(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血パッパって正規軍の7割を掌握しているって話なのに
なんか将官クラスでパッパの腹心ってネームドが特に出てないんですよね。
原作だとヴァンダイク元帥とオーラフは宰相になって以後疎遠、ゼクスとはむしろ冷戦状態にあるみたいな感じですし。
まあその辺含めてオリキャラ祭りになってきていますが、この辺りはもうトールズの副会長ではなく
帝国軍人としての道を歩み始めた事による必然みたいなものなのでご了承頂ければと思います。


負けないための戦い

「良くぞ来てくれたな、オズボーン少佐。貴官の話は以前より聞いていた。

 卒業したら是非とも我が部隊で鍛え上げたいと思っていたが、いやはや少々見ない内にまさか少佐にまでなっているとはな。貴官はまさに男子3日会わざれば刮目して見よという言葉の生きた見本というべきであろうな」

 

 歴戦と称するに相応しい面構えに朗らかな笑みを浮かべながら、帝国正規軍第八機甲師団司令官にして西部戦線を纏め上げるリヒャルト・ミヒャールゼン大将はそう告げながら、訪れた旧友の遺児たるリィン・オズボーンを歓迎していた。

 

「恐縮です。勇名高き大将閣下の下で戦える事を光栄に思います」

 

「ハッハッハ、何無駄に歳を重ねた結果に過ぎんよ。何せ私が貴官位の歳の時は何せまだ士官学校を卒業したての若僧に過ぎんかったのだからな。貴官が私位の歳の頃にはそれこそ、帝国軍司令長官なり参謀総長なりにでもなっているだろうさ。いや、それこそあいつの跡を継ぎ帝国宰相にでもなって居るかもしれんな」

 

 その言葉と笑みに世辞の色はない、亡き友の遺児の将来を楽しむ様子だけがそこにはあった。

 リヒャルト・ミヒャールゼン大将はこの年53歳となる正規軍の重鎮中の重鎮である。

 中央士官学院を首席で卒業した彼は、同じ年にトールズ士官学院を首席で卒業したギリアス・オズボーンなる同期に、先達達に倣うかのように対抗意識を燃やして競い合うようにして出世を果たして行った。対抗意識を燃やすと言っても、二人の仲は険悪なものでは決して無く、健全なライバル関係と言うべきもので、ギリアスが結婚する際にはその厳つい顔に満面の笑みを浮かべて祝福したし、リィン自身は記憶に無いが、親友の家を訪ねて赤ん坊であった頃のリィンを抱き上げた事もあったのだ。ギリアス・オズボーンの政治家としての盟友がカール・レーグニッツ帝都知事であるのならば、軍に於ける最大の盟友がリヒャルト・ミヒャールゼンとさえ言えるだろう。

 

 彼の率いる第八機甲師団はオーラフ・クレイグ率いる第四機甲師団のような圧倒的な破壊力こそ無いものの、苦境にあっても決して部下が持ち場を離れる事無く戦い続ける鉄壁と称するべき粘り強さを誇る。かつての百日戦役の折、当時准将であったミヒャールゼンは副司令官として戦死した司令官に代わり最後まで頑強に部隊を統率して、王国軍を辟易とさせたと言われている。

 そうして百日戦役の英雄という名声、自身の才幹、更には盟友たる宰相の引き立てによって大将まで登りつめたミヒャールゼンだったが、その昇進をコネによるものだと思う者は帝国軍に於いて皆無と言っていい。職業軍人に必要とされる愛国心、闘志、頭脳、忍耐力、責任感、協調性全てを兼ね備えた軍人の鑑にして帝国軍屈指の名将、それがリヒャルト・ミヒャールゼンの評判だ。しかし彼の真髄はそんな華麗なる経歴とそれを支えた自身の才幹に決して奢る事無く、部下の自主性を重んじて仕事を任せられる統率力の高さにこそある。

 

