おかしいなぁ、SCの時はもっと底知れない怪物感があった気がするんだが。
監視塔の屋上、導力波妨害装置を停止させるためにたどり着いたクレア達は敵と相対していた。敵の名は結社“身喰らう蛇”に執行者《怪盗紳士ブルブラン》と《鉄機隊》が筆頭隊士《神速》のデュバリィ。片方はふざけた格好をしており、もう片方は真面目そのものだがそれゆえにどこかポンコツな空気を漂わせていたが、有する力量は紛れもない本物。どちらも紛れもない壁越えを果たしている《達人》である。
数に於いては3人居るクレア達の方が勝っている、コンビネーションについても同様だ。故に戦況、それ自体はクレア達の方が優位で進んでいる。しかし、それでも中々押し切れない。目前の二人は紛れもない強敵であった。
徐々に焦りがクレアの胸中を満たし始める。装置の停止が遅れれば遅れる程それだけ、ニーズヘッグの足止めを行っている赤い星座の少女はともかくとして、義弟は第三機甲師団の援護無しに単騎で貴族連合を相手取る時間が増えるという事である。
「落ち着けよ、クレア。心配しなくてもあいつなら大丈夫さ。今のアイツが、いや我らが
「アランドール大尉の仰る通りです。灰の騎神ヴァリマールを駆る少佐の戦力は機甲兵部隊一個連隊に匹敵します。此処に駐屯している規模の部隊ならばまず遅れを取ることはないはずです。むしろ少佐が敵の部隊に遅れを取る可能性よりも、我々が目の前の敵に遅れを取る心配をすべきかと」
二人の指摘を受けてクレアは冷静さを取り戻す。そうだ、今の自分が為すべきは目前の敵手の相手だと、ようやくその異名に相応しく怜悧な頭脳をフルスペックで発揮しだす。そうだ、焦る必要はない。ゆっくりと着実に追い詰めていけば良いのだと、すぐに仕留める事などは狙わずに着実にダメージを蓄積させる手段を選ぶ。わずかだが、されど少しずつだがクレアの放つ弾丸が前衛を務めるデュバリィへと当たりだす。それは致命打には至らない、だが確実にダメージとなって蓄積し、ついにデュバリィはその膝をつく。
「ぐぬ……おのれ、猪口才な。一緒に戦っているのが、こんな男ではなくアイネスやエンネアでさえあれば……というかそこの貴方!なんでそこの変態ではなく私ばかり狙うんですか!!狙うのならそこの変態から狙うべきでしょうに!!!」
怒り心頭と言った様子でデュバリィが口にするが、完全に戦闘態勢に移ったクレアは意に介さずにそのまま攻撃を続行する。
「って問答無用ですかこんちくしょう!」
しかし、その攻撃をデュバリィは調子に乗るなとばかりに剣撃で弾き落とす。妙な愛嬌を宿した少女ではあるが、それでも結社最強の戦闘部隊《鉄機隊》の筆頭隊士という肩書は決して伊達ではない。その実力は紛れもない本物であった。
「ってな事言われているけど、その辺どうよ変態さんとしては」
「ふふふ、我ら美の探求者はとかく世間から白眼視されるもの。我が宿敵たるオリヴァルト皇子がこの国で《放蕩皇子》等と揶揄されているようにな」
軽口を叩きながらレクターとブルブランは五分の戦いを繰り広げる。両者に共通しているのは目の前の男のようなタイプは相方とは確実に相性が悪いという認識。故に千日手のような攻防を繰り広げる、ブルブランはその奇術によって翻弄しようとするが、レクター・アランドールは並外れた勘の鋭さと持ち前の洞察力を以てしてその尽くを見破る。
徐々に状況は2VS2の膠着状態に陥り始めていた。クレアとレクターが抜群のコンビネーションを見せるのに対して、ブルブランとデュバリィの間にはそんなものは存在しない。しかし、クレアとレクターは装置の方にも気を配りながら戦わなければならない、故の均衡。そう、
「ーーーーー
デュバリィが膝をついてアルティナへの警戒を払う余裕が消えたその隙を狙って、アルティナ・オライオンは本作戦の目的を達成しようとしていた。
「あーーーーーーーあのちびっ子、いつの間に!」
気づいた時には時既に遅し、機械への同調を行ったアルティナは瞬く間にセキリュティを突破していき、そして……
