(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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なんというか兄上とデュバリィちゃんの二人は凄い書きやすいです。
方向性は腹黒策士にポンコツワンコと全くの逆ですけど。


集中の原則

「これは殿下、陛下よりのご勅命は既に伝え聞くところ。

 これより貴族連合は“逆賊”クロワール・ド・カイエンを討ち果たすためにオリヴァルト殿下の指揮下に入らせて頂きます。どうぞ、何なりとご下命ください」

 

 貴族連合の総旗艦《パンタグリュエル》に居る貴族連合総参謀より、そのような通信が入ったのは紅き翼が帝都上空に突入した頃であった。余りの白々さに一瞬呆気に取られたのも束の間、すぐにオリビエは皇子としての威厳を身に纏い

 

「ふむ、忠道誠に大儀である……と言いたいところではあるが、どういうつもりかな?

 私の聞いたところによれば、貴族連合の総主宰クロワール・ド・カイエンと総参謀ルーファス・アルバレアは盤石の信頼関係で結ばれた仲であると、聞いていたのだが。つまり、ルーファス卿は彼を裏切るという事かな?」

 

「裏切るなど、人聞き悪い。

 私が、いえ我ら貴族連合がカイエン公を主宰として立てていたのは帝国に在るべき秩序を取り戻すため義挙と信じていたが故です。

 帝国の在るべき秩序とは何か?それは身分制です。

 従士と騎士は領主たる貴族に仕え、そして貴族は皇族に忠誠を誓う。

 偉大なるアルノールの血脈は我ら貴族を導き、そして我ら貴族はその導きに従い平民を庇護する。

 これこそが帝国の秩序です。そしてこの秩序が歪められていると感じたからこそ我らは立ったのです。

 しかし、それはあくまで陛下を誑かす佞臣を排除するための止む得ない措置というもの。

 誓って、我らは皇室への忠義を忘れた事などございません。

 それにも関わらず“逆賊”クロワール・ド・カイエンは皇帝陛下を幽閉し、その勅命を捻じ曲げていた、のみならず皇太子殿下を攫う等、誇りある帝国貴族として決して許されぬ行いです。

 すなわち、我らがカイエン公を裏切るのではありません。カイエン公こそが我らを欺いていたのです!!!」

 

 激しい怒りを以てルーファスはカイエン公を、頼もしい叔父上が出来て嬉しいですと微笑を讃えながら告げていたその口で、心底侮蔑するかのように罵倒を行う。

 そして一転して、落ち着きを取り戻したように沈痛な表情を浮かべて

 

「……知らなかったで許される事ではないと百も承知です。しかし、我らは誓って!皇帝陛下へ不忠を働くつもりなどなかったのです!

 無論、知らずとはいえ(・・・・・・・)大逆の徒に与してしまった罪は言葉だけで償い切れるものでないことは重々承知しております。

 それでもどうか!……どうか我らに名誉挽回の機会を与えて頂きたく。このルーファス・アルバレア、貴族連合の総参謀としてオリヴァルト殿下に心よりお願い申し上げます」

 

 丁重に洗練されたその礼は見ていて心よりの誠意が篭っていると錯覚するものであった。

 無論、そんなわけはない。ルーファスにしても他の貴族にしてもカイエン公が皇族を幽閉していた事を知らぬはずがない。

 要は、これはそういう事にして欲しいというお願いなのだ。

 貴族連合は勝ち目が消えた事を悟った、少なくとも、もはや強硬に抗うつもりはないのだろう。

 だからこそ首謀者であるカイエン公にこれ幸いと総ての罪をなすりつけだした。

 自分たちは誓って皇族に背く気はなかった、皇帝陛下が幽閉されているなど知らなかった、あくまで体調を崩されたので静養されているのだとカイエン公に聞かされていたのだ。その証拠に陛下の勅命にこうして従っていますとそういうわけなのだ。

 なんとも面の皮が厚いことだが、現実問題として貴族連合へと加わった貴族の数が多すぎる以上、その総てに大逆罪を適用等していては国が回らなくなるし、そんな事をすれば貴族達は最後まで抵抗するだろう。ーーーそれこそ、敵国たる共和国へと寝返る者たちも出るかも知れない。

