かつては真面目な軍人志望ながらも年相応の様子を見せる少年であったが、一年後に再会した彼はまるで別人の如き風格と鋼鉄の意志をその身に纏っていた。
クロスベル総督ルーファス・アルバレアとはまるで兄弟のような親密な間柄(帝国大本営発表)であり、クロスベル併合を主導した鉄血宰相ギリアス・オズボーンの実の息子にして後継者と目されているアイアンブリードの筆頭。
若くしてヴァンダール流皆伝にして理に至りし達人であり、灰色の騎士の異名を持つ帝国の若き英雄。
ロイド達特務支援課に対しては「私人」としては好意と敬意を抱いているが、帝国へと捧げたその鋼の刃は決して情によって曇る事はない。
「偉大なる我が祖国に永久の繁栄を。この身は全てそのためにある」(キャラ紹介のページにはられている台詞)
これは間違いなくクロスベル独立の前に立ちはだかる強敵ポジ!
(発表されるアリオスと死闘を繰り広げているシーンのスクリーンショット)
ドレックノール要塞はハイアームズ侯が治める帝国南部サザーランド州の州都セントアークより北東へと600セルジュほど北東に位置するガレリア要塞に次ぐ正規軍の一大拠点である。ガレリア要塞が東の脅威たる共和国に備えた帝国の盾ならば、ドレックノール要塞は皇室の盾、要塞司令官たるミヒャールゼン大将と鉄血宰相の関係から貴族からは皇室ではなく鉄血のであろう等と言われているが、と称すべきもので、万が一帝都ヘイムダルに於いて首都防衛師団たる第一機甲師団がクーデターを起こした場合には、ただちに要塞司令官にして帝国南西準州を統括するミヒャールゼン大将率いる第八機甲師団が鎮圧に動く事となっている。
内戦が勃発した日も当然ミヒャールゼン大将はただちにこれを鎮圧するべく動いた。しかし、そんな彼の前に立ちはだかったのがラマール州軍司令官オーレリア・ルグィン大将とサザーランド州軍司令官ウォレス・バルディアス中将の両名であった。オーレリア大将は旗下の部隊の内精鋭を率いて、帝都への道を阻むように布陣。もしも強引にオーレリア大将の部隊を突破しようにも、今度はウォレス中将の部隊にその側背を狙い打たれかねない状況にあっては、ミヒャールゼン大将としては苦虫を噛み潰しながらも周辺に存在する各師団の戦力が集結するのを待つしか無かった。
そうして11月20日、第九、第十、第十一、第十二師団も合流して旗下の第八機甲師団も含めて合計5個師団兵員10万1208名内戦車部隊は8個大隊、航空部隊5個大隊という大軍をミヒャールゼンは率いて帝都の奪還に向けて動き出した。
当然、貴族連合にしてもそれを黙って見ているはずがない。迎え撃つのは黄金の羅刹率いるラマール領邦軍兵員5万8200名、戦車部隊1個大隊、機甲兵部隊3個大隊、航空部隊3個大隊と黒旋風率いるサザーランド領邦軍兵員約4万1080名、戦車部隊1個大隊、機甲兵部隊2個大隊、航空部隊2個大隊と将兵の数の上でも質の上でもほぼ互角の状態で両軍は激突した。激しい戦闘は2週間にも及んだが、12月6日防空網を突破した蒼の騎士クロウ・アームブラストによって第十機甲師団司令官アウグスト・ゲッペル中将が討ち取られ、更にそれによって生じた混乱を逃さないとばかりに仕掛けられたオーレリア、ウォレス両将軍の苛烈な攻勢によって第十機甲師団は壊滅。これによって、ミヒャールゼン大将は作戦の続行を断念。撤退戦で多くの犠牲を出しながらも、ドレックノール要塞へと退却し、《アウクスブルクの会戦》は貴族連合の双璧と蒼の騎士の勇名を馳せる結果によって幕を下ろす。
だが一個師団もの戦力を喪失しながらも正規軍はの戦意は未だ衰えず。それから一週間以上が経った12月13日現在も、未だドレックノール要塞で正規軍と貴族連合軍の激戦は続いていた……
・・・
「流石は鉄壁のミヒャールゼン、実に手強い。そうは思わんか中将」
