七曜暦1204年1月15日。
カルバード共和国は18存在する空挺機甲師団の内8個師団を投入する大軍を以てクロスベルを奪還するべく動き出した。この遠征軍を率いるのは、共和国軍司令長官ダグラス・ローザス元帥。
百日戦役のリベールの勝利にいち早く注目して共和国に飛空艇部隊を導入した共和国空軍の父にして軍神ウォルフガング・ヴァンダイクと並び称される当代の名将である。「カルバード共和国は分断されたパッチワーク等ではない。我らは民主主義を奉じる同胞である。出自など問題ではない、祖国に貢献しようと言う意志があるものは皆総て私の大切な戦友である」と語り、民族問題に揺れ、公然とではないが東方出身の者が冷遇されている共和国軍において出自に囚われず公正に評価するその態度から、多くの将兵から尊敬を集めており、当然融和派であるロックスミス大統領からの信認も厚き人物である。共和国軍に人材は数多く居れど、8個師団もの大軍を投入する本作戦の統率を出来るのは彼をおいて居なかった。
大軍を統御するというのはそれだけで難事である。
実際に政治的事情も相まって共和国の動きは遅れに遅れ、エレボニア帝国という西の脅威がクロスベルを占領してその刃を鼻先に突きつけたという状態になってようやく整った有様だ。
それを思えば、帝国のクロスベル占領はなるほど、確かに驚異的な速度であったと言って良い。
だが、どれほど優秀な将帥が率いていてもこの世には物理的な限界というものが存在する。機械の出せる速度は気合と根性によって速くなるなどという事を有り得ぬのだ。
そして帝国の主力たる戦車部隊については、当然共和国は研究に研究を重ねている。どう足掻いても戦車部隊の集結と展開は、間に合わない。
それでも迎撃しようと出てきてくれるのならしめたもの理想的な各個撃破が可能となるだろう。
そして、もしも敵が戦力の集結を優先させて焦土作戦に出てくるというのならば、それはそれで構わない。
こちらはそのままアルタイルへと引き上げるだけの事だ。自分の手で焼き払ったクロスベルという地の統治に帝国は悩まされる事となり、当分手が一杯となるだろう。そして共和国は帝国の非道を国際社会にアピールする事で、リベールやレミフェリアを味方につけて外交上優位に立つことが出来る。後は頃合いを見て、残虐非道なる帝国からの解放者として再びクロスベル奪還へと動けばいい。
無論大軍を動かすというのはそれだけで莫大な費用がかかるものだ。大軍を動かしながら、何の成果も挙げないどころか、一戦さえ交える事のなかったダグラスは当然更迭される事となるだろう。しかし、それでもダグラスは一向に構わなかった。基より自分など退役間近の老兵である。それが愛する祖国のためだというのならば、ダグラスは自分の名が汚名に塗れる事など幾らでも許せる。
ただ、懸念材料があるとすれば帝国が開発したとされる機甲兵と呼ばれる新兵器であったが、これは内戦時貴族連合側が運用したとの事で、帝国正規軍には未だ配備されていないと聞く。ならば、果たしてつい昨日まで殺し合っていた関係であり、敵の総司令官シュタイエルマルクにとっては自分達を拘束していた怨敵でもある相手の力を素直に借りられるかと言えば、それは難しいところだろう。
帝国軍総司令官を務めるシュタイエルマルクと参謀長を務めるカルナップ大将が、百日戦役の時の遺恨から強烈な貴族嫌いである事は、共和国人である自分でさえも知っている程だ。その両名が、果たして遺恨を乗り越え、素直にその力を借りられるかというのは極めて怪しいところだ。貴族連合に対する不信は、その両名だけではない、帝国軍の頭脳たる参謀本部の面々は内乱の折、一部を除きその殆どが貴族連合によって拘束されたと聞いている。結果として正規軍優位によって、内戦は終結したわけだが、内戦中良いところがなかった面々としてはなんとしても失地挽回を果たしたいところだろう。内戦時に活躍したオーラフ・クレイグ、ゼクス・ヴァンダール、ウォルフガング・ヴァンダイクが不在なのが良い証拠である。故にこそ敵は正規軍の戦車部隊をこそ主力として運用してくる、それが共和国軍側の認識であった。
