2018/06/18 更新
二年生は一年生と違って、始業式が終わったら入学式に参加せず授業がある。早く帰らせて欲しいけど、それでも午前中で終わるので救われたほうだ。
「あ~、授業面倒だなぁ」
「まぁ、最初はオリエンテーションとかだから、早く終わるんじゃない?」
「そっか、そう考えたら楽だね」
始業式から戻ってきて、リサと話しているとチャイムが鳴って直ぐに先生が教室に入ってきた。起立、礼、をして座るとリサが椅子を後ろに下げて背中を近づける。。
「なにするのかな?」
「今後の授業の説明とかじゃない?もしかしたら少し授業やるかもしれないけど・・・」
「それ、さっきの話と違うじゃん!授業やりたくない~」
「そんなこと言われても、先生の決めることだからわかんないって」
「むぅ・・・」
振り返って顔をこっちに向けてるリサに、シャーペンで頬をつっつかれる。小悪魔のような笑顔で、目が合うと何か引き込まれるような魔性の魅力みたいなものがあった、要するにかわいいってこと。
「・・・どうしたの?じっとあたしを見てさ」
「ん、いや、なんでもないよ」
つい、見とれてしまっていたので目を逸らすように返事を返すと、リサは何かを察したのかまた笑みを浮かべて、そっと耳打ちするように顔を近づけてきた。
「もしかして、私に見とれてたとか?なんてっ♪」
言われたこっちがすごい恥ずかしい・・・!しかも耳元で、『ねえ?』とかふぅって息を吹いたりしてきてる、なんか、あざとい感じがする!こうなったら、対抗してちょっと言い返してみよう。
「でも、リサは美人で可愛いよ」
「へっ!?そ、そう、ありがと・・・」
予想以上に効果は絶大で、リサは顔を真っ赤にして直ぐに前に向き直った。そして何か机の上で書くそぶりをして、小さな紙を手渡してきた。
小さな紙には可愛い文字で、大きく『バカ』と書かれていた。
「ん?」
紙を裏返すと、『今度、二人っきりでお昼食べよ♪』と書いてあった。あれ、言い返しただけなのにすごい逆効果!すーごい気に入られてる!?まあ、嬉しいんだけど!まさかお昼を誘われるなんて思わなかった。
紙から視線を上げるとまたリサがこっちを向いていたけど、何も言わずウインクをしてまた前に向き直った。
「モテてるね、は~くん♪」
「日菜!?」
隣を見ると机に顔をくっつけた日菜と目が合う。
「ずっと、聞いてたのか?」
「うん、最初からっ」
体勢を戻した日菜は、俺がリサから貰った紙が何なのか興味津々に顔を覗かせる。
「それ、何書いてあるの~?」
「え、いや、別に何も書いてないよ。ただの紙きれさ」
「ん~、ほんと?リサち~のことだから絶対なんか書いてると思うんだけどな~」
日菜の勘の鋭さに驚く。彼女の前ではごまかしたり、隠し事は通じなさそうだ。
「・・・ま、秘密を暴こうとするのはあまり良くないかっ。は~くん、今度あたしとも一緒にご飯食べようねっ、楽しみにしてるからっ♪」
「え!?良いけど・・・?」
「・・・♪」
もしかして日菜は、人の心の中とか読めるのか?それとも異常なほどに勘が鋭いのか?結局、紙に書いてある内容も最初から知っていたとかか!?
両手でピースを自慢げに作って俺に見せた後、日菜はまた机に突っ伏してゆっくりとまぶたを閉じた。寝るのかよっ。
「仲良く話しているところ悪いが、私を忘れてもらっちゃあ困るな、春」
どうやら薫もここまでの話を聞いていたみたいだ。俺が気づいてなかっただけだが、ずっとこっちのほうを向いて座っていた。彼女にいたっては最初から授業を聞いてすらいない!
