「でりゃあああッ!」
「うおああああッ!」
雁夜の手甲と切嗣のサバイバルナイフがぶつかり合い、周囲に金属質な音を響かせる。
土曜日の午後。アリーナが全開放されているので、雁夜達は今月行われる学年別個人トーナメントに向けてのトレーニングに来ていた。
二人の視界の隅では一夏にシャルルが銃火器についての解説を行っている。
模擬戦の模様はまさしく一進一退の攻防で、距離を詰めれば雁夜が得意の八極拳で押し切り、距離をとれば切嗣のキャレコが厚い弾幕を張り巡らせる。
ISは反動を自動相殺させてくれるので切嗣の戦術は基本両手に呼び出したキャレコでのトリカゴ&削り殺しという何とも悪辣な物だ。おまけに切嗣とシャルルは『
かくして今回の模擬戦も
「『連環腿』!」
「『コンテンダー』!」
雁夜の左脚と30-06スプリングフィールド型通常弾頭がぶつかり合い、双方同時にエネルギー切れを起こして引き分けである。
・・・・・
「?騒がしいな・・・」
昔からめざとく耳ざとい切嗣である。その異変に誰よりも早く気付いた。
続く雁夜も
「何だ?さっきっからザワザワと・・・」
と呟いて他の生徒達の見ている方を見る。
「ふん・・・『シュヴァルツェア・レーゲン』だったか?」
「トライアル中の試験機のハズだよな・・・」
ラウラがいた。転校以来誰とも口を利いていないらしい彼女はまっすぐに一夏を睨み付けている。
「おい」
「・・・なんだよ」
開放回線での声に憮然とした一夏の声が応えた。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「・・・切嗣よォ、一夏の周りってアグレッシブな女子しかいないのか?」
(・・・否定できないところが問題だな・・・)
「イヤだ。理由がねエよ」
「貴様にはなくても私にはある」
「なるほど・・・あいつ、あの誘拐事件のことを根に持ってやがるのか」
数年前、第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』決勝戦。ポータブルラジオで実況を聞きながら新聞部の活動にいそしんでいた雁夜は後で知ったことなのだが、千冬が出場するその試合を見にいっていた一夏が何者かに誘拐されたらしい。
ドイツ軍の協力により一夏の監禁場所を掴んだ千冬は決勝戦を棄権して一夏の救出に向かったそうだ。
その見返りとして彼女は1年ほどドイツでIS部隊の教官を務めていた次第であると、こういうわけだ。
「貴様がいなければ教官が大会に連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を・・・貴様の存在を認めない」
言外にだから戦え。という言葉を含んだそれに一夏はまた今度と返す。
「ふん。ならば・・・戦わざるをえないようにしてやる!」
台詞が雁夜達の耳に届くよりも早く『レーゲン』の左肩の大型レール砲が火を噴いた。
と、横合いから割り込んだシャルルがシールドでもってその弾丸を弾き飛ばし、切嗣がそのままコンテンダーで狙いを付ける。
今のコンテンダーに装填されているのはただの弾丸ではない。
30-06スプリングフィールド弾を元にした対IS用特殊弾頭、通称『強制解除弾』だ。
特殊なデータチップを搭載したこの弾頭は敵機に命中することで効力を発揮する。
瞬時に内包された「直ちに待機状態へ移行せよ」という命令をコアまで流し、メンテナンス後でなければ再展開すら出来ないようにしてしまうという代物である。
「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「貴様・・・フランスの
「未だに量産化の目処が立たないドイツの
「・・・僕のことは眼中にない・・・か。銃口を向けられているというのにのんきなものだな」
シャルルと睨み合うラウラの様子にため息を一つ漏らす切嗣。
<そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!>
「あ~あ、先生来たぜ?このまま行けば織斑先生にこっぴどく絞られるんじゃあないのォ?」
雁夜久々のジナコトーク。ラウラは一度だけ眉を跳ね上げると、
「・・・ふん。今日は退こう」
とだけ言い、ついでに雁夜を一睨みしてから去っていった。
・・・・・
翌日。昼前ぐらいの教室。
「何だかなあ・・・」
頬杖をついた雁夜が考えているのは一夏、切嗣、シャルルの3人が知らない学内の噂のことだった。
いわく『学年別トーナメントの優勝者は男子の誰かと交際できる』。
当然男子にはこの噂は入らないようにされている。
新聞部の活動の途中で偶然耳に入れてしまった雁夜もその瞬間の記憶だけは猛烈に消したくなった。
原因ははっきりしている。あの無人機騒動の後、自室でうつらうつらしているときに隣の部屋から聞こえてきた箒の「優勝したら付き合ってくれ」宣言。間違いなくそれが原因だ。
しかし噂とは雪だるまのように脹れあがる物。変わった形のトカゲが何か妙な怪物になり、挙げ句の果てにゴジラにまでなるといってもいいほどにこの学園での尾鰭の付き方は壊れている。
で、その改ざん内容である。かいつまんで要点だけ訳すと「箒が優勝したら一夏と付き合う」から「優勝した誰かが男子の誰かと付き合うことが出来る(シャルル、切嗣、雁夜含む)」に変わったということだ。
どうしようかな~・・・なんか来そうな気がしてヤバげだな~・・・というかこれ上級生にまで話が広がってるから4分の3でこっち来るじゃん!もういっそ鈴に告白しようかな~・・・
などと考える雁夜なのであった。
・・・・・
時と場所を移してここは部活棟の柔道部室。
柔道部の先輩に土下座&ご馳走&なだめすかしその他諸々・・・必死で頼み込んだ末に学年別トーナメントまでの間、一日30分だけ使用させて頂けることに相成った次第。
しぱぁんっ!がつっ!ドパパンッ!
