(完結)灰色の騎士リィン・オズボーン   作:ライアン

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個人的に軌跡で一番不憫だと思っているのはマクダエル爺ちゃんだと思います。
あんな奇跡による救済を前提としてごり押ししたために詰んだ盤面押し付けられて、どないせいっちゅうもんです。

ちなみにオズボーン君は現在父親への不信感が募ってきていますが、別段これはクロスベルの味方である事を意味はしません。彼はエレボニアの軍人であって、優先するのは祖国ですから。


獅子戦記第2部-The Superstate Erebonia-
終焉を告げる者


 

 七曜暦1204年12月31日、2ヶ月にも渡って帝国を二分する事となった内戦は終結した。

 皇太子誘拐という暴挙に及んだ貴族連合総主宰クロワール・ド・カイエンが討伐され、暫定的に貴族連合の纏め役となった総参謀ルーファス・アルバレアと帝国政府代表として職務に復帰したギリアス・オズボーン宰相はエレボニア帝国89代皇帝ユーゲント・ライゼ・アルノールの下、停戦へと合意。

 さらにユーゲント皇帝は「忠臣達の働きにより逆賊が討伐されたとは言え、未だ我が国は未曾有の危機にある。今こそ、我らはあらゆる対立を乗り越え帝国の総力を結集してその危機に立ち向かうべきである。罪に対してはそれに見合う裁きが与えられるが、同時に功有りし者にはそれに見合った恩賞を与える」との声明を発表。そして同時に自身の代理人たるオズボーン宰相へと全権を委ねるとの詔勅を発令した。

 

 そして翌年七曜暦1205年、エレボニア帝国はその総力を結集してクロスベルへと侵攻した。それはまさしく正規軍と領邦軍の垣根を超えたエレボニア帝国の総力を結集した一大作戦だ。

 貴族連合に与した貴族たちは必死だった。何せ彼らは内戦中逆賊へと与してしまったのだ。此処で何らかの功績を挙げねば、お家取り潰しとなることはほぼ間違いない。なんとしてもその献身を持って、皇帝よりの寛恕を期待する以外、もはや彼らには道は無いのだ。

 

 正規軍側も必死だった。彼らを駆り立てるのは危機感だ。

 ガレリア要塞は消滅し、内戦によりミヒャールゼン大将を筆頭に多くの人材を正規軍は失った。壊れた兵器などは資金さえあればすぐにでも補充できる。しかし、人はそうはいかない。兵士ならば3年、下士官ならば5年、士官ならば10年。それが一人前にまで育て上げるのに要する時間と言われている。

 18歳の若さで大佐にまで上り詰めたリィン・オズボーンという特級の例外とて一朝一夕でそうなれたわけではない。幼少期より受けた英才教育という下地があってこそ、その才を開花させる事が出来たのだ。機甲部隊計6個師団の壊滅は、帝国正規軍に深刻な打撃を与えた。この上、クロスベルまで共和国に奪われてしまえば、それは帝国にとっては亡国の危機を意味するのだ。軍事的に見て、クロスベルを併合し、共和国への盾となる衛星にするのは国防上必要不可欠であった。

 

 経済界もまたクロスベル併合を全力で後押しした。

 クロスベルの独立騒動は図らずも、オズボーン宰相が西ゼムリア通商会議に於いて指摘したクロスベルの安全保障能力に重大な疑義を与えた。ディーター・クロイス市長の暴走に端を発したクロスベルの独立騒ぎにより、各国の株式市場は深刻な打撃を受けた。もはやクロスベルを自治州のままにしておいては、安心して経済活動を行う事など出来ないと帝国の資本家及び投資家達に思わせるには十分過ぎたのだ。

 

 国民感情に関してだがーーーこれは、もはや言うまでもないだろう。

 2ヶ月にも及ぶ内戦は帝国に深刻な打撃を与えた。それは経済や、人的資源と言った側面もそうだが、何よりも同胞同志で殺し合ったという結果、それ自体である。領邦軍の人間は正規軍の人間やその家族から見れば仇であるし、それは領邦軍から見た場合も同様である。人を結束させるのに最も有効なのは共通の“敵”を作り上げる事だ。共通の敵は味方同士で争っている場合ではないという危機感を与え、共に罵倒し合うことで連帯感を養う。内戦によって、分断された帝国を再び一つにするには“敵”が必要だったのだ。

 そしてそれに最も相応しき存在がガレリア要塞を消滅させたクロスベルであり、仇敵たるカルバード共和国に他ならなかった。

 

 そしてエレボニア帝国の総力を結集した侵攻を前にしても自治州議会議長にして市長代理となったヘンリー・マクダエルは懸命に足掻いていた。絶望的な状況なのは百も承知、もはやクロスベルの命運は風前の灯火であり、此処から何とか挽回するのは至難を通り越して、“奇跡”と言っていいだろう。しかし、だからといって諦めるわけにはいかないのだ。他ならぬその“奇跡”を否定して、あくまで人として、“政治家”として“現実”に立ち向かっていくと決めた身として。若者たちによりよき未来を残すためにも。

 

 そう、決意を胸にその日もヘンリー・マクダエルは新庁舎であるオルキスタワーにて会合を行っていた。議題はエレボニア帝国よりの“クロスベル自治州の自治権を取り上げ、帝国政府の直轄地とする”という最終通告、それに対してどう対応するべきかというものである。当然議論は紛糾した、前議長たるミハエル・ハルトマン失脚以後消沈していた帝国派の議員は此処ぞとばかりに、こと此処に至れば帝国政府の要求に従うのがクロスベルにとって最善の道だと主張。