「
「こちら第三機甲師団司令部。良くやってくれた、これより我らは当初の計画に従い監視塔奪還作戦を発令する」
そしてそのやり取りの直後、巨大な爆発音が響く。
貴族連合の投入した新型《ゴライアス》が自らの負荷に耐えきれずに導力機関が暴走し、爆発したのだ。
爆炎が晴れた後に見えたのは依然健在な灰色の騎士人形とそれに抱えられたゴライアスの胴体部であった。
「ま、まさかわざわざ敵兵を助けたと言うんですか……?」
思わぬ光景にデュバリィは目を丸くする。それは虚を突かれこそしたものの、決して馬鹿にしたものではない。むしろ畏敬の念が込められていた。何故ならば、それはデュバリィが尊敬する騎士の在り方そのものだったから。
「ったく、本当に無茶苦茶しやがるなアイツは……」
レクターはため息混じりにしょうがないやつだとでも苦笑して
「リィンさん………やはり、貴方は……」
クレアは義弟の優しさに感動とその危うさへの憂いを覚え
「……やはり、不思議な人です」
アルティナは疑問を深める。
四者四様の様子を見せている中、ブルブランは……
「ふふふふふ………ハハハハハハハハハハハ!!!!」
哄笑を挙げだす。愉快で愉快で溜まらないと。
「素晴らしい!全く以て素晴らしいぞ、リィン・オズボーン!!
敵兵であろうと同じ帝国の民である以上、自分の護るべき対象という事か!?
一片の容赦も無く敵を撃滅せんとする冷徹な
何という矛盾!何という強欲さ!何という傲慢さ!!!
そう、英雄とは誰よりも強欲で傲慢な存在なのだから!誰もが一度は願い、そして諦める理想へと手を伸ばし続ける不屈の意志力こそが英雄を英雄足らしめるのだから!
護るべき者を殺すという矛盾を呑み干して、進み続けるその強さにこそ人々は憧憬を抱くのだから!!!
鉄血宰相のオマケ等ととんでもない!その傲慢さ!君はまさしく“英雄”だリィン・オズボーン!!!
その在り方は美しい!美の探求者として心からの敬意を君に払わせてもらおう」
恍惚とした様子でブルブランは深い情念の灯った息を吐き出す。
それは言うなれば、マニアが至高の宝へと巡り会ったような喜びに満ちたものであった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ま、またこの男は何時も通りにわけのわからない事を……ううう、助けてくださいマスター。どうして執行者の連中というのはこんなのばかりなんですか」
「ふふふ、これは失礼をした。真の美というものはこの世には数える程しか無い、それに巡り会えた喜びで思わず我を忘れてしまったようだ」
ドン引きした周囲に気がついたのだろう、軽く釈明するようにブルブランは口にするが、その様は未だ興奮状態から冷めていなかった。
「ふふふ、楽しみだ……実に楽しみだ。彼という“英雄”が綴る“
我が好敵手と言い、この国も中々どうして捨てたものではないな。さて、そうなればこれ以上端役が舞台を荒らすとのは無粋というもの。
主演が魅せたのだ、これにて一旦閉幕とするのが筋というものだろう。それでは鉄の絆で結ばれた英雄の義姉弟諸君、また会おう。彼に伝えておいてくれたまえ。鉄鋼山での借りは、何れ必ず返させてもらうとね」
その言葉と共にブルブランはその姿を消す。勝手に盛り上がって一方的にまくしたてかと思えば、突然消えるその身勝手にたまらないのは相方の方だ。何時の時代でも酔っぱらいの割を喰らうのは素面の真面目な人間である。
「ちょ……何一人で盛り上がって勝手に消えてやがるんですの!!!」
怒り心頭の様子でデュバリィが叫ぶも応えるものは誰も居ない、協調性も何もあったものではない同僚への怒りに燃えるも、こうなってしまえば彼女にしても選択肢はない。流石に一人で全員相手取れると思うほどに彼女はうぬぼれては居ない。
「くぅうううう、良いですこと!今回遅れを取ったのは、組んでいたのがあの変態だったせいです!