 なればこそ、カイエン公が総て悪かった(・・・・・・・・・・・・・)、他の貴族達は罪が全く無いとは言えないが、あくまで騙されていたのだというルーファスの提示した落とし所は絶妙だろう。

 一体どの口で言うのかと不快さを感じるものはあれど、それを払いのけることは出来ずに……

 

「……卿の想いは理解した。

 ならばただちに我がアルノールの忠臣たるヴァンダール家を始めとした者たちを解放せよ。

 そして、帝都の民の保護に協力する事を求める」

 

「御意。直ちに取り計らいましょう」

 

 下された命に対してルーファス・アルバレアは恭しく礼を行い、それで通信は途切れる。

 貴族連合に於いて蒼の騎士と並び、カイエン公随一の腹心だと見られていた総参謀の離反、それはもはやカイエン公が如何に足掻こうが此処から挽回をすることは不可能だという事を如実に示していた……

 

 

・・・

 

「さあ、行くわよ貴方達!トールズ士官学院Ⅶ組!全力で魔煌兵を撃破するわ!!!」

 

「「「「「「「「「「「「応!」」」」」」」」」」」」」

 

 帝都に出現しだした魔煌兵、その対処をサラ・バレスタイン率いるⅦ組、そして解放されたヴァンダールの一門へと任せた一行は煌魔城へと突入する。

 これは事前の話し合いで決めていた事である、煌魔城は紛れもない死地。どれほど意志が有ろうとそれに伴う力を持たぬ者を同行させるわけには行かない。今更になるかもしれないが、未だ学生の立場たるトールズ士官学院のメンバーは教官達指揮の下、帝都市民の保護へと当たると。

 

 かくして有角の若獅子、そして守護の一門へと民の保護を委ね、煌魔城へと突入し進んでいく。

 やがて開けた場所に出ると、そこで待ち受けていたのは……

 

「ふふふ、良く来たね。ようこそ、我が居城煌魔城へ!」

 

 ヴィータ・クロチルダの用いた秘術によって城の頂上へと写しクロワール・ド・カイエン、そして痛ましい姿で拘束されたセドリック殿下の姿が映し出される。

 

「セドリック!」

 

「カイエン公……貴様、余りに無礼が過ぎるだろう」

 

 殺気の篭った視線が自身へと集中するが、カイエン公はそれに対しても全く動じず

 

「ふふふ、殿下には少々ご協力頂いているだけだよ。この帝国に在るべき秩序を取り戻すためにね!」

 

「……カイエン公。もう貴方に勝ち目はない、ルーファス卿は……貴族連合は貴方を見放した。

 この上は無駄な抵抗を止めて、弟を解放したまえ。そうすれば、無罪放免というわけには行かないが最低限、その命だけは助かるように取り計らう事を約束しよう」

 

 内心の怒りを押し殺しつつもオリビエはそう提案する。それはまさしく王者の度量とでも言うべきものであったが……

 

「揺さぶりのつもりですかな殿下。

 生憎ですがそのようなあからさまな嘘を信じる程に私は蒙昧ではありませんよ。

 貴族連合の抑えはルーファス君に一任している。

 そしてルーファス君が私を裏切るなど、有り得ぬ(・・・・)事なのですから。

 そして少々の劣勢など容易に覆す切り札(・・・)が、こちらには有るのですよ」

 

 しかし、そんな言葉も夢想に取り憑かれた愚者には届かない。

 あるのは絶対的とも言えるルーファス卿への信頼と、切り札とやらへの自信。

 ……後者はともかく前者に裏切られた事を知っている一行にはもはや、その有り様は道化にしか見えなかった。

 

「そして、不躾なら来訪者では会ったものの、客人に対して饗しの一つも用意しなくては我が公爵家の名が廃るというもの。

 君達には一つ、歓迎の宴を用意させてもらった!」

 

「歓迎の宴?」

 