ただ、一抹の不安があるとすれば、そんな自軍の弱点を稀代の怪物たる敵のトップの鉄血宰相がわかっていないとは思えないという点だ。何故、ギリアス・オズボーンはヴァンダイクを総司令官に据えて、隻眼のゼクスや赤毛のクレイグを投入しなかったのか?シュタイエルマルクらの面子を潰す形となってしまうから配慮した?否、それは有り得ない。そういった反感を意に介さず、鋼鉄の意志で“勝利”のための道を最短距離で往くからこそ、あの男は怪物と恐れられているのだ。それが必要と判断すれば、どれほどの万難を排してでも勝つための最善の布陣をあの男を整えるだろう。
となれば、あるいは敵にとってはこれこそが最善の布陣だという事なのだろうか。しかし、到底そうとは思えない。
(これ以上は考えたところで無駄か……)
基より敵軍の事情や策を完全に把握する事など不可能なのだから。
事前に想定出来るだけの事はこちらもした。そしてほぼ万全と呼べるだけの布陣と体制をこちらは整えた。
後は自分は最善を尽くすのみだと、ダグラスは思考を打ち切り、進軍を続けさせる。
そして、進軍を続けて国境線の境界に当たるタングラム門へともうじき差し掛かろうかというところであった。
突如として先陣を切っていた、飛空艇の部隊からの通信が途絶し始めたのは。
通信の故障かとオペレーターが訝しんでいたのも束の間、すぐさま悲鳴が通信を埋め尽くす。
「なんだコイツの速度は……有り得ない!こんなの有り得ない!」
「畜生!なんでだ!なんで当たらねぇんだ!!!」
「悪魔だ!あのクロスベルの紫の悪魔と同じ悪魔だコイツは!灰色の悪魔が現れた!!!」
尋常ならざる事態が起こった事をその通信でダグラスは悟る。
そして、把握したからこそ彼の判断は早かった。
「取り乱すな!諸君は共和国の誇る最高の精鋭達である!
悪魔が現れたというのならば、女神の加護の下やつを地獄へと叩き送ってやれば良いのだ!
案ずる事はない!我らはクロスベルの悪魔を相手取る事を考えて来た。
一つ、悪魔退治と洒落込もうではないか!!!」
共和国の英雄と称される名将の叱咤、それにより狂乱状態に陥っていた共和国軍は秩序を取り戻す。
その様を見てダグラスは満足気に頷く。
(これが貴様の自信の正体か鉄血宰相よ。だが、生憎だったな。初めてならばいざ知らず二度目ともなれば対処法の一つや二つは講じておるわ)
何故ならば、カルバード共和国は一度クロスベルの紫の悪魔によって空挺師団を壊滅させられた憂き目にあっているから。
単騎で一個師団を壊滅させる怪物、それへの対抗戦術というのも当然講じてある。
《灰色の騎士》の異名を持つリィン・オズボーン大佐。帝国の内戦を終結させた若き英雄。
ダグラス・ローザスは伝え聞く、この若き英雄を決して侮っては居なかった。
何故ならば、ギリアス・オズボーンという男は我が子可愛さに実力無き者を出世させるような可愛気のある男では断じてないのだから。ーーーもしもそうだとすれば、もはや鉄血宰相は共和国の脅威たり得ない。年寄り故の心配性と自分が笑い者になれば良いだけの事なのだから。
そうして所詮は父の七光だろうと侮る部下たちを戒め、クロスベルの神機と同等クラスの脅威として認識するように伝えたのだ。
故にこそ共和国軍は怯まない。
一時の恐慌状態から立ち直り、灰色の悪魔を討ち取るべく圧倒的な物量と機動戦術を以て動く。
アメーバのように広がっていく、その曲芸染みた芸術的な機動は乗員一人一人の高い練度がなし得るものだ。
悪魔を討ち取るべく、勇士たちは磨き上げた技術と結束を武器に果敢に挑んでいく。
しかし
「嘘だろう……なんで、止まらないんだよ……」
されど、灰色の悪魔は止まらない。
何故ならば、その悪魔はただ力任せに暴れる怪物に非ず。
人が積み上げて来た戦術の粋を十全に身に付けた“英雄”であるが故に。
共和国がこの日のために用意したその戦術は確かに、クロスベルの神機が相手でも通用するものであった。
しかし、灰の騎神ヴァリマールを止める事は出来ない。その由縁は機体の性能差ではない、操る操縦者の技量の差である。