手強いと評しながらもそこに臆する様子は一片たりともない。その身に纏うのは圧倒的な覇気。
戦いとはこうで無くてはならないという燃え盛る戦意。アルゼイドとヴァンダール、帝国に存在する二大流派
彼女が目指すのは遥かな高み。強者を打破して手に入れる勝利をこそ、《黄金の羅刹》は欲しているのだから。
「確かに。一個師団を失う敗北を喫していながら尚も頑強に抵抗し続けているのは見事と言わざるを得ませんな。
攻勢に出ている側、有利な側が士気を維持するのは凡将でも出来ますが、守勢で士気を維持し続けるのは至難。
この状況下にあって、ああも見事に統率しているだけで名将と呼ぶに相応しい。ーーー正直、私も出来るかどうかは怪しいところです」
「ああ、統率の天才、鉄壁、どちらの異名も決して伊達ではなかったという事だ。喜ぶとしよう中将、今我らが相対しているのは紛れもない難敵であり、敬意を払うに値する名将だ」
「「ーーーだからこそ、その首級には価値がある」」
最後の言葉は示し合わせたかのように二人同時に。そうして二人は不敵に笑い合う。
オーレリア・ルグィンとウォレス・バルディアス、貴族連合の双璧とも謳われるこの両名の出会いはもう十年以上も前の話になる。フェンシング部長として全部活の制覇を掲げて他の部活を瞬く間に制圧していったオーレリアは唯一頑強に抵抗を続ける馬術部部長のウォレス・バルディアスと幾度も矛を交えた。激突し合う内に互いの力量を認め合うようになった二人は性別の違いなど意に介さずに意気投合、卒業後もその関係は変わらず、両者は抜群のコンビネーションを見せつけ、若くして将軍の地位を手に入れたのであった。
そして両者の気質は極めて近い。彼らの精神性について端的に述べるならば、こうなるだろう。“軍人”ではなく“武人”なのだと。戦場に於いて強敵を打倒する事によって得られる武勲にこそ至上の価値を置いているのだ。
「蒼の騎士殿に頼りきりでは流石に気が引けるというもの。鉄壁のミヒャールゼンの首は私とそなたのどちらかで挙げたいものだな中将」
「いい加減、敬語を使わないとならない立場からまた学生時代のように対等になりたいと思っていましてね。譲りませんよ、大将閣下」
「ふふふ、なんだそんな事を気にしていたのか。別段遠慮をする必要はないぞ、私はそのようなことでいちいち咎め立てするほど器の小さい女ではないつもりだからな」
「いやいや、公私混同と思われるような行為を上の人間がするのは不味いでしょう。きっちりと同じ階級に並ばせて貰った上で心おきなくタメ口を聞かせて貰いますとも」
・・・
「などと昨日は豪語したが、ふむ流石にそう簡単にどうこうなる相手ではなさそうだ」
翌日12月14日、貴族連合軍は西部戦線に於いてドレッドノール要塞を攻略すべく大規模な攻勢をかけた。
しかし、正規軍もそれに臆する事無く応戦する。昨日の会議では互いに豪快な事を言ったものの、未だ士気と戦意を保つ四個師団7万5000もの大軍を率いる名将を相手取って、これを攻略する事は当然オーレリアにしてもウォレスにしても容易ではない。
故に、貴族連合は再び状況を打開するべく“切り札”を投入する事となる。そう、“蒼の騎士”である。
「我らが蒼の騎士殿に伝令を。「すまないが、また卿の力を借りたい。責任は全て総司令官が取る故、貴殿の最善と思われる行動を取られたし」とな」
笑みを浮かべながらもオーレリアは些か歯がゆい思いをする。
ラマール州軍とサザーランド州軍の混成軍、その総司令官を務める彼女は師団規模で言えば凡そ機甲師団五個分もの戦力を率いる立場になる。
一個師団までならともかく数個師団もの統率を務める立場になると、流石にほいほい自分が最前線へと立って戦うという戦法を取るわけには行かない。これは副司令官を務めているウォレス中将にしても同様であった。
