(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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「ある人間を自分の思い通りにしようとするには、相手をある状況に追い込み、行動の自由を奪い、選択肢を少なくすればよい」

とある作品の謀略家のセリフですが自分はこのセリフがかなり印象に残っています。
原作での鉄血パパがリィンにやっていたのはこれでしたね。

短いですが、区切りが良かったんで投稿させて貰います。


冷徹なる一手

 

 アルバレア公によるケルディック焼き討ちは暴挙であり、蛮行であり愚挙であった。

 それは道義的な側面は無論の事、実利の面でもである。そもそもケルディックはクロイツェン州を代表する一大交易都市だ。それを焼き払う等というのは、金の卵を産む鶏を生意気だからという理由で絞め殺すようなものと言える。加えて、この一件で民心は大きく貴族連合から離れて、正規軍側へと傾いた。その事から考えても、まさしく肥大化した大貴族の自尊心が為した愚劣極まりない暴挙であった……と同時代そして後世に於いて非難の的となるのだが、当然命じた当人にしてみれば愚行だとわかっていながらやるはずもない。彼には彼なりの考えというものがあったのだ。

 

 アルバレア公とて四大名門の当主として他の四大名門、そしてかの鉄血宰相と凌ぎを削ってきた男。人格の論評はこの際置いておくにしても、能力的に見れば全くの無能というわけではない。貴族に従うという当然の義務を怠った平民共、無論これは公爵の主観に基づいた表現である、に対する怒りが強硬な方向へ思考を導いたにしても、ただカッとなってやったという事はない。あくまで彼なりの計算というものがそこには存在したのだ。

 

 まず第一に東部方面に存在する正規軍は総勢5個師団にも及ぶ大軍だ。ハルテンベルク伯を筆頭とした双龍橋以東の貴族の多くが寝返るか、もしくは友好的中立に転じたにしても、これだけの大軍を養うには当然膨大な糧食を必要とする。そしてケルディックはクロイツェン州でも屈指の交易都市であり、双龍橋を確保した後の東部方面軍はかなりの量の糧食を此処からの購入によって賄ってきた。これを焼き払われた事で、正規軍は補給に於いて不安を抱える事となった。もちろん今すぐに窮乏を来すと言ったレベルではないが、それにしても長期戦は難しくなったと言わざるを得ない。ーーー平民の味方を自称している彼らの場合、ケルディックの民が急場を凌ぐためにむしろ自軍が抱えている糧食などを提供しなければならないから尚更である。 無論、端からヴァンダイクらには長期戦に持ち込む気などサラサラなかったが、それでもその気になれば長期戦に持ち込んでも構わないというのと、長期戦になれば確実に敗北する事となると言った状況では交渉の際の姿勢も大きく変わってくる。

 

 第二に正規軍側の支配地となった都市を焼くことで、「平民の味方」を自称しておきながらむざむざと焼かれる事を許した正規軍側の頼りなさを露呈させると同時に平民共を威圧する事で、むざむざと正規軍に従っているけしからぬ賤民共、当然これもアルバレア公の主観に基づく表現である、の離反を誘発する事が出来るとアルバレア公は信じたのだ。

 今回平民どもが正規軍に協力する等という恩知らず(・・・・)な行為が出来たのは、偏に自分に対する畏怖が足りていなかったから。つまり、自分はこれまで余りに寛大に振る舞いすぎたのだ。だからこそ平民共はつけ上がり、あっさりと新たな飼い主へと尻尾を振った。

 故にこそ、必要なのは鞭。誰が支配者であるかという事と貴族に逆らった平民がどうなるかという一罰百戎こそが肝要だと考えたのだ。

 

 そんな彼なりの計算に基づいた暴挙を止める者は彼の周囲には存在しなかった。

 なぜかと言えばアルバレア家に於いて平民に対しても寛容でなおかつ実力のある者の大半が既にルーファス・アルバレアによって彼の側近として引き抜かれていたからだ。

 故にこそ、公爵の周囲に存在する者は必然的に彼と考えが近しい太鼓持ちばかりとなる。

 基より実の息子のユーシスに対する冷淡な仕打ちからわかるように、ヘルムート・アルバレアは全くの無能というわけではないがさりとて決して臣下の忠誠心を刺激するような魅力を有する者ではないし、忠言に対して真摯に傾ける耳を持っているとも言い辛い。

