(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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活動報告でも書きましたが43話託された思いの終盤部分の改訂を行いました。
今後の展開に関わってくる部分になりますので、ご一読いただければと思います。


フィナーレに向けて

「よく来ましたわね。待っていましたわ」

 

「ふふふ、久しいな我が宿敵よ」

 

 たどり着いた場所、そこで最初に待ち構えていた番人は神速のデュバリィと怪盗紳士ブルブラン。

 

さて久方振りの再会、思う存分に我らの美を競い合うとしようではないか!」

 

 恍惚とした様子でブルブランは己が好敵手たるオリビエを誘うが

 

「あいにくだが、殿下は兄としてやらなきゃ行けない事があるようなんでな。

 あんたの相手は俺が務めさせてもらうぜ。一つ、義弟のため(・・・・・)にな」

 

 代わりに前へと出たのはレイピアを携えた《かかし男》レクター・アランドールであった。

 

「なるほど、良いだろう。いささかに残念だが、君は君で悪くない。

 監視塔ではつけられなかった決着、つけさせてもらう」

 

「さて、私の相手を務めるのは一体誰でしょうか?

 この変態の相手を務めるのが《かかし男》だとするのならば

 察するに監視塔でやりあった《氷の乙女》辺りかと……」

 

「貴方の相手は私です」

 

 デュバリィの問いかけに対して清廉な闘気を纏い、騎士剣を携えたアデーレ・バルフェットが一歩前へと歩み出る。

 それと同時に二人の目配せを受けた一行は予定通り、この場を任せて先へと進む。

 そうしてその場には神速、怪盗紳士、戦乙女、かかし男の四人が残る事となる。

 

「ふふん良いでしょう。アルゼイドの使い手とあらばこちらとしても望むところですわ!」

 

「やり合う前に、貴方に問いかけたい事があります。貴方は自分のやっている事に思うところがないのですか?」

 

「……どういう意味ですの?」

 

 自分に対して単なる戦意を超えた敵意、それを察したのだろう。

 応答するデュバリィの言葉に常にない険が宿り、剣呑な空気が二人の間に漂い出す。

 

「言葉通りの意味ですよ。貴方は鉄機隊とやらの筆頭隊士なのでしょう。

 正直、それ自体もアルゼイドを修めた身としては許し難いところですが、私が何よりも許せないのは貴方がその名を名乗りながらカイエン公などに与している事です。

 《鉄騎隊》とはかの《槍の聖女》と共に偉大なる獅子心皇帝陛下の剣となり、獅子戦役を収めた“勇士”達が名乗った神聖なる名です。

 私欲のために内戦を引き起こし、今も卑劣にも皇太子殿下を人質に取っているカイエン公の走狗が名乗って良い名ではないんですよ」

 

 手厳しく怒りを込めて目前の敵を激しくアデーレは糾弾する。

 バルフェット家はアルゼイド家に代々仕える騎士の家である。

 当然、そんな彼女にとって《槍の聖女》とそれに仕えた鉄騎隊の勇士達は子どもの頃に憧れたヒーローであったのだ。

 そのヒーローの名を語る事、それ自体はまだ良い。それだけなら彼女もまたそんな彼らに憧れたある意味同志なのだと好感さえ抱いた可能性とてあった。

 だが、その名を名乗りながら、カイエン公等という男に与するなど、彼らの名を汚すのも良いところだ。

 この内戦を獅子戦役になぞらえるならどう考えても獅子心皇帝陛下の立場を担うのはオリヴァルト殿下であり、カイエン公など偽帝オルトロスの立場だろう。

 そしてそんな人物の手先となっている人物がその名を騙る等、アデーレには決して許せる事ではなかった。

 

「私がこの剣を振るうのはこの国のため、そして剣を捧げし主君の弟御を助けるためです。

 貴方は一体何のためにその剣を振るうのですか!卑しくも鉄機隊の隊士を名乗るというのなら答えて見せなさい!!」

 

 突きつけられた剣を前にデュバリィは一瞬何かを飲み干すように目を閉じて

 