戦場での司令官の最大の仕事は待つことだ。部下が上げてくる報告を聞き、めまぐるしく移り変わる状況を正しく把握する。そして、大きく変化する時を待つ。あるいは変化させるための手を打った後に、経過をじっくり観察しながら結果を待つ。変化が起きた瞬間に動き出して、状況が落ち着くまで逐一指示を飛ばす。
貴族連合の大勝によって終わった、《アウクスブルクの会戦》もそうして機を伺いながら、“蒼の騎士”の獅子奮迅の活躍によって訪れたゲッペル中将の戦死によって生じた綻びを逃さなかった事により得たもの。
そしてドレッックノール要塞を巡る攻防に於いて未だその機が訪れていない。故に敵の戦線の綻びを探り、予備を動かすという地味で堅実な作業へと従事する時である、無論これは言う程に容易い事ではない。数万を超える規模の組織を統率し、数百セルジュにも及ぶ広範な戦場を俯瞰して敵の綻びを探り、こちらの綻びを逐一繕う事それ自体が凡人には決して為せぬ難業なのだから。
立っている者は親だろうと主君であろうと使うのが軍の司令官の精神だ。当然騎神等という機甲兵部隊2個大隊にも匹敵する強力なカードに無聊をかこわせるような真似をするはずもない。かくして黄金の羅刹は鉄壁の守りへと綻びを生じさせるために再び、蒼の騎士という虎の子のカードを投入するのであった。
・・・
「やれやれ、黄金の羅刹様も人使いの荒いこって」
総司令部からの伝令に気だる気な様子で貴族連合の“英雄”クロウ・アームブラストは口にする。
凡そ覇気というものが感じられないその態度は両将軍の威令が行き届きやる気と使命感に満ち溢れた兵士から顰蹙を買うものだったが、彼の打ち立てた実績と立場がその不満を黙らせる。
貴族連合盟主クロワール・ド・カイエン公の子飼いにしてかの鉄血宰相の暗殺を遂行した、公の信認厚き切り札にして少佐待遇の武官、それが今の彼の立場だ。
多少その態度が気に障るものであったとしても、使いっ走りである伝令の一兵士程度にどうこう言える存在ではないのだ。
「了解したと総司令官閣下には伝えてくれ」
「は。武運をお祈りしています、アームブラスト卿」
そうして儀礼的な敬礼に送り出されて、オルディーネへと乗り込んだクロウは苦笑する。
自分は別段騎士でも貴族でもないのだが、どうにもカイエン公の子飼いという立場から自分の立場については色々と噂されているらしい。
代々カイエン公爵家に陰ながら仕えてきた従士だとか、お家再興に燃える没落貴族の嫡男だとか、公の隠し子だとか、あるいは鉄血宰相によって滅ぼされたどこぞの国の王子だとかそれこそ色々である。
最後の噂がある意味では良い線に行っているが、生憎とアームブラスト家は身内から市長を輩出した事もある裕福なあくまで平民に過ぎない。故に自分に対する呼称で“卿”を付ける必要などないのだが、いちいち訂正するのも面倒なので好きなように呼ばせているのであった。
「というわけで、また出番みたいだ。今日も今日とて恩返しのために一働きするとしようや、オルディーネ」
そこにはどこまでも覇気というものが欠けていた。
何故ならば、彼にとってはこの戦いは自分の大望を果たすために支援をしてもらったスポンサーへの義理立てのために行っているものだ。そう、クロウ・アームブラストは既に長年の目的足る仇を討つ事に成功して端的に言って、燃え尽き症候群にあるのだ。
今の彼はどうしようもなく目的という物を欠いていた。更に言えば彼はその目的を果たすために、黄金色の青春時代に背を向けた。“友情”を裏切った上に、自分のやったことが大罪だという自覚も当然ある。下手をすれば生きようという生への執着すらも薄れているような状態なのだ。
「了解シタ、我ガ起動者ヨ。シカシ、汝ガ剣ヲ振ルウ理由ハ本当ニソレダケノタメカ?」
「はぁ?何いってんだよオルディーネ。なんたって俺は自分の復讐のために親友さえも裏切り、大勢の人間を犠牲にして、内戦の引き金を引いた極悪人だぜ?