かつて神機を操ったキーア・バニングスは確かに超常的な力を有していたし、高い頭脳も持ち合わせている天才であった。
しかし、彼女は幼く戦闘を生業としていたわけではない。故に“力”はあれど、それを有効に活用する技術、“戦術”を持ち合わせていたわけではない。
何よりも少女は戦うには余りにも優しすぎたのだ。戦う相手の事すら気遣ってしまい、何とか被害を抑えられるようにと考え行動する、挙げ句の果てにはクロスベルを攻めようとした敵兵でさえ、その因果を操作する能力によって助けてしまう程だ。
それは少女の有する紛れもない美点であったが、戦闘者として見れば致命的な欠点であった。
戦いというのは結局のところ、どれだけ相手が嫌がる事を躊躇なく的確にやれるかこそが大事なのだ。
それが神機を操ったキーア・バニングスには決定的に欠けていた。
しかし、今灰色の騎神を操るリィン・オズボーンは違う。
幼き頃よりクレア・リーヴェルト、レクター・アランドール、そして義父オーラフ・クレイグより軍人としての表と裏の手ほどきを叩き込まれ、その力を伸ばし続けてきた。
そして死の淵からの覚醒をきっかけとした統合的共感覚の目覚め、直感力の大幅な強化、獅子戦役を駆け抜けたドライケルス帝の記憶、その総てがリィン・オズボーンを高みへと導き、彼を武の至境たる“理”へと導いた。
故にこそ、今の彼には見えるのだ。“勝利”を得るための最善の方策が、名将と謳われる人間に備わっているとされる、どこをつくのが最も敵に効率よく損害を与えられるのかを見抜く“戦術眼”と呼ばれる眼が。
そして祖国を護るために振るう双剣に、当然迷いなど有りはしない。
故にこそ灰色の悪魔は止まらない。止められないのだ。
「総司令官閣下!旗艦を後退させましょう。この位置は危険です」
総旗艦ティアマトの艦長を務める、ギルバート・スミス大佐は真剣そのものの様子でダグラスへと詰め寄る。
幾度となく共に激戦をくぐり抜けた信頼できる部下からの進言、それに理がある事を認めた。
指揮官は生きなければならない。撃沈されてしまえば、指揮系統に支障を来すからだ。
そうして生じた隙を迫りくる脅威は逃さないだろう。徹底的につけ入って来るはずだ。
そう認めた上でダグラスは……
「いや、駄目だ。
此処で我々が後退すれば、その弱気は味方へと伝播する。
そうして生じた隙を目前の敵は決して見逃さないだろう。そうなれば結局のところ危険などというのはこの場に踏みとどまり続けるのとそう変わらんよ」
静かに部下へと語りかける。その様はどこまでも落ち着いたもので、見るものに安心を与える名将たるにふさわしい風格を備えたものであった。
「それに、何よりも誰よりも先頭に立ち、誰よりも危険を引き受ける事こそが指揮官の役目だ。
かつてない脅威が相手だからこそ、司令官である私は率先して“勇気”を味方に示さねばならんのだ。
若い諸君を巻き込んでしまってすまんが、まあこんな司令官を上官に持ってしまったのが運の尽きだと諦めてくれたまえ」
「……閣下はそういうお方でしたな。承知いたしました。人事を尽くした上で、女神の慈愛に期待するとしましょう」
そうしてブリッジに居たものは一斉に己が誇る偉大なる上官へと敬礼を施す。
誰に命じられたわけでもない、ダグラス・ローザスの持つ人徳がそれを為したのだ。
そうしてダグラスは旗艦のマイクを握りしめ、今も命を賭けて戦っている戦友たちを鼓舞すべく語りかける。
「戦友諸君。目前の敵は悪魔のように確かに強く恐ろしい。だが、思い出して欲しい。
諸君らが子どもの頃慣れ親しんだお伽噺を。“悪魔”などというのは人の手によって葬り去られるのが世の定めである事を。そして敵はたった一人なのだ。敵には共に戦う戦友が居ない。
翻って我らはどうか?隣を見て欲しい。見えるはずだ、祖国のために命を賭ける掛け替えの無い戦友の姿が。
大切な誰かのために戦っている時、人は最も勇敢で、最も献身的で、最も協力的で、最も合理的になれる。そしてそんな勇士を空の女神は決して見捨てはしない!