「……ふん、確かにあの男の行いには個人的にはうんざりですわ。

 ですが、鉄機隊の筆頭隊士という座は偉大なる我が(マスター)より賜りしもの。

 それを貴方にどうこう言われる筋合いはありませんわ。

 そして私がこの剣を振るうのは、徹頭徹尾偉大なる我が(マスター)のため!そこに一片の迷いもありませんわ!」

 

 負けじとアデーレより叩きつけられた戦意に対して戦意で返す。

 そこに宿る清澄さと瞳の色には確かな誇りと崇敬が存在した。

 彼女にとっては真実、その主は絶対的な存在なのだと、何よりも雄弁にその瞳が物語っていた。

 

「……その主、というのは?」

 

 目前の敵がその主とやらに捧げる忠誠心。

 それになんら偽りのない事を対峙していて感じたためか、戦意はそのままだが抱いていた敵意は霧散した状態でアデーレは問いかける。

 それはこれほどの使い手がこうまで崇敬する主とやらが一体如何程の人物かという武人としての純粋な疑問の発露だったが……

 

「ふふん、気になりますか?気になりますわよね!ーーーでも、教えてあげません!」

 

「なぁ……!?」

 

 先程までの張り詰めた闘気はどこかへとやった様子で有頂天となったデュバリィの言葉にアデーレはあからさまに反応をする。

 そしてそんなアデーレの様子に満足したのだろう、デュバリィは満面の勝ち誇った笑みを浮かべて

 

「アハハ、せいぜい悔しがると良いですわ!

 そして気になって気になって夜も眠れなくなれば良いのです!

 ふんっ、ざまーみろですわ!!!」

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ」

 

 あからさまな挑発の言葉にアデーレは本当にこのまま行けば夜も気になって眠れなくなりそうな、あからさまに気にした様子を見せる。

 先程までの張り詰めた空気は一体どこへ行ったのだろうか、傍にいるレクターなど、大型犬が2頭じゃれ合っているようにしか見えない光景であった。

 

「そういう事であれば腕ずくで聞き出すまでの事!アルゼイドの剣、とくとその身で味わいなさい!」

 

「ふん、“傍流”に過ぎぬアルゼイドの剣など、あの方より授かりしこの“神速”の剣でへし折ってやりますわ!」

 

「さてと、向こうは向こうで盛り上がっているみたいだが、こっちはこっちで今日ばかりはちょっとマジで行かせてもらうぜ。義兄貴としては、義弟に不甲斐ない姿を晒すわけには行かないからな」

 

「ふふ、良いだろう。主君のため、義弟のためにと戦う君達の姿は美しい。

 ーーーそして、その意志がへし折れた時の絶望もまた甘美な味わいを持つだろう。

 美の探求者として、存分に味あわせてもらう!!!」

 

・・・

 

「アハハハ、久しぶり……って程でもないか。西部で会って以来だし」

 

 爛々と目を輝かせながらシャーリィ・オルランドは目の前の好敵手達を見据える。

 西風の旅団、それは自分たち赤い星座と双璧を為す宿敵の名であり、目の前の二人はその団に於いて大隊長を務めていた達人だ。

 

「“血染め”に“氷の乙女”……相手にとって不足はない」

 

「しかし、なんというか若干意外な組み合わせやな。明らかに急造やろ?

 タイマン勝負ならまだしも、そんな急造コンビで俺らを相手取れると思っているんか」

 

「ふふふ、別に意外でもなんでもないよ。だってクレアは愛しのリィンの義姉さんだからね!いわば義姉妹タッグってわけ!!!」

 

「なんや、灰色の騎士とお前さんはそんな仲だったんかいな?そりゃまた意外というか、アイツも趣味が悪いというか……」

 

「ち・が・い・ま・す」

 

 義弟に対する看過し得ぬ侮辱、それを聞きクレアは氷の異名はどこへ行ったのやら微笑を湛えたまま声を荒げながら否定する。そしてデマを撒き散らそうとする一応味方に位置するはずの赤毛の少女を睨みつけて……

 

「いい加減に諦めたらどうですか?あの子が選んだのは貴方ではありませんよ」

 

 死ねとまでは言わない。だが、頼むから義弟の関わり合いにならないところに行ってくれと言わんばかりの様子でクレアは告げる

 

知っているよ(・・・・・・)そんな事。だけど、それがどうして私が諦める理由になるの?

