(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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愛する義弟が目の前で父親を狙撃されて怒りのままに暴れ狂う姿を見る→そのまま一ヶ月間音信不通になる→ようやく再会したと思ったら自分の吐いた血で服が真っ赤に染まっていました→宰相閣下みたいな風格纏って現れる→単騎で双龍橋攻略及び調略に赴く→あからさまにやべぇ女を引っ掛けて連れて帰ってくる→ドライケルス帝の記憶を引き継いだために記憶が混濁されている事を明かされる←今ここ

うーんこの作者の趣味が遺憾なく発揮されているクレア姉さんの受難っぷり。


変わらぬ想い

「ぬ……ぐぅ……」

 

「まあ、こんなところか」

 

 仲間と自身の作った血の海に沈む猟兵団《ニーズヘッグ》の名も知れぬ小隊長をリィンは冷たく睥睨していた。

 

 半年前にノルドの民の集落があった場所、そこは案の定と言うべきかも抜けの空であった。そうして小休止を入れていると、狙い通りに現れたのは貴族連合の雇った猟兵団“ニーズヘッグ”であった。通商会議の時は帝国政府に雇われていた彼らが今は敵となり、この間まで敵であった“赤い星座”が今は味方側というのは猟兵という存在がどういう立ち位置なのかを示す好例であったと言えよう。

 正規軍の制服を身に纏ったリィン達をニーズヘッグの偵察部隊は何時ものように仕留めにかかった。地の利、そして数あらゆる面でニーズヘッグ側に有利なはずだった。それは並大抵の質では埋め合わせる事が出来ないはずだし、最悪でもある程度のところで撤退する、そんなこれまで第三機甲師団の偵察部隊を女神の下へと送ってきたのと同様の作業に今回もなるはずであった。

 そんな慣れによる慢心が命取りとなった。彼らは留意すべきだっただろう、既に3回に渡って偵察部隊を壊滅させられている状態で送り出されるような部隊がこれまでと同レベルの存在なのかを、ゼクス・ヴァンダールとはそのような愚鈍な男なのかを。ーーー気づいていれば、もう少しマシな結果となっていたかもしれないが、もはや後の祭りというものだろう。

 慢心の代償を彼は部下の命によって支払う事となった。そしてそんな中、彼は一人だけ生き残った。それは運が良かったからではない、むしろその逆で……

 

「さて、予め聞いておこう。貴官が何れかの国に所属する工作員だというのならば、今の内に所属、姓名、そして階級を名乗る事だ。国際法に則った人道的な扱いを約束しよう。またそうでなくても、貴官の持っている情報を洗いざらい話すというのならそれなりの対価を支払い、命を助ける事も約束しよう」

 

 軽くリィンは揺さぶりをかける。誰しも命は惜しいものだ、別段騙すつもりはない。

 これで情報が手に入るというのなら約束通り傷の手当を行い、それ相応の待遇で以て応じるつもりだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 何も話す気はないという事なのだろう、指揮官の男は殺すならば殺せとでも言わんばかりに固く口を結んで何も言おうとしない。これだけでニーズヘッグがそこらの猟兵崩れのごろつきではなく、一流の猟兵団だという事がうかがい知れる。さて、一体どうするべきかとリィンは思考する。

 このまま揺さぶりをかけても効果は薄いだろう、だが生かして捕らえるとなれば荷物が出来る事となるしメリットも余り無い。このまま解放するという選択肢はない、いずれ知られる事だが、自分たちがこの地に来たことを知られるのは当然ながら遅ければ遅いほうが良い。

 そして目の前の男はこちらに恭順の意を見せていない猟兵である以上、丁重に扱う必要というものは帝国法及び国際法どちらの理由に於いても存在しない。

 

(となると、此処はやはり……)

 

 

 瞬間、けたたましく男の持つ通信機が鳴り出す。

 それとほぼ同時に、仲間にリィン達の情報を伝えようと口を開こうとした男の首が宙を舞う。

 痛みは感じなかっただろう、リィンの放った一閃はそんな間もない程に鋭く早かったが故に。

 

「どうした、一体何があった!?状況を報告せよ!!!」

 

 無線機越しに必死な様子の声が響くも、それに答えるはずだったものはもはやこの世にはいない。

 程なくして諦めたかのように、通信が途切れる。

 

「どうやら、敵は異常なく通信が出来ているようだな。となれば、やはりこの通信障害は貴族連合側が意図的に引き起こしたものと見て間違いないだろう」

 

 涼し気な顔でリィンは言う。民間人でも居れば配慮もしたかもしれないが、此処に居るのは歴とした軍属である。殺し殺される覚悟をしていて当然の立場であり、初陣の新兵も存在しない。故にいちいち今行ったことに対する説明だの配慮だのは行わない。戦いを生業にするものにとっては当然の光景なのだから。

 如何にアルティナ・オライオンが子どもと言って良い年齢であろうとも、此処で変に配慮する事こそむしろ彼女に対する侮辱だろう等と考えて。

 そして4人もまたそんなリィンの態度に特に異議を挟むような事はしない。その対応は軍人として至極妥当だった故に。

 

「オルランド、予定通りお前にはこの場にてニーズヘッグの増援を迎え撃って貰う」

 

