IS/stay scape   作:昆布さん

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と、いうわけで。二択はまどろっこしいので一気に投稿しちゃいます。
では、本編をどうぞ。


act.EX4 生きる

む。と一つ難しげな顔で唸ると、雁夜は目の前にある表札を睨んだ。

「――とりあえず現状を整理してみるとするか・・・」

まず自分は誰か?この問いに答えるのは簡単だ。

間桐雁夜。年齢は21歳。既婚。職業はフリーランスのルポライター。同業者からの愛称は『正直小僧』。

よし。じゃあ次は今受けている仕事。

某社の発行している大学情報誌の依頼で大学の取材に出向いている。大学自体の取材は既に終えていて、現在は学生から見た学校の良い所を聞いて回っているところだ。ところなのだが・・・

最後に。現在地は・・・

「私立鹿鳴館大学3回生の下宿している学生向け高級マンションの一室。名前は・・・遠坂時臣・・・」

恐らく別人だ。他人のそら似だ。シャルロットが友達になったというウェイバーは魔術とか聖杯とか、そんな常識を逸脱し放題に逸脱して、暴走特急アンストッパブルな世界とは全く関わりのない一般人だったじゃないか!

うん、大丈夫。大丈夫だ!そう言い聞かせて雁夜はインターホンを押した。

<どちら様でしょうか?>

聞き覚えのある声に若干の不安を覚えつつも、雁夜は用件を伝える。

「っと・・・○○社の大学情報誌に載せる学生のコメントを戴きたいのですが、お時間を戴いてもよろしいでしょうか?」

<ええ、構いませんよ>

そう言ってインターホンの回線が切られ、数秒後に鍵の開く音がした。

「どうぞ、こちらです」

そう言って雁夜を招き入れる青年の顔は、雁夜が想像したとおりのもの・・・

「遠坂・・・時臣さんですね?」

「ええ、私が遠坂です」

 

・・・・・

 

リビングルームに通された雁夜は、仕事着であるウインドブレーカーに追加した内ポケットから名刺入れを取り出す。

「急に押しかけてご迷惑をおかけします・・・私、こういう者です」

一応、他人のそら似である可能性も考慮して形式通りの手順で名刺を手渡した。

「・・・間桐雁夜・・・?」

嫌な予感がする。何というか。こう、「予想通りだったぁぁ!(T_T)」みたいなカンジだ。はたして遠坂時臣は

「失礼だが、どこかでお会いしたことはないだろうか?」

と、問いかけてきた。

「・・・遠坂さんが思っているとおりだと思いますよ?」

いやいやながらも言葉を返すと、やはりか。と目の前の学生、いや、遠坂時臣は席を立つ。しばらくして戻ってくると、その手には宝石をはめ込んだステッキが握られていた。

「ちっ。やっぱそうかよ・・・それ、礼装だろ?」

「やはり君か。雁夜、何の用があってここに来た?」

返答如何によってはここで貴様を燃やし尽くす。目でそう言う時臣にため息を一つ落とし、雁夜は敵意がないことを示すように両手をヒラヒラさせた。

「ビジネスだよ、ビジネス。名刺にあるだろ?ジャーナリストだって。学生インタビューのために来たってのはホントだからな」

そう言いながら鹿鳴館大学の資料と、それから取材で回る場所のリストを見せた。

「職業倫理とかそう言うのは抜きにして、とりあえず命あっての物種だからな」

「失礼した。だが、あの殺意は一体どこへ行った?雁夜、君のことだから仕事そっちのけで私を殺しにかかると思ったのだがな」

ハッ。と笑い飛ばしながら雁夜は言う。

「あっちじゃ桜ちゃんはちゃんと救われてるし、もう魔術勝負にも興味はない。正直個人的にお前が嫌いではあるが、ま、言峰綺礼ほどじゃない。なにより、お前を殺してもブタ箱にぶっ込まれるか仮にばれなかったとしてもとりあえず原稿の枚数が減ってギャラが下がるからな」

お前の言う凡俗が俺にとっちゃ大切なのさ。と言って雁夜は苦笑する。

「分かるか?」

「いや、さっぱりだ」

だろうな。と苦笑し、雁夜はインタビューを始めた。

 

・・・・・

 

インタビューが終わり、立ち上がりかけた雁夜は、最後に一つだけ質問した。

「お前は、まだ根源を目指しているのか?」

「無論だ。魔術師として当然のことではないかね?・・・と言っても、君やあの唾棄すべき『魔術師殺し』のような裏切り者には分からんだろうが」

「『魔術師殺し』・・・ああ、切嗣のことか?」

「ああ、彼は魔術を習得するに当たって持ち合わせていたはずの誇りを無くし、あまつさえ通常兵器に頼って人殺しを続けていた。これを裏切りでなく何という?」

むかつく。と内心で拳を握りしめながら雁夜はとりあえずその牙城を突き崩すことにする。

「本人から聞いたんだがな、あいつは最初から魔術師らしい考え方は持っちゃいねえよ。あいつの目的はいつも『人のため』と『世界平和』だ」

世界平和だと?と眉根を寄せる時臣。

「あの男のやっていたことのどこが人類のためになる?」

「300人を救うために200人を殺し尽くす・・・あっちでアイツがやってたことはそうやって人類そのものの存続を促すものだった」

それも一つの正義のかたちだ。そう言われて時臣は一つだけ唸ると押し黙った。

「ついでにいうと、間桐の魔術も実質自殺だからな。体の中身を蟲に食い荒らさせるとか、そんなの耐えられるわけがないだろ?」

「・・・!では、まさか桜は・・・」

「そ。あの子も同じように調教(・・)されて、髪の色が変わったり、絶望で悟りを開いたみたいに目からハイライトが消えたりしてたな。どこぞのクソ親父の無理解のせいで大変な事になってた」

「それ故の殺意・・・」

「その通り」

雁夜が知っていることを自分が知らなかった。雁夜が帰ってきた理由、魔術を捨てた身を死体同然にまでやつして戦った理由を知り、時臣は愕然としている。

「ところで、お前今独身か?」

「・・・あっ?ああ・・・」

勝ったな。とにんまりと笑い、雁夜は続ける。

「可愛い嫁さんがいて、アイツのために頑張って働いて。普通で、お前から言わせれば凡俗だろうが、俺にとっちゃその凡俗の方が、たまらなく幸せなんだよ」

「・・・それがどうした?」

「俺達は負けて、それでももう一度、幸せになるチャンスを与えられたんだ。だったらお前のところに返ってきたその命、自分のために使っても良いじゃねエか」

そう言って今度こそ立ち上がる。

時臣が窓から見下ろすと、マンションから出て行く人間の姿が見える。

資料を収めたディパックを提げ、ハンドポケットで次のインタビュー先へ向かう雁夜の足取りは軽く、とても楽しそうに思えた。

「幸福・・・か」

時臣の呟きは、誰に聞かれることもなく、部屋の中で霧散して消えた。




以上、時臣と雁夜の会話でした。
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