「ふぅっ・・・こんなカンジでどうですか?」
使用条件の一つ、『実演してみせる』を終了させた雁夜は息を整えると今度は見せるのではなく技の難度や動きをもとに新しい接続を考えて試すという作業に移る。
左右の拳が突き出され、その時のひねりを利用しての『連環腿』、続けてそのまま『震脚』で無理矢理『連環腿』の回転をキャンセル、『六大開・頂肘』で相手の耐性を突き崩し、バランスが取れなくなった相手のボディにキツい一撃をぶち込む。
生身での挙動をそのままISに取り込むという必要に迫られて身についた雁夜の特技故に、これが何よりの特訓になる。
他にも、普段使っている横回し蹴り二連の形の『連環腿』ではなく、蹴り上げる方の『連環腿』を組み込んだ『穿弓腿』、『連環腿』、そこから数発の拳や蹴りを放ち、しあげに着地寸前で踵落としという空中用コンボも構成してある。これは普段使わないIS戦専用のコンビネーションだ。
かくして有意義な30分を過ごした雁夜は『バーサーカー』の登録に関する書類があると山田先生から聞いたので職員室により、それらを無事に片付けて現在本校舎の廊下を歩いていた。
「さて、帰ったらなにすっかな~・・・」
ハンドポケットでふらふらと歩く雁夜。と、その時だ。
「ねえ聞いた?第三アリーナの話」
「ああ、何でも一年の代表候補生が大喧嘩したって話?」
どうやら2年生らしい二人の会話にそれとなく耳を澄ませる。
「確か中国の子とイギリスの子がドイツの子にボロボロにされたとか」
(中国とイギリス・・・?鈴とセシリアのことか?それにドイツって・・・ラウラ、相当手強いみたいだな)
「しかもオーバーキル。こわいよね~」
(ッ!?)
「今保健室だってさ。でも織斑君が乱入しなかったらもっと酷いことになってたかも」
もうそれとなくなど出来なかった。
「先輩!」
「え!?君、確か間桐君だったよね?」
「どうしたのそんなに血相変えて」
「その話、詳しく聞かせて下さい!」
・・・・・
「鈴ッ!」
ビクンッ!!荒々しくドアを開けて、かつ怒鳴り込んできた雁夜の剣幕に保健室にいた全員が縮み上がった。
「・・・すまん。偶然すれ違った先輩から事情を聞いてすっ飛んできたんだが・・・思ったより軽くてよかったよ」
「そうそう。片意地張らずにいっそ休みだと思えばいいじゃないか」
「なっ、こんなのケガの内に入らな・・・いたたたっ!」
「そもそもこうやって横になっていること自体無意味・・・つううっ!」
この様子なら本当に大丈夫そうだと胸をなで下ろす雁夜の横では一夏が何とも言えない顔をしている。バカなんだろうか?という顔だ。
「バカってなによバカって!バカ!」
「一夏さんこそ大バカですわ!」
「うおッ!?なんで分かった?」
「顔に出てた」
と、シャルルが飲み物をもってはいってきた。
「好きな人に格好悪い所を見られたから、恥ずかしいんだよ」
(へ!?)
