おなかが減っていたので、昼は早々に食べ終わった。特にやることもなく暇なので、残りの時間授業が始めるまで寝ようと思っていた時、蘭が教室のドアの近くに立っていた。
「お兄っ、じゃなくて先輩、今時間空いてますか?」
「え、先輩!?」
「お兄ちゃんって呼んだら色々と誤解生むでしょ?」
「ああ、そっか。それもそうだな」
確かに実際幼馴染で血のつながってる兄妹でもないから、下手したら大ごとになる可能性もある。そうなったら蘭の友達、バンドメンバーにも迷惑が掛かってしまう事を考えたのかも。
「ん、時間は空いてるよ。寝ようと思ってたからさ」
「わかった、あたしについて来て?」
蘭に言われるがままに、後ろをついていく。
「お兄ちゃん、まだお昼食べてないでしょ?」
「ごめん、もう食べ終わりました・・・」
「え、うそ!?」
よく見ると蘭も手に弁当を持っていた。
「てか、どこに向かってるんだ?」
「屋上。そこで昼を食べるついでにあたしのバンドメンバーも紹介しようと思って」
「そうだったのか、それは先に食べて悪かったな。その代わりと言っちゃあなんだけど、みんなが食べ終わるまで待ってるよ」
屋上に向かって歩いているものの、屋上って使えるのだろうか。よくドラマや漫画で見るほど屋上って解放されてない気がするけど・・・。
それにしても蘭のバンドメンバーはどういう人たちなんだろう。
蘭がドアを開けて、屋上に入る。普段使えるのかどうかは知らないけど、意外と沢山生徒がいた。
「こっちきて」
歩く先にはそれぞれ自分のお弁当や食べ物を持って、立ち話をしている4人の女の子がいた。
「みんなごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ蘭、全然待ってないから~」
4人の丁度真ん中に蘭が立って、改めて5人としてもう一度俺の方を見る。なんだか、これからカツアゲとか集団リンチでもされそうな圧力だ。いくら女子でも5人の視線が一気に自分に集まっていると緊張する。
「紹介するね。私達が、Afterglow」
言葉にならない驚きというか、納得というか・・・。まだ一言も喋っていないけど彼女たちを繋ぐ強い絆が目に見えた気がした。
親みたいな考え方だけど、彼女たちになら蘭を任せられる。最初、蘭から話だけを聞いた時もそう思ったけど自分の中でそれが確信に変わった気がした。保護者面した考え方だけど。
「多分、蘭から話は聞いてると思うけど、俺は宮坂春。蘭とは小学校の時からの幼馴染。敬語使わないで気軽に呼び捨てしてくれたいいから」
「お兄ちゃん、あっ・・・!」
俺に対して先輩って言い馴れてなかった結果、蘭はうっかりいつも通りの呼び方で言ってしまった。蘭のことだから普段、お兄ちゃんって呼んでることなんて言っていないだろう。本人は思考停止してちょっとフリーズしてるし。
「「「「お兄ちゃん?」」」」
「蘭、事情を言うしかないぞ・・・」
「・・・・・・・・・・」
自分から墓穴を掘ってしまった蘭を慰めて、二人で事情を話すことにした。
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「なんだそういうことだったのか、てっきり蘭に兄弟がいたのかと」
「普段からお兄ちゃんって呼んでるってことは、モカちゃんが思ってたよりも親密な関係なんだね~。言ってくれたらモカがお兄ちゃん役になったのに~」
「気持ちは嬉しいけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんなの。あたしにとって、たった一人の存在なのっ!」
「わ、蘭ちゃん大胆だねっ!私も、もっと蘭ちゃんと仲良くなりたいなぁ・・・」
「つぐみ・・・、あたしもつぐみともっと仲良くしたいから」
「蘭とつぐみちゃん、いつもこんな感じなんです」
「そうなんだ・・・」
