灰色の騎士(覚醒)「ほーん」
貴族連合「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
怪物倒したと思ったら、それがトリガーとなって息子が英雄になったンゴ……
目覚めたリィン・オズボーンは、愛機を置いたまま人里を目指して雪山を降っていく。
大まかな地理に関しては把握できている、自分が今居るのはかつて訪れた、シュバルツァー男爵家が領主として治める温泉郷ユミルの近郊だ。本来であれば一日でたどり着くのは困難な距離だが、自分ならば4時間も歩けば、ユミルが見えてくるだろう。
ヴァリマールを置いておく事については特に問題はない、騎神と起動者は念話によって距離が離れていようと意思疎通が可能だし、騎神には意志が宿っているし、いざとなれば転移することとて、それ相応の霊力を消費するので極力温存したいところではあるが、可能だ。故に自分が不在の間に誰かに奪われる等という心配はまず不要と言って良いだろう。
一ヶ月もの間眠りについていたのだから通常であれば身体は錆びついていて、普通に歩くことさえ困難なはずなのにも関わらず、リィンは軽やかな足取りで雪道を進んでいく。身体はすこぶる快調だ、生命力が身体中に漲っている。かなり急な勾配の山道、しかも雪が降っており余計に体力を消耗するはずだというのに、進み始めて3時間リィンは一切歩みを止める事無く進み続けているのにも関わらず、疲労は愚か呼吸一つ乱していなかった。
そしてそろそろ人里が見えてくるのではないかというところまで進んだところで、地響きとそして雄叫びと共にそれは姿を現した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
《魔煌兵》オルトヘイム、暗黒時代に作り出された遺物、ゴーレムと呼ばれる自律型の兵器。騎神や機甲兵とほぼ同じくらいの大きさを持つそれは、人に対して圧倒的な畏怖を与える。しかも大きいだけでなく、ずいぶんと機敏で頑丈なようだ。崖から飛び降りたというのに関節部分に損傷めいた様子を一切見せる事はない。
それを前にしてリィンは選択を迫られる。すなわち騎神を呼ぶか、それとも
退く、等という選択肢は存在しない。既に人里にかなり近い地点まで来ている上に、どうやら目前の敵は起動者である自分が目的のようだ。此処で自分が逃げる等という選択を選べば、ユミルに済む無辜の民達が犠牲になるかもしれないのだから。この場で仕留める事、それは既に確定事項だ。
さてそうなって来ると問題はその手段をどちらにするかである。安全策を取るのならば、ヴァリマールを呼ぶべきだろう。暗黒時代の遺物だろうがなんだろうが所詮は量産品、騎神の敵ではない。問題なく一蹴できるだろう。
だが、此処で騎神を呼ぶ真似をすれば貴族連合に自分の位置を悟れる可能性が高い、何せ貴族連合には本物の魔女がついているのだから、休眠状態にあったからこそその位置を悟られる事はなかったが、本格的に戦闘をさせたとなれば完全にその位置を特定される事になるだろう。
故に此処で自分が取るべきはやはり……
決意と共にリィンは双剣を抜き放つ。それは任官前に親友たるジョルジュが餞別代わりに用意してくれた双剣。影の領域で手に入れたゼムリアストーンを基に作られたゼムリアストーン製の双剣だ。この双剣ならば、今の自分の力にも十分に耐えられるはずだ、少なくともこれまで力を開放してきた時のように一度の戦いで使い物にならなくなるという事はないはずだ。
身体のコンディションは万全、武装も十全、敵は
そう、決意の炎を燃やす。人であるのならば畏怖を覚えずには居られない、7アージュもの巨体を前にして一切怯むこと無く。もしだとか、たらだとか、ればだとか、そんな惰弱な要素を一切持たずして心の中にたぎるのは鋼の意志、必ずや勝利を掴み取るのだという勝利への飢えだ。
「ヴァンダール流皆伝、リィン・オズボーン。推して参る」