 一方共和国派の議員たちは当然ながら猛然と反発。共和国と結ぶことで活路を見出すべきだと主張した。

 さらには帝国と共和国を食い合わせる二虎競食の計を提案するものも居たが、これはそれを行えばまず間違いなく戦場となるのはクロスベルの方だという両派からの熾烈な糾弾を受けて消沈した。

 

 何とかしなければならない、しかしヘンリー・マクダエルは議長及び市長代理であって皇帝でも大統領でもない。必然、どうしても出来る事は限られている。加熱する両派を宥めながらも、それでも何とかクロスベルにとっての“最善”を模索していた、その時であった。

 

 クロスベルにとっての“最善”を導く答えなど待つ義務はない。自分が齎すのは帝国にとっての最善の着地点であると言わんばかりに巨大な灰色の騎士人形が上空より現れた……

 

・・・

 

「私はエレボニア帝国正規軍大佐リィン・オズボーンである。

 クロスベル自治州へと通告を行う。自治州政府はただちにその自治権を返上し、帝国政府へと全面的に服従せよ。

 帝国は諸君らクロスベルを信じていればこそ、諸君らに自治権を与えていた。だが、諸君らは首長として選んだディーター・クロイスの独立などという愚にもつかぬ甘言に惑わされ、挙げ句の果にガレリア要塞を消滅させるという暴挙に及んだ。

 これは、許されざる大逆行為であり、本来であれば諸君らの生命を以て贖わければならぬ大罪である。

 しかし、皇帝陛下は慈悲深きお方である。大罪人ディーター・クロイスを諸君らが自らの手で捕まえたことで、諸君らの自らの罪を悔い、贖おうとした事を評価しておられる。独立騒動は彼と一部側近の暴走によるものであり、巻き込まれた者たちの罪は問わぬと仰せだ。

 故に諸君らが帝国に真に叛意を抱いてないのであれば、こちらに従うことで自らの忠道を証明せよ。

 第一の要求として、私は自治州政府にベルガード門を始めとしたクロスベル全土に陛下の兵たる我ら帝国軍の駐留を求めるものである。諸君らに従う意志があれば、ただちにベルガード門を開放せよ。

 それ以後の指示はクロスベル暫定統括官たるルーファス卿より下される。なお、この要求が呑めぬのであれば、私は諸君ら自治州政府が自らの意志でディーター・クロイスへと与した賊徒とみなす。

 諸君らは自らの愚行をその命によって贖う事となるだろう。諸君らが我らと同じ皇帝陛下の忠臣である事を切に祈るものである」

 

 灰色の騎士人形より伝えられたのは、そんな最終通告。

 そして同時に齎されるのは帝国軍の大軍がベルガード門の前へと集結しているという報告。

 それを前にヘンリーは崩れ落ちるように項垂れる。もはや、クロスベルに他の道はないのだと突きつけられたが故に。

 何よりも愛し、護ろうとした自治州の歴史を自分の手で終わらせねばならぬと悟ってしまったがゆえに。

 

 

 七曜暦1205年1月10日。クロスベル自治州は70年に及ぶその歴史に幕を下ろし、帝国領クロスベル州となる。

 だが、当然もう一つの宗主国が座して、それを見逃すはずもない。

 民主国家というその政治体制の性質上、君主制である帝国程の速攻は出来なかったものの、クロスベルという獲物は「経済恐慌」と「民族問題」という問題で揺れている共和国にとっても喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

 

 加えて、共和国にも大きな危機感がある。

 帝国の内戦は終わった。貴族連合の敗北という形によって。

 今後生きていた怪物がその強力なリーダーシップによって改革を推し進めていく事を比を見るよりも明らかである。

 それにクロスベルという金の卵を産む鶏まで加わってしまえば、均衡していた勢力は完全に帝国側へと傾く。

 今しかないのだ。帝国が内戦という痛手から回復しきっていない今しか。

 これを逃せば、帝国が共和国の手に負えぬ超大国へとなることは火を見るより明らかなのだから。

 

 かくして共和国はクロスベルを“奪還”するべく、アルタイル要塞へとその戦力を集中させる。

 当然帝国もその動きを察知してクロスベル東武へと特記戦力たる灰色の騎士と蒼の騎士という二人の英雄を始めとした戦力を集結させ、防衛網を構築する。

 エレボニア帝国とカルバード共和国、西ゼムリア大陸に君臨する2つの大国。

 この2国の決戦はもはや、誰の目から見ても避けられぬものであった……

 

 




灰色の髪の元猟兵「なんだよあの灰色の巨大な騎士人形……というか灰色の騎士って確かあの血染めと引き分けた奴だよな……18歳で大佐とか出世しすぎだろ。やべぇよ。やべぇよ。絶対に逆らったら殺されるって。絶対に機嫌を損ねないようにしないと!」
リベール出身の遊撃士「むむむ、大佐だかなんだか知らないですが。あんな高いところから一方的に命令するなんて、礼儀がなっていませんね!もしも会う事があったら、お説教してあげませんと!」
悲痛な顔を浮かべる相方「や め ろ」

自国の英雄は他国にとっての悪魔なのです。

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