戦友諸君!共に戦おう!そして眼前の悪魔に教えてやるのだ!人の持つ輝きというものを!!!」
そしてそのダグラスの言葉と共に総旗艦ティアマトは威風堂々と前進を行う。
それは、先の演説と合わさり将兵の心を奮い立たせるのに十分過ぎる光景であった。
爆発的な歓声が、広がり、そして一糸乱れぬ統率の下、共和国の精鋭は灰色の悪魔を誅殺すべく奮戦する。
そんな光景を、灰色の悪魔は己が愛機の中から眺め……
「見事だ。ダグラス・ローザス」
心よりの称賛を敵であるダグラスへと送る。
それは彼が情を持たぬ悪魔などではない事をこの上なく示していた。
「共和国の盾と謳われし当代の名将よ。心よりの敬意を貴方に捧げよう。
そして、
何故ならば、内戦で帝国は余りに多くの血を流した。
名将リヒャルト・ミヒャールゼンを筆頭に多くの人材を帝国軍を失った。
だからこそ、共和国を徹底的に叩かなければならない。
強きエレボニアが健在である事を示さなければならないのだ。
共和国きっての名将が為す術無く敗れ去ったという事実を以て。
「神気合一」
故にリィン・オズボーンは全霊を賭す。
この偉大なる敵手を確実に屠るために。
瞬間、光り輝いていた灰の騎神を赤黒い闘気が覆い出す。
そして、灰の悪魔は突撃を開始した。
共和国の誇る“英雄”を殺し、絶望へと叩き落とすために。
「なんだ!?コイツ、さっきよりもさらに速く!?」
「そんな馬鹿な!今まで手を抜いていたってことかよ!?」
再び絶叫が共和国軍を埋め尽くしだす。
それは人であれば抱かざるを得ない、根源的な恐怖。
常識外の怪物と遭遇した魂の絶叫だ。
「狼狽えるな!戦友のために戦う勇士を空の女神は決して見捨てはしない!
生きる事を決して諦めず戦うのだ!」
そんな中でもダグラス・ローザスは旗艦を後退させる事無く、踏みとどまり続ける。
そうして味方を叱咤し、矢継ぎ早に指示を出し続ける。
それは紛れもない英雄の姿。苦境にあって一際輝く勇士の魂だ。
「!?」
「さらばだ、ダグラス・ローザス。そしてその旗下の勇士たちよ」
故にこそそんな英雄の魂を喰らうべく、“悪魔”はその両手に備えた爪でその輝ける肉体を引き裂いた。
「閣下!!!」
「そんなティアマトが……」
両断され、爆散していく旗艦ティアマト。それは、共和国軍へと“絶望”を齎すには十分過ぎる光景であった。共和国の将兵の絶叫が空へと響き渡る。
しかし
「おい……なんか妙じゃないか」
「ああ、悪魔の様子が……」
それと同時に灰の悪魔の姿が変わっていく。
赤黒い闘気は消え去り、光り輝く翼も喪失していた。
未だその機体には確かな威圧感を宿すが、それでも先程までとは雲泥の差であった。
しかも身を翻し、逃げていくではないか。先ほどとは比べ物にならぬ遅さで。
「もしかして力を使い果たしたのではないか?」そんな想いが頭をかすめる。
「いまだ!灰色の悪魔は力を使い果たした!今こそやつを討つ好機だ!!!」
「元帥閣下の仇を討つのだ!!!」
そんな叫びと共に絶望から一転、偉大なる英雄の仇を討つべく、怒りに燃えた部隊が追撃を開始しだす。
なんとしても司令官閣下を討つのだと!弱っている今こそが、あの悪魔を討ち果たす最大の好機なのだと。
「参謀長?どう思う。引き戻させるべきか」
