(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

14 / 84
心の中になんでも肯定するハム太郎が住まうのが最近話題のようですが
作者の心の中ではいつもオーベルシュタイン大佐が今後の事を考える際に
「お待ち下さい、閣下。いっそ血迷ったアルバレア公にそのままケルディックを焼き討ちさせ、その様を帝国全土に広めるのです。閣下と大貴族共、一体どちらに正義があるか赤子でも理解する事でしょう」と進言して来ています。


恋する乙女は愛する人以外眼に映らない

「敵将たるハルテンベルク伯に告げる、私はオズボーン伯爵家当主リィン・オズボーンである。貴殿に我が主君、アルフィン・ライゼ・アルノール皇女殿下の名代として勧告する。

 降伏せよ。皇女殿下は慈悲深きお方である。逆賊たるカイエン公に協力せざるを得なかった(・・・・・・・・・・・)貴殿達の苦境についてもご理解を示しておられる。

 ハルテンベルク伯爵程の忠臣を一度の過ちで処断するというのは余りに惜しい。

 故に、今すぐに誇り在る帝国貴族としての忠道へと立ち返るというのならば、その罪を総て不問にするのみならず厚く遇する事を約束するとの仰せだ。

 尚、これは最終通告である。この後に及んで皇女殿下の慈悲を解さないというのならば、それはすなわち貴殿らは自らの意志で“逆賊”となったという事。その罪は自らの命を以て償う事となる事を覚悟せよ」

 

 双龍橋を預かる、ハルテンベルク伯は能力自体は決して低くはないが、豪胆とは対極に位置する小心者であり、権威に弱く長いものに巻かれる傾向が強い。

 それがアルティナ・オライオン、正確には彼女を通して貴族連合に居る何者かがこちらに齎した情報の内容であった。

 故にリィンは作戦の決行の前にお願いをしたのだ(・・・・・・・・)、アルフィン皇女の名の下に降伏に応じれば所領や立場を保障するという旨を伝えさせて頂きたいと。

 これに対して正規軍の諸将は強く反発した、五分の状況で降伏したのならばともかく、ほとんどこちらの勝利が明らかになった情勢でそこまで厚遇する必要があるのかと。

 そんな新米少尉ならぬ新米大尉であれば、蒼白になって即座に己が発言を撤回して謝罪を敢行するであろう状況にあってもリィン・オズボーンは悠然と微笑を湛えて

 

「皆様、今一度思い返してみて下さい。我らの敵は“貴族”でしょうか?否、我らの真の敵は国内の同胞(・・)ではないはずです。彼らは東よりの脅威へと立ち向かうために共に戦う仲間のはず。

 犠牲を少なくするに越したことはないーーー少なくとも、首謀者はいざ知らず彼らに付き従う領邦軍の末端の兵士達に非はない、そうは思いませんか?」

 

 それは鉄血宰相が演説の際にも訴えていた挙国一致体制の確立だ。内戦を終結させた後に待つ、宿敵たる共和国、それと雌雄を決する事を見据えての発言である。

 機甲兵という、新兵器の誕生は戦場を一変させた。この戦争が終わると同時に正規軍に於いても、その導入が進められていく事だろう。

 だが、新兵器の運用というのは一朝一夕ではいかない、特にアレほど複雑な兵器を運用できる人材となるとその育成には年単位の時間を要するだろう。

 そういう意味で、今それを扱う事の出来ている領邦軍の将兵は、国にとって(・・・・・)宝と称するに足る人材である事は疑いようがなかった。

 

「歴戦の名将たる方々に今更私如き若輩者が言うまでもありませんが、敵は分断して各個撃破するに越した事はありません。

 だからこそのこの処置です、最初に降伏(・・・・・)する事となるハルテンベルク伯をあからさまに優遇する事で、徹底抗戦するよりも降伏した方が良いという空気を貴族共の中に醸成させるのです。

 さすれば、基より我らのような大義ではなく利害によって繋がっている連中です、その結束に罅を入れる強烈な一打となり得るかと」

 

 基より門閥貴族等というのはエゴイストな存在だ。彼らが重んじるのは自家と自領の繁栄、貴族連合に参加しているのはそれが鉄血宰相という怪物によって脅かされていると感じたからこそ。

