あの地平線の夕焼け目指して   作:偽帝

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2018/06/11 更新


パンが好きなあの子と屋上で

「あ~、涼しい・・・」

 

 

今まで来たことなかったけど、意外と屋上というのも心地いい場所だ。風が涼しいし、見える景色も良い。周りから聞こえてくる会話も気にならない開放感がある。

 

 

「屋上、良いですよねぇ~」

「うわっ、モカいつの間に!?」

「屋上に向かう先輩を見たんで、モカちゃん瞬間移動してきました~。すごいでしょ~?」

「・・・本当はこっそり後ろをついてきたとかじゃないのか?」

「はい、その通りです~」

 

 

このままモカから話しかけてこなければお昼休みが終わるまで本当に気付かなかったかもしれない、透明人間スキルが半端ない。

 

 

風に髪が靡いて、ふにゃ~っとした表情のモカを見てると、自然と手を彼女の頭に置いていた。そしてゆっくりと髪を撫でる。

 

 

「ん~、どうしたんですか先輩~?突然モカちゃんを撫でて~」

「あ、ごめん。なんかモカが犬っぽく感じてさ」

「それって褒めてるんですか~?それとも馬鹿にしてるんですか~?」

「もちろん、褒め言葉として受け取ってくれ」

「了解しました~、モカちゃんは今日から先輩の犬、ペットです~」

「それは色々と誤解を生むからやめてくれ!」

 

 

気持ちよさそうにぼんや~りしてる顔がなんとも可愛い。目を瞑って涼しそうにしているのもなんとなく子犬っぽい。

 

 

「あっ、手を離さないでくださいよ~。もっとモカちゃんを撫でてください~延長お願いします~」

「てっきり嫌なのかと思ったら」

「いえ~、先輩の撫では最高ですよ~。もしかして、これで蘭を落としたんですか~?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ・・・。まあ、確かに蘭は撫でられるの好きだけど」

 

 

蘭にとっては撫でられるのは嬉しいことでもあり、もしかしたら弱点でもあるのかもしれない。褒めてほしい時などは勿論、怒っている時に撫でてあげれば意外と機嫌が良くなることも多かった。

 

 

まあ、こんなに通じるのは俺だけかもしれないけど。特権みたいなものなのかな?

 

 

「こんな気持ち良い撫で撫でなら、誰でも好きになりますよ~。いや~、先輩はとんでもない武器を持ってますね~」

「武器って・・・、別に俺はそんな意識してやってるつもりはないぞ?」

「またまた~、先輩が気づいてないだけで意外と虜になってる人はいっぱいいると思いますよ~?。モカちゃんは先輩が一級フラグ建築士だって確信してます~」

「俺、そんな属性持ちだったのか・・・」

「まあなんだかんだモカちゃんも、そんな先輩の撫で撫での虜ですからね~」

 

 

そう言うとモカは当たり前のように体を密着してきた。意図してやっているのかそれとも何も考えずにやっているのか、モカの場合はどっちか予想できない。

 

 

「ってか、昼食べなくていいのか?このままだと時間無くなっちゃうぞ?」

「あ、忘れてました、お昼食べないと~。えへへ、今日もパン~」

 

 

嬉しそうなモカは持っていた袋を開けると中にはクロワッサンが入っていた。と、いうかクロワッサンしか入ってない。大量のクロワッサンだ、何回クロワッサンって書くんだよ。

 

 

「モカ・・・、いつもそんなに食べるのか?」

「モカちゃんにとってはこれくらい普通の量、余裕のよっちゃんですよ~、時には10個食べる時もありますよ~」

「え、10個!?」

「パンがとても美味しいのでやめられないとまらないんですよ~。撫でてくれたお礼に先輩にも一個あげます~」

「おう、ありがと・・・」

「ん~、おいし~い♪」

 

 

手渡された袋を開けると美味しそうなクロワッサンが表れた。小さいサイズならたくさん食べるのもわかる・・・、いや、わからなくもないけど普通の大きさのクロワッサンをモカはこんなに食べるとは。胃袋ブラックホールタイプか。

 

 

「この香ばしい匂い、サクッとした食感、口に広がるバターの味、幸せ~」

「・・・っ」

 

 

普段からたくさん食べてるだけあってモカの食レポを聞いているだけで美味しそうな想像ができる。しかも手に実物を持っているので尚更空腹感が増す。

 

 

食べ進めているモカを見た後、クロワッサンを一口。うん、モカの言う通り美味しい、心の中からあったまるような優しい味だ。

 

 

「うん・・・、確かに美味しいな」

「それは良かったです~。先輩、今度一緒にパン買いに行きませんか~?モカがいつも買いに行くパン屋は他にもおいしいパンいっぱいありますよ~」

「もちろん、俺で良いなら行くよ」

「やった~。楽しみにしてますね~」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

パンを食べ終えたモカとのんびりと風にあたりながら残りのお昼時間を過ごすことにした。

 

 

「そういえば先輩、こないだモカちゃんとある夢を見たんですよ~」

「夢?」

「はい~。モカちゃんは夢の中でパンになってたんですよ~、それはそれは居心地が良くて。で、パンになったモカちゃんを人間のモカちゃんが美味しそうに食べてたんです~。そこで目が覚めちゃって、一瞬夢か現実かわからなくなっちゃったんですよ~」

 

 

モカちゃんという言葉があまりにも多い説明で一瞬理解が追い付かなかったけど、言いたいことはわかった。

 

 