 優秀な人物というのはどうしても無意識の内に他者に対して求める水準が高くなる傾向がある。かつてリィン自身もグエン老にノルドの地で指摘されたように、自分自身と周囲の英才が基準となってしまうのだ。仕事が出来すぎる上司を持つと、部下は萎縮して何もかもをその上司に頼りきりになって行く。そしてどれだけ優秀とはいえ、人間である以上一度に処理しきれる量というのは必ず限界というものがある。故に上に上がっていくに連れて無理が生じて、どこかでパンクしてしまうのだ。佐官としては優秀だった人物が将官に上がった途端愚将と化してしまうケースの内のいくつかは、そんな本人の優秀さが裏目に出たものである。

 

 だが、リヒャルト・ミヒャールゼンはそんな陥穽に陥る事がなかった。部下の自主性を重んじて、まずは部下に仕事を任せて、自分はチェックに専念する。穴が見つかったらフォローして、フォローしきれなかった場合は当然部下に責任を押し付ける事はなく、自分が責任を負う。実務を知り尽くしたミヒャールゼン大将がチェックとフォローをしてくれるという安心感によって部下は安心して経験を積めるというわけだ。

 更にミヒャールゼン大将は会議を好んだ。「全員で一緒に考えよう」、それがミヒャールゼン大将の方針で彼はどんなつまらない質問を部下がしても決して馬鹿にしない。むしろ、質問者を馬鹿にするような態度を取ったものをこそ厳しく叱責した。「わからない事は罪ではない。わからない事をわからないままにしておく事こそが大罪なのだ」、それが彼の方針であった。これによって第八機甲師団では、どんなつまらない事を言っても馬鹿にされないという安心感があるため進んで相談が出来、なおかつ他人の意見や疑問を聞くことによって列席者も見識を深める事ができる。ミヒャールゼン大将という纏め役が居るため、会議が踊れど肝心の本題が進まないという事もない。まさに統率の天才の名に相応しい有り様であり、リィンとしても学ぶところの多い人物であった。

 

「何にせよ、貴官が合流してくれたのは幸いだった。これより他の師団の司令官も招いての作戦会議を行う。本来であれば将官級のみの出席のところではあるが、騎神なる兵器の運用に関して一番熟知しているのは貴官故、特例ではあるが貴官にも出席してもらう。臆する事無く、積極的な発言を期待しているぞ」

 

「は、承知致しました」

 

 そうして席を立ったミヒャールゼン大将の跡へとリィンは続くのであった……

 

・・・

 

「ふむ、それではやはり“蒼の騎士”とやらの対処は少佐に任せるのが良いかな」

 

「少佐、どうかね?帝都の折では手痛い敗北を喫したという事だが、どうだね勝てるかね?」

 

「うむ、勝算の程を聞いてみたいところだな」

 

 その言葉と共に錚々たる列席者からの推し量るような視線がリィンへと集中する。

 会議への出席を許されたリィンであったが、当然ながら西部戦線にいる将官達が皆ミヒャールゼン大将のように好意的なわけではない。彼らは鉄血宰相の信望者であるが、いや実力主義を標榜して“貴族による支配”を終わらせようとした鉄血宰相の信望者であるからこそ、彼らはリィン・オズボーンを宰相の息子であるという理由だけで好意的に見るような真似はしない。纏う風格は確かになるほど、亡き宰相閣下を彷彿とさせるものであり、これまでの活躍は風の噂ながらに聞こえている。

 だが、あまりに絵に描いたように出来すぎた英雄譚は逆に話から信憑性というものを奪う。リィン・オズボーン少佐は士気高揚のために、祀り上げて作られた英雄なのではないか?そんな疑念が彼らの心の中には存在する。果たして、本当にこの若者は鋼鉄の意志を継し、鉄血の継嗣なのかと若き少佐へと視線を集中させる。

 

「正直に申しまして、五分五分と言ったところでしょうか」

 

「必ず勝ってみせる、とは言わないのかね?」

 

「無論、そのつもりで戦いはします。されど確実に勝てるほど容易い相手かと言われれば、実力は伯仲しており勝利の天秤がどちらに転ぶかはわからないと、そう言う以外にありません」

 

 動じる事無く客観的な事実を淡々と告げた跡にリィンは苦笑して

 