 それが保証されるというのならば、精強なる帝国正規軍と命を賭けてやり合うよりも、そうそうに降ってしまった方が得策、そう考えるようになるものは決して少なくないだろう。

 これがそれを保証したのが、ヴァンダイク元帥やレーグニッツ知事と言った“平民”であれば疑念の方が勝っただろう、だがアルノールの血を引くアルフィン皇女によるものであれば、話は別だ。

 基より、アルフィン皇女が心優しい、苛烈さとは対極に位置するような人柄である事は帝国社会でも広く知れ渡っている事である以上、相応の信憑性を以て受け止められるだろう。

 

「だが、所領まで内戦前のように保障するというのは些かに厚遇し過ぎではないか?」

 

 リィンの提案に渋い顔を革新派の重鎮は浮かべる。言っている事はわかるが、それは余りにも甘すぎると。

 この内戦はある意味では、貴族達の勢力を削り取る好機でもあるのだから、その機会を自ら手放す等というのは余りに惜しく思えたのだ。

 この戦いで正規軍は大きくその戦力を削られる事となる、それにも関わらずそれを招いた貴族たちにそこまで甘い対応はどうかと。

 “同胞”だからという理由で、そんな甘い処置を提案するリィンに宰相閣下の後継と言えど、やはり未だ若く夢見がちな少年であり、父の如き鋼鉄の意志には至っていないのかと列席者達の間で落胆する者も居れば、安堵する者も居ると多様な反応が見られた中で

 

「ええ、ハルテンベルク伯に限っては(・・・・)全力で厚遇致します、どの勢力から見てもわかるように。あからさま過ぎるほどに。

 その厚遇のされようから、今降伏すれば自分たちもハルテンベルク伯と同様に遇される、そう貴族たちに錯覚させます(・・・・・・)。」

 

 微笑を湛えながらリィンはサラリと告げる。後から続く者達が勝手に(・・・)伯と同様の待遇期待するのは勝手だが、別段こちらがそれに応じる義務はないとでも言いた気に。

 

「無論、約束を違えるような信義にもとり、アルノール家の名誉と権威に罅を入れるような事は当然誇りに賭けて致しません。ですので、アルフィン皇女殿下の名の下に降伏勧告を行うのは最初のハルテンベルク伯のみ。

 以後の貴族勢力に対する呼びかけについては、ハルテンベルク伯に行って頂くとしましょう。そうすれば、話が違うという憤りは総てハルテンベルク伯へと向かいます」

 

 あからさまに贔屓する、応対に差をつけるというのは敵勢力の切り崩しを行う際の常套手段だ。

 こうする事によって、敵の憎悪は贔屓をした側ではなく、贔屓を受けた側に向けられる。

 そしてハルテンベルク伯は小心者だが、決して無能ではないし、伯爵家という家柄と双龍橋という要衝を任されたことからもわかるように四大名門を除けば、貴族連合でも有数の権勢を誇る貴族と言って良い。

 故にこそ、彼は彼で自らの家を護るために必死に働くだろう、重ねて言うが“貴族”というのは一部の皇室に忠誠を誓った気骨のある者を除けば、本質的に自家の繁栄(・・・・・)こそが最上なのだ。

 自家を守り抜くためならば、皇室への忠道や“国難”への対処を放り捨てたように、容易く他家を蹴落とす側に回るだろう。

 

「ハルテンベルク家だけを見逃す事によって、貴族連合の結束に罅を入れる事が出来、かつ貴族同士の横の連帯にも同様に致命的な打撃を与えられるのです。代償に見合うだけの見返りはあると自分は愚考する次第です」

 

 到底18の若僧には見えない、まるで魑魅魍魎の渦巻く宮廷を渡り歩いてきた老練なる政治家のような風格を漂わせながら、告げられたリィンの提案に、今度は反論する者は誰も現れなかった。

 結果、ゾンバルト少佐の猛烈な援護なども合わさり、リィン・オズボーンはこの一件に関して皇女殿下の騎士、及び名代としてほぼ全権に近い交渉の権限等を与えられるのであった。

 大尉に過ぎない、リィン・オズボーンがこれほどの権限を与えられたのは、その能力と皇女殿下よりの信頼を買われたからであるが、門地を持たぬとはいえ、曲りなりにもオズボーン伯爵家の当主としての爵位を既に事実上継承しているから出来た処置でもあった。

 

・・・

 

