一応話は今ンところ6巻途中まで書きためてあるんだけど、7と8がないから行くとこまでいったら更新停止するかもです。
風切り音が耳元でやかましく鳴り響く。
ティアーズのスラスター二つを両手に持ち、ちょうど掌からのジェット噴射で飛ぶような形で『紅椿』に追随する雁夜は何とも言えない不安に駆られていた。
出撃前からどうにも箒の様子がおかしい。緊張して浮き足立っているのではなく、力を手に入れて慢心しているというカンジだ。
(・・・ち。そんなことじゃ簡単に足下掬われるぞ・・・)
『正義への贄』とのリンク状況は良好。ワルサーWA2000セミオートマチック狙撃銃切嗣仕様に取り付けられた高性能スコープ二つから送られてくるデータを元に割り出した会敵予測時間は30秒後。雁夜の視界に『銀の福音』の姿が映った。
「ターゲットを確認した」
「こちらもだ」
視認した敵影は銀色の体に頭部から伸びる一対の翼が印象的な、データで見たとおりの姿をしている。
「切嗣、バックアップを頼む」
(了か・・・)
「加速するぞ一夏!目標に接触するのは10秒後だ!集中しろ!」
「ああ!」
「すまん、通信遮断だ!そっちの判断でフォローしてくれ!」
(了解した)
雁夜は舌打ちを一つ漏らすとスラスターの出力を一気に引き上げた。
「あの単純バカが・・・また独断で!」
慌てて追いすがる雁夜の目に映ったのは精密な動きで『零落白夜』を躱す敵機の姿。どうやら翼が高出力のスラスターであるらしく、しかも超音速状況下において数ミリ単位での精密動作が可能と来ている。さすがに重要機密の軍事用ISの肩書きは伊達ではない。
「箒!一夏の援護!独断専行の責任は後で追及させて貰うからな!」
「わっ、分かっている!」
一夏が繰り返し斬りつけ、箒が攻撃しやすいように軌道調節を行う。そうして繰り出される斬撃だが、一太刀も浴びせることがかなわない。途中から雁夜も援護を試みるが、スラスターを両手持ちにしているために足技しか出せず、歩法が一切使用できないせいでいつもの勢いがない。
「くっ!このっ・・・」
焦った一夏が『雪片弐型』を振りかざす。
「馬鹿!大振りすぎる!いい的だぞ!」
雁夜のいさめる声も既に遅い。
『零落白夜』のエネルギー刃は空を切り、お返しとばかりに敵機の翼から砲口が覗く。
「回避だ!」
いいながら雁夜は片方のスラスターを手放し、空いた右手に『無毀なる湖光』を展開する。二人も回避を試みるが間に合わず、放たれたエネルギー弾が一夏を捉え、爆発する。
「爆発性!?」
「くっ・・・攪乱しろ!」
弾丸を『無毀なる湖光』で受け止め、衝撃に歯噛みしながら雁夜は二人に指示を飛ばす。
「じゃあ左右同時に攻める!箒、左は頼むぞ!」
「了解した!」
反撃の光弾は全て雁夜が切り払うか『無毀なる湖光』で受けるかして、攻撃の一切を二人に任せるも思うようにいかない。
(あのスラスター・・・ふざけた見た目のくせに実用レベル高いとか、どんだけ厄介なんだよ!)