「ごめん、気づかなかった。決して無視してたわけじゃないからな!」
「ひどいよ、春。私だけ雑に扱うなんて・・・、あぁ、儚い・・・」
「まさか、最初からずっと聞いていたなんて思わないでしょ。前向いていないと怒られるぞ?」
「大丈夫、君たち三人の会話のほうがとても聞く価値があるからね」
それ、もし先生に聞こえたら絶対怒られるやつ・・・、なぜか聞こえてないみたいだけど、それとも聞こえてないふりだったりして。
「それで本題なんだが、私も是非、春と二人っきりで昼食をとる機会が欲しいのだ、もちろん一回限りではなく、今後も」
「それはあたしも!」
「あたしも、そうしたい~!」
薫が提案したかのように言った言葉に、ものすごい速さでリサと日菜が反応した。二人ともとっくに聞いてないと思ってたら聞いていたのかよっ。日菜にいたっては寝たふりか!
「で、春。返答はどうだい?嫌かな?」
「い、いえ、ぜひ!・・・でも、みんなそれぞれ時間空いてるのか?」
「勿論さ。ずっと暇というわけではないが、リサも日菜も、そして私も春に興味がある。もっと君の事を知りたいし、もっと仲良くなりたい。これが純粋な気持ちさ」
「あたしも同じ、春ともっと仲良くなりたい・・・!」
「あたしもは~くんとたくさん、るんるん♪ってしたいな~!」
ってことで、授業中にもかかわらず俺の今後・・・、お昼を一緒に食べる相手がここに決まったのである。これ、他の人(特に男子)から見たら羨ましいやつなのだろうか、女の子、しかも美人ばっかりで。
「決まりだな、これからは昼食の時も話に花を咲かせようじゃないか、春」
「ん、ああ・・・」
話が終わったところで、段々と現実に引き戻される。楽しいことだけど、授業中に俺たちは一体何を決めているんだ。気づいたら授業も半分近く進んでいた、初回から思いっきりイメージを下げてしまったかもしれない・・・。
結局授業が終わるまで、話のことが気になってずっと考えていたのであまり授業も耳に入ってこなかった。今日一日でリサ、薫、日菜の三人と友達になって、今度それぞれとお昼を一緒に食べることも決まって、まだ学校に来て半日しか過ぎてないのにとても長く感じた。
ーーーーーーーーーー
『玄関で待ってる。ご褒美も、ね?』
携帯には蘭からのメッセージが届いていた。どうやら寝ないでちゃんと入学式での話を聞いていたらしい、関心関心、えらいえらい。
授業も終わり、HRも終わったのでもう教室には数人しか人は残ってなかった。チャイムが鳴ってリサと日菜は直ぐに教室を出て帰っていった、二人とは何故か教室を出るときにハイタッチした。薫には両肩を掴まれ、てっきりプロポーズとかされるのかと思ったが普通に『さよなら♪』、と超絶イケメンな風に言われ、そのまま手を振りながら教室を出て行った。
俺も教室を後にして玄関で靴を履き替えて立とうとすると、先に待っていた蘭がいた。
「わるい、ちょっと待ったか?」
「大丈夫、待ってない」
「なんか元気ないな、蘭。何かあったのか?」
蘭はなんだか気持ちが沈んでいるようだった。昨日の寝不足もあったので余計表情が暗く見える。
「みんなと違うクラスだった、あたしだけ・・・」
「それは・・・残念だな」
バンドのメンバーが5人いて蘭だけ違うクラスになるって、凄い運の悪さだ。蘭ってこんなに悪運が強かったのか・・・。
「元気出せって。授業終わった後の休み時間とか、放課後に会えるじゃん」
「そうだけど・・・」
これは相当落ち込んでるな、全然元気がない。全体的に暗いし、特に目がヤンデレみたいな感じになってる。怖い。
「まだ高校生活一日目が終わったばっかりだ、これから先何が起こるかわからないさ」
「うん・・・」
ぽん、と蘭の頭に手を置く。
「これ、ご褒美じゃないよね?」
「え?」
「これだけだったら怒るよ?」
「いや、これは別。蘭が元気なかったからやっただけさ」
「そっか、良かった。ありがとう」