 今の私で振り向かせられないなら、振り向かせるように努力すれば良いだけじゃん♪」

 

 しかし、シャーリィ・オルランドは揺るがない。どこまでも一途にこの思いを貫くのみだと宣誓する。

 リィン・オズボーンは自分を選ばなかった、なるほどそれは確かに事実だ。

 だが、それであっさりと諦める等という選択肢はシャーリィ・オルランドの中には存在しない。

 欲しいものは力ずくで手に入れるのこそが彼女の流儀なのだから。

 

「貴方はまさか……トワさんの事を……」

 

 そしてそんな言葉にクレア・リーヴェルトの心にとんでもない疑念が芽生える。

 この少女には一般的な倫理観だとかといったものが完全に欠落している事は明らかだ。

 もしも、もしも何者かに愛しい少女を殺されるような事になれば、リィン・オズボーンはその存在を決して許さないだろう。

 憎悪と殺意を以てありとあらゆる手段を用いてそのものを滅殺せんとするはずだ。

 そして、そうなる事をこそ目前の人食い虎は望んでいるのではないかとそんな恐ろしい想像が浮かんで……知らず、銃を握る手に力が入る。

 もしもそうだとするのならば、何が何でも義弟のためにこの人食い虎を撃たねばならないと。

 

 しかし、そんなクレアの問いかけにシャーリィはきょとんとした顔を浮かべた後にようやくその意味を了解したかのようにからかうような笑みを浮かべて

 

「え~クレア義姉さんってばひょっとしてアレ?好きな人が浮気したらその女を殺そうとしちゃうタイプ?

 うっわー重たすぎ(・・・・)。そんなふうに重たいからその年になってもまだ処女なんじゃない?」

 

「なぁ……!?」

 

 平然とした様子でよりにもよって一番言われたくない人物にとんでもない事を言われた屈辱にクレアはその身を震わせるが、シャーリィはそんなクレアの様子を意に介さずに肩を竦めて

 

「万が一、これはもしも万が一の話だけどリィンが例えば間女に誑されて腑抜けになっちゃったら、そりゃリィンを正気に戻す(・・・・・)ために私はその女を血祭りにするよ?

 でも、リィンは腑抜けるどころかちょっとイメージは変わったけど更に素敵になった。だったら、それに釣り合うように私が努力するのが先じゃん♪」

 

 シャーリィ・オルランドの尺度は“強さ”だ。

 戦場に善悪等関係ない、弱ければ死ぬし強ければ生きる。

 そんなどこまでも美しくシンプルな理こそが彼女の生きる世界なのだ。

 だからこそ、シャーリィ・オルランドはトワ・ハーシェルに妬心を抱くことはない。

 何故ならば、彼女の影響により想い人たるリィン・オズボーンはまた一つ高みへと至ったから。

 これでもしも、腑抜けてしまうようであれば、それこそ従兄に対してやろうとしたような強めの気つけも必要であっただろうが

 やはり、自分の愛した人は従兄等とは格が違った。さらなる高みへ、ついに父や伯父の居た領域へと至ったのだ。

 ならばそう、自分のやるべき事は明白過ぎる。

 

「だからさあ、そのための踏み台になってよ。西風の旅団

 彼に追いつくためにも、シャーリィはこんなところで足踏みしていられないんだからさ!」

 

 恍惚と陶酔した恋する乙女の顔から戦士の顔へと切り替わり、シャーリィ・オルランドはその獰猛なる本性を顕にする。

 

「……舐められたものだな」

 

「別に舐めちゃ居ないよ。散々やりあった仲だからね、貴方達二人を同時に相手した場合の厄介さってのも身に沁みてよく理解しているよ」

 