「閣下……如何致しましょうか?」

 

「む、むう……卿はどう思う?降伏したところで後で反故にされるというのならば意味はないが」

 

「その可能性は低いと思われます。既に我らの喉元に刃を突きつけてチェックをかけているこの状況下で、アルフィン皇女の名を持ち出してまでそのような騙し討ちをしたところで敵を利するものはありません。

 むしろその逆、約定も護らぬ者として信義と求心力を失うだけとなります。そしてそれは偉大なるハルテンベルク伯爵家の当主であらせられる閣下ならばいざ知らず、平民からの支持等というあやふやなものを頼りにしている連中にとっては大きな痛手となるでしょう」

 

 良く戦争にはルール等無い等とうそぶく者がいるが、これは大きな誤りだ。

 戦争とは外交手段の一形態である以上、明確なルールが存在するのだ。そういった信義があればこそ敗色が濃厚な側は敵を信じて降伏するといった選択肢が取れるのだ。

 故に、この信義を破るものは如何に“勝利”を収めようが、敵味方双方から蛇蝎の如く嫌われて結局その地位を失う事となる。

 完全に秩序が失われた、ルール無用の戦争がどれだけ悲惨な事になるか多くの者が知っているだけに。

 そしてこの傾向は民衆からの支持といったものを重んじる者程顕著になる、自らの支持基盤を脅かす結果となるからだ。

 

「で、あるか……」

 

 如何にも悩んだ風な様子を見せているが、実を言うとハルテンベルク伯の腹はほとんど決まっていた。

 天より舞い降り、虎の子の機甲兵部隊を一掃される様を見せつけられた事でもはや兵の心だけでなく、将たるハルテンベルク伯の戦意もほとんど挫かれていた。

 そのタイミングで差し伸べられた降伏して、以後協力すれば所領を安土するという保証はなんとも魅力的に思えたのだ。どの道降伏したところで、命以外は何もかも失うという状況ならばいざ知らず、待遇が保証されているのに尚も命を賭けて徹底抗戦を選ぶ等という程にハルテンベルク伯は気骨のある人物ではなかったのだ。ーーー加えて、リィン・オズボーン、「生意気な鉄血の孺子」として忌み嫌っていた男が、帝国貴族としての儀礼に則った姿勢でその勧告を行ってきた所も大きい。息子の方は幾分マシ(・・・・)なのではないか、そんな想いが伯爵の中に芽生えたのだ。

 何より、アルフィン皇女にしても鉄血の孺子にしても未だ年若い子どもだ、カール・レーグニッツなる厄介な平民は健在だが、それでもあの“怪物”に比べれば比較的話の通じる存在である事は間違いない。孺子の方はなるほど、軍事的には確かに無能ではないのかもしれないが、軍事的才幹と政治的な手腕が一致するとは限らないーーーそんな法則がこの世に存在するというのならば、戦において大勝を収めながら政治的に失脚する事となる悲劇の英雄などこの世には存在しないだろう。

 そして何よりも未だ年若く未熟な事は間違いない、今の内に鞍替えしてしまえば、それこそ自分が実質的なアルフィン皇女の後見人となる事とて不可能という事はあるまい、孺子の方はせいぜい“英雄”として役立って貰えば良いのだとそんな司令官としての小心さとは打って変わった、帝国貴族としての打算と欲がハルテンベルク伯爵の中で働き出す。

 

 そしてそんな伯爵の態度に異論を挟む者は居ない、彼らにしても例え死ぬ事になろうとも徹底して抗え!等と言われたほうが余程困るからだ。基より明らかに“大義”というものを欠いている貴族連合側の兵士の士気は一部の名将によって率いられている精鋭たちを除けば決して高くない、士官の多くを構成している従士達などには仕える家への忠誠心の篤い者も多くいるが、現在この要塞に居るそういった士官は皆ハルテンベルク伯爵家に仕えている者ばかりだ。当主直々の決定であり、更にはその判断も伯爵家当主としては(・・・・・・・・・)、なんら問題のない真っ当な決断ともなれば諌める理由は存在しない。ーーー何よりも彼らの多くもまた、灰の騎神の威容に心を折られていた。その場に居る者の大多数にとっては伯爵の決断は渡りに船と言えるものであったのだ。

 