「ん?」
先日の夢うつつでの出来事がフラッシュバックしてもだえる雁夜とあいかわらずのトンチンカンな態度の一夏。切嗣はかるく目尻がぴくっと動いただけ。顔には出さないがやはり正義の味方としてはオーバーキルを認められないらしく、さっきからずっと険しい顔で黙りこくっている。で、鈴とセシリアである。顔を真っ赤にして
「なななな何を言ってるのか全っ然っわかんないわね!こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!」
「べべっ、別に私はっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!」
とまくしたてる。
「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」
「ふ、ふんっ!」
「不本意ですがいただきましょうっ!」
二人ともシャルルからひったくるようにして飲み物を受け取るとごきゅごきゅと飲み干した。
「冷たい物の一気飲みは体に悪いぞ」
イヤそれより先にむせるだろうとツッコミを入れた雁夜である。そしてふと外を見てみる。
「?何だこのドドドって音」
「窓が真っ黒だ・・・」
ドッガ ̄ ̄z__ン!
「織斑君!」
「間桐君!」
「デュノア君!」
「衛宮君!」
ドアを吹っ飛ばして入ってきた女子達。迫り来る手、手!手!!雁夜の脳裏に奇妙な冒険第二部のアニメ主題歌が再生されるのにそう時間はかからなかった。
「な、な、なんだなんだ!?」
「怖ええええ!何このホラー映画!?」
「ど、どうしたのみんな・・・ちょ、ちょっと落ち着いて」
「せめて少し離れてくれ!い・・・息が・・・!」
「「「「これ!」」」」
一応切嗣の嘆願が聞き届けられ、少しだけ輪が広がった後で学内の告知文が突きつけられた。
「読んでみるぞ・・・あ~っとなになに・・・?<今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組む物とする。締め切りは>・・・と、こりゃ別にいいか」
雁夜が言葉を切るや再び微笑む目で次の手が伸びてくる。
「私と組もう、織斑君!」
「お願い、間桐君!」
「私と組んで、デュノア君!」
「衛宮君、私といっしょに優勝を目指して!」
シャルルがこの申し出に明らかに怯み異常の反応を示している。一夏がそれを見て
「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」
大声で宣言した。二人に他の女子と組まれ、うっかり優勝された日にはたまったものではないからか、女子達は一度思案顔になった後で雁夜と切嗣に視線を注ぐ。
「俺は今回の件でかなりイラついてる。相方に気を使う余裕も無さそうなんで、オレは切嗣と組ませてもらう!」
「賢明な判断だな。本気でとりに行こうと思ったらこの組み合わせがベストだ」
切嗣の戦略的な口調が聞いたのか今度こそ女子達はすごすご引き下がっていった。
「ふう・・・」
「あ、あの・・・一夏・・・」
「さて、それじゃ一息入れてより破壊力のある接続を・・・」
「雁夜っ!」
「一夏さんっ!」
基本表情の代わらない切嗣がちょっと目を見開くぐらいの勢いで鈴とセシリアがそれぞれベッドから飛び出す。
「あ、あたしと組みなさいよ!幼馴染みでしょうが!」
「クラスメイトとしてここは私と組むべきです!」
「ダメですよ」
「うぉわぁッ!?や、山田先生・・・いつからいたんスか?」
「あの、間桐君・・・?さっきからいたんですが・・・ゴホンッ!お二人のISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」
(ああ、あの足をケガした後のヘンな重心を体はそのまま覚えるってヤツか)
一人頷く雁夜。その後、不本意そうな顔をしている鈴に顔を向けて
「心配すんな。オレが切嗣と組んだのは鈴のためだ。アイツは必ずオレの拳でぶっ潰してやるから、信じてくれ」
「う・・・うん・・・分かった、信じる」
真っ赤になって俯く鈴である。しかしそんな微妙な空気を感知できないキング・オブ・唐変木が一人。
「ところで、何で2人はラウラと模擬戦なんかしてたんだ?」
「え、いや、そ、それは・・・」
「ま、まあ、何というか・・・女のプライドを侮辱されたからですわ・・・」
一夏の質問に2人とも言いにくそうに声を絞り出した。
「ああ、もしかして一夏と雁夜のことを・・・」
「あああっ!デュノアは一言多いわねえっ!」
「そ、そうですわ!全くです!おほほほほ!」
「むぐ!むー!むー!むー!」
絶妙のコンビネーション。二人ががりでシャルルの口をふさぐその動きはまさに電光石火。というか多分瞬発力だけなら普段模擬戦で見せる雁夜の『閃疾歩』よりも速い。
「まあ、なんにせよだ。怪我人は大人しくしておけよ」
普段通りの口調の雁夜。
しかしその瞳には全てを焼き尽くすような、向こうまで見通せるほどに透き通った怒りの炎が燃えていた。
私事ですが、先日18歳になりました。だってのに15ン時から進歩無しとはこれいかに・・・
では頑張りますので見てやってください。
次回、あんだけぶち上げといて主役は切嗣ですけどね。
ちゃおちゃおー。