 ゼノ・クラウゼルとレオニダス・クラウゼル、この二人は単騎でも優れた使い手だが、その本領はまさに以心伝心という生きた見本とも言うべき、そのコンビネーションになる。

 ARCUSの戦術リンクによってⅦ組たちが行っているのと同等、いやそれ以上のコンビネーションをこの二人は素でやってのけるのだ。

 それは共に多くの戦場を駆け抜けた血よりも濃い鉄の絆こそが為せる技であった。

 一対一ならばシャーリィの方に分がある。されど二対ニとなれば、信頼関係など欠片もなく、むしろ後ろから撃たれることさえも警戒しなければならないシャーリィ達が明確に不利であった。

 

「でも、だからこそ喰らいがいがある。

 私の大好きな人ははるか先を行っているんだから、それに追いつくためには不可能の一つや二つやってのけないとねぇ!!!」

 

 確実に勝てる雑魚を食らう事に意味はない。

 勝機薄い難敵に挑み勝ち取った勝利にこそ価値があるのだとシャーリィ・オルランドは闘気を高める。

 彼女の脳裏に過るのは遠ざかっていく“英雄”の背中。

 自分には殺す価値さえないのだと突きつけられた、もう二度と味わいたくない失恋の記憶。

 あの背中に追いつくためならば無理無茶等平然とこなしてみせようと、迷いなど欠片も抱かずにシャーリィ・オルランドはひたむきだった。

 

「……やれやれ、基より厄介な相手だったがこれはまたとんでもない“怪物”になったものだ」

 

「おたくの義弟さんも大変やなぁ。よりにもよってこんなんに目をつけられるなんて」

 

 猟兵だのなんだのをおいて、一人の男としてこの超ド級のストーカーに目をつけられる事になった男への同情を禁じ得ないと、二人はクレアへと慰めの言葉をかける。

 

「アハハハ、その辺はリィンの自業自得だよ!だって私をこうしたのはリィンなんだもん!

 この胸のときめきも!高鳴りも!全部全部リィンがくれたもの!

 恋がこんなに素敵だなんて、リィンに出会うまで私は知らなかったんだもの!

 あんな素敵な姿を見せられたら、女の子だったら夢中になって当然なんだからさ♥」

 

(リィンさん!貴方は……貴方は本当にどうしてよりにもよってこんな人を引っ掛けってしまったんですか!)

 

 引っ掛けた覚えはない、向こうが勝手に食らいついて来たんだと当人がその場にいれば強弁するであろう思いにクレアは囚われる。クレア・リーヴェルトも一般的に言えば、大概重い女(・・・)ではあるがそれでもシャーリィ・オルランドの前では霞むだろう。

 

「さあ、それじゃあおしゃべりは此処までにしてそろそろ始めようか!」

 

 そのシャーリィの宣言と共に、西風の旅団と赤い星座、そしてそれに何故か巻き込まれる形となった氷の乙女を含めて、四人は激突を開始した。

 

・・・

 

 駆け上がる。駆け上がる。

 思いを託され四人は駆け上がる。

 第三層の番人、火焔魔人の相手を光の剣匠へと任せて

 四人は最終層を進み続ける。

 目指す地点は煌魔城の頂上。

 そこに取り戻さなければならない弟が居る。

 報いを与えねばならぬ元凶が居る。

 真相を聞き出さねばならぬ魔女が居る。

 連れ戻さなければならない親友がいる。

 

 そして、主役達はたどり着いた。

 この物語のフィナーレを締めくくるべく。

 

「来たぞ、親友(クロウ)

 

「ああ、待っていたぜ。親友(リィン)

 

 灰色の騎士と蒼の騎士。

 正規軍の英雄と貴族連合の英雄は此処に決着をつけるべく、再びの邂逅を果たしたのだった。




ラウラがデュバリィちゃんに会った時は(あ、この人姉弟子にどこか似ている)と思ったとか思わなかったとか。
ちなみにシャーリィさんは描きやすいですが、描いていてなんか頭がおかしくなりそうになるというか、愛とは一体……うごごごごごという気分になってきます。

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