「そもそも、今回私は必ずしも蒼の騎士を破る必要は無いでしょうに。皆様もお人が悪い」

 

 そう、今回の戦いで別段リィンは蒼の騎士を破る必要は、無論倒せるに越したことはないが、必ずしもないのである。

 何故ならば、西部戦線に於いて正規軍が貴族連合相手に取る戦術は勝つためではなく負けない(・・・・)ための戦い、貴族連合の主力部隊を西部に釘付けにしておく事なのだから。

 内戦当初、西部戦線の面々は東部戦線の戦略方針に疑義を抱いていた。それは貴族連合への怒りもそうだが、領邦軍の司令官を務めるオーレリア・ルグィンとウォレス・バルディア両将軍への侮りがあったことが大きい。

 西部戦線に居るのは皆平民の立場から己が才幹を以てこの地位までたどり着いたという自負を有するもの、そんな彼らにしてみれば貴族である(・・・・・)がために、家柄によって将軍の地位に至った二人の若僧等恐れるに足らないと認識していたのだ。

 だが、一ヶ月も戦えば流石に理解する。二人の将軍は決して家柄のみでその地位を手に入れたわけではないことを。名将と呼ばれるに足る、難敵である事を。

 そうして苦境にあった彼らに齎されたヴァンダイク元帥率いる東部戦線が正規軍の優勢であるという状況は、彼らにある一つの決断を下させるのに十分であった。

 すなわち、自分たちの役目は西部に於いて敵の主力を釘付けにしておく事であると。そうして於けばヴァンダイク元帥らが帝都を解放してくれるのだから。

 そうして慌てて両将軍らが帝都へと赴こうとしたのならば、その時はこちらはその後背を狙い打てばいいだけの事。東部が優勢となり、北部が均衡状態となった今、無理に敵の撃滅を狙う必要はなし。むしろ徹底的に敵を釘付けにする事に務める、それが今回の会議について決定された戦略方針であった。

 そう、故に灰色の騎士に求められる役目は同様に蒼の騎士の足止めであって撃滅ではないのである。それにも関わらず、わざわざ勝てるか(・・・・)等と問うて、殊更煽るような問いかけをしたのはまず間違いなくリィンを試すためだろう。

 リィンは若き英雄等と煽てられ、東部と北部に於いて正規軍の劣勢をひっくり返した。その功績と勝利に驕り、自分の力(・・・・)で西部も勝利に導いて見せよう等と思い、功に逸るような真似をしないかどうか、それを試したのだ。

 

 そしてそんなリィンの予想を裏付けるかのように、殊更煽るような事を言っていた諸将らは合格だ(・・・)と言わんばかりの笑みを浮かべて

 

「ふむ、どうやら会議の間寝てはおらんかったようだな。結構結構」

 

「まあ悪く思わんでくれよ少佐、この歳になるとこうやって若者を試すのが楽しみの一つみたいなものでな」

 

「ふむ、しかし些か出来すぎていてちぃっとばかし可愛気がないですなぁ。こういう時は血気盛んな事を言う若者を嗜めるのが我々年寄りの役割でしょうに」

 

 和やかにその場に集った面々は好き勝手な事を言い出し始める。こうなれば年齢も階級も一番下のリィンとしてはただひたすらにやり過ごす他ない。

 

「貴官達、一体何を年寄りぶっている。つい一ヶ月前に血気に逸ってヴァンダイク元帥閣下を困らせたのは一体どこのどいつだ」

 

 纏め役であるミヒャールゼン大将は苦笑されながら、痛いところを突かれた将軍たちは誤魔化すように頭をかく。

 ここに西部戦線の戦略方針は定まった。勝つためではなく、持ち堪えるための戦い。

 それが、激戦区である西部における戦い方であった。

 

 




原作:北部は均衡。東部はほとんど壊滅状態。西部がやらなきゃ誰が貴族連合を止める
今作:北部は均衡。東部優勢。西部は敵の主力を釘付けにしているだけで、東部が帝都を解放する。東部を指揮しているのはヴァンダイク元帥だから当然文句もない。

まあそりゃ戦略方針変わるよなって。

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