我ら鉄機隊の本当の恐ろしさはこんなもんではないんですからね!首を洗って待っていやがれですわ!!!」
そんな捨て台詞を吐いてデュバリィも姿を消すが、そんな彼女を見るクレアとアルティナの目は同情に満ちており、レクターの目は良いおもちゃを見つけたとばかりに愉快気に光っていた。そして、騒がしい二人が消えた事で監視塔の屋上に静寂が戻る。
「……どうしてシャーリィさんと言い、あの子は
静寂を破るようにため息と共に吐き出されたクレアの言葉に答えられる者は誰も居らず。微妙な空気がただただその場を包むのであった……
・・・
「ふむ、もう行くのかね少佐」
慌ただしく出立の準備を整えた監視塔奪還の立役者へとゼクス・ヴァンダールは問いかける。
あの後、通信封鎖というアドバンテージを喪失し、更にヴァリマールの相手で手一杯だったところに、更に現れた第三機甲師団の姿に心を折られた事であっさりと降伏した。
指揮官とその側近だけ一足先に軍用艇で逃げた後も、尚抗戦を選ぶ理由は彼らにはなかった。欠陥機に部下を乗せて使い捨ての駒にした貴族の上官と、そんな使い捨てにされた平民を敵でありながらも命がけで救出した灰色の騎士、等という光景を見せられれば尚更である。
頑迷に抵抗し続けようとした貴族の士官も居たが、背後から飛んでくる銃弾を恐れながらも尚もそれを主張し続けることの出来るような者は圧倒的少数であった。
「はい、閣下。この地での我らの任は果たしました。故に我らは次へと向かいます」
そう、東部戦線に引き続き、これで北部戦線でも正規軍は息を吹き返した。
で、あるのならば次に向かうべきは……
「西部戦線か。あそこは特に苦境にあると聞いている。ルグィン将軍とバルディアス将軍、貴族連合の双璧とも謳われる両将軍と、そして《蒼の騎士》の存在によってな。恐らく、これまでとは桁の違う相手となって来るだろう」
オーレリア・ルグィンとウォレス・バルディアス、貴族連合の双璧とも謳われる両者の勇名はリィンもいやという程耳にしている。どちらも《理》に至りし、名高き“英雄”だ。爵位持ちの貴族だからという理由があれど、30にも満たぬ若さでどちらも領邦軍の将官と司令の座へと至った傑物。これまでの敵と同じだと侮ってかかれば痛い目に合うだろう。それこそ今は亡き師と同等レベルの怪物と認識しておくべきであった。だが、それでもリィンは臆する気など欠片もない。それは窮地にある友軍を助けなければならないという義侠心の為せるものであったが、理由はそれだけではなかった。
「で、あればこそ私は向かわねばなりません。一人で戦況を覆す等と言うことは流石に出来ませんが、それでも私が《蒼の騎士》を釘付けにするだけでも、十分効果はあるでしょう」
《蒼の騎士》、
東部戦線と北部戦線の再編が終わるまでの間、奴を自分は最低限釘付けにしておかなければならない。
そして何よりも、何時までも負けっぱなしのままで居る等というのはごめん被る。
あの日味合わされた辛酸の雪辱をしておかなければならなかった。
単なる義務感を超えた燃え盛る意志を目前の若者から感じたのだろう、ゼクスはわずかに目を細める。
「うむ、正規軍が各地で分断されたこの状況下で貴官の果たす役割は極めて大きい。武運を祈る」
その言葉を最後に第三機甲師団の面々は一斉にリィンたちへと敬礼を施す。
そしてそれに対する返礼を施すと、リィン達はゼンダー門に背を向け歩き出す。
次に向かう場所は西部戦線、この内戦に於いて最大の激戦地とされるところであった。
シャーリィ「リィン!貴方は私にとっての至高の光だよぉ!!!」(サスケェ!顔)
ブルブラン「リィン・オズボーン……フルフルニィ」
クレア「碌な奴らがいねぇ……」(号泣顔)
ミハイル(正直、君の拗らせ具合も大概な気がするのだが……いや、辞めておこう。藪をつっついて蛇を出したくない)
さて、西部戦線どうしよう(原作でも大して描写がない中どうするかまるで白紙状態並感)