「然様。これより先の階にてそれぞれ3つの階層ごとに合計5人の番人を用意させてもらった。

 そして君達にはそれぞれの階に於いて、その番人と同じ数の人間を対戦相手として選出して貰いたい。

 勝敗自体を問うつもりはない。あくまで君達が此処にたどり着くまでの間の軽い余興というものだ。

 ああそうそう、陳腐な脅しになるが、この余興がお気に召さないとなれば私としては、代わりに少々皇太子殿下に暇つぶしのお相手を願う事となるかもしれませんなぁ」

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

 あからさま過ぎる脅し文句に一行は不快感を隠せない。

 

「では我が怨敵の遺児にして灰の起動者よ。頂上にて君を待たせてもらうよ!ハハハハハハ」

 

 それっきりプツリと映像は途切れる。

 幾ばくかの静寂がその場に訪れて……

 

「あ・の・変態ヒゲ親父~~~~~~~!!!!!!」

 

 怒り心頭と言った様子でアデーレ・バルフェットがその怒りを真っ先に顕にする。

 飾らず感情をむき出しにする事が彼女の美点であり、欠点でもあった。

 軍隊生活で培った淑女にあるまじき、スラングによる罵倒の嵐がその口から飛び出しているが彼女の師も含めて聞こえないフリをする。

 

「殿下、如何致しましょうか?」

 

「……セドリックの身の安全がかかっているんだ。従うしかないだろう」

 

 無論、この煌魔城を顕現させるのにアルノールの血が必要な以上、カイエン公にセドリック殿下を殺すことは出来ないだろう。

 だが、殺すことは出来なくても命に別状はない程度に痛めつける手段などというのはいくらでもある。

 どうにも今のカイエン公は理性というものが吹き飛んだ状態にある以上、カイエン公の理性頼りの博打に出ることは流石に出来なかった。

 

「畏まりました。それでは番人とやらの相手をどうするか、ですね。

 5人の番人と言っていましたが、これまでのカイエン公の協力者として確認されているのは

 結社の人間が3名、《劫炎》のマグバーン、《怪盗紳士》ブルブラン、《神速》のデュバリィ。

 そして西風の旅団の大隊長であるレオニダス・クラウゼルとゼノ・クラウゼルの2名とみてほぼ間違いないでしょう」

 

 確認のために挙げたリィンの言葉に一同は頷く。

 

「そしてこちらの戦力は9人。

 私とリィン君はそれぞれ頂上に用があり、アルティナ君は流石に件のメンバーを相手取るには少々荷が勝つし、ミュラーは私の守護役だ。

 そうなると必然シャーリィ君、クレア君、レクター君、アデーレ君、そして子爵閣下にそれぞれの相手をお願いする事になる」

 

「交戦した身として意見を述べさせてもらうなら、他はともかく《劫炎》は一つ、下手をすれば二つ程桁が違います。

 我々の中で奴を相手取れるのは子爵閣下位かと」

 

「承知した。結社最強と謳われる火焔魔人、私がなんとかしよう。

 心臓を貫かれても死ななかったということだが……何、戦いようはいくらでもある。

 倒すことは出来ずとも最低限の足止め程度は果たしてみよう」

 

 帝国最強の一角と謳われる人物は頼もしい笑みを浮かべながら応じる。

 

「俺は、怪盗紳士とやらの相手をするかね。

 あの手のトリッキーなタイプの相手が務まるのはこの面子の中だと俺と殿下位ですが、殿下はセドリック殿下のご救出に向かわれるわけですし」

 

「ああ、我が美のライバルと決着をつけたいのはやまやまだが、流石にセドリックの身が最優先だからね。

 今回ばかりは私も自重する事にするよ」

 

 頼むから、今回だけでなくいつもそうしてくれ。そんな言葉を告げようとして寸前でミュラーは飲み込む。

 これでも数年前に比べれば大分良くなってきたから、この調子で行けばきっと……等とそんな叶わぬ願いを抱いて。 

 

「……そうなりますと、私が彼女の相手を務める事になるでしょうか。ノルドで交戦経験もありますし、何よりもコンビネーションという点で考えればレクターさんと一番協調出来るのはリィンさんを除けば私でしょうから」

 

「あ、すいませんクレア。その神速さんの相手なんですけど私に任せて貰えませんか?」

 

「……私では役者不足でしょうか?」

 

「あ、いえいえそういうわけじゃありませんよ。

 クレアの言っていることは最もだと思います。

 ただほら彼女何でも《鉄機隊》の筆頭隊士を名乗っているらしいじゃないですか?