会話に付け入るスキがない・・・。無理矢理話に入ろうとは思わない、むしろ聞いてた方が色々な事がわかるし、何より今まで見たことない蘭の姿が見れて楽しい。
「あ、自己紹介してなかったね~。青葉モカで~す、モカとかモカちゃんって呼んでください先輩~」
「宇田川巴。よろしく、先輩」
「羽沢つぐみですっ、よろしくお願いします先輩っ!」
「上原ひまりでーす!Afterglowのリーダーやってますっ、よろしくですっ!」
とりあえず、4人とそれぞれ握手する。
「と、取り合えず、時間無くなっちゃうから早く食べよう」
蘭の言葉で、4人はそれぞれ座る。俺はもう食べ終わっているので、この時間はずっと聞き手に回りそうだ。
「ん、え・・・?」
「こう座った方がいいかなって」
まるで逃げ道を塞ぐように、5人は座った。辛うじて後ろだけはスペースが空いてるけど。自分のクラスに続いて屋上でも可愛い女の子たちに囲まれるとは。
「俺はもう食べ終わってるんで、どうぞみんな自由に食べてください・・・」
「そんなこと言わないでくださいよ~、春先輩~。モカちゃんのパン少しあげますよ~」
「ああ、ありがと・・・」
「アタシも弁当分けてあげるよ、先輩」
「私もっ、先輩の口に合うかわからないですけどっ!」
「私のも良かったらどうぞっ!」
なんだかんだ皆色々と分けてくれた、優しいしありがたい。ちょっとお腹いっぱいだけど遠慮せずいただこう
。あと、さっきから蘭の視線が怖い、すごい睨まれてる。
「蘭~、そんな怖い顔しちゃだめだよ~」
モカが指で蘭の頬をつっついても、依然として蘭は少し不機嫌だ。
「あとで撫でであげるから怒らないでくれ、蘭」
「うん・・・」
しぶしぶ蘭は納得してくれた。やっぱり蘭は撫でられることに弱いのかも。
「蘭は春先輩に撫でられているんだ~、今度モカもしてもらうかな~?」
「ッ、駄目っ」
「え~、蘭ひどいよ~」
「蘭がこんなに恥ずかしがるなんて、余程先輩に撫でられるのが好きなんだな」
「んっ、そんなんじゃないっ」
モカや巴に言われて、恥ずかしがっている蘭は見ているだけで面白い。そこにつぐみやひまりが蘭を落ち着かせようとするが、またモカが火に油を注ぐ様に言っては蘭があたふたしてそれを見て巴は笑っている。この五人はいつもこんな感じで賑やかなのだろうか。
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事件は、この一言から始まった。
「蘭ちゃん、グリンピース残しちゃ駄目だよ。ちゃんと食べないと!」
「でも、これだけは苦手・・・」
「ほら、モカちゃんがあ~んして食べさせてあげるよ」
「いいってば。残すから」
蘭のお弁当の中身はオムライス、具材の中にグリンピースが入っていてそれを一つずつ丁寧によけている。
グリンピースが苦手で、嫌いなのは小さいころから変わってないらしい。つぐみとモカが説得しても蘭は聞く耳を持たず、ひたすらグリンピースを端っこにまとめていた。
「少しは食べないと、蘭」
「そんなに言うならお兄ちゃんが食べさせてよ」
「え?」
「だからっ、お兄ちゃんがあたしに食べさせてくれるなら、食べれるかも・・・」
「なんか積極的だな、今日の蘭は」
巴の言う通り、一緒にいることの多いはずのメンバーたちの前で蘭がこういうことを言うとは思わなかった。そして俺が返事を返す前に、蘭が弁当箱とスプーンを渡してきた。もう拒否できない。
グリンピースをなるべく隠すように掬って顔を上げると、蘭は恥ずかしそうに少し口を開けていた。ゆっくりとスプーンを持っていく。
「ん・・・」
頑張って食べている蘭に何故かずっと見つめられる。そして周りの4人も興味津々なのかじっ、と見ていた。
「食べれたじゃん。なら後は自分で食べれるだろうから・・・」
「ぜんぶ」
「え、全部?」
「全部、食べさせて・・・」
さっきよりも恥ずかしそうな蘭は、目を合わせてくれなかった。人前で、まさかこんなにデレるなんて・・・!