玄関のドアを開けて、校門の方へ歩き進める。学校が昼で終わったので外が明るいのは当たり前だが、不思議と落ち着かない感覚がある。
「あのさ、お兄ちゃん。今日はお兄ちゃんの家に行きたいなって」
「俺の家?別に良いけど、まだ引越しの段ボールとか片付けてないから、ちょっとスペースが狭いかもしれないけどそれでも良いか?」
「大丈夫、もし必要だったらあたしも片付けるの手伝うから」
「ありがとう、でも気持ちだけ受け取っておくよ」
蘭の気持ちは嬉しいけど、やっぱり女の子に手伝ってもらうわけにはいかない、そこは男として譲れない所がある。そう思いながら歩いていると、蘭に袖をぎゅっと摘ままれた。
「あたしは、お兄ちゃんの力になりたい。必要になったらいつでも頼って」
「ありがとな、蘭」
「うん・・・!」
ーーーーーー
家に着いて蘭と一緒に部屋に入る。
「ほんとだ、段ボール多い」
「ん、片す時間もなくてさ」
「ちゃんとしないと、お母さんにも迷惑かかっちゃうよ?」
「そうだな、ごめん」
家に蘭を招き入れて早々、怒られた。でも怖いというよりかは可愛い。
「じゃあっ・・・!」
カバンを置いたときに、後ろから蘭にギュッと抱き着かれる。
「ご褒美頂戴っ、お兄ちゃん」
「ちょっ、くっつかれたら頭撫でられないってば」
「でも離れたくないっ、ずっとこうしていたい・・・!」
「困ったな・・・」
俺の背中に顔を埋めて体の前で手を組むように抱き締められているけど、全然手を離してくれない。時々してくる頬擦りの感触がくすぐったいし、まんざらでもないので、蘭の手を解こうにも力が入らない。
「いっぱい撫でてくれる?」
「もちろん」
「あたしが満足するまで、なでなでしてほしいな・・・。いい?」
「うん、期待に沿えるよう頑張るよ」
そう言ったら、蘭はゆっくりと手を解いてくれた。俺が自分のベッドの上に座ると蘭もこっちに近づいてくる。
「ん、え・・・?」
隣に座ると思っていた蘭は、俺の方に向かって歩いてきて当たり前のように膝の上に乗ってきた。え、これ一体どういう状況?しかも背中を向けているんじゃなくて向き合う体勢だし!しかもぎゅって抱き締められたし!!
「この体勢じゃ、だめ?」
「いや、予想外だったからさっ・・・」
なんか、ご褒美をもらえるとわかってから蘭が凄い積極的になっている。逆に彼女のことを意識してしまう。
「お兄ちゃん、いっぱいなでなでして・・・?」
「うん、わかった」
右手で蘭の体を抑えているので、左手で彼女の頭を撫でないといけない。ゆっくりと蘭の黒髪に触れて髪をなぞるように頭を撫でる。蘭の髪はさらさらしていて撫でる側としても触り心地がいい。
「ん、お兄ちゃん撫でるの上手いっ」
「そっか、よかった」
蘭は俺の首元に顔を当てているので、蘭が喋るとくすぐったい。
「あっ、手止めないで。もっと・・・」
耳打ちされるように蘭にお願いされ、また撫で始める。そういえば昔も、蘭が褒めて、と言わんばかりに自慢してきた時に彼女の頭を撫でてあげていたことを思い出した。目を瞑って喜んでくれる蘭の表情がとても可愛かった、勿論、少し照れながらも嬉しそうにしている今の蘭も可愛い。
「ひゃあっ」
「!?」
「ご、ごめんっ、撫でられるの気持ちよくて・・・」
「蘭も可愛い声出すんだな、よしよし」
「う、うるさいっ、バカっ」
「バカって言うなら撫でるのやめよっかな~」
「え、あっ、ごめん。もっと撫でて?」
あー、もう、ほんと可愛い。蘭はこういう時無防備でチョろくなってるから、意外となんでも言うこと聞いてくれたりして・・・、まあ今はそんなこと言わないけどさ。
「また、今度さ、撫でてって言ってもいい?」
「ああ。でも、ご褒美って言わなくても撫でるくらい、いつでもしてあげられるぞ?」
「ありがと。じゃあ、これからももっと甘えてもいい?」
「無理難題は困るけどな」
「ん、ありがとう。お兄ちゃん」
結局、この後もしばらく蘭の頭を撫でていた。