 ちょっと、見過ごせないんですよね。レグラム出身のアルゼイドの使い手としては」

 

 研ぎ澄まされた闘志を内に秘めながらアデーレ・バルフェットはそう宣言する。

 槍の聖女と鉄騎隊の名は、帝国人にとっては特別だが、中でもレグラム出身の者にとっては一際特別な意味を持つ。

 何せレグラムの領主たるアルゼイド子爵家はそも槍の聖女が率いた鉄騎隊の副長を務めた人物を祖に持つのだから。

 レグラムの者にとって、ましてアルゼイド流を師事したような者にとって鉄騎隊とは幼少よりずっと憧れたヒーロー達なのだ。

 そんなヒーローの名を、よりにもよって結社等という犯罪組織の構成員が騙っているのだ。

 当然、面白いはずもない。

 

「……わかりました。彼女の相手はアデーレさんにお任せします」

 

 そしてそんな親友の想いを知るからこそ、クレア・リーヴェルトも相手を譲る事に抵抗はない。

 この親友が如何に誇り高い騎士かを知っているが故に。

 

「ありがとうございますクレア!お礼に無事帰った暁にはご飯奢りますね!」

 

 満面の笑みを浮かべる親友を見て自分の判断を間違っていないとクレアは確信する。

 これで敵5人の内3人の相手が決まった。さてそうなれば残るは……

 

「じゃあ、シャーリィと一緒に西風の二人とやり合うことになるのはクレアだね。

 よろしくね、クレアね・え・さ・ん♥」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 自分は判断を決定的に間違えたかも知れない。

 満面の笑みを浮かべる獰猛なる肉食獣を見てクレア・リーヴェルトはそんな後悔に駆られるのであった……

 




おまけ~もしもカイエン公が特に何も言わないまま各階で敵がそれぞれ待ち受けていたら~

デュバリィ「ふ、よく来ましたわね。しかし、此処を通すわけには行きませんわ」
怪盗紳士「此処を通りたくば、我らを倒してからにしてもらおうか」

リィン「そうか、では遠慮なく俺達全員で貴様らを叩きのめして先に進ませてもらうとしよう」

デュバリィ「へ?ちょっと待ちなさい!普通こういう時は「此処は俺に任せて先に行け!」と何人かだけ足止めに残るものではありませんこと!?」

リィン「?お前は何を言っているんだ。敵より多くの戦力を用意するのは兵法の基本中の基本だぞ。敵がみすみす戦力分散の愚を犯してくれたというのなら、こちらは最大戦力で以て各個撃破させてもらうだけだ」

デュバリィ「ほ、ほら……少しでも先を進まないと行けない理由があるとか?」

リィン「こちらは9人、そちらは二人。しかもこちらにはヴィクター卿と俺が居る。大した時間を要さず片付けられる」

デュバリィ「・・・・・・・・・・・・・・」
怪盗紳士(無言の転移による逃走)

リィン「では、さらばだ。我がヴァンダールの秘奥にて散るが良い」
ミュラー「見せてやろう、我が守護の剣の真髄」
ヴィクター「アルゼイドの秘剣、とくと味わうが良い」
アデーレ「アルゼイドの真髄、その身に刻みなさい」
シャーリィ「あははは、ちょっとは楽しませてよねぇ!」
クレア「目標を制圧します」
レクター「さてとお遊びはこれまでだ」
オリビエ「少し本気を出させてもらうよ」
アルティナ「ターミネイトモード、起動します」

デュバリィ「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

こんな感じでマクバーン以外はSクラフト9連発を立て続けに喰らいボロ雑巾になる模様。
敵の3倍の戦力を用意して補給を万全にするのが必勝の策。そう不敗の魔術師も言ってたからしょうがないね。

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