「よし、伯爵からの申し出、いやアルフィン皇女よりのお言葉に従うとしよう。それが帝国貴族としての本来あるべき……」

 

「ーーーへぇ、それはつまり貴族連合を裏切るって事で良いのかな、伯爵さん」

 

 だが、世の中には例外というものが存在する。多くの者が心をへし折られた“英雄”の勇姿、味方であるのならばともかく敵であるのならば、恐怖を抱くのが真っ当なその光景を見て、心と身体が疼いてたまらなくなってしまったどうしようもない変態(・・)という人種がこの世には存在するのだ。

 

「まだたかだか(・・・・)機甲兵部隊が壊滅しただけじゃない、そんな程度で降伏だなんてそんなの許さないよ」

 

 ああ、そうだようやく想い人と再び巡り会えたこの機会を逃してなるものかと間男(・・)に掻っ攫われかけた恋する乙女の皮をかぶった獰猛なる竜はその獣性を全開にする。

 政治的理由に配慮?知らぬ存ぜぬ知ったことか、戦場にそんなものを持ち込むのは無粋極まるぞと。あらゆる財宝に勝る英雄の輝きしか、今の彼女にはもう映っていなかった。

 

「ずっとずっと、この時を待っていたんだよ。あの日初めて出会ったあの日から、心に焼きついたあの勇姿をもう一度見たくて、ずっと会いたくて。再会するときを夢見て……」

 

 もはやハルテンベルク伯爵の事など目に映っていない。彼女が見ているのはどこまでも雄々しき“英雄”の輝きだ。陶酔しきった様子でシャーリィ・オルランドは深い情念を吐き出す。

 

「なのに!間男に掻っ攫われて一ヶ月も行方不明になって、ようやく巡り会えたのにやり合わないままに降伏する?ーーー冗談じゃないよ、私と彼の逢瀬を邪魔するっていうのなら……この場に居る人達、鏖にしちゃうよ?」

 

 溢れ出す殺意の奔流、それをぶつけられて哀れなるハルテンベルク伯を泡を噴く。

 彼の不幸、それは赤い星座を、シャーリィ・オルランドを雇ったのが彼ではなくてカイエン公であった点だろう。

 如何に“恋”によって他が目に映らない状況であり前々から趣味に興じる傾向が強かったとはいえ、シャーリィ・オルランドはそれでもプロの猟兵だ。

 猟兵として(・・・・・)の護るべき一線というのはわきまえている。故に今回、こちらに来る際にも団長たる父親には根気強く説得とお願いして、自分の旗下とお目付け役としてガレスの部隊のみという条件でカイエン公からの申し出に応じる許可を得たのだ。ーーー以前の契約の際に結局鉄血の首を取れなかった埋め合わせも含めて。

 だからそう、例えばハルテンベルク伯爵が直接の雇い主であれば、どれだけ不本意であろうと雇い主の方針には従っただろう。ーーー正直、リィン・オズボーンが絡んだ時の彼女は完全に我に忘れるので若干怪しいところはあるが。

 だが、ハルテンベルク伯爵は彼女の雇い主ではない、どころか彼女の雇い主であるカイエン公爵を裏切ろうとしているのだ。

 で、あるのならば彼女に躊躇う理由など一切ない、降伏等するというのなら不実なる裏切り者として処理するだけだと獰猛なる竜は吠え立てる。ーーーカイエン公が、わざわざ赤い星座を此処に送ったのはこういった、離反を防ぐためのお目付け役という側面もあったので、シャーリィの行動はまさしく雇い主の希望に沿ったものと言えよう。

 

 そして哀れな事になったのはハルテンベルク伯である、前門には降伏しなければ殺す(・・・・・・・・・)と宣言した“英雄”、後門には降伏したら殺す(・・・・・・・)と宣言した獰猛なる“竜”と完全に退路を塞がれる形となった。

 薔薇色の未来を夢見ていたのも束の間、弱りきった顔で彼は信頼する首席幕僚へと「何とかしてくれ」と視線をやる。そして、彼が最も信頼する忠臣はそんな主の期待に十全に応えてくれたのだった。

 

「ーーーそういう事ならばどうだ、一騎打ちを挑んでみては?」

 

「一騎打ち?」

 

 キョトンとした顔を浮かべるシャーリィに伯の忠臣は此処ぞとばかりに畳み掛ける。

 