目前の敵が名乗り返すような矜持など持っていない意志無き兵器なのだと、それを承知でリィンは高らかに名乗りを挙げる。
自分の命が今あるのは偉大なる師のおかげなのだと、そう心に刻みつけるかのように。父だけではない、偉大なる師をも自分は超えて行かねばならぬのだと今一度確かめるように。
そうして、ちっぽけな人間と魔導の巨人は此処に結果のわかり切った戦いを開始した。
・・・
アデーレ・バルフェット大尉は遊撃士たるトヴァル・ランドナーと共に山道を進んでいた。
何故近衛軍大尉であった彼女が遊撃士と行動を共にしているかと言えば理由は至って簡単で、帝都占領から脱出する際に護衛対象であるアルフィン皇女の兄君たるオリヴァルト皇子から依頼されていた彼と協力する事になったからだ。彼女が上から下されていた命令はくれぐれも丁重にアルフィン皇女を保護せよというもの、故に戦いが起こった帝都は危険だと判断して、忠臣と名高きシュバルツァー男爵家を頼りユミルへと避難したというわけだ。
何やら至急バルフレイム宮へとお連れしろだのと言った命令が無線機越しに聞こえだしていたが、
ーーー無論、これらがただの詭弁に過ぎない事は彼女も百も承知だ。カイエン公がこの国の覇権を握ってしまえば、自分に待つ運命は碌でもないだろうと覚悟している。だがそれでも、後悔などは全く無い。自分を姉と呼んで良いかと言ってくれて、心からの信頼を寄せてくれたあの姫君を裏切る位ならば、騎士としての誇りを捻じ曲げる位ならば死んだほうがよほどマシだと。つまるところアデーレ・バルフェットとはそういう人種であった。命よりも誇りこそが大事な、筋を曲げる位ならば死を選ぶ、そんな大馬鹿者であった。
さて、そんな忠臣である彼女が何故こうして主君の基を離れて山道を進んでいるかと言えば、それは住民が聞いたという謎の雄叫び、それの調査を行い、危険な魔獣であればそれを退治するためである。
現在エレボニア帝国は“内戦”状態にある、故に本来であればこうした事態に際して出動するはずの領邦軍の動きは酷く鈍くなっている、特に貴族連合への参加を表明していない領主に対しては。
無論シュバルツァー男爵家とて領地を護るための最低限の兵位あるが、それはあくまで最低限のものだ。何の犠牲もなしに強力な魔獣を相手取って勝てるような使い手となるとそれこそ領主であるシュバルツァー男爵位となるわけだが、当然領主がそうほいほいと出かけるわけにはいかない。故に近衛軍に於いても有数の使い手たるアデーレが偵察と討伐を買って出て、それにトヴァル氏も同行したというわけだ。
そうして歩を進めていると住民の話の通り、何やら大きな唸り声が聞こえたのでその場へと進んでみると、何やら剣戟のような音が聞こえてきて二人が目にしたのは
「シィッ!」
「グオオオオオオオオオオ」
帝都占領の折に目にした機甲兵、それに極めて酷似した巨大な人形の兵器とそれを相手取る白髪の双剣士であった。状況は剣士の側が明らかに有利であった。何せ剣士が相手取っている人形兵器、そちらの方の姿は既にボロボロだったのだから。装甲の弱い関節部を重点的かつ的確に狙われたのだろう、既にその動きは明らかにぎこちないものとなっていたのに対して、双剣士は敵の攻撃を軽やかに躱している。完全に見きっているのだろう激しい動きを必要とせず、最低限の動きにてその巨体の振るう決して遅くはない斬撃をいとも容易く躱し、そしてすれ違いざまにお返しとばかりにその鋭い斬撃を叩き込んでいく。
見事だった、力任せに暴れる獣では決して到達し得ぬ境地。“練達”とそう称するのが相応しい、才あるものが血の滲むような修練を十年単位で重ねてようやく辿り着く事のできるような境地へと目の前の剣士は達していた。おそらくは近衛軍きっての使い手等と持て囃されている自分よりもあの剣士は強い。もしかするならばそれこそ自分の師である武の理に至りし達人の中の達人たる《光の剣匠》にさえ匹敵するのではないかと思える位に。
