二人の男がいた。
家を飛び出した自分のせいでかつて好きだった人を苦しめ、その娘が苦しめられていると知ったとき、貴方ならどうするだろうか。
最後に世界に残された人間が500人で、200人と300人が分乗する船の両方に穴が空いたとき、貴方ならどうするだろうか。
男の答えはこうだった。
自分の命を捨ててでも、少女を助け、母の元へと連れて帰ろうとその身を死体同然の物へとやつした。
300人を救うために200人を殺す。大の虫を生かすために小の虫を殺した。徹底的に殺し、殺して殺して殺し尽くした。
少女を助け母の元に返すために父を殺すという矛盾に気付かないで彼は足掻き、破綻した。
生かすために殺すという矛盾に突き当たり、それでも彼は貫こうとして、摩耗した。
仇敵の死体と対面し、女の首を絞めた。男は分からなかった。激情と狂気に任せた末の狂行。俺は何のために、誰のせいでこんな・・・男は慟哭した。男は破綻した。ある一人の破綻者の慰み物として、彼は破綻し、疲弊した精神を現界まで酷使した。
一人でも多くの人を助けたかった、正義の味方はそのために人を殺した。老いも若きも貴賤無く、等しく平等な一つの命。理念の元に家族同然の人間を殺した。ふざけるな・・・ふざけるなっ!馬鹿野郎ッ!男は慟哭した。男は摩耗した。天秤でありながら人であった。優しすぎた。彼は世界に奉仕する歯車として、摩耗した精神を動かし、奇跡へとすがった。
疲弊し、もはや自分がなんなのか分からなくなった心で、男はただ一つ、少女を救うという目的、その一心でのみ、体を動かした。痛いのが自分なのか、痛みにくっついた塵が自分なのか分からないまま男は少女を救った。救ったつもりになった男の体は食い尽くされた。少女は男の死に様から、檻から逃げ出す愚かさを悟った。
摩耗し、もはや正義を己に見いだせなくなった心で、男はただ一つ、恒久的世界平和という目的、その一心でのみ、奇跡にすがった。世界を救う正義の味方なのか、この世の全ての悪なのか分からないまま男は奇跡に手を触れた。奇跡は彼のなしえない規模で彼と同じ事をなすこの世の全ての悪だった。
かたや歪んだ心で必死に足掻き、全てを裏目に出した老獪の玩具。
かたや人々を引きつけ、悉く破滅させた死神の如き正義。
救いの無かった二人の男に対する、魂の呪いを解く物語。
これは、救いの物語だ。
語り口はちょっとジョジョリオンを意識。期待せずに続きを待っていただければうれしいです。
それでは、久々に。
ちゃおちゃおー。