「そうだ、貴殿はどうやら並々ならぬ執着を鉄血の孺子……《灰色の騎士》殿に抱いているようだが、このまま戦闘を選んだとしても彼はあの機体に乗ったままであろう。

 であるのならば、どの道貴殿の彼と戦いたいという願いは叶わない可能性が高い、違うか?」

 

「うーん、それはまあ確かにそうかも」

 

「そこで、提案させてもらうのが一騎打ちだ。ーーーこれは、帝国貴族に伝わる伝統的な決着の付け方であり、貴族間での揉め事を仲裁するために使われるやり方だ」

 

 最もそれははるか昔の話、近代の戦争でこのやり方を持ち出した例などまず皆無と言って良い。

 

「ハルテンベルク伯爵閣下よりオズボーン伯爵閣下へと提案してもらい、こちらの代表としては貴殿に出てもらう。彼が応じれば、貴殿の願いは叶うというわけだ」

 

 どうだと提示された案に対してシャーリィは悩む。正直に言えば、誇り有る決闘等というのはシャーリィにとっては鼻で笑うような代物だ。

 何でもありの戦場で、総てをさらけ出し、ぶつけ合うからこそ戦場は素晴らしいのだ。だが、シャーリィが目的を果たすには彼をまず騎神から引きずり下ろす必要が出てくる。

 そして現状のシャーリィではいまいちその具体的な方策までは浮かんでいないし、たまにはそういう一風変わったプレイ(・・・)もマンネリ化の防止という点では良いのかもしれない、そんな思いもある。

 故に悩んだ末に彼女が出した結論は……

 

「そういう事なら、妥協しといてあげる。ーーーただし、覚えておいてね。赤い星座(わたしたち)赤い星座(わたしたち)を舐めたり、裏切ったりするような真似をしたものは絶対に許さない。地獄の果まで追いかけてしっかり償わせるって事をね」

 

 もしも彼との逢瀬の最中に裏切りの手土産(・・・・・・・)にでもしようとしたらどうなるかわかっているなと釘をシャーリィは指す。愛しの彼との逢瀬を邪魔する者は決して許さないと。

 

「ガレス、そういうわけだから私が彼とイチャイチャしている間の伯爵達の護衛(・・)をお願いね♥」

 

「かしこまりました、シャーリィ様」

 

「そういうわけだから、安心して(・・・・)私と彼のデートの場を整えてね」

 

 笑顔で脅されたままに、ハルテンベルク伯爵及び司令室の人間たちは祈るような気持ちで決闘の申し出をリィンに対して行う。

 正直に言えば、こんな提案はリィン・オズボーンが乗ってくれないと意味がないのだ。

 これが成功するか否か、それは一騎打ち等という酔狂な事をしてまで既に軍事的には勝利が確定した双龍橋の司令官、ハルテンベルク伯爵を彼が味方に引き入れたいと思っているか、それに総てが懸かっている。

 ーーー逆説的に言えば、これに乗ってくれるようであれば、厚く遇するという言葉に嘘はないという証明でも有るのだが。

 

 程なくして返ってきた返答は一騎打ちに応じるという受諾の意志を示すものであった。

 此処にハルテンベルク伯爵家の名代としてシャーリィ・オルランドとオズボーン伯爵家当主リィンの時代錯誤の一騎打ちが始まるのであった……

 

 

 




ドライケルス帝は有力貴族が皇位継承者を乱立させた内戦を収めたわけなんで
当然武勇だけでなく、この手の貴族勢力の切り崩し的なのも十八番だったと思うんですよね。
オズボーン君がハルテンベルク伯を使ってやったのはアレです
Ⅲでの鉄血陣営があえてバラッド候という露骨に革新派に擦り寄っている俗物を厚遇していたのや鉄血宰相がクロスベルでわざとマクダエル市長に会わずに露骨にこっちに媚を売っているロリトマンとだけ会談を行ったのと似たようなアレですね。

もう子どもだった頃のリィン・オズボーンは居ないのです。
何で若僧のオズボーンくんにそんな事が出来るんだが、大体ドライケルス帝の記憶ダウンロードの恩恵さ!で行けるので非常に便利です。

ちなみにこの話を描いた時、僕の心の中のオーベルシュタイン君は
「貴族共の間に相互不信の種を撒いて見せましょう」と豪語していました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。