そうして二人が助太刀に入る事も忘れてその剣技に見惚れている間に決着はあっさりと、そして順当についた。博打めいた行為も大技も一切必要としないまま剣士は巨大な兵器を仕留めたのであった……
(何者なんでしょうか、この人は)
アデーレに去来する思いはまずそれであった。目の前の人物は凄まじい使い手だ、おそらく帝国内に於いても十指には入るだろう。間違いなく“達人”とそう称される領域の実力者だ。目の前の人物が振るった剣技、それにもアデーレは見覚えがある。帝国において自分の振るうアルゼイド流と双璧を為すヴァンダール流だ。その中でもかの獅子心皇帝とその腹心たるロラン・ヴァンダールが振るったヴァンダールの双剣術。そこまではわかった、だがその先からがアデーレには皆目検討もつかない。
ヴァンダール一門の人間は帝都占領の折、当主にして総師範たるマテウス・ヴァンダールが曰く逆賊に与したという事で貴族連合によって拘束されている。それから逃れたのはオリヴァルト皇子の守護役を務めているミュラー少佐だが、彼は確か剛剣術の使い手であるし、そもそもこんな所にいるはずもない。
あるいは自分は知らぬ使い手なのかとも思うが、これ程の使い手が無名というのはそれはそれでおかしい。まず間違いなく皆伝に達しており、師範代の地位にあるような人物だ。あるいは何らかの問題があり破門でもされて山ごもりでもしていたのかとも考えたが、そう考えるには余りにその剣は澄んでいた。思わず見惚れてしまう位に。
そこでふとアデーレはある事に思い至る、そう居たはずだ。ヴァンダール流皆伝の腕であり、ちょうど行方不明となって貴族連合と革新派、そしておそらくは自分の親友が血眼になって探している人物が……
髪の色が違う。彼の髪は漆黒であった。
瞳の色が違う。彼の瞳はこんな焔のような紅色をしてなかった、何よりもその瞳の中に宿る覇気が桁違いだ。これはそう、まるで凶弾へと斃れたあの宰相閣下のようだ。
纏う雰囲気が全く違う。真面目で質朴な少年といった雰囲気など欠片もない、纏うのは威厳と高貴さが同居した風格。この国の至尊の方と邂逅した時のような、いやそれ以上の今すぐ跪かなければならないのだとそんな錯覚さえ覚える神聖さ。
何なのだ、何なのだ。目の前の人物は一体何なのだ、先程見せた優雅ささえ感じる戦い振りと言い、こんなのまるでお伽噺の中でのみ存在が許される人物が、そのまま現実世界へと出てきたようなものではないか。
似ていない。自分が一度会った、親友の義弟とは全く似ていない。だが、それでもどこか面影が……
「リィン……もしかして、貴方はリィン・オズボーン少尉じゃないですか?」
気がつけばそうポツリと呟いていた。
その言葉に目の前の人物は一瞬瞠目したかと思うと、穏やかな高貴ささえ感じる微笑を浮かべて
「ええ、その通りです。私はリィン・オズボーン、帝国正規軍所属リィン・オズボーン少尉です。
お久しぶりです、アデーレ・バルフェット大尉」
階級が上の者への礼を遵守する敬礼を施しながらそう挨拶してきた。
それに対して自分はどうにも落ち着かない気分になる。
階級的には正しい、所属は違えど自分は大尉であり、相手は少尉なのだから。
礼節を保たなければならないのは向こうの方だ。
だというのに何故自分はこんなにも落ち着かない気分になっているのだろうか。
まるで、それこそ
「そして不躾ではありますが、少々質問のご許可を頂きたい」
「構いませんよ、なんですか」
すると目の前の相手より立ち昇るのは猛烈なプレッシャー。
先程までの威厳の中にも親しみを感じさせる態度とは違う、何もかもを呑み込まんとする鋼鉄の意志。
「貴方は一体、
警戒心を露に灰色の騎士は戦乙女へと問いかけたのであった……
獅子心皇帝の記憶と経験を余さずゲットしてそれを立ち振舞に利用→まるで獅子心皇帝と接しているかのような畏怖を帝国人を抱く
ドライケルス帝がヴァンダール流双剣術の使い手というのは当作品独自です。
オズボーンくんに対する経験値ブーストにするためです。