まさか今更巨いなる力に伴う巨いなる責任とやらを果たす事を期待しているわけでもねぇだろ。まあそんな悪党にも悪党なりのプライドって物はある。今の俺が戦う理由なんざ、それだけさ」
そう自分は多くの者を巻き込み犠牲にした。それも崇高なる大義や理想だとかそういうもののためではなく、ただただ自分の中にある憎悪を晴らすためという完全なる私情によってだ。
そのためだけに友を裏切り、無関係の者を巻き込むテロを行い、鉄血宰相という強大な指導者を失ったこの国と、その庇護を受けているかつての祖国がどうなるかと知りながら引き金を引いたのだ。
そんな極悪人が今更大義だの巨いなる力に伴う責任だのと語りだすなどちゃんちゃらおかしいだろ、そういうのを言って良いのはそう、あのどこまでも真っ直ぐな親友のような奴こそが言える事だ。
悪党だって恥というもの位は知っている。故にそう、自分の目的を果たすにあたって協力してくれたカイエン公と導き手たるヴィータ・クロチルダへの義理立てのため、それだけの事と、そんな風に本人は
「……ソウカ」
己が起動者の心にそれだけはない執着を感じながらもオルディーネは口に出してはそれだけ言った。
「ああ、悪いな。こんな起動者でよ。もっと「俺は祖国のためにこの生命を捧げる!」だとか「力なき民を護るためにこそこの力は存在する!」なんて風に理想に燃えるような奴の方がお前としても良かったんだろうけどよ」
どこかの誰かの事を思い出しながら、クロウ・アームブラストは軽口を叩く。
「ナニ、歴代ニハ貴殿ヨリモット酷イ者モイタ。ソレラニ比ベレバ貴殿ハ幾分
「……ガクッ。そこはお前、「そんな英雄ではない貴殿だからこそ私は気にいっている」だとか言うところじゃねぇのかよ、普通は」
「ソノヨウナ心ニモ無イ事ハ言エヌ」
「ったくつくづく手厳しい相棒だぜ」
軽口を叩き合うその二人の姿には確かな絆が存在していた。
そうしてクロウ・アームブラストはその意識を集中させ出す。
自分自身も理解していない、まだ討たれるわけには行かないのだという心の内より溢れる想いに従って。
「クロウ・アームブラスト、オルディーネ。出るぜ!」
蒼の騎士、クロウ・アームブラストは此処に出撃した。単なる義理立てを超えた心の中に眠る何かに導かれるように……
「少佐殿、総司令部より入電。蒼の騎士が動き出したとの事です」
「承知した、直ちに迎撃に当たる」
「ハ!ご武運をお祈りしています!」
そうして心からの敬意に満ちた敬礼へと見送られながらリィン・オズボーンは愛機へと乗り込む。
そんな頭の天辺からつま先まで覇気に満ち溢れたリィンの後ろ姿を未だ成人も迎えていない、年若い伝令の兵士はまるでお伽噺の英雄を見るかのような様子で見送る。
頬を紅潮させ、敬礼を施しながら何時までも何時までもその後姿を見つめるのであった。
「さて、というわけで出番だヴァリマール。敵は“蒼の騎神”、これまでの相手とは桁が違う。恐らく厳しい戦いになるだろう」
もう一ヶ月以上も前になるリィン・オズボーンにとって生涯最大の屈辱にして敗北の記憶。それを思い出す。
憎悪に囚われて剣を鈍らせ、偉大なる師の献身によってその命を拾う事となったリィンにとっては決して忘れられない、いや忘れてはならない記憶だ。
「だが、もうあんな
醜態と彼はかつての自分の行いを指す。
親友だと思っていた人物が父を殺したという人であるのならば取り乱して当然の出来事で我を失った事を。
自分はそれらを超越しなければならぬのだと言わんばかりに。
そしてそんな己が起動者を灰の騎神は静止する事はしない。
何故ならば彼は己が起動者の決意と誓いを聞いているから。
そしてその決意をかつて獅子の心を持つ皇帝と共に闘った騎神は
どこまでも他者のために己が身を削ろうとする高潔さ、どこまでも進み続けようとする鋼の意志はかつて自分を奮った最高の英傑に勝るとも劣らない者だと感じたが故に。
何より騎神とは基より、起動者の想いに呼応するべく力を与える存在であるが故に。止まらない、止めない。
騎神とは高みを目指さんとする“英雄”がより高く飛翔するための翼であって、断じて英雄を地上に縫い止めるためのものではないから。
「行くとしようかヴァリマール。帝都での雪辱を果たす絶好の機会だ」
親友との激突、それを前にリィンは確かに昂揚していた。
それは単なる使命感や憎しみによるものではない、一言では表す事の出来ない想いによるものであった。
「ウム。存分ニ奮ウガ良イ。我ガ起動者ヨ」
そうして胸の中で濁流のように溢れる憎悪、友情、親愛、それらの感情を全て鋼鉄の意志によって統制して、その意識を集中させて……
「リィン・オズボーン、ヴァリマール。出撃する!」
12月14日。十月戦役に於いての最大の激戦と称される《ドレックノール要塞攻防戦》に於いて正規軍の英雄灰色の騎士と貴族連合の英雄蒼の騎士はまるで巨いなる運命に導かれるかの如く、再び激突しようとしていた……
え?ミヒャールゼン大将は要塞司令官ではなくジュライの総督だったはず?
ウォレスは中将じゃなくて少将だったはず?
はてさて何の事やら(一話を改竄しつつ)
基本作者の設定はその場のノリで割とちらほら代わります。
そして数字は一応一個師団辺りの兵数とか戦車の数が凡そどの位なのかみたいなのを調べていますが基本素人の付け焼き刃なのでツッコミどころ満載だと思います。