あの地平線の夕焼け目指して   作:偽帝

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雨と重なる手

はあ・・・・・、下校途中で雨降るってあります?

折りたたみ傘も持ってきてないし、ほんと運が無いな・・・。

 

 

このままUターンして学校に戻るにも中途半端な距離なので、近くにある公園に入る。

 

 

公園の真ん中には休憩所とでも言うのだろうか、木造のベンチと六角形の屋根がある。

 

 

雨に濡れながらそこに着くと、リュックを置いてベンチに座った。家まで距離が遠いわけではないけど、走って帰ってずぶ濡れになるのは嫌なので小雨になるまでしばらく待とうと思う。

 

 

「・・・・・」

 

 

雨が音を立てながら降り続いていく様を無言で見つめる。普段、まったく気にも留めない雨でも無意識の内に何か引き込まれる魅力を感じるような感じないような・・・。

 

 

ただただぼんやりと雨を見つめていると、俺と同じなのか傘を忘れた誰かが俺の隣に座った。ベンチといっても大きいサイズではないので、肩が触れ合うくらいの距離だ。

 

 

「早く止まないかしら・・・」

 

 

ん、聞いたことのある声だ。

視線を雨から隣に向けると、声の正体は友希那だった。

 

 

「友希那」

「春、どうしてここに?」

「帰ってる途中で雨降ってきたからさ、ここで雨宿り中だよ」

「奇遇ね。私もそうしようと思っていたの。でも、春がいるとは思わなかったわ」

 

 

クスっと笑みを浮かべた友希那に、つられる。偶然とはいえ、こんなことがあるなんて。

 

 

「しばらく止まなそうね、雨」

「だな。ま、俺は小雨になり次第帰ろうと思うけど」

「だめよ」

 

 

友希那に袖を掴まれ、心配そうな顔をされる。

 

 

「ただでさえこんなに濡れてるのに、止まない間に帰ったら風邪引くじゃない・・・」

「平気だよ、家近いしさ」

「だめ。私が許可しないわ」

 

 

ポケットからハンカチを取り出した友希那は、そのまま躊躇わずに体を近づけてきた。そして、そっとハンカチを頬に当てられると、肌に付いている水滴を一つずつ拭いていってくれる。

 

 

・・・・・うん、とても恥ずかしい。

拭かれてることも恥ずかしいし、何より体が密着していて顔が近いのが拍車をかけている。

 

 

時々、彼女の様子をチラっと目を動かして見てみると、やっぱり気恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

 

 

「ありがとう。でも、自分でやったのに」

「いいの。その・・・、私がやりたかったからっ」

 

 

友希那はもっと頬を赤く染める。彼女は言った後で自分が恥ずかしい言葉を言ったことを思い知るタイプだ、とても可愛い。

 

 

大体の水滴を拭き終わって、友希那はハンカチを持っていた手を下げるが、じっとこっちを見つめている。

 

 

「・・・?」

 

 

何のアピールかわからないで彼女を見つめ返していると、また袖をぎゅっと摘まれる。

 

 

「今度は私も拭いてよ」

「えっ・・・?」

 

 

予想外の返答に戸惑う。

 

 

「嫌・・・?」

「じゃ、ないけど」

「ならお願いっ・・・」

 

 

そっと彼女のハンカチを手渡される。濡れている部分を折って乾いている部分を持って顔を上げると俺のその仕草を友希那はじっと見つめていたらしい。

 

 

彼女は何かを期待するような目で、じっと目を見つめている。恥ずかしいのか顔を赤くしているがそれでも目を逸らすことはなかった。

 

 

ワイシャツが雨に濡れて肌にくっついていたり、濡れた髪の先から水滴が頬を伝って落ちていく姿に、妙な色っぽさを感じてしまう。

 

 

ゆっくりとハンカチを友希那の頬に当てて、水滴を拭いていく。ハンカチ越しからでも彼女のやわらかい肌の感触が伝わる。

 

 

頬を拭き終わり、今度は髪にハンカチを当てて撫でる様に上から下へと拭いていく。正直、どうするのが正しいのかわからないけど、とりあえずこうすれば可も不可もなくという感じだろう。

 

 

拭いていくごとに友希那の髪はさらさらになっていき、濡れて見えなかった艶が出てきた。手串をしているわけじゃないのに彼女の髪のさわり心地の良さが癖になりそうだ。

 

 

粗方拭いたところで髪からハンカチを離す。

 

 

「終わったよ」

「まだよ」

 

 

友希那は長い髪を左肩に寄せた。

 

 

「ここも濡れてるから、拭いてくれない?」

 

 

最後に彼女がお願いしてきたのは首の裏、うなじだ。友希那のその部分を間近で見ると、言葉に表せない色気がある。数秒見ただけで緊張したように心拍が上がる。

 

 

さっきと同じ要領で、濡れている部分からハンカチを当てていく。

 

 

「んっ・・・」

「ちょ、変な声出すなって」

「くすぐったいのよ、ひゃうっ」

「そっか。なら、今度友希那をくすぐる時はここを責めようかな」

「だ、めっ・・・!」

 

 

くすぐったそうな友希那は左右に身を捩りながらも、俺の制服の袖を強く摘んで離さない。拭いていくごとに違う反応をする彼女を見るのは楽しいけど、あっという間に拭き終わってしまった。

 

 

「はい、終わり」

「ん・・・。ありがとね、春」

 

 

少し物寂しい表情をしながらも、彼女はハンカチを受け取ってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

雨は一向に止む気配が無い。天気予報でも当たらないときはまったく当たらないらしい。

 

 

 

ベンチの上に置いていた左手に、そっと友希那が右手を被せる。

 

 

「っ、・・・」

 

 

何かを言おうとして開いた口を、ゆっくりと閉じる。こういう時に変に言葉をかけるのは野暮かもしれない、そう思ったからだ。

 

 

雨を見ているフリをして、友希那に視線を向ける。すると、彼女は重なっている二つの手を見ながら幸せそうな表情を浮かべていた。

 

 

「~~っ」

 

 

恥ずかしさが増していく。

このままだと恥ずかしくて沸騰しそうだったので、俺は思い切って口を開いた。

 

 

「・・・雨止んだら起こしてくれ」

「ええ、わかったわ」

 

 

決して嫌ではなかった二人だけの静かな空気を壊す形で、俺は恥ずかしさから逃げるように目を閉じた。もちろん一ミリたりとも眠くない。

 

 

目を閉じてから数分と経たないうちに、重なっていた友希那の手が上からぎゅっとやさしく握ってくるのを感じた。

 

 

そして、ゆっくりと彼女は自分の体を預けるようにこちらに寄りかかる。

 

 

「雨、止まなければいいのに・・・」

 

 

二人にしか聞こえない声で、彼女は小さく呟いた。

 

 

 

 

雨は、音を立てて降り続いている。




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