「それは、リアル胡蝶の夢現象だな」

「なんですか、それ?」

「ん、荘子っていう人が夢の中で蝶になって飛んでる夢を見て目が覚めたんだけど、その時に自分が蝶になる夢を見たのか、それとも今の自分自身が蝶が見ている夢なのかわからなくなった、みたいな話さ」

「まさにモカちゃんの見た夢ですね~。でもモカちゃんはパンとして食べられる方でもパンを食べる方でも、どっちでも幸せです~、あ、でも今は食べる方がちょっといいかもですけど~」

「モカのことだからどっちもいい、で終わるかと思ったら。なんで食べる方が少し良いんだ?」

「そんなの簡単ですよ~」

 

 

そう言うとモカが勢いよく俺の腕にぎゅっと抱き着く。

 

 

「先輩にもっと撫でられたいからです~、パンの話もいっぱいしたいですし~。モカちゃんにとってはどっちもプラスですけど、先輩のことも考えると人間モカちゃんの方がプラスが多いんですよ~」

「そっか、それはありがとな」

 

 

まさかモカからこんな嬉しい言葉を聞けるなんて。にしても食べれられる方でも良いって、余程パンが大好きなんだな、モカは。

 

 

またよしよし、と頭を撫でてあげるとモカは目を瞑って嬉しそうに口元を緩めていた。

 

 

「先輩の撫で撫でが気持ちよくて、このまま寝ちゃいそうです~。次の授業サボって一緒に寝ませんか~?」

「駄目だ、ちゃんと授業でないと。サボるのは良くないぞ?」

「え~」

 

 

正直少しだけ一緒にサボりたい気持ちはあるけれど、サボってるのを誰かに見つかったり・・・特に蘭に見つかったりしたらまた色々と誤解を生んでしまう。

 

 

「なら、今度ならどうですか~?食後に眠くなるのは人の定め、一緒にぱーっと寝ちゃいましょうよ~。きっと気持ちいいですよ~?」

「うーん、・・・考えとくよ」

「先輩のその返事、ほぼオッケーだってモカちゃん捉えますからね~」

「え、なんでそうなる!?」

「だって先輩って女の子の押しとか、断るの苦手ですよね~?名探偵モカちゃんにはお見通しですよ~」

「まあ、それは否定できないけど・・・」

 

 

自分で言うのもなんだけど、女の子に対してやさしいというか甘いというか・・・。確かに約束したら断われないし押しに弱いし、でもそれで嫌な思いをしたことがないのも事実。

 

 

「・・・もう時間ないから教室に帰るぞ、モカ」

「う~、寝たいのに~。仕方ないですね~、戻りますか~」

 

 

モカの前を歩いて彼女を引っ張る形で階段に繋がるドアを開けて、階段を下りる。休み時間はまだ10分近くあるが、このままのんびりして時間ギリギリになって走りたくないので、早く戻るに越したことはない。

 

 

「わっ!」

 

 

後ろから聞こえたモカの声で振り返ると、階段でバランスを崩してこっちに倒れそうになっていた。反射的に彼女を抱きしめてなんとか難は逃れた。

 

 

「大丈夫か、ケガ無いか?モカ」

「はい、大丈夫です~。まだ眠たくてウトウトしてました~」

「気を付けないと危ないぞ」

「はい、気をつけます~」

 

 

抱き締めていた手を離しても、モカは俺を抱きしめる手をなかなか解かないで今度は何故か胸に顔を埋めてきた。

 

 

「えへへ、先輩、あったかいですね~。抱き枕として一緒に寝るっていうのもアリかもですね~」

「ちょ、何言ってんのモカ。早く手を離してっ」

「ん~、もうちょっとだけいいじゃないですか~?、これで次の授業も頑張れそうなんですよ~」

 

 

モカが顔を埋めながらすりすりする度に、サラサラの髪が当たって頬がチクチクする。まあ嫌な気はしない、いいにおいもするし。

 

 

「もう十分だろ、モカ。いい加減、戻るぞ。教室まで送ってあげるからさ」

「わ~い、ありがとうございます~」

 

 

一緒に階段を下りて、モカのクラスのある階へと歩く。いつの間にか手を握っていたけど気にせず足を進める、当たり前のようにモカが握ってきたのだろう。。ここでまた気にしたら埒が明かない、モカも離れなさそうだし。

 

 

「さ、教室着いたぞ、巴たち3人が待ってるだろうし」

「そうですね~。先輩、ここまでどうもです~。また一緒にお昼食べましょうね~」

「それも考えとく」

「え~、そんな~。モカちゃんテンションダウンです~もう教室まで歩く力も残ってません~」

「全く・・・」

 

 

体をだら~っと下げて誰が見てもやる気をなくしているモカの姿。教室の目の前まで来たのに一歩下がったと思ったらそのまま窓側の壁にくっついて動こうとしない。

 

 

「冗談冗談。タイミングが合ったら一緒に食べようか?」

「ほんとですか?モカちゃん元気でました~」

 

 

なんかチョロいというか、単純というか・・・。壁から離れたモカは、のらりくらりとふらふらしながら教室に向かって歩いて行く。

 

 

「もっと一緒にいたいのは山々ですけど、それじゃあ先輩、また~」

「ん、じゃあなモカ」

「はい、ばいばいです~」

 

 

ドアからひょこっと顔を出しながら手を振って送ってくれるモカに手を振り返して、俺も自分の教室へと帰る。

 

 

屋上でモカと一緒にパンを食べながら過ごすお昼も、悪くないのかもしれない。

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