「今度からはちゃんと残すなよ?」
「わかった、頑張ってみる・・・」
また一口ずつよそって、蘭の口元に向ける。なんか少しずつ蘭自身が近づいてきているのは気のせいだろうか。ペースを早くしたわけではないけど、あっという間に蘭に食べさせることが出来た。表情を見ると嬉しそうにしてくれていて良かった。
「なんか二人のやり取り見てるとモカもしてほしいかも~、春先輩、モカにもパンをあ~んしてください~」
「アタシもお願いしようかな、蘭の反応があまりにも新鮮だから」
「私も、是非っ!お願いします!」
「私もドキドキして・・・先輩にしてもらいたいですっ」
え、どうしてこうなった?なんでこうなった?あの流れで、なぜこのルートに入った?
「いや、君たちは別に苦手な食べ物があるわけでもなさそうだし・・・自分で食べれるんじゃないの!?」
ツッコミ気味で指摘したら4人とも小さく俯いた。一気に俺が悪いみたいな空気になったんだけど、なんで?なんだかすごい申し訳ないことをした気持ちになってしまった。また自分で断れない空気を作ったも同然だ。
「じゃあモカからな」
「やった~、じゃあ先輩お願いしま~す」
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「疲れた・・・」
1回で満足できなかったのか、4人とも数回する羽目になった。近くで見るとみんな肌とか唇が綺麗でとても目の保養になりました。物凄い腕が疲れたけど、疲労分のメリットはあった気がする。
リサ・日菜・薫と同じように、モカ・巴・つぐみ・ひまりとも半ば強制的に空いていればお一緒に昼を食べたりその他もろもろ約束してしまった。
4人は次の授業が移動教室ということで少し早めに屋上を後にした。俺も何気なく教室に戻ろうとしたら、蘭に立ち塞がれ逃げられないようになのか手首を掴まれた。
「あのー、蘭さん?なんか怒ってます?」
「怒ってない、けどっ」
ぐっと勢いよく体を引き寄せられて、慌てて蘭の体を抱きしめて体勢を立て直す。
「その、みんなにデレデレしすぎ」
「そんなしてるつもりはなかったんだけど」
「してたっ、口元緩んでたし楽しそうだった。あたしの時ももっとそうして欲しかったな」
どうやら細かいところまで蘭に見られてたらしい。申し訳程度に蘭の頭を撫でてもあまり表情が緩まなかった。
「みんなと仲良くしてくれるのはあたしとしても嬉しい。けど、あたしが一番お兄ちゃんとの付き合いが長いから、その、なんていうか、あたしのもの、ってわけじゃないけど・・・うまく言えない」
優先順位は自分が一番だってことを言いたいのかな?蘭が嫉妬してるって考えるとなんか嬉しいような、ここからもっとイジりたいような、どっちにしても可愛い。
「心配しなくても、蘭のことは大切に思ってるよ。だからといって誰かを贔屓することもしないから、あと、あの時さらに蘭をいじってたら、もっと恥ずかしくなってたかもよ?」
「確かに・・・。そういうのは二人っきりの時に、してほしいな」
「ん~、気が向いたタイミングでな」
「ふえっ・・・」
思いもよらない擬音が蘭の口から出た。しかも、そんな捨てられた犬みたいな顔で見つめて言われると、こっちは効果抜群だ、何も反抗できない。反抗する気はないけど。
「ごめんごめん、そんな落ち込むなって」
「だってっ」
「今度、何でも何か一つ頼みを聞いてあげるから。あっ・・・!」
しまった、ついうっかり『何でも』って付けて言ってしまった!
「何でも?なら、昔みたいにまた一緒に寝たい」
「え、それは流石に・・・」
「何でも良いんじゃないの?お兄ちゃん、嘘ついたの?」
「ごめんなさい、約束は守ります」
確かに小学校の時添い寝とかしたことは何回かあったけど、高校生になってまたその機会が訪れようとしている・・・!この年でまた蘭と一緒に寝ることになるとは。たぶん寝れないだろうな、前日から。
「じゃあ、お互い予定があったらね?」
「わかった。じゃあ教室戻るか、蘭」
最後にとんでもない蘭のお願いを聞いてしまった。