切嗣からの援護も未だに無く、どうやらもっとも射程の長いワルサーの有効射程圏内にも入っていないらしい。
「箒!敵の足を止めろ!一夏はそこを追撃!防御はこっちに任せろ!」
「「分かった!」」
箒の二刀流に追随するレーザーを絡めた連続攻撃に敵が防御を使い始めた。応射される光弾は全て雁夜が捌く。しかしここで再び敵機がギアを一つ上げた。
<La・・・♪>
謳うような機械音声と共にウイングスラスターに配された全砲門が開く。その数36門。
そこから放たれる全方位射撃を箒は躱して攻撃し、敵の隙をつくるが、しかし一夏と雁夜は視界の隅に入ったものに目を疑う。
「くそ・・・一夏!」
「ああ!」
雁夜が攻撃に加わり、かわりに一夏が『瞬時加速』と『零落白夜』を使用して海面に向かい、光弾の一つを掻き消した。微妙にタイミングがずれて『無毀なる湖光』が空を切る。
「何をやっている!せっかくのチャンスに!」
「船がいたんだよ!封鎖されたはずの海域に!っちっ!密漁船かよ!」
「『零落白夜』が・・・」
見殺しにすることが出来ずに光弾を掻き消すために使用した『零落白夜』。その刀身が消え、『雪片弐型』がただの近接ブレードに戻る。
「馬鹿者!犯罪者などを庇って!そんな奴らは・・・」
「箒!!」
「っ!?」
一夏の声に箒が身をすくませた。
「箒、そんな寂しいこというなよ・・・力を手にしたら弱いヤツのことが見えなくなるなんて・・・どうしたんだよ箒、らしくない、全然らしくないぜ」
その会話を背中で聞きながら、必死に光弾を切り払う雁夜の視界を嫌なモノがよぎった。
箒が取り落とした刀が空中で粒子となって消えたのだ。
「現界時間か・・・あぐぁっ!」
ここに来て初めて雁夜が被弾する。雁夜は頭の奥で状況が悪い方向に転がる音を聞いた。
(最悪だ・・・想定した最悪の更に上だ!)
雁夜が被弾し、動きを止めた際に横を流れた光弾が箒に向かう。
「箒いいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
「くぁぁっ!クソッ!うかつすぎる!」
一夏が最後のエネルギーで『瞬時加速』を行い、箒の前に出る。
庇うように抱きしめた一夏の背中で爆発が起こる。
連続して起こる爆発に一夏の体が傾いだ。
海へと墜ちていく一夏達を雁夜はギリギリで回収する。
「切嗣!援護しろ!有効射程もなにもない、めったやたらに撃ちまくれ!」
(了解した)
切嗣との通信を遮断して呆然とする箒に告げる。
「離脱するぞ」
言うが早いかスラスターを最大出力で吹かした雁夜の顔は苦虫を一ダースほども噛み潰したようなものだった。
後ろでは間に割り込むようにして飛来するライフル弾を躱すスラスターの音が聞こえる。そして次の刹那
「ぐおっ!?」
雁夜の顔が苦痛に歪んだ。
・・・・・
気付けば冬木市未遠川沿いの堤防に雁夜は腰掛けていた。
「あれ?オレは確か・・・」
意識のない一夏とうなだれた箒を抱えて離脱していた雁夜は最後に5,6発追い打ちの光弾を喰らい、なんとか砂浜まで辿り着いたものの意識を失ってしまったようだ。
「だらしねえな・・・」
うんざりしたように呟くと、隣からそうかもなという聞き慣れた声が聞こえてきた。
「一夏・・・何でここに?」
「さあ?それより雁夜、お前の格好おかしくないか?」
「いや、これで良いんだ。この姿が、ここにいる間桐雁夜にはちょうど良い」
ふと河原に視線をやる。
わずかに爪先を水で濡らし、くるくると歌い、踊る二人の子供が見えた。
白い服の少女に見覚えはない。しかし白髪に浅黒い肌の少年はどこかで見たことがある気がする。何度か公園で話した赤銅色の髪の少年に似た雰囲気がある。
堤防の上から雁夜と一夏はそれを、ぼんやりと見ていた。
何か切嗣がハイスペック過ぎて困る今日この頃。経験だけで言えば50年くらい行ってるし、体は一番無茶がきく10代後半だし。ちなみに雁夜の冒頭での姿勢はアイアンマンを想像していただければ分かり易いかと。
ではまた次回、「act13 円卓の戦士達」でお会いしましょう。
ちゃおちゃおー。