 公爵が幼少の頃より仕えていた家令のアルノー・ジルベルトが謹慎を命じられると、もはや彼の決定に異を唱えられる者等残ってはないなかったのだ。

 

 そんなヘルムートの暴走をルーファス・アルバレアは冷ややかに笑った。これであの人は終わりだと、そう確信を抱いて。焚きつけるような自分の言葉にあっさりと乗って自身の逮捕状へとまんまとサインをした伯父(・・)の事を心から嘲弄して。

 既にアルバレア公爵家の持つ上澄み(・・・)はほとんど自分のものとなっている。後は今回の一件でその実に名が伴う。アルバレア公爵家という自分を縛っていた枷は消え去り、民衆の心は一気に貴族から離れるだろう。自分と自分の真の父(・・・)の狙い通りに。

 

(さて、それでは仕上げと行こうか)

 

 そうしてルーファスは如何にも父の蛮行に静かに怒っている良心的な貴族という仮面を被り、厳かな表情を作って紅き翼へと通信を入れる。

 「今回の一件は父の独断であり、貴族連合は一切関与しない。故に好きにすれば良い(・・・・・・・・)」と。

 そして義兄として親愛なる義弟へと告げる「アルバレアの者としての気骨を見せてみるが良い」と。

 これだけ告げれば十分だ。義弟の性格というものをルーファス・アルバレアは知り尽くしている。

 間違いなく中立という立場を捨てて、正規軍と協力関係を築き父の逮捕へと動くだろう。

 そうなれば、当主であるヘルムートが排除された事でルーファスは完全にアルバレア家の実権をその手に収める事が出来るというわけだ。

 ヘルムートの自尊心だけは立派なあの性格上、息子である自分に唆された等という恥の上塗りとなるような事を言う可能性は極めて低いし、仮に言ったとしても問題はない。何せ自分は貴族として、領主としての一般論と捉えられるような内容しか発言していない。

 「まさか(・・・)あのような蛮行に父が及ぶとは夢にも思わなかった。息子として、アルバレアを継ぐものとして慚愧の念に耐えない」と言えばそれでおしまいだ。

 慈悲深い次期当主として積み上げた自分の実績と振る舞いは、そのような些細な疑念を打ち消すのには十分過ぎるほどのものなのだから。

 

 そして曲になりも現当主であるヘルムートが拘束される事で均衡状態へと陥ったこの内戦のパワーバランスは再び正規軍側へと傾く。

 そうなれば、内戦終結を目指す紅き翼ならば、オリヴァルト皇子ならばこう考えるだろう「こと此処に至っては正規軍側と協力するのが内戦を終わらせる最善の道だ」と。

 そしてアルバレア公爵の逮捕のために既に一度は協力し合った関係となれば、その意見は正規軍と紅い翼双方に抵抗無く受け入れられるはずだ。

 そうして紅い翼という機動力に灰の騎神という武力が加われば、カレル離宮にて囚われの皇帝陛下を救出する事が可能となる。

 敵には《かかし男》がついている、彼ならばその値千金の情報を探り当てる位の事をやってのけるだろう。

 後は主演たる《灰色の騎士》が仲間と共に悪の貴族カイエン公とその手先である邪悪な魔女と蒼の騎士を打倒して、囚われの皇太子を救出する。

 まさしく文句のつけようのない大団円であり、英雄譚であろう。

 これこそが現状の盤面から導き出せる最善(・・)であると脚本家たるルーファスは信じている。

 

(さあ、劇の筋は粗方定まった。後は主演たる君が見事演じきってくれる事を期待させてもらおう、我が親愛なる義弟よ)

 

 君が真にあの方の後継ならば見事やってのけてくれるはずだと翡翠の城将は灰色の騎士に大いなる期待をかけるのであった……

 




ルーファス「憧れは理解からもっとも遠い感情だよ」

自分の中のルーファス兄さんのイメージはこんな感じでえげつない事を涼しい顔してサラッとやる人です。
ユーシスにはミリアムに癒やされながら強く生きて欲しいものです。
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