「アイアイサー、任せといてよリィン!相手は同業者だし、手加減は要らないよね?」

 

「ああ、一切不要だ。派手に暴れろ、ある程度足止めをしたら、ゼンダー門の方へと向かえ」

 

 リィン・オズボーンがシャーリィ・オルランドへと足止めと囮を任せるのは何も彼女を使い捨てにしようなどと考えてのことではない、単にこの中に於いて自分の次に戦闘力が高く、この手の囮役に向いているからだ。レクターにしてもクレアにしても優秀な将校ではあるが、総合力ならばいざ知らず純粋な戦闘力ではこの少女に一歩譲る。

 

「了解。それじゃ、歓迎の準備をしておかないとね♥」

 

 そうして歓迎の宴をシャーリィへと任せたリィン達はラグリマ湖畔へと向かい出すのであった……

 

・・・

 

「ふむ、なるほどのう。それでわざわざ此処まで遠路はるばる訪ねて来てくれたというわけか……」

 

 かつてRFグループ会長を務め、現在はノルド高原にて隠居中の身であるグエン・ラインフォルト氏はそう応じて考え込むように腕を組み出す。

 ラグリマ湖畔に到着した一行は以前リィンが特別実習の際に面識が会ったこと、この地の正規軍の責任者たるゼクス中将がノルドの民との良好な関係を築く事に腐心してた事もあって、ラグリマ湖畔へと避難していたノルドの民に歓待を受けながら、 半年前とはまるで別人のような風格を纏うようになったリィンの姿に皆一様に驚いていたものの、滞りなく目的の人物たるグエン氏との会談を取り付けていた。

 

「如何でしょうか?」

 

「うむ、まあ確かに心当たりがないわけではない」

 

「本当ですか!?そういう事ならば是非ともその心当たりを……」

 

「まあ慌てるでない。心当たりはある、確かにある。だが実際に調査してみん事にはなんとも言えん。じゃが生憎わしはもう70をすぎた老いぼれじゃ、流石に一人で今の物騒な高原を出歩く勇気はなくてのう」

 

 ほら、此処まで言えばわかるじゃろう?とでも言いたげな様子で笑うグエン氏にリィンは総てを察したかのように微笑を浮かべて

 

「承知致しました。そういう事であれば我らが責任を以て、グエン殿の護衛を務めさせて頂きます」

 

「うむ、頼りにさせてもらうとしよう。そうじゃ、せっかくだから馬に乗るのはそこの青い髪をした美人さんの後ろが「貴方に万一があってはイリーナ氏とアリサに申し訳が立ちません。責任を以て、この中で一番腕の立つ私が傍で護衛をさせて頂きましょう」

 

 スケベ根性丸出しの内容を提案したグエンに太い釘を刺すかのように微笑みながらリィンは告げる。そこには有無を言わせぬ迫力があった。三つ子の魂百まで、纏う風格も何もかもが別人のようになったリィンであったが、そのシスコン魂が消えたわけでは決して無いのだ。優先順位を誤る事や公私混同をする事こそ決して有り得ないが、それでもリィンにとってクレアは依然変わりなく、敬愛する大切な義姉なのである。 

 スケベ根性丸出しの老人との相乗り等許容するはずもない。そしてこの場において乗馬にしても戦闘にしても一番卓越しているのはリィンである以上、グエン氏というVIPの護衛を務める事は理に叶った事なので軍人として至極妥当な判断であり、決して私情に駆られたわけではない。ないったらないのである。

 

「そういうわけだオライオン曹長、グエン氏が同行している間、貴官はリーヴェルト大尉の方の馬に乗ってくれ」

 

 キリッという擬音語が似合いそうな引き締まった表情でリィンは伝える。そこに私情に駆られたシスコンの様子は見受けられず、居るのは歴とした未だ成人もしていない若さでエレボニア帝国軍少佐の地位にある英才の姿である。

 

「承知致しました」

 

 そんな上官のこれまで見なかった態度に奇妙な違和感を抱きながらもアルティナはその指示へと従い

 

「はは、良かったじゃねぇかよクレア義姉さん。どうやら、お前さんの片思いになったってわけではないみたいじゃねぇか」

 

 レクター・アランドールも揶揄しながらも久しぶりに見た以前と変わらぬ義弟の様子に安堵して

 

「ええ、そうですね。安心しました、どうやら先程言っていた記憶の混濁というのは、本当に一時的な物だったようですから」

 

 義姉さん、クレア義姉さんとそう輝く宝石のような笑顔を浮かべながら自分を呼び慕ってくれたかけがえの無い以前と変わらぬ義弟にようやく巡り会えた(・・・・・)クレアはあの内戦が始まった日から初めての心よりの笑顔を浮かべるのであった。




鉄血の子ども達が久方ぶりに暖かな兄弟の交流をしている頃
(自称)三男の嫁であるシャーリィちゃんは大暴れしています。
「アハハハ、それじゃあ歓迎パーティを始めようか!」とか叫びながら
自慢のテスタロッサをぶん回して恋する乙女無双とばかりに、ニーズヘッグをちぎっては投げちぎっては投げしています。

ペロッ、これは旦那とその家族の団らんの時間を作るために健気に内職をして稼ぐ献身的な奥さんのそれ!

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