速力で走る。
それでも足音は止まないし、むしろこっちに近づいてきている気がした。
速いっ・・・!
後ろを見たとき、相手は真後ろに来ていた。
顔を黒いフードで隠した、何者かがゆっくりと両手を伸ばしてくる。
「ッ!?」
追い付かれてどうしようもないなら、申し訳程度でも抵抗するしかない。
そう思って咄嗟に身構えようとしたら、相手がギュッと抱き着いてきた。
もしかして、刺されるのか・・・?
「やっと捕まえましたよ、せんぱ~い」
ん、聞いたことのあるこの声はもしかして・・・。
「モカ!?」
「こんばんは~」
モカはフードからひょこっと顔を出した。何だ、ストーカーか不審者かと思ったらモカだったのか。それにしても足速いな。
「驚かせちゃってごめんなさい~、先輩を見つけたのでモカちゃんアンテナが反応しちゃったんです~」
「ほんと、びっくりしたよ。心臓に悪い・・・」
「えへへ~」
「何かの帰りか、って・・・!」
何気なく視線をモカに向けたら、思わず目を見開いてしまった。黒のパーカーを羽織っていて気づかなかったけど、モカの格好を見て視線を逸らす。
ショート丈のシャツに、短パン。腹部は何も来ていなくて、おへそと腰のラインを出している。
「あ、ライブの帰りなんですよ~。あっついので着たまま帰ってきました~」
と、モカは言うものの露出が・・・。確かに夜でもむし暑いけど、その格好は目のやり場がないというかなんというか。
「そうなのか・・・」
「似合ってますか~?」
モカは目の前でゆっくりと回って、問いかけてくる。
「うん、似合ってるよ」
「やった~、ありがとうございます~♪」
嬉しそうな顔のままモカは一歩、二歩、と近づいてくると俺の腕を取って自分の腕と組んだ。こ、これはヤバイ、モカの胸がモロに当たっている・・・!
「どうですか~、モカちゃんのは~?」
「・・・、何のことだよ」
「またまた~、先輩もわかってるくせに~」
ニタニタと口元を緩ませているモカは、さらに胸を押し付けてきた。うわ、柔らかくて良い感触、いけないいけない!
「・・・・・・」
迂闊に何か言っては、モカに乗せられると思って口を噤む。モカは俺の方をじっと見た後、さりげなく頭もくっつけて俺に身を任せる体勢を取る。
「積極的なモカちゃんは、嫌ですか・・・?」
顔を上げたモカと、目が合う。
こんなモカは見たことない。恥ずかしそうに頬を赤らめているけど、決して俺から目を逸らそうとしなかった。
多分、俺の顔も赤いだろう。こんなことを言われて平気でいられる人なんているのだろうか。
唾をのみ込んで、俺は口を開く。
「嫌じゃないよ」
「ほんとですか?」
「ああ、もちろん」
「えへへ、せんぱ~い♪」
空いている片手でモカの頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めてさらに体を密着させる。その間も、彼女は手を離すまいと絡ませている腕の力を強くしていた。
普段のんびりふんわりとしているモカが、俺に本気で気持ちを伝えてくれたのかもしれない。いつもよりも、女の子っぽくてとても可愛かった。
「それじゃ、帰りましょう~」
「ん、モカの家もこの近くか」
「はい。でも、夜に一人だとモカちゃん怖いので~」
「俺のとこまで一人で来といて・・・」
「先輩は別ですよ~。さ、行きましょう~」
腕を組んだまま、俺はモカと一緒に商店街を歩き進めた。
商店街を抜けて、住宅街に着いた。マンションがなくて一軒家が多いこの辺りは、夜になるとより一層静かだ。
さっきまでモカのせいで走って息が上がっていたけど、もう整っていた。・・・に、しても突然走ることになったのは意外と体に疲れが残るものだ。帰宅部で運動不足なのも理由なのかもしれないけど。
「先輩~、公園がありますよ~。少し休んでいきますか~?」
「そうしよっか・・・」
「わかりました~。じゃ、れっつごー」
家の方に足を進めずに、近くの公園に向かう。どうやらモカには俺がだれていたのがわかっていたらしい。
夜の公園というのは不思議な雰囲気がある。日中は子供が遊んでいて賑やかさのある場所も、街灯の光に照らされて静かだとこうもイメージが変わるとは。
二人でベンチに座る。組んでいた腕をモカの方から自然と解くと、彼女は俺の手の上に自分の手を重ねた。そして確認するようにゆっくりと上から手を絡ませる。
「えへへ~」
「機嫌良いな、モカ」
「そうですか~?」
表情を見てもわかるようにいつもよりも口元を緩めていた。これが機嫌の悪い顔なわけがない。
ペロっと少しだけ舌を出したモカは、空いている右手をゆっくりと自分の太ももに置いてポンポン、と軽く触る。
「せんぱ~い、モカちゃんのここ空いてますよ~?」
「えっ!?それってつまり・・・」
「はい、膝枕です~♪」
「ちょ、ちょっとまって!」
確かに、モカに膝枕されてみたい!あのぷにぷにの太ももに顔を付けてみたい、けど!!今のモカの格好が格好だから横になった時に色々と見えそうだし、今日みたいな積極的なモカは初めてだからその先に何があるか・・・。
「嫌なんですか~?」
「そっ、そういう訳じゃない、けどさ!」
「モカちゃんの太ももはすべすべもちもちで、きっと気持ちいですよ~?このモカちゃんが保証します」
「・・・っ」
「ほらほら~、何を躊躇っているんですか先輩。素直になって下さいよ~」
モカは太ももに人差し指を這わせながら、こっちにもたれかかってきた。
俺は心の中で何かを諦めて、モカに膝枕をしてもらうことにした。
「わかった。じゃあ、休ませてもらう」
「はい。来てください、先輩」
絡ませていた手を解いて、ゆっくりと自分の体を横にしてモカの太ももに頭をくっつける。頬に柔らかい感触が広がって肌が吸い付くように滑らかだ。
ぷにぷに、すべすべ、もちもち・・・、人肌とはこんなにも心地良いものだったんだ!
「どうですか、先輩。モカちゃんの膝枕は~?」
「ん・・・、悪くない」
「むぅ~、それだとわかりにくいです~。良いか悪いかで言ってくださいよ~」
「良い」
「やった~、モカちゃん嬉しいです~」
女の子に膝枕をされて嫌と答える男なんて、世界中誰一人としていないだろう。それにしても、肌触りが良い。家の枕よりもモカの方が安眠できるかもしれない。
モカの膝枕の感触に浸っていると、頬を指で突っつかれる。体勢的に横を向いていたので、指の方向・・・、モカの方を見上げるように顔を上げた。
「今、だけは、モカちゃんだけの先輩です♪」
彼女の言葉に心臓がドキッとする。
気を紛らわそうとして何か言おうとしても上手く口を動かせない。その顔で言うのは反則だよ、モカ・・・。
「あ、先輩デレてますね~♪モカちゃんの誘惑、こうかばつぐ~ん」
「っ、うるさいなあ、もう起きるぞ?」
「え~、せっかくなんでもうちょっとだけ休んでくださいよ~。今ならモカちゃんが先輩の頭を撫で撫でしてあげますよ~?」
「ほんと?じゃあ、お願いしよっかな」
結局、この後もモカに甘える形でずっと膝枕を楽しんだ。モカは意外と撫でるのも上手くて、余韻に浸っていたら家に帰る時間がさらに遅くなり、蘭に怪しまれることになった。