「校内清掃?やってられねー」
どうやらこの羽丘学園高校には、全学年を数人の班に分けて学校全体を掃除する行事があるらしい。転校してきた俺は今まで知らなかったのだが、めんどくさいったりゃありゃしない。
なんで普段使わないところまで・・・、とブツブツ考えていると、リサが振り向いて一枚のプリントを俺の机に置いた。
「でも、行事なんだから仕方ないよ。それよりもさ、班のメンバー見てよ」
リサが差し出したプリントに目をやると、そこには六名の名前が書かれていた。
俺を含め、リサ・薫・日菜、それに蘭とモカ。どうやって学校がこのメンバーを選んだのかはわからないけど、何かと凄い。
「学年で班を作るわけじゃないんだな」
「らしいね。それにしても、このメンバーが班になるなんてすごい確率だよね!」
確かに、このメンバーが意図せずそろうのはちょっとした宝くじよりも運が良い。中には、混ぜたらキケンな組み合わせもあるかもしれないけど。直観だけどモカ・日菜・薫なんて、色々とヤバイ気がする。いや、ヤバイ気しかしない。
それでも、目をキラキラさせているリサを見ているとそんな不安な気持ちも無くなる。あ、リサも猫っぽい。友希那とは違う感じだな。
そんなこんなで二人で会話していると、廊下の方から視線を感じた。その正体は勿論、蘭だ。一直線に俺の方をを見てくるのは、蘭くらいしかいない。
どうやらもう校内清掃は始まっているらしい。蘭が教室まで来たってことは他の教室も説明は終わっているのだろう。
「リサ、蘭が待っているから廊下行こうぜ」
「そうだね、行こっか」
いつの間にか担任も教室からいなくなっていて、教室を含め学校全体が休み時間のような賑やかさがある。ま、これからやることは楽しいことではないんだけど。
「ん、お兄ちゃん」
「よっ、蘭」
待っていた蘭と軽く手を合わせた直後、隣にいたと思っていたリサは蘭の後ろに回り込んで抱き着いていた。
「蘭~♪」
「ちょっ、リサさん!髪わしゃわしゃしないでくださいっ」
「いいじゃ~ん♪蘭の髪は触り心地が良くて癖になるんだもん」
「~っ」
嫌なそぶりを見せず、渋々リサに体を預けている蘭を口元を緩めながら見る。
それにしても、ほんとみんな顔見知りらしいな。
「蘭、そういえばモカは?」
「ん・・・、モカなら瀬田さんと日菜さんに付いていくって」
って、同じ班の薫と日菜はどこに行ったんだ?
「あ~、二人は清掃場所を決めるクジを引きに行ったよ?」
「そっか・・・・・」
そこにモカが付いていった、という訳か。薫・日菜・モカ・・・・・、この三人が合流したって考えると嫌な予感がする。とてつもない化学反応が起きるかも。
「なら、三人が帰ってくるまでここで待ってるか」
「そうだね~。じゃ、アタシはそれまで蘭を堪能しよっと♪」
「リサさんくすぐったいっ」
リサはまた蘭に抱き着いた。俺はその光景を見ながら時々蘭の頬を突っついてリサに加勢?すると軽く睨まれた。
「もうっ、お兄ちゃんっ」
ほんと、可愛いなぁ。
目線を逸らして照れている蘭を見ていると、癒されるなあ。
余韻に浸っていると、背後に何か感触が。振り返る間もなく、俺の両肩に手が置かれた。
「やぁ、待たせたね。子猫ちゃん達、と・・・」
いつの間にか後ろにいた薫が、耳元に顔を近づけてきた。
「私の王子様っ」
「っ!?」
予想外の言葉に背中がビクっとするくらい驚いたけど、薫が後ろにいるおかげで蘭とリサには気づかれていないようだった。まったく、学校の廊下でそんなこと言うのは反則すぎる。
「ごめんね~、人がいっぱいいて時間かかっちゃった~♪」
「日菜っ!」
薫の後ろからひょこっとでてきた(であろう)日菜は、当たり前のように俺の右手を持ってぎゅっと抱き着いてきた。なんで!?
「薫くんとはーくんっ、いっぱいるんるん♪ってして、楽しもうねっ♪」
「ああ・・・」
「勿論さ、盛大に楽しもう」
「あははっ、薫くんのそれ、何回聞いてもおもしろ~い♪」
それって、もはや悪口じゃないか?
いや、日菜なりに褒めているのだろうか。
「薫先輩、日菜先輩~。二人だけでずるいですよ~、モカちゃんも入れてください~!」
忘れていたわけじゃないけどやっぱりいたモカが俺の左腕を掴んで抱き締める。
「はるせんぱ~い、のんびり校内清掃やりましょ~」
「モカのペースでやったら日が暮れるよ・・・」
「そうかもしれませんね~。モカちゃん、頑張って先輩のペースに合わせます~」
絶対ペース合わないな、うむ。
「てか、掃除場所はどこなんだ?」
「午前中はグラウンドの横、井戸のあるとこで、午後は屋上だ」
二か所もあるのか。うちの高校の生徒数を考えれば分担すれば一か所だけの掃除で済んだだろうに。ほんと、面倒だ。
「うちの学校に井戸なんてあったんだな」
「知らないんですか先輩?羽丘学園七不思議の一つ、覗き込んだ人が引き込まれるという噂の井戸ですよ~」
詳しいな、さすがモカ。
それにしても七不思議なんてあるんだな、転入する前に調べとくんだった。
「大丈夫だよ~、たぶん何も出てこないって!今はお昼だし、一番安全だと思うよ~?」
「そういうものなのか?」
「私も演劇部の練習を井戸の近くですることがあるが、怪奇現象が起きたことなんて一度もないぞ」
って、ドヤ顔で言ってる割には俺の肩を掴む力がさっきよりも強くなってるんですけど、薫さん。
「ま、実際のところ行ってみないと何も始まらないろうな」
「そうですね。では、行きましょ~」
左右と背後から三人に体を固定されているが、何とか後ろを向いて歩きだそうとした時、目の前に蘭とリサの二人がいたことを思い出した。
「「・・・・・」」
二人して、何その目。
獲物を睨んで威嚇するような、嫉妬しているような、病んでるような。あれ、なんか殺気も感じる気がする・・・。
「蘭、わかってるよね?」
「もちろんです、リサさん」
一体、この二人は何を企んでるの!?
「楽しくなりそうですね、先輩」
モカが嬉しそうに耳打ちしてきた。どうやら彼女は二人の様子を見て察したらしい。なら助けてほしいところだけど、日菜と薫がいるこのタイミングでモカの言う言葉によってはカオスになりかねないから、我慢するしかない。
「じゃ、行こーっ♪」
日菜の元気な一言で二人も目が覚めたように、瞳の闇が消えた気がする。気のせいかもしれないけど。
それでもまだジト目で見つめてくるあたり、何か企んでいそうなことに変わりはない。
俺は五人に囲まれるようにされながら、歩き始めた。
この校内清掃、この先一体どうなることやら・・・・・。