そんな部下の勇み足を見て、総司令官ダグラスが戦死した事で、指揮を引き継いだ副司令官は己が幕僚へと意見を問う。今すぐにでも自分も敬愛する上官の仇を討つべく動きたい激情を堪えて。
「……難しいところです。しかし、今があの灰の悪魔を討つ最期のチャンスかもしれません。わざわざ一機で迎撃に来たという事は、他の部隊の展開は間に合っていないという事でしょう。幸いな事に陸上戦力はいまだ無傷と言っていい状態です。
ならば、此処であの悪魔を討ち果たしてさえしまえば当初の作戦を続行する事は決して不可能ではないはずです」
「……よし、全軍追撃せよ!灰色の悪魔を決して逃がすな!」
信頼する参謀長の意見、それを聞いた上で副司令官を決断を下す。此処であの悪魔を取り逃がせば、取り返しが付かないと判断したが故に。何よりも敬愛する上官を殺されて、誰よりも怒っているのは間違いなく彼であったが故に。総司令官の仇をこの手で討ちたいという思い、それが副司令官を積極策へと踏み切らせた。
しかし、それは悪魔の狡猾なる罠であった。
タングラム丘陵と称される丘陵地帯。そこに差し掛かった時点でもう一体、今度は蒼い悪魔が現れたのだ。
そして、それと同時に戦車部隊に、戦車では決して布陣し得ない方向よりオーレリア将軍とウォレス将軍、そしてルーファス卿率いる機甲兵部隊が襲いかかったのだ。
さらに共和国にとっては事態はそれだけで終わらなかった。逃げ帰っていたはずの灰の悪魔、それが再び光り輝く翼を纏いながら反転して襲いかかり、副司令官ニールセン大将の乗艦パトロクロスを両断したのだ。
その光景に共和国軍は総てを悟る。力尽きたように見せたのは、自分達をこの場におびき出すための罠だったのだと。
自分達は狡猾なる悪魔の策謀を嵌って、まんまと死地へと引きずり込まれたのだと。
理解したが時既に遅かった。まんまとリィンに釣り出されて、ルーファス・アルバレアが緻密に作り上げた縦深陣の奥へ引きずり込まれた戦車部隊はオーレリアとウォレス両将軍の苛烈な攻勢を側面より受け、完全に敗走を開始しだした。ルーファスの巧妙だった点、それは敵の逃走ルートの側面へと両将軍を配置した事であった。正面に立ちふさがれば、生き残るためにも目前の敵を必死に打倒せんとする。しかし、前方が開けていれば、兵の意識はどうしても戦いではなく逃げることへと集中する。無論、これは言う程に容易い事ではない。ルーファス・アルバレアの巧緻さと、機甲兵の機動性、そしてオーレリアとウォレス両将軍の卓越した統率力があって初めて成立し得たものだ。
さらに共和国にとっては事態はそれだけにとどまらない。
陸の方ではなく、空もまた壊滅状態にあった。灰と蒼、二体の悪魔のその苛烈な攻撃を前に、次々と共和国の宝と称すべき精鋭たちは異郷の空でその命を散らしていく。
こうして、タングラム丘陵の会戦は幕を下ろす。
帝国軍にとっては完勝、共和国軍にとっては完敗という誰の目から見ても明らかな結果を以て……
灰色の騎士は帝国の守護神です。
迫りくる共和国の兵士共をちぎっては投げちぎっては投げし、まさに帝国無双と行った有様で迫りくる飛空艇部隊を灰の騎神で片っ端から真っ二ツにして、最終的には単騎で敵陣を突破して、敵の総旗艦を一刀両断しました。
本当です。すごく本当です。