IS/stay scape   作:昆布さん

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これまでの話を見ていただければ分かると思いますが、拙作の雁夜おじ・・・もとい雁夜兄さんは苦労人属性というか、そんな感じの性格があります。
蟲が使えるようになってさらにその傾向が強まったような気が・・・


act29 腐心と不審

「・・・まずは軽く魔力を流す」

「・・・次に召喚の術式を組み上げる」

「・・・最後に相応量の血液を紙の上に一垂らし」

ぽたり。と、1枚の新聞広告に赤い雫が落ちる。

そこからカサカサという音が聞こえる。

「・・・なるほど、指の皮膚を軽く噛み切っただけなら視虫一匹が限度か」

一滴の血液から生み出された蟲が雁夜の人差し指に留まる。

「・・・何をしている?」

「ああ、切嗣か。いやな、召喚する度にコントロールに苦労するのもいやだし、慣らしがてら量と種類の関係を調べてるのさ」

おおよそ300mlで『肢刃虫』一匹、およそ一滴で『視虫』一匹。

「まあ良いが、また貧血を起こされたら困るのは僕だぜ?」

「鈴に苦労をかけるのもなんだし、ま、留意するさ」

とりあえず感覚共有を切り、針の先程の空気穴を開けたペットボトルに『視虫』を入れておく。

「切嗣、間違っても開けるなよ」

「そんな怖い物知らずな真似はしない」

そりゃよかった。と雁夜は肩をすくめた。

 

・・・・・

 

「あ、いたいた、織斑くーん、篠ノ之さーん」

「?黛先輩」

社会情勢についてリサーチした内容を記事にまとめていた雁夜にやほー。と声をかけて黛先輩が一夏達のところへやってきた。

「どうしたんですか?」

「ちょっと二人に頼みがあってね」

「頼み?私と一夏にですか?」

「うん、そう。あのね、私の姉って出版社で働いてるんだけど、専用機持ちとして二人に独占インタビューさせて欲しいんだって。あ、雑誌こっちね」

興味がわいたので一段落付けた雁夜が黛先輩の手元を後ろから覗き込む。

「あれ?この雑誌IS関係なくないッスか?」

「うん、まあそうなんだけどね。専用機持ちは基本国家代表か候補生だから。国家公認アイドル的に、モデルとかもやるの」

へえ。と呟く3人。と、そこへ切嗣が警告を発した。

「先輩、もうすぐ次の授業ですよ」

「あ、ほんとだ。じゃあ、織斑君は剣道部貸し出しの日だから、放課後また行くわね」

と、黛先輩はそれだけ言い残して出て行く。

ちょうど入れ違いに千冬が入ってきて、いつも通りの授業が始まった。

 

・・・・・

 

日曜日。

「じゃ、行ってくるぜ」

「おーおー行ってこい行ってこい。言伝とかは預かってやるから」

出かける隣人を見送って雁夜はペットボトルの封を開ける。

口から飛び出す黒い小さな影。雁夜の魔力供給を受けて『視虫』は飛び立っていく。

召喚以後、調整を加えることでそれなりの威力を持った爆弾としても機能するようにした『視虫』を本人に気付かれないようにボディガードに付ける。

ベッドにごろりと寝転がり、静かに目を閉じて『視虫』の制御に集中。

「命令、織斑一夏の監視、対象に何らかの危機が迫った場合は自爆を以て原因を排除せよ。また、対象の撮影終了時にこちらに連絡を」

リモートでなくてもこなせるレベルの命令を仕込み、『視虫』の遠隔操作を切る。

今日は切嗣もラウラと出かけている。そのせいで雁夜は留守番係になっているわけなのだが。

やがて暇をもてあました雁夜は携帯型ゲーム機を取り出し、●-BLAZEを起動させた。

 

・・・・・

 

もう学食は閉まっているだろうか。

箒の普段は見られないような姿を見て、心臓が遙か彼方へ飛び去っていくような感覚を味わった一夏は、そのままどこかぽーっとした頭でそんなことを考えていた。

(箒は晩飯どうするんだろうな)

ふと疑問に思ったので聞こうとして、目が合う。

とたんに至近距離で見た綺麗な瞳がフラッシュバック。

「な、なんか、あれだな。新鮮な体験だったな」

急に気恥ずかしくなって、思わず疑問とは関係ない台詞が口をつく。

「そ、そうだな、これも一種の人生経験となるだろう」

地下鉄の階段を降りながらのそんな会話。

それもしばらくしたら途切れてしまう。

そして一夏の頭に再び先程の疑問が帰ってきた頃、箒が

「い、一夏・・・その・・・きょ、今日は、いっしょに夕食をとらないか?」

と聞いてきた。なんだそのつもりだったのかと思いながら一夏は

「ん?いいぜ。でも今から戻って食堂開いてるか分かんないぜ」

と答えた。

「い、いや!食堂ではなく・・・その・・・そ、外で、いっしょに・・・」

「ああ、外食か。そうだな・・・うし!じゃあせっかくだしそうするか」

と、箒発案で雑誌に載っていた店に行ってみる。行ってみたのだが・・・

「・・・むぅ」

「あー・・・満席だな」

日曜の夕食時なのだからある意味当然のことだろう。

「二時間待ちだってさ、どうする?やっぱり寮で食べるか?」

「い、いや!外がいい!外がいいんだ!」

と、その時だ。

「ん?なんだコイツ?」

一夏の肩に黒い蟲が乗り、しばらく二人の前で停止すると、まるでついてこいとでも言うように飛んでいく。

「・・・どうする?」

「そうだな、少しだけ追ってみるか」

蟲はまるで二人がついてくるかを確認するように、ときどき停止しては移動するといった動作を繰り返している。

やがて蟲が二人を連れてきたのは少し引っ込んだところにある落ち着いた雰囲気の喫茶店。店先には『アーネンエルベ』とドイツ語で書かれたプレートがぶら下がっている。

「・・・へえ」

「うむ、悪くないな」

と、二人は店に入っていく。

蟲はその様子を眺めていた。

 

・・・・・

 

「ふぅ。なんとかなったな・・・一夏の奴、あのままじゃ地雷踏みかねなかったからな・・・」

『視虫』を使って一夏達を『アーネンエルベ』まで誘導した後、雁夜は一つ息を吐いた。

「いつも思うんだけどさ」

「どした?鈴」

「雁夜って苦労性よね」

「って言われてもなあ・・・刺されるって分かってるヤツを見捨てるのも気が引けるだろ?」

雁夜が放っておけば一夏のことだから何も考えずに五反田食堂に行くだろう。

そうなれば蘭を泣かせることにもなるだろうし、最悪蘭を溺愛する祖父の厳によって一夏自身もボコボコにされかねない。

「黙って見過ごせるかってンだ」

そう言って雁夜は手元にあった麦茶を一口飲んだ。




というわけで、文化祭のチケットは別の日に渡してもらったということにさせていただきます。あと、最後の方で蟲はリモート操作されておりますので、誘導するような動きも宜なるかな。
じかい、いよいよ強敵がその姿を現し始める!
では次回、act30 不穏でお会いしましょう。
ちゃおちゃおー。
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